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第三十九話:【マルチウェポン】の求めていたもの



 ハイザ・ウィスパーは自分の咳き込みで目を覚ました。


「起きたな。よかったぜ……アンタが庇ってくれたおかげでオレは無事だ」


 朦朧と意識の中で、安堵した青髪の青年をボンヤリと見上げ、響く咆哮とスキルや魔法の炸裂音に、次第に今の状況を思い出していく。


「……戦況は――どうなって、いる?」


 彼は、Sランクパーティ『鋼の翼』を脱退後、しばらくはダンジョンの一階層で“外”に出る為の路銀稼ぎを行っていた。


 元々、近々脱退は考えてはいたが、それは十分な金が貯まってからと思っていた。


 だが、先日の決闘をヴィル・アルマークが強行した事で、見るに堪えなくなってしまったのだった。


 最低限の必要額は早々に貯まったが、何となく迷宮都市を離れるのも後ろ髪を引かれる思いでズルズルと……。


 煮え切らない内に今回の事態が起こり迷宮都市防衛の為ギルド長と治療院長、他の冒険者達と共にスカルドラゴンの足止めを行っていたのだ。


「あぁ、それが今丁度、“逆転の一手”って奴をおっぱじめるらしい。見てみろよ」


 その視線の先、彼等は対峙していた。


 「……――」


 まさか、この期に及んでまだ懲りていないのか……と思ったが、そうでない事は遠くに見える二人の表情で分かった。


「少し前にギルド公認の試合があっただろ? その【ブレイダー】と【ガーディアン】が――」


 青年が説明を始めたが、言われるまでも無かった。


 ヴィル・アルマークの【リミットブレイク】を用いた、なりふり構わない全力の一撃をレオン・グレイシスの【インパクトアブソーバー】で受け取り、範囲と射程を彼の剣術スキルで調整して、最大火力をぶつけるつもりなのだろう。


 リゼッタ・バリアンの魔力武装に加え、ミリンダ・ルクワードとライラ・リーイングの支援と、ギルド長マルヴァリン・ガンドルーフの助力もあるようだ。


 今しがた、レオンの受取った魔力は純粋な破壊力なら聖剣にも迫るだろう。


 ギルド長が何やら甲高い奇声を発しているが、レオンは構わず走り出す。



 ――あぁ、“コレ”だったのか。



 一介の傭兵であるハイザ・ウィスパーが『鋼の翼』に長居していた理由は自分でも不思議だったが、今、納得が行った。


 英雄でない者が、英雄の様に立ち上がる光景。


 自分が諦め、出来なかった勇姿を彼等に夢見ていたのだ。


 実の所、――ハイザ・ウィスパーも、英雄になりたかった。


 彼の故郷も辺境の地にある。


 そこで、見たくないものを見た。

 知りたくない事を知った。

 やりたい事を出来なかった。

 やりたくない事をやった。


 だからこそ、ダンジョンの最下層に眠る“終焉を告げる者”を打倒し、世界そのものを救うよりも、より多くの人に手を差し伸べられる英雄に憧れた。


 だが、クラス【マルチウェポン】は優秀ではあるが、最良とは言えないものだ。


 数多くの武器を扱う事が出来き、取得できるスキルの種類も他のクラスよりも群を抜いている。

単身で様々な立ち回りを熟す、オールラウンダー。


 しかし、その分、熟達するにも時間がかかる。そして、各種スキルの適正も【ブレイダー】や【ランサー】など専門職に比べると一歩劣るのだ。


 大器晩成型のクラスは、器用貧乏にもなり易い。


 事実、【マルチウェポン】は神話の英雄譚や、史実の冒険譚でも登場し、英雄と共に居る。


 だが、その汎用性の高さ故に突出した“強さ”が無い為に、決して英雄にはなれないクラスでもあった。


 それでも、彼は英雄を目指し、旅に出た。


 ……結果として、自分の限界を悟り、そこらのSランク冒険者として傭兵となったのが今のハイザ・ウィスパーだ。


「……そう、だったな――」


 いつか、何処かの街でヴィル・アルマークを飲みに誘った時に珍しく付き合った事があったのを思い出す。


 酔いが回りながらも、『鋼の翼』の始まりを語ってくれた。


 彼等は自分と同じ夢を見ていた事を知った。


 気付かぬ内にかつての自分を、あの二人に重ねていたらしい。


「……ぐっ――ぉっ゛!!」


 そんな彼等が命を懸けて体現しようというのなら、ハイザも命を懸けるのも、やぶさかでない。


 固有スキルの効果で、痛みは感じないがそこら中の筋肉や筋が傷んでいるのが分かる。上手く力が入らないが、完全に千切れている訳でも骨が砕けていなければ、どうにか動かす事は出来る。


「すまないが、誰か【ヒーラー】に回復を頼めないか?」


「お、おい! 無茶言うなよ。今のアンタでも相当、治っているんだ。此処に居る【ヒーラー】はもう魔力なんて残って無いぜ」


「……そうか。すまない事をさせたな――」


 チラリと見ると、何人かが地面に横たわっている。


「なら……」


 と、ハイザは僅かに考えて、


「お前は確か、大弓使いだったな。貸してくれないか」


「だから! 無茶だって! 幾ら固有スキルで痛みを感じてないからって、無理したら死ぬ――」


「貸して、くれないか……」


 ボロボロの彼の絞り出す力強い声と眼光に、青髪の青年は狼狽えた。


 表情を顰めながら、観念した様に、


「……そもそも、さっきの戦闘で矢は全部使っちまったよ。弓だけあっても何も――」


「いや、十分だ。矢なら自前で用意できる」


 ハイザは怪訝そうな青年から無骨で大振りな弓を受け取り、自身の傍らに置かれた短槍を手に取り、穂に微細な振動を繰り返す魔力刃を纏わせる槍術上位投擲スキル《震閃豪砲槍しんせんごうほうそう》を発動させて、番えた(・・・)


更に、


「弓術スキル――《天眼てんがん狙襲撃そしゅうげき》……!」


 威力よりも、対象に直撃させる事に特化させた上位スキルを重ねる。


「お、おい……何を――!?」


 青年の声は既にハイザには聞こえない。聞く余裕は無い。


 本来、スキルは連続して発動させる事は出来ても、複数を同時に発動させる事は、出来ない。


 投擲を効率よく行おうと促すスキルに逆らいつつ、弓スキルを続行させるには身体に掛かる負担が大き過ぎるのだ。


 普通なら、身体が千切れる様な痛みでどちらのスキルも不発に終わる。


 だが、生憎とハイザ・ウィスパーは痛みとは縁遠い冒険者だった。


 


「ぐっ……おぉ……っ!!」


 身体が止めろと悲鳴を上げるが、どうせ何も感じまいと、頭が無視をする。


 恩恵の助力など邪魔だと、心が身体を突き動かした。


「ぉ、ぁ――!!」


 筋肉が千切れ、骨がひび割れるのが分かる


 意志とは裏腹に意識が遠退いていく。



 ハイザは、自身の【マルチウェポン】がこの固有スキルを持ったのは、この時の為だったのだ、と最後の気力を振り絞り、渾身の一矢を放った。



 ――嘗ての自分と、今の彼等に報いる為に。 

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― 新着の感想 ―
[良い点]  やっぱり『本物の英雄』ってのは、こうじゃないとね(^0^)。  ファンタジーな奴等だけが英雄になれるなんて、夢が無いですよ。  土壇場で、やせ我慢と格好付けで、ちっぽけでも意地を通す。 …
[良い点] こういうの、好きです!
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