第49話 新たなる仕事の始まり
人物紹介を除いた、節目の50話目です。
私の弟とミドルテッシモ王国王子が生まれてから2週間ほどが経った。
私はその間、側付きの近衛として必要な儀式を行っていた。
任命式は終えていたが、それ以外にも古い仕来りに則った儀式を行ったのだ。
正直言えばめんどくさかったのだが、他の近衛達も同じような儀式を行ってきているのだから、私だけ別とはいかなかった。
そんな儀式も終え、今日から正式に配属されることとなった。
朝、今までは学院に出かけていたが、今日からは父や母、それに兄と共に王城へと向かうこととなる。
ただ、それと一緒に弟であるシュルクエードも一緒であるという点だ。
本当のことを言えば、屋敷に居る者に任せてもよいのだが、今回は王子と私の弟を一緒に面倒をみることによって、2人を近しい中にするという思惑もある為、こうして家族一緒に登城しているという訳だ。
そんなこんなで王城につくと、私は一旦家族と離れ、1人国王の執務室へと向かう。
ここで、正式に仕事を申し付けられるという訳だ。
執務室の前まで来ると、一旦身なりを確認し、乱れがないことを確かめ、扉をノックする。
「ネリア・シャルティス・ドリュッセン。ただいま到着いたしました」
「入れ」
「失礼いたします」
陛下の許しの言葉が出たので中へと入る。
「よく参った、ネリアよ。これから詳しい仕事の内容を教える。少しばかり長くなるから、座って説明しよう」
そう言って、執務室内のソファに座るように進められる。
私はその言葉に甘えさせて、先にソファに座る。
それから陛下も執務机から立ち、私の対面のソファへと座る。
それから陛下は使用人に何かを伝えると、使用人は部屋を出ていった。
使用人が出ていくと、再び話を再会する。
「よし、それではこれからネリアにはミハイリバルに付き添って護衛してもらうことになる。そこまではよいかな?」
「はい」
「それで護衛と言っても、そこまで厳重にしなくてもよい。部屋の外にも近衛は配置する故な」
「わかりました」
「それと世話に関しては専属の者を用意してある。彼女らの手伝いもしてほしい。今のところはそんなところであろう。何かあれば外の近衛に言ってくれれば良いからな。問題は無いかね?」
「はい。問題はありません」
それから細やかな説明を受けて一息したころ、説明を受ける前に言伝受けて出ていった使用人が戻ってきた。
「陛下。準備が整いました」
「そうか、ありがとう」
「はっ」
使用人に労いの言葉をかけると、席を立つ。
それに従い、私もソファから立ち上がる。
「ちょうど、部屋の準備が整ったので、これからネリアの仕事場を紹介しよう。ついて参れ」
「はい」
陛下の先導と共に新たな場所へと向かう。
そして連れられてきたのは、ちょうど王族の寝室などがある居住区であった。
その一室へと入る。
中では王妃と私の母がそれぞれの子を抱いて談笑していた。
「ネリアを連れてきたぞ」
私は陛下に続き中に入ると、最初に王妃と挨拶をする。
「バルトリザル殿下、お久しぶりでございます」
「えぇ、おかげさまで。ネリアも変わりがないようですね」
「はい」
「それでは息子をよろしくお願いしますね」
「はい。必ずや」
それから王妃殿下は王子を乳母に預けると、陛下と共に部屋を後にした。
それから私は母から弟を受け取ると、早速仕事の準備に取り掛かる。
とはいえ、まだ赤子である2人の護衛と言っても特段することがない。
もちろん全く何もすることが無いという訳ではない。
なぜならば赤子の仕事といえば、色々と世話をしてもらうことであろう。
という事で、世話に関しての道具は、すでに揃っているようなので、私が用意するものは、彼ら起きるまでの間の暇をつぶす物である。
とりあえず用意したものは、まだ処理をしていない書類群であった。
この書類群は、私が今までに私個人で雇ってきた者達が集めてきた情報をまとめたものである。
今まで色々と忙しかったせいで、全く手を付けられていなかったものだ。
ちょうど暇つぶしに使うのにうってつけである。
そして書類に目を通してから半刻過ぎたころ、ついに本格的な仕事が巡ってきた。
「ふぁ、ふぇえええん~」
初めは王子の方が泣き始めた。
そして1人が泣き始めると必ず起こるのは、赤子の泣きの連鎖反応である。
すぐさま弟の方にも飛び火する。
私は書類を一旦収納すると、椅子から立ち上がり赤子の様子を確認する。
赤子の側に近寄ると、かすかに特有のにおいがしてくる。
どうやらおしめの交換をしなければならないらしい。
私はすぐに乳母にこのことを伝え、替えのおしめを用意してもらう。
用意をしてもらっているうちに、私は弟をあやすことにした。
そう思って、弟が寝ているベッドへと近づく。
中の様子をみようと覗き込んだ時に、ちょうど弟と目が合った。
すると今まであんなに泣いていたのにも関わらず、私と間があった瞬間に泣き止んだではないか。
これはもしや、私と相性が良いものかと思ったが、多分違うだろう。
なぜならば少しばかり顔が強張っていたからだ。
やはり何か私に迷惑がかかるのを恐れて泣き止んだようだ。
正直言えば少しばかり悲しかったのだが、私のスキルから自力で逃れろ、なんて赤子に求めるのは、あまりにも困難であろう。
とはいえ、私が顔さえ見せれば泣き止んでくれるというならば、少しは楽が出来るだろう。
素直に喜べないが。
とりあえず、今はすぐに王子のおしめを交換することにしよう。
ちょうどよく乳母も戻ってきたので、早速取り換える。
おしめを素早く交換すれば、気持ち悪さも無くなったおかげで、すぐに王子は泣き止み、再び眠りにつく。
その様子を眺めながら、私は中断していた書類に目を通す作業に戻る。
それからは昼頃までは、何事もなく時間が過ぎた。
ちょうどお昼の時間になったので、乳母と部屋の護衛の近衛に昼の休憩に出ることを伝えてから、部屋を後にする。
私は昼の休憩のために、王城の裏手に設けられている、王城勤務者向けに解放されている食堂へと向かう。
その途中で、ばったりと陛下と出くわす。
「おぉ、ネリアか」
「はい、何でしょうか?」
「息子の様子はどうかね?」
「大人しく良い子にしていますよ」
「そうか。それはよかった。引き続き頼むね」
「はい。お任せください」
少しばかり話をしてから、再び食堂を目指す。
食堂に着くと今日のメニューを確認する。
そして、その中からお手軽に食べられる物をチョイスする。
受付に注文を伝え、少しばかり待つと、注文した物が出てきた。
出てきたものを受け取ると、開いている窓際の席へと向かう。
窓際の席に着くと、収納から特製のお茶を出す。
これは私の管理しているシャルティス村の薬草畑でとれたハーブを何種類か使って作ったものだ。
私はこれをマグカップに注ぎ、香りを確かめる。
この香りはやっぱり落ち着くし、何より疲れが引いていくような感覚を味わえる。
これで午後も頑張れそうである。
食事を済ませ、返却口に食器を戻してから、出来るだけ急いで部屋へと戻る。
部屋に近づくと、何やら部屋の中が騒がしくなっている。
どうやら再び泣き始めたようだ。
部屋の前で護衛の近衛から私が居ない間の報告を受ける。
問題ないことを確認してから部屋へと入る。
部屋に入ると部屋の中は、それはそれは賑やかな事になっていた。
「どうしましたか?」
乳母の一人に話を聞く。
「えぇ、それが突然泣き出しまして、おしめや食事の方は問題ないので、何が問題なのかわからないのです」
「分かりました。少し私に任せてもらえますか?」
「えぇ、お願いしますネリア様」
乳母から了承をもらうと、ベッドに近づく。
泣いている2人を視てみると、何やら余計なものがへばり付ているのが視えた。
どうやら誰かがちょっかいをかけてきたらしい。
私はすぐに術者を逆探知にかかる。
するとあっさりと術者が見つかってしまった。
どうやら相手はちょうど午前中に報告者に挙げられていた者の仕業のようだ。
前々から何やら不審な取引が行われていたので、チェックしておくように言いつけておいた件だ。
とりあえず、術者にマーカーをセットして、赤子にかけられていた魔法を解除する。
そして解除するついでに、術者に対してお返しに、行動を除外する魔法を仕掛けておく。
こうすれば、逃げようとしても動きが阻害されて早くは逃げられないし、逃げたとしても何処かで不審な動きをする人物として、巡回の兵士につかまるだろう。
2人にかけられていた魔法を解除してから、少しばかり眠りを誘引する魔法を掛ければ、すぐに泣き止んで眠ってくれた。
「よし。これで大丈夫です」
心配そうにこちらを見ていた乳母に声をかける。
「あぁ、ありがとうございますネリア様。それでどうして泣いていらっしゃったのでしょうか?」
「それは、そうですね、ちょっとヤな事でもあったのでしょう。とりあえず原因となるのは取り除いておいたので問題は無いですよ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
乳母には、今まで起きていたことは伏せておいた。
彼女らに余計な負担はかけられないからだ。
それからは何の問題は起きる事は無かった。
仕事が終わると、私は家族に用事があるので別行動をすると伝えて、私は王城のとある部屋へと赴く。
「これはネリア様、お久しぶりでございます」
「あぁ、久しぶりだな、ゼルファスト」
「それでネリア様はどのようなご用件で?」
「それを一々聞いてくるのか?」
「いえ、大体のことは分かっておりますが、念のためという奴です」
「そうか、ならいい。とりあえず今ある分の資料を」
「はい、ただいま」
そう言ってゼルファストが一束の書類を持ってくる。
「これが、首謀者と実行犯の資料です」
持ってきた資料にさっと目を通す。
先ほど万理眼で視たのと同じであった。さすがは暗部である。
「うん、問題ないな。ありがとう。とりあえず、少しばかりお話合いがしたいから、招待をしておいてくれないか?」
「わかりました。時間は何時がよろしいかと?」
「そうだな20の刻ごろ裏手まででいい」
「わかりました手配しておきます」
「よろしく頼むよ」
「お任せください」
という感じで、ゼルファストに首謀者を私の談話室まで招くように言いつけてから、私は自宅へと帰る事にしたのだった。
次回は本編の50話目になります。




