第十話:楽しいお買い物と間の悪い再会
「――ですが、一口にバスタードソード、と言っても、それぞれで細かく違うものです。長さや重量、それに柄の長さ。もっとも重要な重心の位置は、鍔の形状でも変わってきますので、色々と見比べてみると良いと思います」
迷宮都市の武器屋の名店『強者たちの集い』その店員が渋い顔をする程に、リゼッタ・バリアンは語らせると長い少女だった。
本人は後衛職で武器は長杖の様なメイスではあるが、刀剣類などの近接武器に詳しいのは強化魔法をかける際にその元となる武器の特性を知るべきだ、という事らしい。
楽しそうに語る彼女の話を聞きながら、レオン・グレイシスは樽に無造作に詰められた様々な剣を漁る。
迷宮都市きって、というだけあり鍛冶師の手慰みに打った物、見習いの練習で打った物など雑多な物でも割高だがその分、質が良い。
「ホントだ。こう、改めて見ると色々違うもんだなー。――強いて言うなら、刀身は少し短めで、幅は広め……コレ?」
「後はコレとかですか? 握り易いかと思いますが」
「あー、そうかも」
二人が選んだ剣の刀身は似た様な物だ。
レオンが手に取った物は柄の握りが丸く、鍔は角ばり小さい。
対してリゼッタが選んだ物の柄の握りは楕円形、鍔は扇状で幅広い。
レオンはそれぞれを手に取り、片手と両手で握り具合と重心の位置を確かめる。
「んー、ん。……んー?」
野菜を見比べる主婦みたいに、それぞれの剣を両手に持った。
「どちらがお好みですか?」
「――これは……」
たっぷり間を置いて、
「違いが、分かんない」
「――んっ!」
真剣な顔で言うレオンに、ワンテンポ遅れてリゼッタは小さく笑いを吹き出した。
恐らく、軽く声を出してしまえば納まる程度なのだろうが、そこを堪えるので肩が震えている。
「――ぉ?」
レオンはまだ彼女と出会って日が浅い故か、笑いを堪える姿はイメージに無かった。
なぜかそれが嬉しくて彼はリゼッタに声を出させて笑わせたい、と思ってしまう。
「う、腕が……疲れて来て、プルプルしてきてんの。見てみ、ほら」
「……ん゛、お、置けばよろしいのでは――?」
中途半端な位置でしばらく持っているのは、戦闘時に振るうよりも筋肉にかかる負担がデカい。
振るえる刀身同士が触れて、小さくカチカチとなる。
「……ぉ、おぉお……!」
「ぷっ!」
別に面白い訳ではないのが、リゼッタの変なツボに入りかけて僅かに吹き出した。
「ぶ、武器で遊ばないでください、それに商品ですので!」
「あはは、ごめんごめん」
これ以上は彼女にも店員にも怒られるので、この辺にしようと、
「――でも、実際、腕がきつくなっても持てるってたら、コッチだな」
レオンは自分の選んだ方を樽に戻した。
「ホント、今まで武器に対して関心無かったって思うよ。柄の形って大事なのな」
握り具合を改めて確かめる。
「それに、リゼが選んでくれた奴なら大事にするさ」
「ぁ、それは――なにより、です……」
下心の無いレオンの笑みに気恥ずかしさを感じてリゼは視線を逃がした。
咳払いで間を埋めて、近くの店員を呼び、その片手半剣を渡した。
質の良い店程、購入する際に職人が検品と刃の研ぎ直しをするのだが、その辺もレオンは馴染みが無い。
僅かにオロオロとする彼に、リゼッタはどこか、したり顔で小さく笑う。
「折角ですので、柄に巻く革紐も購入しましょう。僅かな差ですがその具合で技の切れも変わってきますし、汗や血で滑るのを防止する効果も見込めますので」
少し移動して、入り口近くの棚を覗く。
幅や質感など様々な紐が巻かれて、無造作に並んでいる。
「ホント、多い……ね」
その一つを手に取って見るが、レオンは眉を顰めた。
「あまり厚みを変えたくないのでしたら、薄いこの手の物が――」
リゼッタが別の物に手を伸ばす間際、店の扉が開かれ小さな鐘の音が、店員に来客を知らせる。
「――ヴィル……」
親友――と、今は言えるのか定かではない彼と六日ぶりの再会だった。