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第三十七話:英雄の代わりに立ち上がる事なら、誰にでも出来る・2

「作戦……なんて、お洒落なものじゃないんだけど――」


 ギルド長マルヴァリン・ガンドルーフは、巨大な竜人のスカルドラゴンの咆哮に眉を顰めつつ、


「今からやる事は、文字通りに“私達の全力を出し切る逆転の一手”。失敗すればただ私達分の戦力が消えるから、持久戦は確実に望めなくなる。けど、素直に時間稼ぎをするにも見通しがつかない。背負うリスクの大きさは似たようなもんだから、どうせなら希望がある方って事だけど――」


 そして、集った二組のパーティを見渡した。


「皆、覚悟は良い? ……なんて、野暮よね! ぶっちゃけ、セラちゃん達も限界だからとっとと、始めちゃうわ! お腹括るのよー!」


 あはっ! と笑い飛ばし、踊る様に長杖を回し、歌う様に詠唱を口にする。


「――“この道は険しく遠いものだとしても、その先には光が差している。栄光へと至る旅路、共に征こう”――」


 自らの魔力の向上と形成を実感しつつ、命を懸ける男達とそれを見守る乙女達の顔を見る。

自信に満ちている訳でも、不安や迷いが無い訳ではないだろう。


 だが、確かな覚悟をこの若者達は持っている。


 ――なら、お姉さんも頑張んなきゃね。


 薄く笑い、最後の一節を告げて【アークエンハンサー】としての固有スキルを発揮させる。


「“――貴方の背を支える為にこの手はある”【ライト・オブ・ユアロード】!」


 マルヴァリンの足元の影から光の粒子が溢れ出し、それが集まり帯となる。


 光帯の端がリゼッタ・バリアンの影に飛び込んで、彼女の影からも光粒が吹き出した。


繋がった(・・・・)! これで、私が貴女の魔力を肩代わり出来る――遠慮せずにやっちゃって!」


「……――」


 その魔力的なパスを感じリゼッタは一つ呼吸を置き、レオンとヴィルを見る。


 ――まぁ、彼の方に視線が行きがちなのはご愛敬。


 だが、仮にもホーリーソード(Sランクパーティ)に所属していた【エンハンサー】。


 彼女自身にSランクらしさ(華やかさ)が無くとも、それに相応しい絶技は持っている。


 二人のステータスのバ(・・・・・・・・・・)ランスが崩れぬ様に(・・・・・・・・・)最大出力と精度の強化(・・・・・・・・・・)同時に施す事(・・・・・・)も造作も無い。


「――参ります……!」


 リゼッタは供給され自身のものへと変換された魔力をそのまま魔法へと転換させる。


「“内なる膂力よ――拳を握れ”≪ハイパワー≫」


 レオン達は身体の内側から力が漲り、


「“その身は軽く、風の如く――駆けよ”≪クイックネス≫」


 ヴィル達は身体が軽くなるのを感じる。


 更に、


「“刃の冴えよ――研ぎ澄ませ”≪シャープエッジ≫」


 彼等の刃の鋭さと、


「“打たれた鉄は岩塊の様に――堪えよ”≪ヘヴィソリッド≫」


 耐久値を底上げさせる。


 その上で……もう一度、レオンと視線を合わせ頷いてから――。


「“その器に刻まれし記憶。我が魔力により目を覚まし、己が主の力となれ”【ソウル・エンハンスト】!」


 嘗て、互いと掛け替えのない人に誓いを立てた“少し大振りな短剣”にリゼッタ・バリアンの魔力が宿り、それぞれの主が求める形へと形成される。


 レオンの剣には片手半剣(バスタードソード)、ヴィルの剣には長剣状のクリアグリーンの魔力武装が纏った。


「……やっぱり、コイツは良い剣だろ。俺達の事を良く理解してくれてる」


「“武装そのもの”の経験・記憶に応じて魔力武装としての質が変わるバリアンさんの固有スキル。……確かに、初めてなのに良く馴染むよ。君があのオーガに勝てたのは、やはり彼女のおかげだね」


「ホント、それな。俺達だけならダンジョンの養分になってたわな」


 ヴィルの皮肉めいた笑みに、レオンは「はっ」と短く笑って反した。


「さて、では僕達の番だ。すまないが……頼りにさせてもらうよ」


 そして、ヴィルは後ろの自身のパーティメンバーに肩越しに振り返る。


「うん、大丈夫。ヴィルが全力を出せる様に必ず、持たせる」


「ライラ程、役に立てないけど……貴方の力になってみせるから」


 ライラとミリンダが力強く肯いた。


 それに応える様にヴィルは固有スキル【リミットブレイク】を発動させ、魔力が視覚化した紅い風を纏う。


 リゼッタの強化魔法を受けた身体が心臓()から大量に放出された己の魔力で悲鳴を上げた。


 それでも彼は構わず、出力を上げ続け――僅かに吐血した。


 固有スキル【リミットブレイク】は、生産する魔力を強制的にそして無尽蔵に増幅させ、身体や武器、スキルを強化する単純だが強力なものだ。


 その性質上、名の通り己の限界を超え、際限なく強化し続ける技ではあるが、実質の上限値は存在する。


 ――使用者ヴィル・アルマークの身体()の強度。


 水袋に強引に水を入れ続ければいずれ破裂する様に、全ての物質には魔力を内包できる許容限界がある。


 当然、彼自身の限界を超える出力で魔力を放出すれば、臓腑は潰れ四肢は弾け飛ぶ。


 だが――、


「“慈しみの御手よ、その痛みを忘れさせよ――撫でよ”《ヒール》!」


 ライラ・リーイングの中位回復がヴィルの裂けた左腕を癒し、


「《ヒール》《ヒール》――《ヒール》――!」


 脇腹の亀裂、弾け飛ぶ右脚、捻じれた肺を破損する前から(・・・・・・・)彼女の固有スキル【連続魔法】で間髪入れない回復魔法が先んじて癒していく。


「――ぁ゛、ぐっ……!」


 損傷が癒えた傍から、別の何処かが壊れていく。


 常に痛みが全身を駆け抜ける地獄の中で、


「お――おぉっ……!!」


 彼は構えた。


 長剣の魔力武装に向上した魔力を込め、クリアグリーンの刃が紅い風を纏い、強く輝いた。


 己の最初にして最大の奥義を起動させる。


 その上で、


「“その技に色を添える――纏うは、赤”《フレイムエフェクト》!」


 ミリンダ・ルクワードの【ルーンソード】が持つ固有スキル【魔法剣】からなる付与魔法が、ヴィルのスキルに炎を纏わせた。


 その炎は紅風を受け、より大きく激しく猛り狂う。


 痛みが増し途絶えかける意識を繋ぎ止め、己に活を入れる。


「――行くよ、覚悟は良いか……!」


 文字通りの命懸けの友にレオンは、頷いた。


 魔力で編まれた長剣に纏う紅風とオーラは、一種の災害の様に思える。


 これより自分達が妥当すべき竜人骨の怪物こそが世界を破滅に導く災害ではあるのだが、死がそこにあるのには違いは無かった。


 最初のダンジョンアタック、六階層のオーガや二階層のホブゴブリンは元よりレオン・グレイシスがこれまで対峙して来たどの脅威よりも、明確な死の予感。


 ――それでも、退く訳にはいかない。退く気も毛頭ない。


「あぁ、来い!」


 レオンも姿勢を落として魔力武装(バスタードソード)を担ぐように構える。


「――――」


 僅かな間の後。


「うぉおおっ――!!」


 口から血を溢しながらヴィルは咆え、地面を蹴った。


 瞬時に、レオンを間合いに入れ、次の踏み込む時には強化の反動による損傷がライラの治癒の速度を上回る。


 ――だからなんだ、と。


竜牙りゅうが――滅爪連斬めっそうれんざん!!」


 自身の奥義を放つ。


 本来は、四つの斬撃を放つ八連撃。計三十二撃の連続攻撃。


 だが、剣術スキルの仕様を超えて、その斬撃の嵐をただ、一撃の突きに込めた。


 長剣の魔力武装の剣先と巨大な竜の爪の様な炎を纏う斬撃が同時にレオンに迫る。


 ――圧倒的だった。


 単純に冒険者として、剣士としてレオン・グレイシスはヴィル・アルマークには敵わない。


 だが、相手が彼であるからこそ、レオンはその絶対的な実力差を埋める術がある。


 幼い頃から共に剣の研鑽を重ね、互いの癖を知る二人が息を合わせて(・・・・・・)いるのなら、尚の事。


 レオンは既に、回避を許さず防御をさせない刺突に対して、前もって(・・・・)剣を振るている。


「おおっ……!」


「でやぁっ……!」


 そして、互いの全力の長剣(攻撃)バスタードソード(迎撃)が衝突し――。


 豪炎を纏う三十二の竜の爪が掻き消え、クリアグリーンの長剣が砕けて、バスタードソードに蓄積された。


「――っ゛……行け――レオンっ!」


 押し付けられた僅かな硬直と共に無理な強化からくる損傷が継続されるライラの回復魔法で癒え、崩れ落ちながら叫び全てを託した友の背を押した。


「あぁ、任せろ……!」


 膨大な魔力とソレが生んだ破壊力を内包した半透明の薄緑の刀身が嘗てない程に大きくそして早く脈動する。


 一度きりだが“英雄の一撃”に迫る火力に届いた。


 自身の剣術スキルは微々たるものだが、その無差別な威力に方向性を持たせる程度なら出来る。


 ――後は、見舞うだけ。


 凡夫である自分には、荷が重いのは承知だが言い出した手前、怖気づいても居られない。


 事実、ヴィルは負傷を押して全力を吐き出しもう動けない。


 ギルド長マルヴァリン・ガンドルーフは、リゼッタに魔力の大半を譲渡した。


 ライラも固有スキルを酷使しての連続した回復魔法に疲労の色が濃い。


 失敗したからもう一度などなく、損じた時は自身の死。


 そして、レオン・グレイシスの守りたい人の死だ。


 ――あぁ、そうだ……。


「リゼ」


 レオンは彼女を見て、既にしていた覚悟をより強く固いものにする。


 そして、最後かもしれないからと、今一番の気持ちを伝えておく。


 心配そうな彼女の目を真っ直ぐ見て、


「――好きだよ」


 死地に飛び込む覚悟のせいか、気恥ずかしさは感じずに言えた。


「――――――」


 呆けた顔を見る見るうちに赤く染める彼女に苦笑して、レオンは巨大な竜人のスカルドラゴンに立ち向かう。


 ――英雄の様に。


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