第9話 事態の収束と支配者の誕生
家に戻り、夕食を食べて少しばかりした頃。
家の外が俄かに騒がしくなってきた。
どうやら予定通りに開始してようだ。
それから1時間ほどもすると再び外が静かになる。
自室から外の様子をうかがうと村の中央広場に縛り上げられた男たちと、それを囲むように女性たちが立っている。
それからほどなくすると、囲んでいた女性陣の一部が開く。
やってきたのはお婆様のようだ。
何やら言い合いが発生したが、すぐに黙らせられ、男たちは連行されていった。
しばらくすると家の玄関の呼びベルが鳴らされる。
父が下へと降り、玄関を開ける。
そこに居たのは村の女性陣だった。
どうやら今起こった事について知らせに来たようだ。
いろいろ話した後、彼女らは帰っていった。
「ふう、やはりネリアの言うとおりになったか。このままでは、村の男たちは納得しないだろうし、やはり私がやるしかないのか」
そんな風に愚痴りながら、父は何処かへと出かける準備をする。
どうやらこれから作戦会議をするようだ。
私は下に降り、これから出かけようとする父に一枚の紙を手渡す。
「ネリア、これはなんだ?」
「ちょっとしたアドバイスです。参考にしてもらえればと」
「そうか。それでは少し私は開けるから、その間の事はよろしくな」
「はい、わかりました」
父が家を出ていくのを見送り、私は自室へと戻る。
自室に戻るとファスタが大きな欠伸をしているところだった。
私が入ってきたのを横目でちらりと見る。しかしすぐに元の姿勢へと戻る。
これだけ見ているとフェンリルというか、オオカミにさえ見えな。
それにしても先ほどの大あくび、かなりはしたない。
ところで今まで気にしてはいなかったが、性別はどっちだろうか?特に気にしてい無かったから、どちらの性別でも問題ないような名前を付けたんだが。
「ところでファスタ。あなたの性別は、どちらなの?」
「我か?我は雌なのである」
「そう…」
という事で実際に確かめてみるとこにする。あんな大あくびをするくらいなのだ。見られたところで何も問題はあるまい。
それに私も同じ性別だ。うん、問題ないな。
なので、ファスタの後ろに回り込み尻尾をつかみ、どちらの性別かを確認する。
「わ!ご主人、何をするのだ!?て、ひゅわぁ!や、やめい」
「ふむ、ついてないな。確かにメスのようだ」
尻尾を手放すと、部屋の片隅まで逃げて威嚇してきた。
「わ、我のあそこを…。な、なんのつもりなのだ、いきなり」
「そりゃ、あんな大あくびしてたから、もしメスだったりしたら、かなりはしたない格好だから、ちょっとした警告だよ」
「うぅ…」
そんな茶番をしながら、明日の帰り支度をする。
何せ実行は朝早くからやる為、それに合わせて戻るのも、起きてすぐにしなければならない。
私はせっせと持ってきたものをカバンに詰める。
ファスタはというと、こちらの様子を未だに部屋の片隅からうかがっている。未だに警戒しているようだ。
「はぁ、もう何もしないからこっちに来るように」
こう声をかけると、恐る恐る近づいてくる。
私はその様子を何もせずに見守る。
だいぶかかって、やっと私の目の前まで来た。
言うとおりにできたので、ファスタの頭を少し強めになでる。
このぐらいにしないと、私との対格差が結構あるため、ちゃんとした撫でになりにくい。
数分かけてじっくりと撫でまわしたので、綺麗な白銀の毛並みが乱れていた。なので、軽く整えてから放してやる。
ファスタもやっと元の調子に戻ったので、私は寝る準備をする。
寝巻に着替えたところで、下の玄関から扉の開く音がした。
ちょうど父が戻ってきたようだ。
私は部屋を出て父を迎える。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「うむ、まぁ、それとなくかな」
「そうですか。それでは私は部屋に戻ります。おやすみなさい」
「あぁ、お休み、ネリア」
私は部屋に戻り、ファスタにもお休みをして、眠りについた。
翌日の朝、5の刻半。
窓から差し込む朝日を受けて、目を覚ます。
空は晴れやかな青空で澄み渡っている。
私はひとつ伸びをしてから、少しばかりベットの上で体をほぐすために、軽いストレッチを行う。
「う~ん。はぁ~」
体がほぐれたところで、手早く着替えを済ませ、1階のダイニングへと向かう。
すでにそこには軽めの朝食が用意されていた。
昨日のうちに、明日は早めに出るので軽めの朝食をと、頼んでいたものだ。
「いただきます」
席に着き、流し込むように食べていく。
最後に牛乳で強引に流し込み、食器を下げると自分の部屋に戻り、荷物を持って転移用魔法陣のある部屋へと向かう。
「導きの泉よ。我らを導き給え。かの地まで」
魔法陣を起動させ、1日ぶりに王都の自宅へと帰ってきた。
私は転移室を出て、母を探す。
しかし、家の中を探しても見つからなかった。なので、門番のところまで行きどこに行ったのかを聞いてみることにした。
「おはようごさいます」
そう、声をかけるとこちらに振り向く、声をかけてきたのが私だとわかると、すぐさま姿勢を正し、敬礼してきた。
「おはようございます、お嬢様。して、どのようなご用件でしょうか?」
「母上がどちらに向かわれたか教えてくれます?」
「ネイシア様は冒険者ギルドの王都支部の方に向かわれました」
「こんな早くにですか?」
「そのようです」
「わかりました。ありがとう」
「いえ。行ってらっしゃいませ」
私は門番に見送られながら冒険者ギルド王都支部へと向かう。
王都は早朝の静けさに包まれ、まだ上がったばかりの朝日が王都を明るく照らしだしていく。
少し急ぎ足で向かうと、ギルドに近づくにつれて朝なのに人が多くなってきた。
それを不思議に思いながらも、人を避けつつ進む。
ついにギルドの建物の前までたどり着くと、そこにはたくさんのやじ馬がギルドの内部を見ている。
中からは二人ほどの言い合いの声が聞こえている。
片方の声は毎日聞きなれた母の声である。もう一人の方は知らない男の声である。
このままいても意味がないので、私は人混みをかき分けながら、騒動の中心へと歩を進める。
ちょうど母が杖を中年のひげ面の男性に向けているところだった。
「さぁ、年貢の納め時ね。さっさと謝ることをおススメするわよ!」
「へ、誰があんたなんかに頭を下げるかって。このオレ様を侮辱した罪、高くつくぜ」
「ふん、弱っちぃ犬っころがよく吠えるとこ。いいでしょう。最初からあなたを伸すつもりですから、裏に来なさい!」
「いいだろう。本当のSランクの実力、見せてやりゃ!」
そんなことを言って裏にある訓練場に行こうとしている二人。
私は慌てて、その二人を止めるべく呼び止める。
「母上!」
私の声に気が付いた二人は歩みを止めてこちらを振り返る。
「あら、ネリア。こっちに戻ってきてたの?」
「はい、今朝方に。あの、急ぎの用があるのですが、大丈夫ですか?」
そこに先ほどのヒゲがこちらに歩み寄ってきた。
「おい、そこの小娘。そいつの娘かどうか知らんが邪魔をするな!」
むさくるし顔が近づいてくる。Sクラスの冒険者だというが、見た目からはそこいらで騒いでいるチンピラと変わりない印象を受ける。
「あまり近づかないでくれますか、下郎」
私はつい、こぼれてしまった言葉に少し驚いてしまった。以前ならこんな言葉が出てくることはなかった。
しかし、これに納得している自分もいた。多分以前の俺が今の私に交じって定着してきたのだろう。
「なっ!なんだとこのガキ!」
男が逆上して、こちらに掴みかかろうとしてきた。
それに気づいた母が慌てたこちらに走ってくる。
それでも男の方が早くもう少しで手が触れそうになった時、私は威圧を最大レベルで男にかけてやった。
「う、なんだ!?」
伸ばしかけた手が止まる。
私が一歩前に踏み出すと、男もそれに合わせ一歩下がる。
完全に私の威圧に飲まれたようだ。その様子に母も驚いた様子で固まっている。
この時、上位者スキルも併せて発動している。見た感じ、それなりに精神抵抗値が高そうだが、私の精神攻撃値には到底及ばないだろう。
精神関連値は基本的に、ステータスパラメーターとは別に存在していて、いわゆる隠しパラメーターである。
だから、あまり舐めてかかると痛い目に合うのだ。特に私の場合は前世の影響でかなり高い。なので、威圧スキルのレベルが10になっていなくても、かなりの強烈にかかるはずだ。
まぁ、レベルが7であること自体が、かなり珍しい。つまりは、かなりの頻度で相手を威圧してきたことになるからだ。
ついに男が立っていられずにへたり込む。顔は恐怖に歪んでいた。
私は、その男を見下ろしながら最後の仕上げとばかりに、少し睨めつけながら忠告してやる。
「これ以上、私に迷惑をかけるな。それにお前ごときでは母上には勝てぬぞ。挑む相手はしっかりと選ぶんだな」
男は、ものすごい勢いで頭を縦に振っている。
私は威圧を解き、いまだに固まっている母のもとに向かう。
「母上。この男とは話が付いたので、私の用事に付き合ってもらえますか?」
「え、えぇ。いいでしょう」
未だに状況を理解できていないようだが、問題の男がへたり込んで動かなくなってしまったので、仕方なく私の後に続いて歩きだす。
私が入り口に向かって歩き出すと、今まで様子を見ていた人々が一斉に私を避けるように広がる。
そのため、一直線に入り口までの道が出来上がった。まるでどこかの海を割ったとかいう話みたいになっている。
まぁ、道ができたのなら遠慮せずに通るだけである。
こうして私達は冒険者ギルドを後にしたのだ。
私達が家まで戻ると、先ほど出るときに見送ってくれた門番が出てきた。
「おかえりなさいませ。ご用事はお済になられましたか?」
「えぇ、なんだかわからないけど、ネリアが解決しちゃったみたいだから」
「そうですか。それは、すごいですね」
「母上。急ぎなので、この辺で」
「そうね、それじゃ引き続き頑張りなさい」
「は!それでは」
私達は家に入り、そのまま食堂へと向かう。
食堂は食事の時以外にも、こうして家族なんかで話し合いをするのにも使うのだ。
それぞれ向かい合うように座ると、まずは母から話を始める。
「それで、ネリア。早速ですが急用とは何なんですか?かなり朝早くから帰ってくるという事は、里の方で何かあったのですか?」
「はい、村の男達が暴発しまして。それをお婆様と共に抑えてほしいのです。特に父上が中心で動いているようなので」
「まぁ。それは問題ね。分かったわ。すぐに行きましょう。それと終わったら先ほどの事、教えてもらいますね」
「わかりました。それはスキル調査の結果と合わせて、お話させてもらいます」
「ええ。それでいいでしょう」
母はすぐさま立ち上がり、杖をとる。
「さあ、私の近くに」
言われたとおりに、母の隣へと並ぶ。
母は私の手を取り転移魔法を発動させる。
「転移、ポイントジャンプ、シャルティス村」
私の家の中で、今のところ個人で転移魔法を使えるのは母しかいないため、母がいないときは転移魔法陣を使うのだが、魔法陣は設置した場所にしか行けないので不便なのだ。
なので、母がいるときは、母に転移魔法を使ってもらっている。
無事にシャルティス村の自宅の正面玄関前に転移してきた私達は、すぐさま混乱中の村を収めていく。
物の数分で村を鎮圧すると、成功に沸いていた男たちが捕まって一か所に縛られてまとめられていた。
「さぁ、何か釈明することがある人はいる?」
母はいつも通りの笑顔を浮かべ、縛られた一団を見回す。
しかし顔は笑顔でも、目は全然笑ってなどいないのだが。
何も言えずに沈黙する男たちに近くで見ていたお婆様が口を開く。
「はぁ、ネイシアよ。今回はその辺にしておきな。いつもの鬱憤もそれなりに発散出来て、反省もしているようだしね」
「ですがお義母様、それでは……。わかりました。今回のことは不問とします」
その言葉に色めき立つ男たち。その前に現れる私。
すると私を見たとたんに騒ぎ出す男たち。
「ネリア!なんでそっち側にいるんだ!?」
「話と違うじゃねぇか!」
色々と言ってくる男達。なので、私は彼らの反抗心を折ることにする。
誰にだって知られたくない事の一つや二つ必ずあるものだ。特にそれが大事な“モノ”ならば尚更である。
「2階書庫、入り口から入ってすぐ右の書棚、上から3段目。魔法理論1の中、321ページと322ページ間。3万2千。それから1階の書斎。作業机の引き出し上から2段目。底の板を引き抜き、3492にて解除。5万3千420、それに…」
それから一人ずつ、丁寧に隠し場所を公開処刑してあげると、今まで騒いでいた連中の顔が赤から青へと変色していく。
「あ、あの…、ネリア、さま?そ、それ以上は……、なんというか、まずいというか、その…、なんだ、あ~」
何やら一名、私を止めようとする愚か者が居るではないか!
なので、こちらも止めを刺しておく。
「父上。書庫の管理は、しっかりとした方がいいですよ。例えば、机の引き出しにカギを掛けるとか」
ニッコリと微笑んであげる。父は、何も言えずにそのまま引き下がるしかなくなった。
私は仕上げとばかりに、軽めに威圧と脅迫スキルを発動させる。
「はい」
今この瞬間、完全に男達が落ちた。
それと、これまで色々と恩を売って、予め落としていた者たちを合わせ、村の殆どの者を支配圏に入れることに成功した。
つまりは、私という一種の支配者が誕生したことでもある。
これでもってシャルティス村という、私の緊急退避地を確保することが出来た。
「それでは後の事は、全てお任せしますね、お婆様」
「わかったさね。後でダリスも届けておく」
「それではお願いします。それじゃ、母上。私達は先に戻りましょう」
私達は、一足先にシャルティス村を後にする。
その後、1時間ほどしてから父も戻ってきた。
戻ってきた父は色々と、お婆様につつかれていたようで、疲れ切った表情であった。そのまま自室へと戻っていく。
それから暫くしてから、再び家族で食堂に集まり、母にスキルの事などを説明した。
それからも色々な事があったが、概ね平和な一日であった。
次回、本編から離れて閑話が1話入ります。
閑話ですが一応、重要な話です。
少し読む人を選ぶ内容があります。注意してください。