第7話 スキルの再調査と初めてのペット
ギルドでの能力調査を行って2日がたった。
今日は生まれ故郷であるエルフ自治区のシャルティス村へと向かう日である。
村までは王都の自宅である屋敷に設置された転移魔法を使って向かう。
予定では一応、向こうで1泊してから戻ってくる予定である。
「よし、準備はできたようだな。さあ、魔法陣の中に立って」
私が魔法陣の中に入るのを確認してから陣を起動させる。
「いざ、導きの泉よ。我らを導き給え。かの地まで」
魔法陣が起動し、光始める。
目の前が一瞬見えなくなると、次には転移魔法陣の部屋とは間違う部屋なっていた。
「無事到着したな。それじゃネリアは、荷物を置いてから玄関前で来るように」
「はい、分かりました」
すぐさま荷物を置くために部屋から出る。
ここは、シャルティス村側の自宅で生家に当たる。
もちろん生まれてから4年間住んでいるし、王都の方に移ってからもちょくちょく戻っているので迷うことなく自分の部屋へ向かう。
荷物を置き、少しばかり身だしなみを整え、再び部屋を出て集合場所である玄関へと赴く。
「ネリア、来たか。それじゃ行こうか」
屋敷を出て村の中を歩くこと数分、目的の家の前に到着した。
「母上、ただいま到着いたしました」
しばらくしてドアを開ける音がすると、中から初老の女性が出てきた。
彼女が私のお婆様である、シャマリア・ドリュッセンである。
「よう来た。さぁ、入った入った」
お婆様に案内されて居間へと向かい、それぞれ椅子に座る。
お婆様は、すぐに冷たい水を出してくれた。私は一口だけ飲む。
一息ついたところで、今日ここまでやってきた本題へと入る。
「母上、まずは先日の能力調査の結果を見てください」
「どれ、ふむ」
父から鑑定用紙を受け取り、一通り目を通す。
「これは確かに、今まで見たこともない結果だね。それもハイエルフかい。これまた珍しい。なるほど、それじゃ早速だが鑑定を始めよう」
お婆様は私と向かい合うように椅子を動かし座る。
「我が求めしは真実の理。今ここにすべてを明らかにせよ。特級鑑定」
お婆様はそう唱えると、目を瞑り集中していく。
すると、私の中に何者かが入り込んでくる感じがする。
多分これが特級鑑定によって、私のステータスやスキルなどを看破しようとしているのだろう。
ただ此処で、私の中にある上位者スキルが反応し始めた。
このままスキルが作用していると鑑定魔法の邪魔になりかねない。
なので、私は慌ててスキルを弱めるようにする。このスキルは、どうしても完全に停止させることの出来ないからだ。
それから数分が過ぎたころ、お婆様はゆっくりと目を開ける。
「大丈夫ですか、お婆様?」
「あぁ、一応はね。全く、儂がここまで苦労させれるとはね。だが、とりあえずは今わかった事を伝えよう」
一口、水を飲んでから再び話し始める。
「それじゃ、最初は上位者スキルというやつからかね。このスキルは、かなり特殊なスキルだね。まさか概念付与型複合支配系スキルだったとは。ネリアとは、かなり実力差のあるはずだったのに、この儂が逆に取り込まれかねなかったからね」
「それほどなのですか」
「あぁ、そうさ。それと、ついでに教えとくがダリス。お前さんはとっくの昔に、ネリアにやられているようだがね」
「え…、ぁ…、そ、そうなんですか?」
「あぁ」
父の顔が微妙に引きつり始めた。まさか実の娘に支配されていると言われたら、誰だってそうなるだろう。
そんな父をちらりと一瞥したのちに話を続ける。
「続けるぞ。それでこのスキルは、スキル保有者を相手より上位の存在として定め、それを他者に強要させ、さらに下位の存在となったものを支配する、そういうスキルじゃな」
「そうですか」
なるほど、スキル説明では抽象的にしか説明されないため、なかなか詳しい内容は分からないのだが、鑑定系なら詳細を調べることができるらしい。
「ゆえにこのスキルは、準神スキルだね。神スキルとまではいかないが扱い方を間違えちゃいかんスキルだね。多分分かっておるとは思うが、ネリア」
「はい。そこはしっかりと」
「うん、わかっておればよい。次はもう一つ何も分かっていないスキルだが、こちらは名称以外は分からんかったね。スキル名は万理眼。万の理の眼というスキルじゃな」
「万理眼…、母上にもわからぬとなると、神眼系スキルとなるのでしょうか?」
「そうさな。そういうことになるじゃろ、これは」
その場を静寂が包む。最初に話し始めたのはお婆様だった。
「一つよいかネリアよ」
「はい」
「おぬしは、どこまでわかっておる?」
その質問にとっさに返しができなかった。
どこまでとはスキルのことなのか、それとも別の何か。
「どこまでとは、スキルの全般についてですか?それなら大体のことは知っています」
「そうか、分かった。神眼系スキルについては問題ないということか?」
「はい。何に至るかについいても」
「ん、そうか。よしこれで能力調査は問題ないじゃろ。ダリス、おぬしもよいな」
「はい。一応は大丈夫です」
それから、たわいない日常の話や、最近の王都での話押しながら過ごした。
昼食を取り一服したのちにお婆様が話を振ってきた。
「ネリアよ。一つ実験に付き合ってもらってもよかいね?」
「はい、いいですよ。でもどんな実験を?」
「なに、ちょっと上位者スキルというものがどんな風に効くのか見てみたくてね。なので、この森にちょうど良さそうのが居って、それで試してみてほしいんじゃよ」
「わかりました。ところでその相手はどんなので?」
「相手は昔、神獣とされていたフェンリルじゃよ」
「フェンリル…」
ここでいいことを思いつく。スキルで支配するというのならば、それは私のものになるという事。つまりは、お持ちかえりしちゃっても良いのではないだろうか。
前々からペットというものを飼いたかったというのもある。ここはひとつお願いしてみよう。
「お婆様。そのフェンリル。ペットにしてもいいですか?」
その言葉に何を言われたのか理解ができずに固まるお婆様。しばらく固まったままだったが一言。
「ペットかい…、ペットねぇ。そうさね、いいよ、しても」
「ありがとうございます」
お礼を述べて、早速出かける準備をする。
といってもそこまでのものはいらない。簡単に荷物まとめる。
「あ、そうだ。あれも用意しておこう」
今まで放置しっぱなしだった時空制御スキルの異空間収納の中からとあるものを探す。
「あった。これだこれ」
取り出したのは小さな輪っか状のもの。これは従魔の首輪という魔道具である。
この魔道具、なぜか最初から異空間収納の中に入っていた。ついでに言うとその他にもいろいろ入っていた。
それも女性ものの道具や生理用具も入っていた。絶対にこうなると確信していたようだ、あのヒト。
準備を整え、お婆様に連れられて森へと向かう。
後ろにはいつ話を聞いたのかは知れないが、村人がぞろぞろと大勢ついてくる。
「あの、お婆様。後ろの人たちはいったい?」
「ただの見物さね。フェンリルとネリアが何かすると聞いて集まってきたようだね」
「は、はぁ」
そんな感じで大勢を引き連れて、森の中を進んでいく。
ほどなくして、お婆様が足を止めて静かにするようにといってきた。
「よし、ネリアよ。あそこにいるのが件のフェンリルじゃ。わしらは何かあった時のためにここで待機しおるから、ここからは一人で行くように」
「わかりました。それでは」
そう言って、私はフェンリルのもとへと向かうのだった。
フェンリルは、いつものように森の中でくつろいでいた。
すると向こうから大勢の人の匂いが近づいてくる。ほどなくするとその一団は我から30メートルほど離れたところで立ち止まる。
少しばかりすると、その中から一人の小さな子供のエルフが近づいてきた。
歳のほどは分からぬが、幼児であることは確かである。
その子供は我から2メートルほどまで近づくと立ち止まり話し始める。
「フェンリルよ。私のペットになれ」
バカにしているのか、とんでもないことを言い始めた。
ペットになれだと。まさか実力差もわからずに言っているのか。
我は実力差をわからすために一声吠えて脅かそうとした。
「我をバカにしているのかエルフの小娘!」
そう言って息を吸い込み吠えようとした。しかし、なぜかそこから体が動こうとしない。
「な!なぜ体が動かん!?」
どうにか吠えようとしても、なぜか何かに押さえつけられるように体が動かなくなる。
訳が分からずにいるとエルフの小娘は、その顔にうっすらと笑みを浮かべる。
それを見た我は体の奥から何か得体の知れない何かを感じた。
「こ、小娘!我に何をした!」
「何も。ただ少し、本当の上下関係を知らしめただけだから」
上下関係だと。何を言っているのか。どう考えたって我の方が格上に決まって…、決まって…、あれ?我はいったい何を言って…。
どんどん思考がまとまらなくなってくる。わ、我は。
すると、エルフの娘が我に向けて指示を出してきた
「さぁ、フェンリル。お座り」
まるで飼い犬にするように言ってくる。昔は神獣であった、この誇り高きフェンリルに対して。
だが気づいたときには、なぜか言われたとおりにお座りをしていた。
また体が勝手に反応してしまっている。ただでさえ思考がおかしくなり始めているのに。
さらに追い打ちをかけるようにご主人が次々に指示を出してくる。
「じゃあ、次は伏せ。」
体はそれに従い、お座りの状態から伏せをする。
「次は、お手」
「よくできたね。それじゃお代わり」
そんなかたちで、ご主人に言われたとおりに動く。
そうすればご主人は、褒めてくれるのだから。
「よし、フェンリル。もう一度問おう。私のペットになれ」
「わかった。我はご主人のペット。ご主人のモノであると」
なぜ今までこんな簡単なことが分からなかったのだろうか。そんな我が恥ずかしかった。
ご主人は、我の返答に満足そうな顔をすると、手持ちの荷物から何かを取り出す。
「それは何でしょう?」
「これ?これは従魔の首輪。これをつければフェンリルは正式に私のペットになる。さぁ、首を出して」
我は言われた通りに伏せの状態になり、ご主人が首輪を着けやすいようにする。
ご主人は、我の首に首輪を装着する。
「ん、これであなたは私のペットになった。だからこれからよろしくね、フェンリル」
「我はご主人に忠誠を誓う」
「ありがとう。それじゃ、あなたの名前はファスタ。この名に恥じぬように」
こうして我はここに新たなる名前、ファスタをいただき、ご主人に忠誠を誓ったのだった。
無事に私はフェンリルを上位者スキルによって、支配下に置くことに成功した。
そのままファスタを連れて皆のもとに戻る。
「ネリア、終わったようだね。少し鑑定するよ」
「どうぞ」
簡単にお婆様が鑑定をし、ファスタが私の完全な支配下になっていることを確認してから、皆に撤収するように伝える。
「よし、皆の者。このフェンリルはネリアの支配下となった。これにて実験は成功した。なので、すぐさま解散するのじゃ!もたもたするではないぞ」
こうして、私たちは森を後にした。