第三十話:嫌な予感は良く当たる
前回の更新から長く間が空いて申し訳ありませんでした。
以前、活動報告でもした様に、二十四話から一部、変更を行いました。
大筋は変わりが無いので、お付き合い頂ける方は今後もよろしくお願いします。
ユニークウェポンを賭けた試合から三日後。
レオン・グレイシスとリゼッタ・バリアンはダンジョン二階層の端に残る未開拓領域を探索していた。
上層の未開拓領域という事もあり訪れる冒険者など居ないであろうルートのマッピング作業。
出現する魔物もゴブリンやコボルトなどの小型が殆どで、ダンジョンの脅威に慣れ始め下層域の魔物を知った今では、大分、楽に感じてしまう。
戦闘も少ない分、稼ぎも少ないのだが新調した“若干短めの片手剣”の具合を見るには丁度良かった。
「――《散塵爪》」
レオンの下位剣術スキルにより放たれた無数の細かい斬撃が遭遇したゴブリンの群れの最後の一体を引き裂き、魔石に変える。
「お疲れ様です、レオ。剣の具合はどうですか?」
周囲に敵影が居ない事をスキル《エネミーサーチ》で確認してリゼッタはレオンに声を掛けた。
「あぁ、コイツも良い剣だよ。安物っていっても流石、名店だ。……ただ、ちょっと【固有スキル】は狙い難いかな」
彼は剣を鞘に納めながら、苦笑した。
本来、攻撃力の面から見ると少し大振りな片手半剣が丁度良いのだが、取り回しを考えると短剣の部類の方が扱い易い――と、いう事でその中間程の片手剣を選んだのだが、その独特な重心が微妙な感覚のズレを生んでいた。
通常の剣術スキルの使用に支障は無いが、パリィとなるとその僅かな違和感も邪魔になる。
自身の最大にして唯一の強みに不安を残すまま、またオーガの様なイレギュラーには出会いたくないと思う。
「ですが、貴方ならソレも直ぐに慣れますよ」
眉を顰めるレオンにリゼッタは小さく微笑みながら、マップを肩掛けの雑嚢から取り出して彼に渡す。
「――コレで二層の未開拓領域は粗方、埋め終えましたね。先ほどの戦闘の様子なら、このまま四階層までなら降りる事も出来そうですが、“先日の疲労”も完全に抜き切れていないのですから、無理をする事はありません。まだ早いですが、今日はもう帰還しましょう」
レオンがマップに書き加えるのを気にしつつ、リゼッタは一緒に出した十二時を少し過ぎた懐中時計をチラリと見た。
実際、この数日の彼の負担は大きい。
オーガとの戦闘の後に、ヴィル・アルマークとの試合。
休息はあったとはいえソレも十分では無かったし、何より親の様でいて、それ以上に慕っていた女性から送られた誓いの剣が破損し、その友と戦う事になったのだから、心労が重なるのも仕方がないと、リゼッタは思うのだ。
レオン本人もその実感があり、僅かに眉を顰めた。
「そうさせて貰えると助かるよ。……悪いな、リゼは早く資金を貯めて孤児院に戻りたいのに」
申し訳なく言うレオンにリゼッタは小さく首を横に振るう。
「いえ、それにはまず、体調を万全にするのが先決です。冒険者は休息も仕事の内……“先を急ぐあまりに危険を冒す事は無い”、ですよ」
耳が痛いなーと、困り顔のレオンに、「それに――」とリゼッタは言いかけたがどこかバツの悪そうに微笑んで、
「いえ……では、戻りましょうか」
◇
本腰を入れてダンジョン攻略に出る冒険者の多くは日中に探索を行うものだ。
だが、逆に日々の生活費を稼ぐ為だけに訪れる者も少なくない。
実際、レオンとリゼッタが一階層に上がる為に階段のある部屋に戻ると、複数のパーティと鉢合わせた。
二階層の階段はそう広くない。
複数のパーティが狭い通路や部屋に集まった所に魔物が入れば乱戦になる可能性もある。
それを避ける為に、『降りる方を優先する』という冒険者達の暗黙の了解があり、二人も倣い列に並んだ。
周囲には、
「今日は割りと良い稼ぎになったな」
「だな。下手に下層に潜るよりこの辺りを周った方が早いって」
そんな、ダンジョンにこなれた様子の双剣と槍の男二人組とか、
「あー、腹減った。なー、もう換金ついでにギルドで飯にしないかー?」
「ダメよ! 今日だって、ゴブリン四匹しか狩ってないんだから贅沢禁止!」
「なら今度、思い切ってホブゴブリンでも――」
「おバカ! 私達が狩れる訳ないでしょ!」
なんて、仲睦まじい少年少女の姿もあった。
少年は大振りな円盾とシンプルな直剣で軽装の前衛。少女は長杖を持ち、魔法職なのだろう。
その初々しさと装備が妙に真新しい所を見ると、新人冒険者らしい。
安全地帯でも無いのにダンジョンで気を緩めるのは愚かな事なのだが、一階層は魔物の出現頻度も低く往来のパーティも多いので、五階層以降で感じる危機感が薄らいでしまう。
その油断が足元をすくい、命取りになるのだが、と思いつつ、
「昼飯はどうしようか?」
「広場の屋台でも良い軽食を出している所もあります。ギルドへの報告の前に覗いて見ましょう」
レオンとリゼッタも他愛の無い話をしつつ間を空けた列が進むの待っていると、一階層から降りて来たパーティがレオンに気付いた。
「――お、アンタ。この間の【ガーディアン】じゃねぇか!」
多少なりとも周囲に気づかい声を落とす中で、パーティリーダーなのであろう大剣を背負う赤髪の青年の声が響く。
その“この間”の件で、時の人となったレオンに敢えて触れずに居た周囲の冒険者達が僅かにざわつき、視線が集まった。
その空気感を面白がる様にヘラヘラと笑って、
「あん時は笑わせて貰ったぜ。いつ見ても良いもんだな、自分が追放した奴にやられる間抜けってのはよ! ホント、ざまぁなかったぜ!」
そして、レオンを値踏みする様に見た。
「にしても、アンタは【シールダー】系統のスキルを真面に使えないってのはマジなんだな!」
【ヘヴィブレイド】の赤髪の彼につられて、
「はは! ダッセェ! そんなのただの【ソードマン】より弱っちぃじゃねぇか!」
と、黒い長髪の【アーチャー】が、
「こんな雑魚にやられる【ブレイダー】はそれ以上の雑魚だって話だろ。『実は自分は強かったんだぁ』なんて勘違いしない方が身のためだぜ!」
白髪の曲剣と円盾の【ソードマン】も笑い出す。
「お止めなさい。彼等も己が出来る事を精一杯に成したまでなのですから」
短い茶髪のメイスを腰に携えた、ヒーラー系クラスの中でも聖属性攻撃魔法の適正を持つ【プリースト】のがたいの良い男は穏やかな声色で窘めるが、その表情は誰よりも歪んだ笑みを浮かべていた。
彼等の嘲る視線と笑い声にレオンは「そーですねー」と、聞き流す。
この手の輩は真面に取り合う事も無い。
レオンとしては図星の部分もあるし、リゼッタに飛び火しない限りは、自分はどう言われようともスルーする事は出来る。
「――はっ! どうせイレギュラーに遭遇したっていってもあの竜姫に助けられただけだろ。ダンジョンに入るなら精々死なねぇよーに気を付けな」
食って掛かる事のないレオンに彼等は白けた様に、顔を見合わせた。
二階層の散策の為に三つある通路の何処から行こうかと思案する彼等の背に「お互いになー」と自嘲気味に小さく呟いて見送った。
「……」
チラリとリゼッタを見ると口惜しい様に眉を顰めているのに、レオンは苦笑する。
「ごめんな。しばらくはまた“こういうの”もあると思うけど……」
それに彼女は、小さく溜息をついて、
「いえ。貴方が抑えるのであれば、私が荒立てる訳にはいきません。それに、この都市ではよくある事です。しばらくすれば、我々の事も気に留めなくなるでしょう――」
さて、とリゼッタは気持ちを切り替えて穏やかな笑みを浮かべた。
「降りてくる冒険者も一区切りついた様です。我々も――」
周囲の冒険者も一悶着あるか、と身構えていた妙に張り詰めた空気感が緩んだ。
――それを待っていた様に、
「うわぁぁぁ!!」
二階層通路から男の叫びが響く。
「化物が来る――どけ、邪魔だ!!」
傷を負った男が冒険者達を押しのけて一階に駆け上がるのに、再び緊張が走った。
『異常事態』
誰しもの脳裏にその単語が浮かぶが、レオンとリゼッタにはその重みと恐怖が身に染みている。
――また、あのオーガの様な化物と対すると思うと足元がグラつく様な感覚に襲われた。
だが、ここは、二階層の階段エリア。それに一階層の構造は比較的単純だ。適当に暴れ回っていれば直ぐに地上に出てしまうだろう
六階層の奥部の様な猶予は無い。
この場に居る冒険者は多いが新人も強敵や閉鎖空間での集団戦に不慣れな者もいるだろう。だが、此処で討伐するしかないのだ、と各々が覚悟を決めて武器を抜いた。
そして、男が逃げて来た通路から現れたのは――二メートルを超える緑の巨体。
「……ホブ、ゴブリン……?」
誰かが呟いた。
……そういう事もあるだろう。
実力に伴わないダンジョンアタックの末、全滅など珍しくも無い。
ゴブリン系統の魔物はダンジョン全域に出現されると言われている。
下層域のホブゴブリンが上層に上って来る可能性もあり、脅威ではある。
だが、ソレはダンジョンの恩恵を受けて武具などを装備していたり、固有の変異を起こしている個体での話。
目の前に現れた魔物は木製の棍棒を手にした腰にボロ布を巻いただけの、通常のホブゴブリンだった。
「は、はははは!!」
大剣を抜き、構えていた赤髪の青年が堪え切れずに高笑う。
「怪物って、ただのホブじゃねぇーかよ! あんな雑魚にボロボロにやられる程度ならダンジョンなんかに来るんじゃねぇーっての!」
彼以外からも少しだけ安堵の声が漏れた。
実際、オーガやリザードマンの上位種であり竜種に近いとされる『レクスリザード』、即死魔法を持つアンデッド上位種『エルダーリッチ』、一切の物理攻撃が効かない死霊系『レイス』など、想定していた最悪と比べると拍子抜けだった。
――だが、見慣れたホブゴブリンとは様子が違う。
息苦しそうに全身を揺らしながら呼吸を荒げ、常に何かを探している様に首を振るう姿は理性や思考を完全に放棄している様に思えた。
元々が、知的な魔物では無いにしろ……明らかに異質だ。
「――……?」
レオンは、ソレをダンジョンで生まれた故の変異個体――と、飲み込む所で、その緑の身体に斑に飛び散る赤色と手にする棍棒にへばりつく汚れが、“血と肉片”だと理解する。
「気をつけろ! アイツは並みのホブじゃないぞ!」
剣を構え直すレオンに赤髪の冒険者は鼻で笑った。
「イレギュラーにしたって、ホブはホブだろうがよ。そんな奴に一々、ビビってられ――」
と、鈍い風切り音の直後に衝突音と潰れた悲鳴。
「――――!」
レオンは、半身が潰され吹き飛ばされた【ヘヴィブレイド】の彼と弾かれた棍棒が地面に跳ねたのに、一拍置いて、『ホブゴブリンが棍棒を投擲した』とようやく認識出来た。
「ご、ゴブリン風情がこんな……っ!?」
【アーチャー】が矢を番え、
「チクショウ、ぶっ殺してやる!」
【ソードマン】が曲剣に魔力を込めてスキルの準備に入り、
「落ち着きなさい! 私はリーダーの治癒を行います。貴方達はその時間を――!」
【プリースト】が飛ばされたリーダーに駆け寄ろうと、踵を返す。
彼のメンバー達たちがそれぞれに行動を起こした。
「ォオオオォ゛ォゥ!!!!」
それが何だと、ホブゴブリンは咆哮し、射られた矢も放たれた剣術スキルも物ともせずに彼等に猛進した。
その剛腕で冒険者達を殴り、鷲掴み投げ飛ばす。
「――なん……!?」
出鱈目だった。
ホブゴブリンは通常のゴブリンよりも遥かに強力ではあるが、度が過ぎる。
その膂力は巨人種であるトロール染みていた。
「ァ、オオオオォオゥ……ッ!!!!」
ソレは階段を視認して、咆えた。
――誰もが思うより早く理解する。
「此処で止めろ! 奴を地上に出すな!!」
【ランサー】がスキルの準備に入りながら叫んだ。
「タンクは足止めを! アタッカーは畳み掛け――」
そして、周囲を見渡して言葉を詰まらせた。
高威力高機動の単騎相手には、タンク職が敵の攻撃を引き受け、アタッカー職が火力を一点集中させて削り切るのが定石であり、効果的な戦略だ。
だが、それには敵の攻撃を防ぎ切れるタンクの存在が前提になる。
近くに明確なタンクを担えるのは“大振りな円盾とシンプルな直剣の新人冒険者”位しか居なかった。
「――流石に、か……っ!」
この先駆を彼に任せるのは幾らなんでも荷が重過ぎる。
「オ、オレ――!」
「俺が出る」
傍らの少女を庇いつつ意を決した様な少年を、レオンが制した。
「お前らは攻撃と、やられた連中の回収を――リゼ!」
「“――駆けよ“《クイックネス》!」
促しと同時にレオンはリゼッタからの補助魔法を受けた。
彼女は走り出す直前のレオンに頷いて、再度詠唱に入る。
「“内なる膂力よ――”」
それを背で感じながら、強化された脚で真横に跳びつつ、
「“その矛先は我が手の内に――惑え”《ヘイトコントロール》!」
レオンは己の魔法でホブゴブリンの敵意を引き受けた。
真っ直ぐに階段に向かう緑の巨体が急停止して、強い引力に吸い寄せられる様に彼に突進する。
――ドス黒い殺意の中に、酷い焦燥感を感じながらレオンは巨大な矢の様に飛んでくる怪物に身構える。
「オ゛ァオアァー!!!!」
「はぁっ!!」
力任せに振り下ろされた拳にレオンは剣を振るう。
迎撃系防御スキル【インパクトアブソーバー】。
パリィする事が出来れば、相手の重量など関係なく、その破壊力を吸収し己がものとして次のスキルに乗せる、レオン・グレイシスの唯一にして最大の切り札だ。
その固有スキルが成功すれば、ホブゴブリンの突進を加えた剛腕での一撃を吸収し、攻勢のチャンスとなっただろう。
――だが、
「っ゛、ぁっ――!?」
レオンは、その衝撃を剣で真面に受けた。
慣れない剣だったからか、それとも単純にレオンを凌ぐ速度だったのか、“スキルのタイミングを逃した”と理解する直後に腕がもがれる様な痛みに襲われる。
……――だとしても。
「ぉ、ぁ……っ゛――!」
そのまま吹き飛ばされるものかと、堪えて見せる。
痛みしか感じない地獄の様な数秒の先、
「“――拳を握れ”《ハイパワー》!」
リゼの声と共に魔力をその身に受けて、ホブゴブリンと競り合いに持ち込んだ。
「――――ぁ゛――」
痛みしか感じない。それ以外の身体の感覚が無い。息が出来ない。
だから、なんだとレオンは歯を食いしばる。
ホブゴブリンは体内の魔力も活性化している様で拳の強度は高く、刃は僅かにめり込む程度だが、
「“刃の冴えよ――研ぎ澄ませ”《シャープエッジ》!」
重ねられる斬撃強化を刀身に受け、その拳に刃が通った。
続けてレオンは己の魔力を込めてスキルを起こす。
「――《蒼波刃》!」
剣から蒼い炎の様に魔力を斬撃として放出し、そのまま振り切った。
「ゴォ、ァ、ギァ――!?」
緑の左の剛腕を肩まで大きく引き裂いて、冒険者達を見ると彼等のスキルの準備は整っている様だった。
負傷した【ヘヴィブレイド】のパーティメンバーも、足の速い【スカウト】系統のクラスが回収を済ませている。
「――っ!」
レオンはその敵意を自分に向けさせたまま、痛む脚で無理やり飛びのいてホブゴブリンと距離を取った。
彼を逃がさない、と手を伸ばすホブゴブリンを――、
「“不可視の守壁――阻め”≪プロテクトウォール≫!」
リゼッタの二枚の防壁魔法が挟み込み、動きを封じた。
本来が、“壁”の役割であり敵の拘束は“結果として”の些細なものだが、今はソレで十二分。
腕を振るい薄オレンジ色の半透明の壁を破ったホブゴブリンに、
「やれ!」
レオンの号令で、アタッカー達のスキルが一斉に放たれた。
弾速を重視された各属性の下位魔法と弓術に加え、剣術、槍術、斧術の放出系スキルがホブゴブリンを燃やし、打ちつけ、斬り裂き、穿ち、射貫き、その巨体を削っていく。
「ァ、ギァ――オ……ッ!!」
右腕がもげ、左脚が潰れ、脇腹が抉られた。
既に肉体が霧散し始めている程の致命傷――だが、まだ堪えている。
「――――ォ、ッ゛、ァ゛」
≪ヘイトコントロール≫の効果は消え、ホブゴブリンは崩れる身体で蠢いて、片目が潰れた眼光でそれでもまだ、階段を見た。
「……っ――」
もう自身にその意識は向けられていないというのに、心臓を掴まれた様な寒気。
元々、ダンジョンで産まれた魔物は地上を本能的に目指すものだが、ソレはあまりにもそれが顕著だった。
自分がまだダンジョンの上層しか知らないだけ、とも思うが、レオンはコレがただの魔物の狂暴化とは思えない。
「…………」
やがて、ホブゴブリンは歪な形の魔石だけを残して完全に霧散したが、安堵など出来なかった。
「レオ、無事ですか!」
「あぁ……なんとかな」
駆け寄ったリゼッタの声と回復魔法で、身体の痛みと共に嫌な強張りが解れていく。
それと同時に、別の不安感が沸いて来た。
「……」
レオンは手にする片手剣を見て眉を顰める。
ホブゴブリンは平均的な個体としては能力はずば抜けていたが、“あのオーガ”には及ばない感覚があった。
つまり、あの瞬間にパリィするだけのポテンシャルはあった筈だ。
不慣れな剣というだけで、己の戦いが出来ないのであれば、やはりレオン・グレイシスはその程度の冒険者なのだろう。
――不安そうで、それでいて心配そうな顔を見せる彼女とこのままダンジョンを挑んで良いものか……と、
「――アンタ!」
冒険者の指揮を執っていた【ランサー】の声で、レオンは我に返った。
「レオン・グレイシス……と、リゼッタ・バリアン、だよな。助かったぜ、お陰で即席だが俺達のスキルを合わせるだけの余裕が出来た」
「俺だけじゃ、時間稼ぎにもならなかったけどな」
レオンは自嘲気味な疲れた笑みを見せたが、直ぐに強引に気持ちを切り替える。
「それで、やられた連中は無事か?」
「おう、幸い死人は出てねぇよ。ただリーダーの【ヘヴィブレイド】が重症でな、今居る【ヒーラー】じゃ完治は無理だ。命に別状はなくとも処置が遅くなれば冒険者としては死んじまうよ」
【ランサー】の彼は、レオンとリゼッタの様子を見て表情を引き締めた。
「――動けるなら、負傷者と新人を連れて先に地上に戻ってくれないか。俺達はこの階層を見て回る。あのホブがどこから来たかはわからねぇが、相当暴れてたってんなら他にも被害が出てるかもしれねぇからな」
レオンはリゼッタと顔を見合わせて肯いた。
「あぁ、分かった。先に地上に逃げたあの冒険者も探してみるよ。ギルドへ報告に行ってくれているとも思えないが、あの様子なら聞いて回れば足取りも直ぐに追えると思う」
「悪いな。どうもあのホブはただの異常事態って感じじゃなかった。情報は少しでも多くギルドで共有しときたい」
気を付けて行けよ、と彼はその場を後にして他の冒険者に指示を出していく。
「……――」
その背中を見送り、レオンはホブゴブリンが残した魔石に視線を向ける。
それは妙に禍々しくて、間違いなく“嫌な予感”がするのだ。
そして、大抵の場合この手の予感は当たる。
困った様に乾いた笑いを漏らし、レオンは大きな溜息をついた。