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第十八話:絶望という名のイレギュラー



 その声がヴィル・アルマークのものだとレオン・グレイシスとリゼッタ・バリアンは直ぐに気が付いた。


 二人が顔を見合わせると、


「今の女の悲鳴じゃなかった!?」


「口を塞がれているのかも――!」


 またも聞き覚えのある【ルーンソード】と【ソロモン】の声。


「っ、卑劣な……!」


 剣が鞘を走る音にレオンは思いっ切り眉を顰めた。


 大きな溜息をついて、


「ちょっとたんま! 誤解だ誤解!」


 斬りかかられる前にレオンは岩陰から顔を出す。


 既に剣術スキルの発動準備を終え、刀身が赤く光っているのに眉間のシワを更に増やした。


「――レオン!?」


 目を見開くヴィルは集中が切れてスキルが強制終了(キャンセル)された。


 レオンは両手を広げて、敵意が無い事を示しながら、


「コッチは少し休憩していただけだよ。他にパーティも居ないから心配する様な事は無いぞ」


 遅れてリゼッタも口元を拭いながら彼等(鋼の翼)の前に現れた。


「どうやら、誤解を招いてしまったようで――申し訳ございません」


 彼女はペコリと頭を下げるが、レオンを一瞬、「貴方のせいですよ」と睨んだ。


「ですが、今の苦しそうな悲鳴はただごとでは」


「いえ、ですから。その……」


 干し肉を飲み込めないでいました。……なんて情けなくて言える訳が無い。


 ――だから、誤解と言ってるでしょうに……。


 納得いかないヴィルの様子に、説明が面倒くさそうにリゼッタが眉を顰めた。


「まさか、ソイツに何か――!」


 ヴィルはそれを『少女の怯え』と捉えたのか敵意を込めた視線がレオンに向けられる。


 昔から彼は女性への不埒な行いは許せない性分だったのをレオンは知っていた。

 ゴブリンや悪漢は以ての外だ。


「――おい、待てヴィル。“ソレ”は、止めておけ。本当に誤解だ、早まるなよ(・・・・・)?」


 先日の武器屋の事もあり、自分に対する怒りや不満も増しているのも分かるが、物事には一線というものがある。


 場合によっては――“始まってしまう”。


 レオンも背負うバスタードソードを意識する。


 と、


「はいはい。他のパーティのアレコレに首突っ込むのはマナー違反よ」


 張り詰め出した空気の中、ヴィルの視線にクリス・ディムソーが割って入り、遮った。


 彼女はわざとらしく肩を竦ませる。


 そして、冷ややかな目をして、


「――冒険者が得物を抜いて敵意を向けちゃ、殺し合いになっても文句言えないわ。向こうさんが抜かないのに感謝ね」


 ヴィルをいさめた。


「それに、ダンジョンで死線を超えた男女がそのまま“盛り上がっちゃう”事もあるからねー。無粋な詮索はご法度。どうせ、“喘ぎ”を我慢してただけでしょ」


「あえ……!?」


 リゼッタが息を詰まらせた。


「彼とはまだ、その様な――!?」


「え? 私はただ“喘ぎを我慢してた”って言っただけよ? 何が“まだ”なのかしら?」


「な゛――ん゛……!?」


 リゼッタが顔を赤くして反論しようとするが、クリスは敢えて聞き流してレオンに視線を向ける。


「そんな事より、私達も休憩したいんだけど、ご一緒しても良いかしら?」


「――いや、俺達はもう出るよ。ゆっくり休んでくれ」


 レオンは少し戸惑ったが、


「……所で、君は?」


「クリス・ディムソー。【エレメンタルアーチャー】の傭兵ってだけよ」


 傭兵……か、と彼は小さく呟いた。

 正直、思うところはあるが、


「そうか……それじゃ、コイツ等を頼むよ」


「――報酬分はね?」


「それで良いさ」


 レオンは物申したい顔のリゼッタを促して、歩き出した。


 揶揄われたリゼッタが無駄に恥を掻いたが、何事も無く収まって安堵する。


 ヴィルは本当に斬りかかるつもりだった、とは思いたくないがただの、"兄弟喧嘩"では収まらない勢いだった。


 ミリンダ・ルクワード、ライラ・リーイング。そしてハイザ・ウィスパーが自身のパーティリーダーの見せた『明確な殺意』に戸惑いを見せる中、ヴィルとのすれ違い様にレオンは一旦立ち止まる。


「――どうしたヴィル。俺が気に食わないのは良いが、余裕が無さ過ぎだぞ……何にそこまで焦るんだ?」


「……確かに、僕は焦っているよ。冷静なフリをしても、この胸のざわつきは誤魔化せないさ」


 だけどね、とヴィルは静かに唸る様に、


「君は何で焦らないんだ?」


 一瞬、レオンはなんの事か分からなかった。


 だが、


「君が冒険者を続ける理由は――あり続ける理由は、何だ? “何だった”んだ?」


 その問いにレオンは目を見開いた。



 ――『必ず、英雄になろう。僕達(・・)で――』



 昔の幼い彼の言葉が蘇る。



 ――『あぁ、俺達(・・)のこの“剣”に誓おう』



 昔の幼い自分の言葉を思い出す。



 ――『だから、一緒に冒険者になろう。そして言ってやろう、お高くとまったSランクの奴らに――』



 昔の幼い約束を……思い出す。


「ヴィル、俺は――……!」


 レオン・グレイシスが、再びその胸に灯った夢を友に語る、その間際――。



 立っていられない程の大きな振動と耳をつんざく轟音が響く。


 安全地帯(セーフティエリア)の壁が【何か】によって破壊された。


 巻き起こる砂煙、その中に光る二つの紅い眼。


「――――!!」


 この場に居る誰しもが、直感し理解した。



【アレ】は【アレ】こそが……、



異常事態(イレギュラー)――!」


 クリス・ディムソーが、絶望(その名)を呟いた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] この作品、という訳ではなく、作者本人に対して気になること。 リアルお仕事も大変な筈ですけど、毎日更新しててリアルの方大丈夫ですか?明らかに更新ペースが過去の比じゃないですよ? 無理は…
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