第二十五話:大量生産の唯一無二の双剣
「――やっぱ、ここでもダメだったか……」
レオン・グレイシスは商業地区にある武器屋を見て回り、溜息をついた。
冒険者ギルドでのパーティ『鋼の翼』とのユニークウェポンの所有権を決める交渉で、翌日の早朝に一騎打ちをする事になった。
レオンが承諾した傍から、ヴィル・アルマークは始めようと言い出したのに、
「彼の傷は癒えたとはいえ、万全とは言えません。今日一日は、休息とさせて頂きます」
と、リゼッタ・バリアンの断言で押し切ったのだった。
その後は、刀身に亀裂の入ってしまった短剣の修理に迷宮都市の武器屋の名店である『強者たちの集い』を訪れたのだが、武器そのものの劣化もあり、打ち直しは難しいとの事。
無理に直すよりも素直に買い替えた方が良いと勧められて、そこまでの手持ちがないからと、早々に後にしたのだ。
他にも数店舗でも見て貰ったが、一流のスミスが言うだけあり結果は同じ。
剣としての寿命か、と腰のソレに手を置いた。
諦めて、別の主武装を探すか……と思っていると、付き合っていたリゼッタの微妙な表情にレオンは苦笑した。
「えっと……勝負を受けた事、怒ってる?」
「……――正直、納得は出来ていません」
リゼッタは、不満そうに答える。
「彼等――いえ、アルマークさんの態度は冒険者として目に余ります。口頭とはいえ、一度は譲った剣を賭けた勝負を持ち掛け、パーティを追放した相手に公平などと……」
眉間にシワを寄せる彼女はそこで、はっとした。
「あぁ、いえ……貴方が彼に劣っているという訳では無いのですが――」
実質、下層域の魔物であるオーガを倒したのはレオンだ。本来の【ガーディアン】と比べると偏りがあり、純粋な守りの能力に不安を残すが、その実力は本物だとリゼッタは確信している。
だがヴィルからしてみれば、レオンを戦力外として追放しているのだから、“端から公平なつもりは無い”のだろう。
咳払いをして、
「ですが、報酬に拘る事も無かったのですから『我々のパーティに今後関与しない』という条件ならば、あの剣を譲ってしまえば無理に勝負を受ける必要は無かった筈です。彼のダンジョンでの行動を見る限り“世界が求める英雄”を志している様でしたが、明らかに功を急いでいる……動機は素晴らしくとも辿り着く所は破滅です。想う所はあると思いますが――現時点でも彼とは関わらない方が良いのでは?」
「まぁ……確かにそうなんだけどな」
自分の言葉にレオンが痛みを堪える様に眉を顰めたのに若干の後悔を覚えたが、彼を思っての事だ、と続ける。
「――せめて、試合での武器は新たに購入しましょう。資金ならこれまでの攻略で相応に貯まっていますので、糸目をつける事はありません」
それにと、少し躊躇を覚えたが、レオンのリスクを少しでも減らす事が重要だった。
「渡された剣は貴方の物と形状は似ている様ですが、彼の様な人物が用意した物なら粗悪品の可能性もありますので、まずはスミスに調べて貰いましょう。場合によれば、そのまま処罰を与える事も――」
「……いや、そんな事は無いさ。“この剣”の事は俺も良く知っているよ」
レオンは困った様に小さく笑って、自分の物とは逆の腰に提げたソレを鞘から抜いた。
――それは、彼が大事に愛用していた少し大振りな短剣と瓜二つだった。
別に彼の短剣は珍しい一品ではない。元は大量生産の一振りなのだろうとリゼッタも察していた。
同じスミスが数打てば意匠が重なる事もあるだろうが……それにしても、諸々と酷似している。
「――コレは双剣、ですか……?」
困惑するリゼッタに、
「元々はな。……それを、シスターが俺達にくれたんだ」
レオンは懐かしむ様に、友の剣を見つめ、腰の自分の剣に触れる。
「シ、ス――……」
掠れる彼女の声に、レオンは苦笑する。
「あぁ、言ってなかったけどさ。――俺も、“俺達も”孤児なんだ」
別に珍しい事じゃないだろ? と。
「――大した話じゃないんだけどな」