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第二十三話:それぞれの想い



「――幸い、今はベッドが空いてる。今日は特別に隣のベッドを使うと良い」


 冒険者ギルドの裏手にある治療院の六つのベッドが並ぶ病棟。


 長い紫色の髪をした女性の治癒術師がレオン・グレイシスの処置を終えて、心配そうに彼を見つめるリゼッタ・バリアンに声をかけた。


「よろしいのですか……?」


「よろしくはない。だが、私はギルドの治癒術師、冒険者の健康を守るのが仕事でね」


 溜息交じりに肩を竦ませる。


「どうせ“彼はもう大丈夫だ、心配するな”……と【ハイプリースト(上級回復職)】の私が保証してもお前は今夜、眠れぬのだろう? だったら、”自分の男”が見える所で寝た方がまだ精神衛生的にましだ」


「お気遣い感謝します」


「ではな、何も無いと思うが何かあったら直ぐに呼べ」


 頭を下げるリゼッタに治癒術師は軽く手を振り、欠伸混じりに隣の控室に戻って行った。


 ダンジョンへは日々、数えられない程の冒険者が赴いている。


 いつ重症な患者が運ばれるか分からない、いかに【ハイプリースト】とはいえど、休める時には休むべきだろうと思いつつ、リゼッタは取りあえずレオンのベッドの横にある椅子に腰かけた。


 目を覚ます気配は無いがスースーと寝息を立てる彼に苦痛はもう無い様で、やっと心から安心出来た。


 いや、別にレオンは”私の男”とかそういう関係じゃないですよー。と、訂正するのも些細な事に思える。


「……明日はゆっくり休みましょうね」


 自分達の目的は単純な稼ぎの為だ。


 幸い、レオンのお陰でこの数日でも大分稼ぐ事が出来た。ただ生活するだけでも高くつくこの迷宮都市でも二、三日は贅沢しのんびり出来る程の余裕はある。


 それこそ、孤児院での経費なら一か月程度なら十分だろう。


「――あぁ……そうですよね」


 ポツリとリゼッタは呟いた。


 元々、レオンとはその為に一時的なパーティを組んだだけだった。


 彼も今後の為に資金を貯めるのが目的。


 ……初めからこの関係はそう長くは続かない、と改めて思うと……妙な気分だった。


 素直に惜しいと思ってしまう。


「目的と手段が入れ替わってしまった様ですね……――」


 呟いて大きな欠伸が出た。それを、はしたないと自重する思考も急に押し寄せて来た疲労と眠気に止まる。


「っ――ぁ――」


 隣のベッドに移ろうとしたが、身体の力が抜けてレオンの隣に腕をついた。


 それでも何とか力を入れるが、その肘も折れて彼の隣に転がる。


 起きなければ、と思いつつも横になる心地良さに身体が喜んだ。


「…………」


 ――それはそうと、と。


 十八の自分より幾分、歳上であろうレオンのあどけない寝顔に、年下の女はどう思うのだろう?


 なんて思いつつ、閉じる瞼を開ける気力はもう彼女には無かった……。





「……」


 宿に戻ったヴィル・アルマークは何をするでもなく、ただベッドに腰かけていた。


 手に持つ剣は先日購入した魔力適正のある長剣ではなく、安物の少し大振りの短剣。


 ミリンダ・ルクワードとライラ・リーイングも今頃宿に戻り、ハイザ・ウィスパーは歓楽街に赴いているが、彼にパーティメンバーを気に掛ける余裕は無い。


 脳裏に過るのは“あの光景”。


『金色の竜姫』シルヴィア・ディルフィスの圧倒的な強さは、誰も追いつくことのできない理不尽な存在としてしまえば、割り切り目を背ける事も出来る。


 ――だが、


「……レオン――っ」


 嘗ては、唯一無二の親友と誇っていた彼はそうはいかない。


 自分がリゼッタ・バリアンの補助魔法を受けた上での最大の攻撃(スキル)でもオーガを殺し切れなかった。


 それなら、まだ良い。


 しかし、レオン・グレイシスは自分の力のみで、立ち回ってみせた。


 確かに彼の【固有スキルインパクトアブソーバー】は物理的にも魔力的にも質量に関係なく、パリィすれば無効化して自身の力として蓄積し別のスキルに転用するもので、相手が強者であればある程、その固有スキルの性能は向上する。


 場合によっては、下位スキルで竜を殺す事も可能になるだろう。


 だが、パリィするのはあくまで、レオン自身の技術だ。


 あのユニークウェポンを持つ怪物(オーガ)に『自分と同等かそれ以上』と思わせ、その全力の一撃を受けて見せた。


 ――それがレオン・グレイシスの力。


 自分が彼と同じ固有スキルだったとして、同じ事が出来るかといえば――。


「――……」


 手にしてる短剣を鞘から抜いた。


 この二年程は自分の戦闘スタンスに合わせて長剣に持ち替えたが、手入れは怠らなかった。


 レオンの持つものと瓜二つの――冒険者となる為の誓いと思い出の剣。


「僕は――“僕達”は、必ず英雄に……――」


 その刃を睨む様に見つめ、呪いの様に呟いた。



 ヴィル・アルマークは――止まれない。


 今、止まってしまえば……折れて虚勢すら張れなくなるから。



 ――何かを成せば自身を正しいと、間違っていないと思える筈だ。



諦めた(・・・)アイツより強い事を――証明できれば」


 そんな気がして、彼は目を閉ざす様に剣を鞘に納めた。


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[一言] ヴィル君。堕ちたな(笑)
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