第三話:どうやら“追放”が流行っているようです
十六歳で故郷を出て約四年。長らく共にしてきたパーティーをクビになり、レオンは注文も取らずに椅子に腰かけたままだった。
途方に暮れているのだが、仲間に見捨てられて悲観している訳では無い。
正直、実力者の彼等に今後も着いていける自信もないし、最近になり露骨になってきた嫌味にも耐えかねていた所だ。
寧ろ、態度も胸もデカい某魔法剣士さんに謂われの無い『宿屋で着替え覗き疑惑』をかけられ時にその場で離脱しようと思った程。
そもそも――元々の夢もいつしか消えていたのだから、未練も何もない。
問題は、
「一人で、あのダンジョンに潜る? え、命が幾つあってもたりないんだけど」
そこに尽きる。
今までの稼ぎは基本、パーティー全体の物だったので、現在レオン個人の資金は非常に心もとない。
”外”での街なら普通に十日はのんびり暮らしていける余裕はあるが、この迷宮都市では諸々、お高くつくらしい。
自身の再スタートに景気づけにとメニュー表を覗くが、値段が想定の倍近くでそっと閉じて、遠ざけた位だ。
今の所持金で最低限、人間らしい暮らしをしようものなら、三日と持たない。
かといって、迷宮都市付近に街は無く、最寄りの村にも徒歩なら一か月。馬車でも手配したい所だが、所持金全てをつぎ込んでも足りないときた。
ならば、有り金全てで食材を買い込み徒歩で最寄り村に向かうにも現実的でない。
迷宮都市周囲の魔物は、冒険者達と騎士団により掃討され、ある意味安全だが、逆に討伐報酬で稼ぎも出来ない。
「つまり、ドン詰まり」
この都市に残るにも“外”に戻るのも、もう何度かはあのダンジョンに出向く必要がある訳だ。
「――もっと理解のある冒険者とパーティを組みたいなー」
「――もっと理解のある冒険者とパーティを組みたいものです」
レオンは自身の声に聞き慣れない女性の声が重なったのに、振り返る。
「え……?」
そこには、銀色の長髪と薄紫色の眼の、少女から女性の間の様な美しい彼女が自分と同じような表情をしていた。
数秒の硬直の後、お互いが丸形テーブルに座り、他の席には“誰かが居た痕跡”がある事に察して、小さく会釈をするのだった。