第一の悪意
またまたこんにちは。やきいもです。
廃都市、第3話でございます。
どうぞお楽しみあれ!
「おい、どうなってる?まだ来ないのかレイタは」
背広を着た男が傍らにいる女性にいらついた様子で聞く。
「まあまあ、急ぎすぎですよ、あなた。気長に待ちましょう、絶対にここに来るんだから、ね?今ヨーロッパを出たばかりですって。アーリアも起動させましたから。もう少しですよ。」
「まったく何をしとるんだ、あいつは。いくら私たちとて無限に生きられるわけでは無いんだぞ。」
そう言って不機嫌そうに顔をしかめる男。一体何者なのか、無限に生きられるとは何か、そもそも何故あの少年以外の人間がこの世に存在しているのか、もうじき分かる。そして真実という名の悪意の1つめは、目前まで迫ってきている。
そう、少年の、目の前まで。
◆ ◆ ◆
「あ~、ったくやっちまったな~これは確実に後々後悔するやつだぞ~、あ~やっちまったな~」
そう言って右側に座っている初めての家族を見やる。呑気な顔をしたもふもふの生命体がそこに居る。僕を見て一声。
「うゃ?」
ズッキューン!
ほぁぁぁ!?か、可愛い!!これを見ると何でも許せてきちゃう!
猫を愛でてるとあっという間に«ほっかいどう»
ん?なんかあるぞ。
「せーかんとんねる?」
あぁ、トンネルね。せーかん、はよく分からんがまあ良い。俺が考えたところで出る答えなんかロクなもんじゃ無い。
地図にはここ通れってあるんだから、行くしかないでしょう!そう思い車を進める。心地よいエンジンの回転数の上がる音がする。そして«せーかんとんねる»の中は、、、、
「いや、何も見えねえじゃん。」
せっかく漁り散らかしてやろうと思ってたのになぁ、残念極まりないっすわ。ホントに何にもないの?なんか怪しいな、実はどっかに照明のスイッチとかあっちゃったりして!
そんでお宝とかあっちゃったりして!?
妄想は止まらない。時間を気にする必要も無いんだからいっちょ探してみるか!そう思い車を止めて、トランクの中からお守りを取り出して丁寧に肩に担ぐ。もう一度車に乗りエンジンをかけて再発進!ちょっとした探検である。毎日やってる気がしなくもないけど。重要な物を見落とさないようにハイビームでゆっくり車を進めていく。数十分後、首をほぐすために顔を上げた僕は衝撃的なシルエットを見つける。
「な・・・・・・・・・・・・・・・!?」
居る、そこに。人のシルエットをした何かがそこに。何なのか分からないが試しに声をかけてみる。
「おーーーーーーい!!大丈夫か?アンタ」
返事は無い。聞こえなかった?
「おーーーーーーい!!大丈夫か?アンタ・・・・・・・・・・・・・・え!?」
気づいて僕が車から飛び降りるのと、それが人の形をした何かから放たれるのはほぼ同時だった。火薬の炸裂音とほぼ同時についさっきまで僕の居た所にクレーターができている。車は跡形もなく消滅しました。はい。
僕を見据える紅く輝く双眸、持ち上がる腕、金属光沢の黒光りのする肌。その特徴から僕は全てを予測、判断、行動した。どうやら僕の直感は外れていなかったらしい。久しぶりの死地とも呼べる状況に思考が加速していく。
「ちっ、日本政府正式採用のBG-参型か。」
高攻撃力にして俊敏な対戦車用の厄介極まりない軍用アンドロイドだ。ちなみにこいつらは防御力が絶望的だから基本は数で攻める。その証拠に胸部の動力コアが剥き出しになっている。でもいくら防御力が無いとはいえ素手では確実に勝てないどころかポックリ逝ってしまうが、今の僕には“お守り”がある。肩から円筒を携えた金属の塊を取ると、そこにまた7センチほどの円筒形の金属を装填する。ガシャンッという小気味よい音と共にスタンバイ完了。そう、スナイパーライフルだ。加速された思考の中、アドレナリンが大量に分泌されていく。拍動する心臓。クリアな世界。
俺が次に採る行動、それは・・・・・・・・・・
逃げるッッッッ!!
参型に背を向けて巨大な金属の塊を担いで全力疾走する俺氏。走りながらチラリと後ろを伺う。
「ヒョウテキトウソウツイセキシマス」
参型が告げる。よし、うまくいった。とりあえず第一段階は通過、次は参型を更に加速させてブースターをフルスロットルにする。さぁ、こっからがキツい時間帯だぞぉ!!追いつかれちゃあ元も子もないからな。精一杯の力で地面を蹴った。刹那、
「うおっ!」
後ろから空気を切りながら弾丸が飛んでくる。僕は立て続けにライフルで6発を弾く。乾いた金属音がリズムよく鳴る。ここのタイミングで更に強く地面を蹴る。さぁ、そろそろだ。
「ブースター、再点火。フルスロットル....」
来た来た!そろそろフィナーレだな。キュィィン・・と金属が高速で擦れ合う音がする。コンマ数秒後、大気をはり裂かんばかりの爆音と共に烈火の如き速さで僕との距離を一気に詰めてくる参型、そして・・・・・・・・・・
「今だッッッッ!!」
右足を強く踏み込み急停止し、左足でバランスを取ると勢いよく上半身を回転させ地面に膝を付ける。音が遠ざかり、世界が、全ての動きがスローに見えた。そして・・・・・・
ガウンッッ!!
息を止めてトリガーを引く。放たれる極小の殺人鬼、それは正確に参型の胸部に青く輝いているコアを一撃で撃ち抜いた。
「%#”。-:!?@%#&$!?ゴギグゲガァァ"....」
疑似声帯から断末魔の叫びを絞り出した後、ガシャンッと派手に音を上げながら地面に崩れ落ちた。
世界に音と時間が戻ると共に思考も元に戻っていく。
「ふぅ、作戦大成功。俺にこの系統で喧嘩売るとか世界ナめてんの?」
ふっ、決まったぜ。格好良かったな、僕。また一人称が変わってしまっていたか。参型は軽量化を追い求め過ぎた挙げ句、肝心の装甲を失った機体なんだよ。それ故、搭載AIもそんなに高性能じゃないから急停止プログラムが組み込まれてないんだ。いやぁ、チョロいね!綺麗に弾丸は急所を撃ち抜いてくれたし、気分は上々よ!軍事アンドロイド生産会社の一人息子なんてロクなもんじゃないと思ってたけど、案外役に立ったな。こればっかりはクソ親父に感謝だわ。我慢して全アンドロイドの性能講義を聴いといて良かった良かった。このスナイパーライフルはどっかで拾った物だけど、想像以上に良い働きをしてくれたしな。今日は久々のスリル満点アトラクションのおかげで良く眠れそうだ。だからといってこんな事件はもう二度とごめんだけどな!先に進もうかとも思ったが、重要な仕事を忘れていた。コイツを分解しねぇとな。貰うもんといえば、、参型小銃くらいなもんか、一瞬だな。右腕切り落として二の腕分解したら終いだ。面白くともなんともないな。
一通りの作業を終えると僕は弾薬と参型小銃を持って車に乗り込んだ。目的地へはあと数時間かかるからここで休むことも考えたが、騒ぎを察知してもう一度アンドロイドが出て来でもしたら厄介だから先に進むことにした。
◆ ◆ ◆
「マスター、お話が御座います」
銀髪の美少女が鈴のような声で語りかける。
「ふむ、アーリアか。どうした?」
先ほどの背広男が妙に優しい口調で答える。
「先程、私が起動する以前のことで御座います。白い部屋で男の子と遊んでいる夢を見たのですがマスターはお心あたり御座いませんか?」
「いきなりどうしたのだ、アーリアよ。そのようなことはあるはずが無かろう。そもそもお前は改造前において他人と接する機会など無かったはずだぞ」
「そうで御座いましたか。記憶の整理が追いついておらず、申し訳御座いません」
やはりそうなのであろうか?私の見た夢は全くの幻だったのであろうか、そんなはずは無い。口にはしていないだけで、彼の名前だけは鮮明に覚えている。それは・・・・
「レイタ・・・・・・・・・・くん」
「む?何か言ったか、アーリア?」
おっといけない。不確かではあるがここで何かに気付かれてしまっては意味が無いではないか。
「いえ、なんでも御座いません。ありがとうございました、マスター。失礼いたします」
アーリアが消えた後、男は溜息をつく。
「はぁ、なんなんだあのアンドロイドは!?改造前の記憶を残しているのか!?だがなぁ、子供と遊んでいるだと?そんなことは無い。もしそうだとすれば大問題なわけだからな。」
長考の末、
「ふぅむ、心あたりは無いな。やはり起動直後の記憶錯乱であろうな。問題は無い」
男は心あたりが全く無いわけでは無かったが、捨てた。あまりにもその線は薄すぎる。
「まさか、レイタ・・・・・なんてな。フフッ、それこそ有り得ん」
一方、己の部屋へと戻ったアーリアは、
「ますます興味が湧いてきました。引き続き情報収集をしましょう。最適なのは・・・・・フィールドワーキングですかね。そうと決まれば早速行動を起こすことにしましょう。偉そうなマスターに気付かれると面倒そうですので」
アーリアは機体を省電力モードに切り替えると、
「こことは、しばしのお別れですね」
そう呟いてアーリアは、旧東京に建設されている常磐製作所本社ビル64階の窓から音もなく飛び降りた。
お楽しみいただけたでしょうか?
脱走しましたね。アーリア。
64階から飛び降りても機体に問題ないサスペンションって化け物だなと書きながら思ってました。
それでは、また次回。
極東の地にて物語を紡ぐ少年の姿を魅せることのできますように