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第二話:よくあるパーティ追放


「レオン――やはり、君はこのパーティに居るべきじゃない」


 世界の中心にして、世界滅亡に一番近い迷宮都市・パルディシア。


 その酒場を兼ねた冒険者ギルドで、ヴィル・アルマークは、そう告げた。


「この街の……『世界の中心に挑戦するダンジョン』では力不足だ。何より向上心の無い者には挑む資格すら無い!」


 二十歳頃の精悍な顔立ちの緩やかな癖のある金髪の青年はその翠の瞳に苛立ちを宿していた。


 視線の先にいる暗い紅の瞳と尖ったように逆立った灰色の髪をしたレオン・グレイシスは、口を中途半端に開いたまま、眉を顰める。


「……は?」


 ヴィルと同世代の青年であるレオンは、眉目秀麗のサンプルの様な彼とは比較の問題で全体的に見劣りする。


 例えば、レオンも酒場で飲んでいる時に女性冒険者達から声をかけられた事は何度かある。しかし、ヴィルがその輪に入ると全て彼に注目が行く程度の容姿――というのは、世間的にどうなのだろう。


「いや、ちょっと待ってくれヴィル! 俺はただ、“行き成り十階層は早すぎた”って言っただけだろ? 俺達はもっと慎重になるべきだった、連携を見直すべきだった! ――そのどこか間違ってるっていうんだ!?」


 その反応にヴィルは拳を強く握るが、表情は冷静に努め、


「間違い――か。その君の意識の低さが間違いなんだ。Sランクにまで上り詰めた僕達は本来、こんなものじゃない。今までは、僕の同郷ということで、皆も我慢してくれていたがコレからはそうはいかない――馴れ合いじゃ生き残れない。僕達には互いを信頼し合える本当の仲間が必要なんだ……っ!」


 言われて、レオンは絶句する。


 世界が存続する為のリソース『マナ』を唯一生み出す命の要であり、人々を喰らう魔物を生み出す地下深く――文字通りに世界の中心にまで続くであろうダンジョン。


 そこに腕試しと探索に出て、早々に戻って来た訳だがその責をパーティーリーダーは彼に問う。


 まぁ、実際の所。


 “殺意の塊”と比喩される程のダンジョンへの初陣ということを加味してもグダグダに過ぎた。


 ダンジョンで襲い掛かる魔物達は地上で繁殖し適応した類の原種(オリジナル)だ。


 その能力は、地上種を越える。


 数多の冒険者達が富や名声を求めて日々ダンジョンにアタックを試みているが、本来はその原種達が地上に侵出するのを防衛するのが本来の目的だ。


 冒険者ギルドでもダンジョンアタックの前には、『“外”とダンジョンでは決定的に違う』と念を押されていたのをレオンは思い出すが、後の祭り。


「確かに、私達がゴブリンなんかに後れをとるなんて、明らかな“足手まとい”でもいないと、ありえないわ」


 ショートヘアの赤髪、青い瞳のミリンダ・ルクワードが鼻を鳴らして高圧的な声と視線を浴びせてきた。


 二十歳を過ぎた頃の彼女は豊満な胸と健康的な四肢を銀の軽鎧で包んでいる。


「世界を救う為に、ダンジョンの下層を目指すのに『中途半端な一芸』だけだと心もとないのは事実。現に十階層なんて“まだまだ上層”――でなければ、この私がゴブリンの矢を受けるなんて、ありえない」


 青い長髪、紺の瞳のライラ・リーイングが分厚い魔導書のページを捲り頷く。

 十五を超えた程度で少し大きめなローブに隠した身体つきにはまだ幼さが残るが、その諭した様な表情からは落ち着いた印象がある。


 しかし、先ほど治療院で治療を受けて傷は完治したが、その恐怖はページを捲る指先に残っていた。


「――俺はあくまで、このパーティに雇われた傭兵だ。メンバーの加入や脱退には口を出すつもりは無い。リーダーの旦那に一任するさ」


 焦げ茶の短髪、黒に近い赤の瞳のハイザ・ウィスパーが肩を竦ませる。

 このパーティー内では新参ではあるが、三十まじかの筋骨隆々の彼は冒険者としては一番、歴が長い。


 言いたい事はレオンにも分かる。


 リーダーであるヴィルは実力不足なレオンよりもっと優秀なメンバーを入れさえすれば先ほどの様な醜態は晒す筈がない、と言いたいのだ。


 敢えて新メンバーの追加、ではなくメンバーの脱退・入れ替えを検討する辺り、余程自分を追い出したいのだとレオンは血の気が引いた。



 そして、


「これが、僕達の――パーティの総意だ」


 リーダーの……かつて、親友と呼び呼ばれた青年は一言で、切り捨てた。


 この五人は、迷宮都市の“外”ではSランクの冒険者パーティ『鋼の翼』と呼ばれ、その実力は確かにある。


 リーダーのヴィルの神から受けたクラスは剣術スキルに特化した【ブレイダー】。

 固有スキル【リミットブレイク】を有し、魔力で武器の性能や身体能力を引き上げる単純な強化系のスキルだが、その倍率は並みの強化魔法の比ではない。店で売れ残ったナマクラですら聖剣を凌駕する切れ味を見せる。


 ミリンダは、【ソードマン】と【スペルキャスター】の特性を併せ持つクラス【ルーンソード】。

 固有スキル【魔法剣】により本来、属性を持たない剣技スキルに魔法の特性を付与させ、様々な耐性を持った敵にも対応できる。


 ライラは、【スペルキャスター】の上位とされるクラス【ソロモン】。

 固有スキル【連続魔法】を持ち、通常よりも魔法の連射能力に補正が掛かる。

 その上で、攻撃系を得意とする『黒色』と回復支援を得意とする『白色』の両方を併せ持つ本物の天才である『灰色』の魔導士。


 ハイザは武器の扱いの長けるクラス【マルチウェポン】。

 固有スキル【痛覚遮断】。ダメージは受けるものの、その痛みを無効化する。

 主武装は大盾と大型ランス。魔法の適正は並みのCランク相当の冒険者程度だが、短剣から大剣、弓まで様々な武器の扱いに精通し、状況に応じてそれぞれのスキルを使い分け、ヴィルと共に前衛に出れる実力がある。


 軒並み、自ら攻めに出るのに適したスキルを持ったメンバーだ。


 それに対して、レオンが神から授かったクラスは【ソードマン】と【シールダー】の特性を併せる【ガーディアン】。

 固有スキルは【インパクトアブソーバー/リリースバースト】。

 自身に対する攻撃に、攻撃を当てる事で一秒に満たない程度の硬直とその際の衝突力を吸収し、次のスキルの効果に上乗せさせる迎撃系の防御スキル。


 物理的魔力的に、相手の重量に影響は受けずどんな大型武器や矢、魔法でも、パリィすることが出来れば僅かながらも時間停止を強制し、こちらが受ける筈だった衝撃を己の力に変える強力なユニークスキルではある。


 だが、常にパリィ(攻撃を弾けるチャンス)を狙える訳では無く、衝突力蓄積の効果も相手により大きく変動し、その特性から決定打にはなりにくい。


 そもそも、彼個人の実質の能力はA手前のBランク。

 パーティー内でのポジションは、一応、壁役(タンク)になるのだが、相手の攻撃を受けきり仲間の攻撃のチャンスを作る典型的なタイプではなく、“相手の攻撃に自分の攻撃を割り込ませリズムを崩させる”稀有なタイプ。


 一対一で相性がハマれば封殺も可能だが、パーティメンバーの“壁”とは言えないだろう。



 スキル、個人の能力含め、決して弱い訳では無いが、名実共にSランクの四人と比べると雲泥の差。


 ヴィルの言う通り、それでも今日までパーティーだったのは、彼と同郷であり、初めは二人だった為の馴れ合いからくるもの。


 そして何より“外”は“その程度”の難易度だった為とレオンは納得する。


 この迷宮都市では以前の評価は関係なく一律で到達階層での評価になるのだが、個人の能力は再スタートに大きな差と溝を生む。


 Sランクパーティの中でBランク止まりのレオンはお荷物なのだ。



「――そうだな。今まで世話になったよ」


 彼は頷き、パーティメンバー……だった者達はギルドを去っていく。 


 レオンに声をかける者はいなかった……。



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