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第十三話:世界が求める英雄に



 ヴィル・アルマークは納得がいかなかった。


 迷宮都市きっての武器屋の名店で多少値段が張るのに目を瞑り、上質な武器を揃えたが今直ぐにダンジョンで試そうという気にもならなかった。


 冒険者ギルドの酒場の一角のテーブルで、彼はミリンダ・ルクワードとライラ・リーイングと共に食事をしているが、それも喉を通らない。



 ――何故だ?

 ――何故、彼女はレオンと共にパーティを組んでいる?

 ――彼女は、リゼッタ・バリアンは優秀な冒険者の筈なのに……。


 ――レオンに向ける、あの笑顔は何だ?


 まるで、愛しい恋人を見る様な。


 ――それ程まで、信頼しているというのか?


 納得出来ない、出来る訳がない。


 ――彼女は、やはり騙されているんじゃ……。


 手にするグラスが軋む程に手に力が入る。


 その居た堪れない空気の中、ミリンダはナイフとフォークを皿に置いて、


「……ねぇ、ヴィル。あの女に拘る事なんてないわ、放っておきましょうよ……それに、レオンだってもう私達には関係ないんだし――」


「後衛支援なら私が居る。今よりもずっと頑張る――私では不満?」


 ライラも、グラスを両手で包みながらヴィルの様子を伺う。


「――!」


 彼女達の言葉にハッとした。


「いや……すまない。別に拘っている訳じゃないんだ……! ただ、優秀な冒険者の一人が、燻ってしまっているのがやるせなかっただけだよ」


 ヴィルは小さく息を吐き、笑みを作った。


「――だが、確かに僕達には関係ない話だったね。バリアンさんが加入してくれれば、ミリンダとライラの負担が減ると思ったんだけど……それも僕の独り善がりさ」


「私達なら大丈夫よ! 武器も新しくしたし、それに戦力の補強を考えるならまた傭兵を雇うのだって良い訳だし」


「既に居る傭兵は、酒屋を巡るって街を見て回ってる……彼の雇用は少し独特だけど、本来は“雇い主の冒険時にだけ共闘する臨時のパーティメンバー”。ギルドに傭兵登録している冒険者だから、報酬だけの仕事は信頼できる。この迷宮都市なら、ダンジョンアタックの回数や階層でも支払う報酬が変わるみたい」


 ふむ、とヴィルは顎に手を添えて考える。


 確かに、ハイザ・ウィスパーがこのパーティに加入したのは半年程前の事。

 とある森に巣食った魔物の大群を討伐するのに手が足りず、その近くの街で雇った冒険者だったのを思い出す。


 当初はその街で滞在している間、という契約だったのだがその経験の多さとクラス【マルチウェポン】故の汎用性で契約期間を度々更新してきたのだ。


 長期間、同じ傭兵を雇い続けるのは一般的には珍しい事だが『正式なパーティメンバー』では無い為に、意見の食い違いという問題も無かった。


「それも良いかもしれないね。それに、今となっては、彼も僕達の大切な仲間だよ」


 小さく笑って、ヴィルはグラスを呷りエールを流し込む。


「さて、食べたら傭兵の情報を見に行こう。明日こそは未踏の十一階層だ――!」


 ヴィルの笑みに二人は勇気づけられた様に顔を見合わせた。


 ――そうだ。


 最初の十階層での失態から全てが上手く行かない。


 だが……いや、だから――。


 その失態を払拭出来れば、次に進める筈だ。


 Sランクに相応しい活躍を今度こそ。


 そうすれば誰もが認めるだろう。


 ――それならバリアンさんも、目が覚める筈だ。

 ――“あの人”もそれを望んでいる筈だ。


 ――だって、僕は『英雄』にならなくてはいけない(・・・・・・・・・・)のだから……。


 誰よりも、強く気高い英雄に。


 ――そうとも、この世界が――……、





 ヴィル・アルマークは、納得がいかなかった。


 自身が、どうしようもない程に焦っている事が……。




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