第45話 厄災の終息
精霊の対処を終え、私達は作戦本部へと戻ってきた。
作戦本部では絶え間なく、人が出入りしている。
私達は戻ってきた事を伝えるために、忙しく走り回る中を注意しながら抜ける。
作戦本部の天幕に入るとデルク将軍が迎えてくれた。
「お疲れ様でしたネリア様」
「無事に終わったよ」
「ありがとうございます。おっしゃられた通りに魔物達のレベルが急激に低下したのを確認できました」
「そうか、それはよかった。という事は全面攻勢をかけるんですね」
「はい。今その指示を出しているところです。ところでネリア様は、これからどうなされるのですか?」
「そうだね。とりあえずは遊撃をしようかと思っているよ」
「わかりました」
それから少し、こちらの予定を伝えてから椅子に座る。
すかさずミセルがお茶の用意を始めた。
私は椅子に座りながら、これからの事を考えていた。
問題の精霊の対処も終わり、あとは約1万の魔物を片づけるだけである。
ここまでは予定通りに進んでいる。
ただ一つ、引っかかる事といえば、問題の精霊である。
彼女が本来、生まれる事は無い精霊であるからだ。
魔物は元来、この世界に存在していないモノ。
この世界で創造されたモノのみしか、この世界で精霊として生まれる事は無い。
特に魔物精霊は、神々の中に居る精霊を司る神が、生まれることのないように管理している。
それにも関わらず、実際に誕生してしまっている。
という事は、誰かが強引にこの精霊を生み出したことになる。
しかし私が視た限りでは、この精霊と魔物以外の外部存在は見受けられなかった。
どこかに隠れては居るはずだが、いまだに見つかっていない。
どうにか見つけない限り、完全には解決したとは言いにくい。
また同じような存在が生み出されてしまう可能性が高い。
という事で、どうしようかと悩んでいた。
「ネリア様」
後ろから声をかけられる。
振り向くと件の精霊が居た。
「どうした?」
「いえ、お悩みでしたので私にお手伝い出来ることはないかと思いまして」
「そうだな……」
そう言えば彼女に直接聞くのを忘れていた。
生み出された本人なら何か知っているかもしれない。
「そうだな、君は自分を生み出した奴の事を知っているかい?」
「すみません。詳しく分からないです。ただ、感じとしてはネリア様の奥底に似たような感じがあります」
「私と似た感じのモノ?」
「はい」
私の中に似たようなモノがあるか。
試しに私自身を万理眼で探ってみる。
出来るだけ深淵を覗くがごとく、私という中を探っていく。
そんな時、ふと思い出した。
以前にも同じことをしていたな、と。
その時は、どんな状況であっただろうか。
確か、今回の時と同じようにイレギュラーな事態だった。
ここでピンと来るモノがあった。
そう言えばその時、私の中に何かあるとき言っていた奴がいた。
全身白ずくめで、仮面を被った得体のしれない奴。
そう、あの時そいつのせいで私が暴走状態に陥ったのだった。
「そういえば…」
「どうされました?」
「いや、たいした事は無いのだが。そうだ!ちょっと試したいことがある。ちょっと付き合ってくれないか?」
「はい。問題ありません」
「ありがとう。それで今から君に、とあるスキルをかけるから何か気づいたことがあったら教えてくれ」
「わかりました」
精霊の了承を取り、早速上位者スキルを発動させる。
今回はいつも抑え込んでいる相手を支配しようとする能力を解放する。
この状態で約1分かけてから、スキルを解除する。
上位者スキルはかなり強力なスキルだから、これくらいの時間でも何かしろのモノが得られるはずだ。
「どうだ?何か気づいたことはあったか?」
精霊は、しばらく考え込んだ後に口を開く。
「そうですね。この上位者スキルから先ほど申しました力を感じました」
「本当か!そうか、やはりか」
予想した通りだった。
それに私という概念の最上位精霊である彼女がそういうのだから間違いないだろう。
という事は、あの白づくめの奴と同じような奴が、裏から手引きしている可能性が非常に高いことになる。
つまり、これから私がしなければならないのは、この事態を引き起こした白づくめの奴の仲間を見つけ出すことだ。
となれば早速、行動に移すとしよう。
だが、その前に精霊にお礼を言っておかないと。
そう思ったのだが、ここである一つの問題に気付く。
そういえば名前を決めていないなと。
今のまま名前がないままだと不便だし、それに彼女が可哀そうだ。
「ありがとう。これで問題が解決した。それから君に名前を付けたいのだが、いいかな?」
お礼の言葉とともに、名前を付けて良いのかと問う。
コクリとうなずいたので、何が容易か考えてみる。
やはり私の精霊なのだから、名前も私の名前からとるのがいいだろう。
といっても、気の利いた名前なんて簡単に思いつくわけもなく結局、単純な名前しか思いつかなかった。
私に名づけの才能は無いようだ。でも変な名前じゃないから大丈夫だろう。
「そうだな、ネリアスなんてどうだろうか?」
「ネリアス…、いい名前です」
「そうか。それでいいの?気の利いたものじゃないけど」
「いえ、私には勿体無いほどです」
「そうか。喜んでくれたのならよかった」
という事で、名前も決まったので早速、行動を開始する。
まずはもう一度、森全体を視てみる。
この時、一緒に上位者スキルも併用し、万理眼で上位者スキルを一度、フィルターのように通して視てみる事にした。
そうすれば、上位者スキルの中にあるナニかを通して、黒幕の反応が出るはずである。
「お、良かった。見つけた」
狙い通りに今まで視えなかった、これまでのとは別種の力を発見することが出来た。
場所はネリアスが発生させられた場所の近くの霊脈の中であった。
確かにあの中ならば、大きな力が渦巻いていて、普通の隠蔽スキルを使っても、早々に発見することは難しいだろう。
さらに今回、相手はかなり高度な隠蔽を行っていたせいで、私の万理眼でもってしても、普通には発見することは出来なかった。
ただ見つけてしまえば、後はこっちのモノである。
「ネリアス。早速で悪いのだが、少し手伝ってくれるか?」
「はい。もちろんです」
「よし、それでは行こうか」
という事で、また再び件の場所へと転移した。
やって来てみると普通な感じで、何かここにあるとは思えない。
やはり霊脈上であるため、霊脈を通っている魔力が細やかな感覚を妨害してくる。
確かにこれで、高度な隠蔽を施されてしまうと、発見は非常に困難であろう。
しかしこちらにはネリアスもいるし、黒幕と関連のある上位者スキルもある。
これらと万理眼を組み合わせれば、なんの問題もない。
一度、森の外から確認してるとはいえ、もう少し正確な場所を特定したい。
なのでもう一度、先ほどと同じように視てみる。
その際、ネリアスには相手が何かしらの反応した場合に対処するために、警戒を行ってもらう。
「ネリアス。もしかしたら相手が気付いて、何らかの事をしてくるかもしれない。そういう場合に備えて警戒しておいてほしい」
「わかりました」
伝えるべきことを伝え、万理眼を発動させる。
そうすれば、来る木と思しき反応が視えてくる。
「よし、場所は掴んだ。一気に相手を引き釣り出すぞ!」
「問題はありません、ネリア様」
ネリアスも万全の体制を整えるべく、攻撃系の魔法を何種類か待機させる。
私の方は相手を引き釣り出すために、霊脈の中に潜んでいる黒幕に対して、上位者スキルを全開にして、魔法を仕掛ける。
「隠れし者を我前へ、逃げし者を引き戻せ、これは絶対なる者からの命令である!」
絶対失敗しないように、普段なら省く詠唱を行い、より確実な魔法を発動させる。
さすれば、放った魔力が黒幕を捉え、強引に引き釣り出す。
相手は抵抗しているようだが、私の上位者スキルは、それを許さない。
そしてついに、黒幕が私達の前へと引きずり出されてきた。
「何をする、貴様ら!」
見えない魔力によって雁字搦めに拘束された黒幕が、その姿を表す。
やはり前に事件を起こした奴と同様に、全身が真っ白なフード付きのマントに包まれ、白い奇抜な仮面をした者であった。
「貴様らか!私の計画の邪魔をしたのは!」
白づくめ2号は暴れようとするが、私が全力を込めてかけた束縛魔法は、一切の行動を封じる。
さらに、もがき暴れようとすればするほど、その拘束は相手を締め上げる。
「無駄だ。大人しく全てを吐け。そうすれば何の苦も無く処分してやる」
どうせ無駄な気がするが一応、忠告をしておく。
自分で言っておいてなんだが、こんな一方的な事を言われて、はいそうですか、なんていう奴は居ないだろうけど、こんな言葉しか思いつかなかったのだから仕方がないだろう。
「ふん!誰が答えるものか!貴様ら如き下等生物が!」
なんというのだろうか、こうも三下臭いセリフを言われると何だが、微妙な気分になってくるのだが。
でもネリアスは関係ないらしく、周りに何か揺らめきを漂わせ、今にも魔法を放ちそうにしている。
それでも何とか自制しているらしく、体が小刻みに震えている。
これはさっさと片づけるべきだろう。彼女のためにも。
「御託はいいから、サッサと吐いてくれないか?私達も暇ではないのだから。さもなければ強引に聞き出すことになるぞ」
「やれるものならやってみろ!貴様らには無理だろうがな!なぜならば、私はあのお方から最強の力を授かっているのだからな!ハッハッハッ!」
「何なら遠慮なく」
相手から快諾してもらったので、遠慮なく力を解放する。
上位者スキルの眠っているモノを解放させる。
あまり引き出したものに呑まれると暴走してしまうが、ネリアスもいるし、最悪のことにはならないだろう。
それに私自身だって成長しているのだ。
己の力を見極め、それを自分のモノとするように、常に力と向き合ってきた。
最近になって、だいぶ上位者スキルを制御できるようになって、ある程度力を引き出した状態でいられるようになっている。
そのかいもあって、今のところ暴走する気配はない。
順調に相手を私の下へと落とし込む。
「さぁ、お前のすべてを吐くのだ」
「誰が……、貴様、如き何ぞに……、あっ、あ」
必死に抵抗したようだが結局、上位者スキルには逆らう事が出来ずに、ポツポツとだが話始める。
そしてすべてを聞き出し終わると、私はネリアスの方を向き、静かにうなずく。
さすればネリアスが、待機させていた致死量の攻撃魔法を叩き込む。
奴は私のスキルによって、ほとんど自意識を奪われていたため、悲鳴すらあげられずに消滅した。
これで一応、今すべき問題は片付いた。
後は皆の元に戻って魔物を掃討するだけである。
なので私達は、一番近い場所にいる魔物から討伐を開始した。
こうして約2時間で魔物は掃討されたのだった。
黒幕は、かなりあっさりと退場しましたが、あくまでも私の中ではモブ扱いなので問題はありません。
何せ、名無しなのだから。
ということで、次回で2章本編は終わりの予定です。
後は、人物紹介とちょっとした話を入れて3章に入る予定となっています。