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第十二話:たった一人の為の英雄に



 レオン・グレイシスはズカズカと迷宮都市を突き進むリゼッタ・バリアンに半ば強引に手を引かれていた。


 武器屋や道具屋が並ぶ商業区から冒険者ギルドのある中央区に戻って来た。


 冒険者や住人など様々な人々が行きかう広場。


 始めは今にも走り出しそうだった勢いが徐々に緩んでいき、都市のシンボルでもある噴水の前で、力尽きた様に立ち止まる。


「……ぁ、ぁあぅ――!?」


 リゼッタから初めて聞く音が漏れた。


「えっと……リゼ?」


 レオンが恐る恐る声をかけると、彼女は今にも泣き出しそうな顔で振り返る。


「すみません! あの、私……あの方々を不用意に煽る様な――!」


「ぉ、おう!……大分、ね……うん」


 リゼッタはレオンの手を包むようにギュッと握る。


「違うのです! 本当はもっと穏便に済ませるつもりで! ですが、彼等が貴方を……貴方を――」


 ……俯いて、


「酷く言うので……つい――」


 ごめんなさい、と消え入る声で呟いた。握られた手が離され、長柄のメイスを抱き寄せる。


 そのまま小さくなって消えてしまいそうなリゼッタの頭をレオンは撫でた。


「――ありがとうな」


「……?」


「俺の為に怒ってくれたんだもんな。正直、ちょっと怖かったけど――俺のスキルを、俺を認めてくれたみたいで……嬉しかったよ」


「“みたい”ではなく、既に私は貴方を信頼しています」


 撫でられながら頬を小さく膨らませた。


 しばらく彼女の頭を撫で、綺麗な髪だなーなんて感想が出て来た頃に、レオンは自分の行いにギョッとする


「あ、ごめん。昔、年下の相手してたから無意識に撫でてた……」


「いえ、私も子供の頃は良く年長者にされていましたから。――懐かしい気分です」


 ……――。


 妙な沈黙。だが、バツの悪さは不思議と無かった。


 互いから力の抜けた笑いが漏れる。


「取りあえず、ゴハン行こうか?」


 レオンの問いかけに、リゼッタは穏やかな笑みで頷いた。





「ぁ――……本当に早い、のですね……」


 冒険者ギルドが管理する迷宮都市の市壁外にある訓練場。


 スキル《瞬甲晶盾しゅんこうしょうじゅん》の実演に、ポツリと呟かれたリゼッタの言葉になんか色んな意味でレオンの心は抉られた気がした。


 冒険者ギルドで、昼限定のサンドイッチセットをギリギリで注文して、レオンの取得している【ガーディアン】のスキルについて相談すると「是非、実際に見せて下さい!」との事だったのが……彼は少し傷ついた。


「……だから、言ったろ。“秒”しか持たないって」


 無詠唱でレオンの前に展開した魔力武装――半透明の蒼い逆三角形を縦に伸ばした様な、人を覆う程の巨大なカイトシールド。


 だが、ソレは一秒と少しで、ガラス細工の様に砕けて魔力が霧散してしまったのだ。


 もう一度、小石を投げる程度の雑さで別の方向に、今度は数歩先に展開させるが、結果は同じ。


 不貞腐れた様に言う彼に、リゼッタは孤児院で面倒を見ていた男の子を思い出して少し焦った。


「いえ、申し訳ありません。批難したい訳では無く――」


 コホン、と咳払い。


「先ほどの繰り返しになりますが、【シールダー】の特性は、守護。そのスキルも攻撃を防いだ際に衝撃波や炎弾などで反撃を行うカウンターの類や、自身の防御力を上げる類のものが多く占めます。後者の場合は魔力による防壁を展開し防御範囲を広げるものもありますが、あくまで“盾の性能の拡張”。手が届かない者は守れず、また“守る事しか出来ません”。対してグレイシスさんのそのスキルはある程度、任意の場所に即時展開できる。応用の幅は貴方次第になります」


「応用も何も、俺はその守る事自体が出来ないから……」


 肩を落とすレオンに、リゼッタは「ですが」と自信を持って、


「“その認識”を変えてみては如何でしょうか」


「認識を……?」


 コクリと彼女は頷いた。


「本来、【ガーディアン】は攻めの【ソードマン】と守りの【シールダー】の複合クラス。それぞれのスキルとそれらから派生する独自のスキルを有し、“良く言えば攻守のバランス型”ですがその実、“どっちつかず”になりがちです。その点、グレイシスさんは攻めに偏っている傾向があるように思えます。【固有スキル】インパクトアブソーバーがその最たるものかと」


 コレは私個人の見解ですが、と挟み、


「我々の【クラス】はそれぞれの【固有スキル】の系統に近いものになる、と考えて居ます。グレイシスさんは【ガーディアン】だからその固有スキルを持つのではなく、その固有スキルを持つが故に、“【ガーディアン】になっただけ”、ではないでしょうか」


 リゼッタは力強い瞳でレオンを見る。


「元々の素質が『攻め』なのであれば、グレイシスさんのその盾は、守る類ではなく『攻める為の盾』なのです……!」


「……――」


 レオンの中で、錆びついた歯車が動き出した様な気がした。


「あ……あの……ようは、使い方の問題と言いますか、その――すみません。また一人で勝手に――意味の分からない事を……」


 無言のまま目を見開いた彼に、リゼッタは狼狽えるが負けじと、


「ですが、その……。コレも私の勝手な意見なのですが――グレイシスさんは、とても……気高い人だと思います」


「……俺が?」


 不安そうなレオンの疑問に、リゼッタは素直に告げようと意を決する。


「正直、パーティを追放された者同士が組むのは不安でした。相手に――グレイシスさんに難があったのなら最初の戦闘で共倒れになる可能性もあった。ですが、実際はとても頼り甲斐があり安心した――共に戦えて、とても心地良かったのです」


 彼女は胸に手を当て、照れくさそうに微笑んだ。


「スキルに偏りがあるのは何となく察する事は出来ました。失礼を承知で言うなら“外”では相当に苦労されていたのだと思います。ですが、貴方の剣には誇りがあった。自身の技を磨き、研鑽を続けて来たのは剣術スキルとその短剣を見ればわかります」


 だから、と


「――貴方はカッコイイのです。他の誰か何と言おうと、貴方の様な方こそが勇者になれると私は思います」


 言われて、動き出したレオンの歯車が噛み合い連動していく。


「私の我儘です、扱える力の全てを使ったカッコイイ貴方を見せて下さい――!」


 ぐちゃぐちゃではあるが、言いたい事は言えた、とリゼッタは幾分、スッキリした。


「――ぁ」


 したが……言ってしまった。


 勢いで、口をついて、自分がどう思っているか知って欲しくて、それが彼の背を押せるのなら……と。


 言っちゃった――。と思ってももう遅い。だって、レオンの顔が赤く染まっていく。


 当の本人のリゼッタは眩暈がする位に頭が上せてくる。


 彼女はもういっそ、倒れてしまおうかな、と思った頃、


「はは、コレは参ったな……――お前にそこまで言わせちゃ、腐る訳にはいかないじゃないか」


 レオンは片手で顔を覆い、空を仰ぐ。

 大きく息をつき、リゼッタを真っ直ぐ見た。


「――見ていてくれないか。俺の出来る事の全部を。……俺は、他の誰よりも――」


 これは冒険者としてなのか、男としてなのかは、正直、彼には分らない。


 だが、


「リゼの英雄になりたい――!」


“たった一人の為の英雄”を目指して、剣を取り冒険に出た日を思い出す。


 あの日も、確かにこんな想いを抱いていたのだと。


 レオン・グレイシスの胸に再び熱が灯る。




「ぁ――――」




 口元を押さえ、リゼッタは「ずるい」という一言を飲み込んだ。



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[気になる点] コイツ等絶対このあと(いつになるかわからない)交尾するんだ!
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