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無能の力

「どういう……ことだ……?」


 自分に身に起きたことが信じられず、そう漏らす。

 俺を狙った攻撃は、当たった瞬間に消えてしまった。まるで、初めて会った時の、敵だった頃のアイに撃たれたドラゴンブレスのように。


 呆然としていると、消えた光線があったはずの場所から、俺の体に何かが流れ込んでくる感覚が。なんだこれ。魔力が入って来てるのか?

 そういえば、この感じ前にも。ドラゴンブレスを受けた時にもあった気がする。あの時は精神状態が今よりももっと酷く、そんなことを考える余裕はなかったが、不思議な力が湧き上がる前に確かに何かを体に取り込んでいた。


 まさかと思い、少し待つと、急に体が軽くなる。

 まるで、アイを倒した時のように。身体能力が強化されているのがわかる。ただ、その上昇比率はあの時とは比べ物にならないくらい弱いのだが。

 なんだこれ、もしかしてスキルなのか? でも、無能はスキルを覚えないはず……。一体……?


「やぁっ!」


 動揺し、自分の両手を虚ろな目で見つめていると、左からそんな可愛い掛け声が聞こえた。


 何かと思い目を向けると、アイが氷の魔法を発動している。数十個の氷の礫を、体の前に出現させたのだ。

 そして彼女は、奥に向けてそれらを放った。まるで生き物の大群のように氷は一糸乱れず飛んでいき、奥にいた何かにぶつかる。


「ご主人様を撃ったモンスター、フロスト・スピリットだったみたいですね。反対側からわたしに攻撃したのも、ですが」

「あ、ああ、そうなのか」


 通路の奥から不意打ちで光線を放ってくる相手は、氷の精霊だったらしい。なるほど確かに、直接見るのは初めてだが、情報にそんな攻撃を使ってくるというものがあった。

 しかし、結構な距離があったはずだが、よく見えるな。ドラゴンは視力まで規格外なのか。


 感心していると、アイがこちらに向けて笑顔を向けてきた。


「これであたりの魔力反応はなくなりましたし、ひとまず戦いは終わりですね!」

「……やっとか」


 何度も油断して、その度に危機に陥った俺としては、本当に完全に安心していいか信じられないのだが。まあ、アイがそう言うならそうなのだろう。

 自分でもどうかと思うくらい疲れた声で答えると、アイは何やら羨望の視線を向けてきた。


「でも、やっぱりご主人様はすごいですっ。わたしの未熟を痛感しました……」

「へっ?」


 急に何を言い出すのだろうか。俺の未熟がどこまでも明らかになった戦いだと思うのだが。


「ご主人様クラスになると、この程度の相手では警戒するにも値しないんですね。不意打ちも、防御もせずに無傷でしたし。わたしもドラゴンの形態なら大丈夫だったんですけど、この体では守りきれなくてちょっと傷を負っちゃいました」


 そんなことはない。そんなことはないんだが、なんか言いづらい雰囲気に。

 っていうか、そうだ。少量とはいえ血が流れる怪我をしたんだよな。


「傷は大丈夫なのか?」

「あ、はい、かすり傷でしたし、すぐに治りましたよ」


 そう言って彼女は俺に両腕を見せてきた。確かに怪我の跡など全く見えず、細く真っ白な肌だ。

 俺が殴った時のダメージも記憶障害を除けばすぐに回復したらしいからなぁ。ドラゴンは自然治癒能力もすごいのか。だいたいどの身体機能も生物を超越しているな。


 ……しかし、あえて警戒せずに不意打ちでも全くの無傷、か。俺からしたらそんな余裕があったわけではないのだが、実際事実としてそうなっているんだよな。

 しかも、今もなお上がっている身体能力。徐々に効果が薄れているような気もするが、それでも普段よりも遥かに強くなっているようだ。まあ、実際に体を動かしたわけではなく、感覚での話なのだが。

 今までアイの勘違いとして片付け、あるいは何かの間違いだと目をそらしていたが、これはそろそろ本気で考えてみないといけないようだな。


「なあ、アイ。俺が眠ってる間に攻撃打ち込みまくったって言ってただろ? それについて詳しく教えてもらえないか?」

「……え? あの……」

「ああ、違う違う。別に今更怒ろうとしてるわけじゃなくて、ちょっと気になることがあってさ」


 聞こうとすると、アイが不安げな顔になったのを見て、慌ててフォローした。確かに会話の流れ的に不自然だったな。

 そうなんですか、と若干納得の言っていない表情のアイ。だがまあ、一応理解してくれたようで、話し始めてくれる。


「えーっとですね。ご主人様に倒された後、しばらくして起き上がったわたしはそばでご主人様が寝ていることに気がつきました。その時のわたしはまだ負けを認められておらず、無防備なご主人様を見て殺してやろうと思ったのです」


 まあ、それは当然だろうな。普通に考えて敵なわけだし。むしろ今の状態の方がおかしいと言える。


「それで手始めにブレスを撃ったのですが、ご主人様は一切の反応をしないまま無傷で受け止めてしまいまして。それを見て何度もブレスを乱発したんですが、結局は一回もダメージを与えることができませんでした。ご主人様からすれば、子供がいたずらで息を吹きかけてくるのと大して変わらないくらいなんですねっ」


 いや、そんなことないけど。間近で見た時全力でビビってたし。……でも、怖かっただけで実害はなかったのだから、いたずらと言うのもあながち間違いではないのか?

 しかし、ブレスの連発ってあれだよな。さっき大量のアイスバーグ・ゴーレムを一つ残らず全壊させた。あれを一点にくらって何で俺は無傷なんだよ。

 さらに起きるそぶり一つ見せなかったってことだよな。どう考えてもおかしいだろ。


「それで、その時に気がついたんですよね。ご主人様が溢れるくらいの魔力を使って防御していることに。意識がなくても防御はしっかりとするなんて、さすがご主人様です!」

「……待て。俺の魔力が上がってたって、本当か?」


 聞き捨てならないことをアイが言った。今の俺と同じ現象が、寝ている時にも起きていたのか。


「はい、それはもうとんでもない魔力で。わたしを倒した時よりも遥かに高まっていました」


 あの時よりも!? 俺よくそれで起きなかったな。どれだけ鈍感なんだよ。

 ……ブレスの無効化と魔力の上昇に関係があるとしたら、撃たれた回数が多かった分一回だけだった戦闘時よりも魔力が高くなっていたのだろうか。


「そんなご主人様を見て、もうブレスではダメージを与えるのは無理だなと思い、氷魔法での攻撃に切り替えたんですが、それもことごとく防御されちゃいました……。さらに魔力も上がってましたし……」


 魔法もブレスや光線と同じように、防いだ上で魔力が上がったのか。話を聞いていると、俺がどう考えても人外なんだが。


「最後は爪とかの物理攻撃を試してみたんですが、それもダメで。あ、でも、その時は魔力はもう上がりませんでしたね。あのくらい魔力を使えば、もうそれ以上はいらなかったってことなんでしょうか」


 ご主人様の限界を見ることが叶わず、悔しかったです。アイはそう語った。

 物理の時には魔力の変化はなかったのか。それが上限だったのか、それとも……。


「どれだけ攻撃しても反応すらしてくれないご主人様に心が折れて、わたしはご主人様の強さを認めました。こんなに強いご主人様のものになりたいと思ったんです! あ、そういえばその時に記憶を失ってることに気がついたんですよね」

「鈍いな、おい!? それは真っ先に気づけよ!」


 まあ、どれだけ滅多打ちにされてても起き上がらなかった俺が言えたことじゃないんですけどね。


 しかし、聞いておいてよかったな。興味深い話だった。

 これまでの情報を統合すると、俺の身に起きたのは……。


「それでわたしはご主人様に親しまれやすいよう人間の姿を取ったんですけど、その時にご主人様の魔力が急速に消費されていることに気づいたんです」

「え、消えていくんじゃなくて、消費?」

「はい。気になってご主人様の体を調べてみると、麻痺毒に侵されていたのを魔力を使って回復してたみたいなんですよね。それを見たわたしは大丈夫なのか不安になり、ご主人様に呼びかけ始めたんです」

「麻痺毒っ!?」


 まさか、俺の意識が回復しなかったのはそのせいで……。それ以前に、アイと遭遇した時に動けなくなったのも……。いやでも、毒を使ってくるモンスターと戦った覚えはないが。サラマンダーにそんな力があるなんて聞いたことがないし。

 …………。

 ……いや、そうか。そういうことか。


 まあいい、それは俺の能力については関係ない。今は考えないでおこう。

 ……そう。俺の能力。恐らくは『無能』の職業が覚えるのであろうスキル。俺はアイの話を聞いて、それに目星をつけていた。

 無能がスキルを覚えるはずがない? いや、そんなことはわからない。最後に現れたのは百年前って話だから、記録が間違っていたとしても何もおかしくはないのだ。

 この仮説があっていれば、神殿で俺がスキルを所持していないと判断されたことにも一応の説明がつく。まあ、その説明が正しかったとしたら、俺の力はとんでもないものということになるのだが。


「アイ、一つ頼みがあるんだが、いいか?」

「はい、なんでしょうか」


 俺は自分の考えがあっているかを確かめるため、アイに手伝ってもらうことにした。


「この広間に、そこそこの魔力を使って、大きな氷の塊を魔法で作ってくれないか?」

「? ……わかりました」


 首を傾げながらも、協力してくれるアイ。

 大広間の中心近くに、大きな大きな氷塊が出現する。


 その氷に、俺は触れた。


 すると、その瞬間、()()()()()


「――えっ!?」


 アイが驚きの声を上げる。それを聞きながら数秒待つと、氷塊があった場所から大きな魔力は俺の体に入ってきた。……やっぱりそうか。

 俺は頷いてから、驚愕しているアイに向かって口を開いた。


「俺のスキルは、自分で触れることによって相手のスキルを無効化し、更に無効化したスキルに込められていた魔力を吸収する、というものなんだ」

「…………。……えぇえええええっ!?」

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