第三十八話:英雄の代わりに立ち上がる事なら、誰にでも出来る・3
あら、ヤダー!! 青春してるじゃなーい!!
――なんて、ギルド長マルヴァリン・ガンドルーフの黄色い奇声を背にレオン・グレイシスは膨大な魔力を内包した魔力武装を携えて駆ける。
「我々も、もう持たん。援護はしてやる、やるなら早くしろ!」
最後衛でスカルドラゴンの足止めをしている冒険者全体の指揮と支援をしていた【ハイプリースト】のセラ・ミュラリアがすれ違い様に発破をかけた。
頷き、レオンは速度を速め、雨霰と降り注ぐ高位のスキルや魔法を掻い潜り、骨の竜人へと走る。
英雄の聖剣に迫る魔力を秘める魔力武装に反応してか無作為に撒き散らされていた闘争心がレオンに向けられた。
「――っ!」
胸部の巨大な魔石が強くも禍々しく輝いて生産された魔力が喉元までせり上がる。
――魔力ブレス。
本物の竜のソレとは、似て非なるものだが紛いなりにも竜種の息吹だ。
その威力は並みの魔法を凌駕し、半端な守りでは防げない。
故に、
「――“清浄なる守壁。我等を厄災から守りたまえ――拒絶せよ”《セイグリットウォール》!」
セラの高位防壁魔法が受け止める。
そして、無数の剣術、槍術、斧術の放出系高位スキルが竜人の頭部を明後日の方へと弾く。
巨体がたたらを踏んで、地面が揺れた。
前衛職が攻撃を続ける中、その内の一人がレオンに手を振って見せた。
「オーガの後は決闘で、終いにコレか。案外、忙しない奴だな」
「アンタは……」
先日のダンジョン二階層のホブゴブリン討伐の際に居合わせた冒険者達の指揮をしていた【ランサー】だった。
「だが、嫌いじゃねーさ。やっぱ、冒険者は派手なのが良いわな!」
彼は槍を掲げ、叫ぶ。
「このバケモンを拵えた奴に見せつけてやれ、世界を救うのは英雄様だけじゃないってな!!」
応える冒険者達の雄叫びに、
「――オォオオオッ!!!!」
スカルドラゴンも負けじと咆える。
魔力の籠った咆哮に肌がヒリつくが彼等の足は竦まない。
「奴の魔石まで【キャスター】達が道を作る、かましてやれ!」
「助かる!」
放たれるスキルや魔法の勢いが増す中、隆起していく地面の上をレオンは駆け上る。
釣瓶うたれる斬撃、衝撃波、炎弾、雷槍、氷矢を受けながらもスカルドラゴンはレオンを見ていた。
「っ、おっ……!」
太い骨の腕を振るい、彼の走る先を砕いた。
足場を失い落下するがすぐさま、空気中の水分が凍った床に着地してまた走り出す。
魔力ブレスでそれも割られると、今度は強風が吹きレオンの身体を包んだ。空中で姿勢を立て直し、そのまま跳んだ。
そして、スカルドラゴンの懐に滑り落ち、せり上がって来る石柱に着地する。
――眼前には、檻の様な胸骨で守られた巨大な魔石。
スカルドラゴンは己の心臓に肉薄するレオンを排除しようとその魔石が大量の魔力を生産し、吐き出した。
「――《セイグリットウォール》!」
それを、【ハイプリースト】の高位防壁魔法が防ぎ、左腕の叩きつけを、
「《アブソリュートクリスタル》!」
「《グランドグレイブ》!」
巨大な氷塊と岩石の魔法で押さえ付け、右の突き出しを、
「《旋空烈破槍》!」
「《絶双飛刃光斬》!」
「《破王烈滅衝》!」
それぞれの高位放出系である槍術スキルの竜巻、剣術スキルの斬撃、斧術スキルの衝撃波が弾き返す。
竜人の迎撃を潰した、今が好機。
「《蒼波――》!!」
レオンは魔力武装の剣先を魔石に向けて、何でもない基本系の剣術スキルを起動させようと魔力を込めた。
膨大な魔力を己のスキルに利用できる程、レオン・グレイシスは優秀ではない。
ただ、炸裂させ、その超爆発に方向性を与える事が精一杯。
だが、それこそが彼の最大の役割だ。
クリアグリーンの刀身に亀裂が入り、粒子状に視覚化する濃密な魔力が溢れ出す。
あと、ほんの僅かな後押しで英雄の聖剣と同等の下位剣術スキルが放たれるという間際で――。
「右から来るぞ!」
誰かの叫びを聞いた。
レオンの視界の端に――骨の尾の先が映った。




