第二十六話:たとえ意義が無くとも
翌日、早朝。
試合そのものは公にされていなかったが、ギルドが訓練場を貸切る時点で“何か面白い事”があると、悪趣味な貴族街連中や暇を持て余した冒険者が集まり、訓練場を少し間を開けて囲っていた。
ギルド長マルヴァリン・ガンドルーフは、訓練場に沿う様に柵で仕切られた簡易な立ち合い場所で双方のパーティメンバーと共に、訓練場中央へと赴くレオン・グレイシスとヴィル・アルマークを見送った。
彼等の背に、
「元リーダーを見返してやれー!!」
「追放した無能に負けるなよー!!」
好き放題なヤジが遠くから投げかけられる。
迷宮都市では、ダンジョンと“外”との差でパーティの解散や追放は日常茶飯事だ。
故に追放し、されて“似たような事情を抱える”冒険者は多い。
外野は『パーティ内のいざこざで、追放されたメンバーが元リーダーと女を取り合うらしい』――なんて盛り上がっている様だ。
早朝の澄んだ空気も、そんな不躾なギャラリーの身勝手な共感の熱気で台無しだ。
――まぁ、それも当たらずとも遠からずなんだけどねぇー。
それにギルド長は、溜息をつく。
ギルドとしては、今回の様なパーティ同士の試合に観客を入れる事は無いのだがそれは表向き。
今の様に決められたエリアに入らなければ無関係とする……なんて、ガバガバなルールで少し遠目から見る見世物となっているが、コレも迷宮都市の娯楽の一つで、荒くれ者の冒険者の捌け口にもなり、市民区の治安維持にも一役買っている。――だとか。
マルヴァリンとしては、「そんな事言ってるから、迷宮都市はある種の吹き溜まりとも言われるんだけどねぇ」とも思うのだが、先々代以上前から続く風潮なので、長いモノには巻かれた方が世の中は渡り易いと自身の生い立ちからも学んでいる。
――私も相当に落ちぶれてるわねぇー?
と、思いつつ残された彼女達を見る。
リゼッタ・バリアンは心配そうではあるが、不安は無い様だった。
――信頼、しているのね……。
それに対して、ミリンダ・ルクワードとライラ・リーイングは自分がどうしてこの場に居るのか今一つ分かっていない様にも思える。恐らく真面に話合いなど出来ていないのだろう。
――『鋼の翼』。皆で飛ぶには鉄の翼じゃ重いものね。
マルヴァリンは小さく溜息をついた。
ドロップアイテムの所有権を掛けた“試合”なら話は単純だが、彼等には少々一方的にだが何かしらの因縁があるらしい。
この手の“決闘”ではどちらが勝っても、どちらも報われないのが世の常。
「……私が言えた義理じゃないのは承知だけど――本当にコレで良かったの? 貴女達なら報酬を放棄して決闘を受けない事も出来た。ユニークウェポンとはいえ、剣一振りには、割が合わないと思うけど」
マルヴァリン個人として、リゼッタに尋ねた。
「――確かに、この戦いに意義は無いのかもしれません」
彼女は、レオンの背を見送りながら、
「ですが……彼等にとっては意味のあるものだと思うのです。止めてしまった歩みを再び踏み出す為に、そして自らが歩む道を見つめ直す為に――彼等が志す英雄を目指し続ける為に……」
胸の前で祈る様に手を握る。
「――そう……」
マルヴァリンは小さく微笑んだ。
――男の子は、不器用なものだものね。
「それじゃ、お姉さんは見守りましょうか」




