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第三十五話:ハブられた者は高らかに


 迷宮都市の“外”。


 南東にある森林の奥深く。


 黒いローブを纏う複数の人影があった。


「――あー、ハンスさんが冒険者達に捕まっちゃいましたねぇー」


「ハンス、とは誰の事だい? 【スカウト】?」


「やだなぁ【アルケミスト】。貴方が造ったポーションを都市に広めて貰う為に契約した【アサシン】の人ですよぉ。窓口の貴方と私は彼の固有スキルの対象外にして貰ったじゃないですかぁ?」


「そうだったかな。他にも似たような輩を使っていたからね、余り印象に残っていないな」


「あの強面がですかぁー」


 ヘラヘラと笑う【スカウト】の少女に、【アルケミスト】の青年は、それよりも、と。


都市最強パーティ(アヴァロン)の動きは順調かな(・・・・)?」


「えぇ、バッチリ(・・・・)です。『金色の竜姫』を含めた他の上級冒険者も大勢参加し、誰も彼もガチ装備。予定通り、今朝から『件のポーションが与えたダンジョンへ影響』を調べる為に下層を目指して出発。――あ、丁度(・・)、三〇階層に着いた所ですねぇ」


「それは、何よりだ。“事が終わる”まで彼等は戻ってこれないね」


 それ聞いて、【アルケミスト】は薄く笑って肯いた。


「あ、あの……」


 小柄の少年が談笑する二人に躊躇いがちに声を掛ける。


「お二人とも、“アレ”の準備が出来ました。指示があればいつでも、出せるそう、です」


「ありがとう、【ヒーラー】。首尾はどうかな?」


「もちろん、バッチリですわ!」


 答えたのは、背の高い女性だった。


 彼女に、隣の姿勢の悪い少年は促され渋々と、


「……【サモナー】のスキルで召喚したリザードマンを固有スキルで【先祖返り】させた。僕がしたのはそれだけさ」


「そして【ネクロマンサー】であるワタクシが、レクスリザードとなった使い魔をアンデットとして【眷属化】。これにより、“痛覚”や“恐怖”などの生物としての感覚を無くしましたわ」


「その上で【ヒーラー】のボクの【エンドレスリジェネート】が損傷を修復し続けますので、耐久性は十分かと」


「おまけに、各属性の魔法には【フォートレス】の俺が【マジックアーマー】で耐性を付けた。勿論、アンデッド系の弱点の『火』と『聖』耐性は念入りだ」


 大男が力こぶを見せた。


「イヒヒ。さらにさらに、【エンハンサー】の自分が、【巨大化】とかさせちゃうから……フヒ! もう神話の“悍ましき者”級の激ヤバモンスターの出来上がりですよ」


 少年とも少女ともとれる声を震わせる。


「上々だね。流石、“優秀な冒険者達”だ」


【アルケミスト】は満足そうに、“ソレ”を見上げた。


 ――【巨大な竜骨】。


 様々なクラスの固有スキルからなる歪な怪物が、彼等の望むモノだった。



 彼等は、元々冒険者パーティに所属していた。


 名が売れていた冒険者や全くの無名の冒険者も居るが、その誰もが“パーティを追放されて”今、此処に居る。


 理由は様々ではあるが……突き詰めてしまえば似通った(理不尽な)ものだった。


 彼は自嘲気味に、


「――僕自身は戦う力は無い。その代わりに以前は仲間の為にポーションやジェムを作っていた。だが迷宮都市(此処)では高品質な物が店で買えてしまうから、生産系クラスは必要ない、そうだ」


 それに続いて、


「私は【スカウト】ですが、能力が固有スキルで呼べる探索用の使い魔()に極振りになってるので、全く戦えないんですよねぇー。前の所では最後に“覗き魔”なんて言われましたかー」


「ワタクシの【ネクロマンサー】は元々、骸を扱うクラスですので危惧されるのは分かりますが、“魔物を引き寄せた原因”とされたのは納得行きませんわね。寧ろ、パーティの安全を誰よりも思っていましたのに」


「ボクの固有スキルは回復というより『元の形に戻す』ですので並みの【ヒーラー】では治せない傷も再生できますが、その分、即効性は無いので……。やっぱり、固有スキルが便利じゃないとダメなんですかね……」


「……【サモナー】は強い使い魔を呼べる事に価値がある――なんて、言われている。それは、正しい。僕は低級使い魔の召喚後に段階的に強化するスキルだ……ダンジョンじゃ、待ってる時間が無いのも分かる。だが、待つ価値も十分にある筈だ」


「【フォートレス】として俺は敵の攻撃を引き受けてパーティを守りながらアタッカーのチャンスを作る典型的なタンクだ。半端な攻撃は守りが弱くなるからと、共に冒険者になった親友の勧めで、物理や魔法への防御を極めて来たが……まぁ、それが間違いだったわな。終いにゃただ立ってるだけのサボりと追い出された」


「【エンハンサー】的には、まぁ普通だったと思いますが、フフ。【巨大化】とかダンジョンじゃ普通に使えないのは分かるんです。でも、皆も迷宮都市に来るまでは喜んでくれてたんですよ。大きいのは基本的に強いですからね、武器や魔法を大きくして楽しかったなぁ」


 改めて、“その時”の事を思い出し、誰もが拳を握り、唇を噛みしめる。


 ただ、パーティを追放されただけならそのまま引退する事も考えただろう。


 だが、信頼していた仲間――親友、兄弟、恋人に裏切られたのだ。


 その絶望の深さは本人達にしか、わかない。


 そして、迷宮都市そのものの異常さも垣間見た。


 本来、迷宮都市はダンジョンから魔物が地上に侵出するのを防衛する冒険者達を支援する世界の砦の筈だ。


 しかし、実際はその機能を十分に果たしているとは言い難い。

 確かに弱者は居る。我が身の事なので納得も出来る。強者が優先されるのも道理だ。


 だとしても、弱者にも役割はある筈だ。

 たとえ、上層しか探索出来ないとしても、アイテムの生産系のクラスだとしても必ず意味はある。


 強者にも、守るべき市民にも、ましてやギルド職員にさえも、嘲笑あざわらられ虐げられる事がまかり通って良い筈がない。


 それ(道化)が与えられた役割である筈がない。


 認められる訳もない。



 ――故に、彼等は今日この場で、覆す。



 竜種の因子を持つ魔石(炉心)から無尽蔵に魔力を生み出し、アンデット故に痛みも恐怖も無い。そして弱点である魔法への対策で守りを固める。


 ダメージは、回復魔法の癒しでは無く『原形への回帰』である為に、浄化される事も無い。


 文字通りの朽ちた異形だ。


 それでも、真の化物(英雄)には敵わないだろう。


 恐らく、本物の竜種の力を宿す『金色の竜姫』の前には膨大な耐久値も切り崩され、世界最強の勇者が振るう聖剣には一薙ぎだ。


 だが、今彼等は地上に居ない。

 その為に違法なポーションを量産し、冒険者崩れを使い都市にばら撒いた。ダンジョン下層にも痕跡を残させた。


 化物(英雄)が地上に戻るまで、どんなに出鱈目な速さでも、少なくとも小一時間。

 地上に残っているのは、心が折れて戦う事を止めた者とゴロツキに落ちぶれた者ばかり。





 見せつけるのだ。

 強さとは単に突き進み敵を薙ぎ払うだけではないという事を。


 思い知らさせるのだ。

 脅威はダンジョンの外にもあるという事を。


 理解させるのだ。

 お前達が虐げた自分達に、それだけの力があるという事を。


 ――無双の英雄は世界を救えても、全ての人々を救えないという事実を。





「――さて、これで準備は整った。ついにその時だ!」


【アルケミスト】の言葉で、【巨大な竜骨】はその産声を上げた。






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