第53話 成人の儀(後編)
だいぶ遅くなりました。
連日の長時間残業で完全にノックアウト状態でした。
取り敢えず出来るだけ定期的に上げられるに努力します。
成人の儀まで後2週間程となった。
王都全体もお祝いムードに包まれ始めていた。
この成人の儀に合わせて、王都ではお祝いの祝祭を行うことになっているからだ。
そのために街中は準備の為に、色々な人々が動いていた。
そして私はというと、今は通常の業務をしながら、教会から連絡が来るのを待っているという状況であった。
「お帰りなさいませ、ネリア様」
「ただいま」
いつものようにミセルで迎えられる。
「ネリア様。先ほど教会の使者の方が訪れまして、ネリア様に教会までお越しいただければと言伝を受けました」
「おぉ、日程が決まったと?」
「はい」
「そうか、分かった。あとで聞こう」
「かしこまりました」
私は自室に向かい着替えを済ませると、ちょうど測ったかのようにミセルがやって来た。
「ネリア様。よろしいでしょうか?」
「あぁ。ちょうどいいタイミングだ」
「失礼します」
そう言って部屋に入ってくる。
部屋に入ってきたミセルは、書類の入っている封筒を持っていた。
多分あれが詳しく内容が書かれた物なのだろう。
そして私が座っているソファーの左隣に座る。
「ネリア様。こちらが本日、使者の方が持ってこられた書類です」
そう言って手渡された封筒を眺める。
封筒には半光沢紙で出来ていた。かなり高級なものであると分かる。
封筒の印を切り、中から書類を取り出し、内容を確認する。
内容としては教会らしい堅苦しく長々と書かれていたが、要約すれば日時が決まったから教会に来てほしいとの事だった。
「日程は2日後の10の刻よりという事だ」
「分かりました」
「後、それから少し揃えておきたい物があるから用意を頼む。必要な物は後で渡すから明日中に頼むよ」
「わかりました。何人か使ってもよろしいでしょうか?」
「そうだな……、ん~、いいよ。でも、他の事が疎かにならない程度でね」
「分かりました。それでは失礼します」
ミセルはすぐさま準備に取り掛かりに行った。
私はミセルが出ていった後、ソファーから立ち上がり事務机へと向かう。
ミセルに渡す為の必要な物を書いたメモを作るためだ。
今回、教会の使者が持ってきた書類には、成人の儀の打ち合わせと、もう一つの事柄が書かれていた。
それは一度、教会が運営している孤児院の慰問してほしいとの事であった。
どうやら孤児院では私の事が話題らしい。
なぜかと思ったが、特に書かれていなかった。
多分、直接話した方が良いという事だろう。
という事で、せっかくの事だ。何かお土産でも持っていく事にしたのだ。
その為に買い出し用メモという訳だ。
「ん。こんなものかな」
10分ぐらいでメモを書き終わり、伸びをしてから部屋を出る。
食堂に向かえば、ミセルがちょうど夕食の準備をしているところだった。
「ミセル」
「はい」
私が呼ぶと準備をいったん止め、こちらにやってくる。
そして先ほど書いたメモを渡す。
「これがメモだから、明日からよろしくね」
「わかりました。迅速に準備いたします」
メモを渡し、座席へとつく。
しばらくすれば家族も集まり、食事が開始されたのだった。
そして食後、ミセルは食事の片づけを素早く済ませると、足早に去っていた。
多分これから買い物の手伝いをしてもらう人達に声を掛けに行ったのだろう。
そして2日後の朝、ミセルが私の部屋にやって来た。
「ネリア様。準備が整いました」
「分かった」
「それではこちらへ」
ミセルに案内されて、とある部屋と来る。
中に入れば、昨日までに買い揃えられた贈り物が、たくさん並べられていた。
一つ一つ確認するのは面倒なので、ザっと確認するだけにとどめる。
それにミセルが用意したのだ。そこらへんは大丈夫だろう。
と軽く確認を終え、収納にすべてしまい込む。
しまい込んでからすぐに出立の準備に取り掛かる。
出立の準備を終え、早速教会まで行くことになる。
今日ばかりは普段乗ることの少ない馬車での移動だ。
今回は一種の公務の一環でもあるからだ。
馬車に揺られながら進むこと30分ぐらいした頃、王都のメルスティー教会へと到着したのだった。
馬車から降りれば、目の前には白亜の荘厳な教会が立っている。
ここの教会には近くから見るぐらいはあったが、こうして近くでまじまじと見ることは初めてである。
この教会、実はここまで豪華な見た目でお金がかかっているように見えるが、殆ど無償で建てられているという。
それだけ信仰が深いという事だろう。
そんな教会の正面ではトリセント最高司祭を含め、教会の重鎮たちが立ち並び、私達を出迎えてくれた。
「ようこそネリア様、メルスティー教会へ。我々一同お持ちして居りました」
そうトリセント最高司祭に出迎えられる。
私はトリセント最高司祭の前まで歩み出る。
「ご丁寧にどうも。まさかここまでの出迎えを受けると思ってもいませんでした」
「はは、何しろネリア様がお越しになりますから、我々も気合が入っているのですよ」
「そうですか。私はそこまでの者ではないので。それに変に堅苦しいのは好きではないのでね」
「わかりました。それでは早速ですがお話合いの場所まで参りましょうか」
こうして最高司祭の案内で中へと入る。
中も厳かな雰囲気に包まれていた。
それと何やら教会内部全体に今まで感じたことのない力を感じた。
前を歩く最高司祭に疑問を投げかける。
「トリセント最高司祭殿、少し質問はよろしいか?」
「はい、何なりと」
「教会全体にあまり感じたことない力を感じるのですが、これは何の力なのでしょうか?」
「やはり感じられますか。さすがはハイエルフでありますね。この力は我々の神であらせられるメルスティー様の力一部でございます」
「神の力ですか?」
「はい。この教会はメルスティー様によって認められた聖域の一部なのです。なので、神の力が溢れているのです」
なるほどそういう訳だったのか。
それにしても神の力か。いつも感じる魔力の違った力である。
そしてどこか無機質な雰囲気でもあった。
疑問も解決したところで、一つの部屋に通される。
「それではこちらにお掛けになって下さい」
言われたとおりにソファーに座る。
反対側にはトリセント最高司祭が座る。
そしてその他の人たちは側近と思われる人物以外が退室していった。
「それではこれから成人の儀にて、ネリア様に行っていただく女神への締めの祝詞について、色々と決めさせていただきます」
こうして当日の段取りや、祝詞のセリフについて色々と話し合った。
そして約2刻ほど過ぎた頃、話はまとまったので、ここで一旦、昼食休憩となった。
そして昼食には、教会でいつも食べているという食事をとる。
さすが教会の食事だけあって、質素な感じの食事であった。
それが終わると、ついに孤児院の慰問の時間となる。
孤児院は教会の裏手に設けられている。
この孤児院は教会と国の共同出資によって運営されている。
そして、メルスティー教会の孤児院は主に貧民街などの悪劣な環境に置かれた子供たちを担当していた。
今回、この孤児院を慰問することなった一番の理由は、私が貧民街に対して関わっていたからだと思われる。
なぜかといえば、キャルライト商会に対して私が一つの仕事というべきものを頼んでいるからだ。
それはキャルライト商会に対して貧民街などの治安維持業務である。
治安維持というが、簡単に言えばゴロツキなどが自分たちの島を守るような事をしてもらっているだけだ。
といってもそのまま任せてしまうと、私が望むような結果にはならない為、定期的に私自身が監査を入れている。
そして、そのついでに私自身のお金を少しずつだが回す様にしていた。
こうした活動により貧民街は大分安定してきたし、徐々にだが貧民街も下町と言われる程度には環境が良くなってきている。
そうしてその事は、この孤児院な中にも話が伝わっていた。
そうした理由から今回の慰問につながったのではないかと思う。
孤児院に近づくと、入り口には沢山の子供達が並んでいた。
そして子供達は私が近づいて来るのを見つけると、一斉に声を上げて盛大に迎えてくれた。
「皆、元気ですね」
「えぇ、子供達はネリア様に大きな感謝の気持ちがありますから」
こうして子供達に感謝の気持ちで迎えられると、何だか温かい気持ちになる。
こんな風に感謝されることは普段ない為、かなり新鮮味を感じた。
そして孤児院の中に案内されると、私は早速用意した贈り物を取り出す。
そうすれば初めて見るスキルによる収納を見て驚きに固まっている。
それから驚きが収まれば、皆静かになり私の方をじっと見つめてくる。
「皆さん、今日は私から贈り物があります。なので、今から皆さんに配りたいと思います」
その言葉に一気に子供達がはしゃぎ、騒がしくなる。
それから孤児院で子供達の世話の手伝いをしているシスター達が子供達を落ち着かせる。
子供達が落ち着いた頃、贈り物の配布会が始まったのだ。
それから30分ほどで配り終えれば、今回の慰問は終わりとなる。
慰問を終えれば再び子供達による別れの言葉を受けて教会へと戻る。
「今回、ネリア様には非常に感謝しております。あのように子供達が喜んでいる姿を見られるとは思ってもみませんでした。これもすべてはネリア様とメルスティー様のお陰です。本当にありがとうございました」
「いえ、そこまでのことではありませんから」
「……そうですか、分かりました。それではネリア様、本日は本当にありがとうございました。それでは次は成人の儀にてお会いしましょう」
「そうですね。それでは失礼します」
こうして成人の儀の準備についての話し合いは終わったのだ。
そしてついに成人の儀の当日。
私は再び教会へと来ていた。
教会内部はいつもと違って、たくさんの人によって埋め尽くされていた。
そんな中、私は1番前の席に座って私の番が来るのを待っていた。
成人の儀は順調のプログラムは進んでいく。
「それでは最後になりますが、女神への祝詞を奉納したいと思います。今回は最高司祭様の代わりにネリア・シャルティス・ドリュッセン騎士爵様にお願いしたいと思います」
私は静かに立ち上がり、最高司祭が立つ前まで出る。
「それではネリア様、お願いします」
私は無言で頷く。
すぐに最高司祭が今までたっていた場所から1歩下がった位置に移動する。
私は最高司祭が居た場所に立ち、成人の儀に集まっている人達の方に向き直る。
そして目をつむり少し抑えていた魔力を解き放つ。
すればどうだろうか、私の体がほんのりと光りだす。
そうすれば周りの人達から感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
私はそのまま祝詞の言葉をうたい上げる。
「我名はネリア・シャルティス・ドリュッセン。ここに成人を迎えられた感謝を込めて、女神メルスティー様にこの祝詞を捧げます。我々の今まで生きてこられたことに感謝を。そしてこれからも平穏なる生を送るためにお見守り下さい」
そう言って祈りと共に魔力を一気に開放する。
するとここで、なにやら変な違和感を感じた。
やけに周りが静かなのだ。
そこでゆっくりと目を開けてみる。
するとそこは教会では無く、やけに懐かしさを感じる白い空間であった。
そして後ろから人の気配がする。
あまり振り向きたくもないのだが、そうしないと何時までもこのままな気がしたので、ゆっくりと振り向く。
そうすればやはり思った通りの人物がそこには居た。
「ところで何の用ですか?」
「久しぶりなのに、つれないなぁ、君は」
「だったら、もう少しまともで居てください!」
そこに居たのはやはり、孤麻川未久美だった。
「本当に君は面白味がないな。そんなんじゃつまらないぞ」
「いえ、どうでもいいです」
「まぁ、いいけどさぁ」
少し、ふて腐れた顔をしながら文句を言ってくる。
どうでもいいから本題に移って欲しい。
「それで何の用ですか?」
「ん~、素っ気ない!いや、特にこれといったことじゃ無いけど、お祝いにね」
「お祝い?」
「そっ!せっかく君の転生に関わったんだから、直接お祝いの言葉を伝えようかと思ってね。」
「そうですか。ありがとうございます」
それにしてもお祝いを伝えるだけなら、ここまでの事をしなくてもいいのにと思ったが、それをこの人に言っても無駄な気がするので言わない。
でも、それはそれとして単純に嬉しい。
「それじゃ、コホン」
わざとらしく咳払いをしてから雰囲気がガラリと変わる。
今までのふざけたようなものから、それこそ神らしい厳かな雰囲気を纏う。
「ネリア・シャルティス・ドリュッセン。汝にこれからも幸あらんことを」
「はい。ありがとうございます」
そう言って頭を下げる。
再び頭を上げれば、既に先程の雰囲気はどこへやら、いつも通りの彼女が満足そうに笑って居た。
「ん。それじゃ伝えるべき事は言ったし、そろそろお別れだな。それじゃ現実に戻すよ」
そう言って1つ手を叩けば、そこは再び教会のなかであった。
そういえば儀式はどうなったのかと見渡せば、皆唖然として顔で固まっていた。
何かと思えば、やけに周りがきらびやかである。
どうやら去り際に何かしたらしい。
このままだと何時まで経っても終わらないので、きらびやかな状態を通常状態に変える。
ここで最高司祭が気付き、成人の儀の終了を宣言する。
最後に余計な事をしてくれたなと思ったが、これもこれで1つの思い出になるからいいかと思い考えるのを止めた。
今後、この事がどんな話題になるか知らないが、悪いようにはならないだろう。
そんなわけで、また1つの行事が終わったのであった。




