第4話 幕間 ~セルフィとネリアの会談~
私は、女神メルスティー様の巫女のセルフィ。
私の使命は、メルスティー様によって導かれ召喚された勇者一行の守護である。
そして、今回の勇者召喚に横やりを入れてきた黒幕を探し出すこともだ。
しかし、そんな私は今迷っていた。ここは勇者一行が、これからの活動拠点としているネリア・シャルティス・ドリュッセン伯爵令嬢の屋敷。もちろん訪れた事も一度もない。
さらにこの屋敷は、今いる本館の他、客間館、来賓館、別館と別れていて、かなりの広さがある。それに館の内部も似たような景色が広がっていてよくわからない。
「お困りですか、セルフィ殿?」
声を掛けられたので振り向くと、そこにはゼルファストさんが居た。
「えぇ、ネリア様の執務室の場所が分からなくて」
「そうだったんですか。わかりました。では、私についてきてください。ご案内します」
私は、ゼルファストさんに続いて歩いていく。そして、少しばかり歩くと、今までの廊下とは装いが変わってきた。
「ここが主様の執務室でございます」
ついにネリア様の執務室の前についた。私は、一度深呼吸すると、ゼルファストさんに「ありがとうございます」と声をかけてから、執務室の扉をたたく。
「どうぞ。カギは開いてるから」
「失礼します」
扉を開け、中へと入る。中は、いたって普通の執務室となっていた。
「それで、どの様な用件かな?セルフィさんは。まぁ、大体の予想はつくけど、大方、私が今回の勇者召喚について関わってきたことだろう。」
私は、つい歩みを止めてしまった。
「……なぜ、それを」
ネリア様は、にやりと笑うと私に椅子に座るように促す。私は勧められたとおりにネリア様の対面に座る。
私が座ると話し始めた。
「それは簡単なことだ。君が女神メルスティーの巫女であるということだよ」
「…それだけで?」
「あぁ、それだけさ。君に与えられたことは勇者たちの守護だろう。今回の召喚には何者かが邪魔をしてきたことから、最悪、女神の力を借りることができる、君が勇者たちの側にいる必要があった。そうなんだろう?」
「えぇ、そうです。私に与えられた使命は勇者一行の守護をする事。」
ここまで、喋ってきて私は、さらに警戒感を高める。ネリア様は、かなり内情を知りすぎている。私が勇者の守護を命じられていることを知っているのは、女神一柱だけのはずなのだから。
なので、私はさらに核心的な質問をする。
「ネリア様は、どこまで関わっているのですか?」
すると、一瞬怪訝な顔をすると少しばかり考え込むと、いきなり笑い出した。
「なんだ。君は私が勇者召喚の邪魔をしてきた犯人だと疑っていたのか。それは大きな間違えだな」
ひとしきり笑い終えると、表情を元に戻して話を再開し始める。
「先に言っておくが、私は犯人じゃない。さらに言えば、私は被害者の方だぞ」
「え、どういう意味ですか?」
ネリア様が被害者?どういうことだろうか。被害者といえば、確かヨシノリ・ヒノワという男性のはず。
私が分からず悩んでいると、ネリア様は一枚の紙を取り出した。それには魔法陣が書かれている。ステータスを調べる鑑定用紙だった。
ネリア様は、それに魔力を流す。すると魔法陣だったのが変わり、スタータスを表示する。そして、それを私に渡してきた。
「失礼します」
私は一言断りを入れてステータスを見る。今まで見たこともない高レベルなステータスだ。レベルなんかは1021となっている。
「すごいですね。こんな初めて見ました」
「そうか。それよりも称号の欄の方を見てほしい」
「称号ですか?」
そういわれて称号の方に目を通す。ここにもいろいろな称号が書かれている。こんなにも称号を持つ者もなかなか居ないだろう。
そして、一つの称号に目が留まる。
「なんで、勇者の称号が…」
勇者の称号を与えるのはこの世界でただ一柱、女神メルスティー様だけだ。
「ん?簡単なことだろう。私が勇者の称号を持っていることぐらい」
いまだに分からない私にヒントを出してきた。
「そうだな、一つヒントをやろう。死んでしまった最後の勇者はどうなった?」
「それは、転生したと聞いていますが。それがどうしてヒントになるのです?」
「そこまで答えてまだ気づかないのかい?確か、勇者に伝言した言葉があっただろう。またすぐに再会できると」
ここまで言われて、思い出す。確かメルスティー様は再会できるという話ともう一つ、転生した勇者がどのような姿になっているかは分らないとも。
「まさか、ネリア様がヨシノリ・ヒノワ様なのですか?」
「そう、私が転生した義則だ。これでいろいろなことが解決しただろう。」
「えぇ、そうですね」
まさか、ネリア様がヨシノリ・ヒノワ様だったとは。そういえば勇者様たちと初めて会ったあの時。確かにネリア様は勇者様たちと似たような言葉を話していたし、勇者様たちも何を話しているか理解していたようだった。
これで一つ、問題がなくなったし、ネリア様も信用できるようになったのは大きい。やはり拠点となる場所は、しっかりとした場所でなくてはならない。
ということで問題が解決したので、私は執務室を後にするべく立ち上がった。
「どうも失礼しました」
「あぁ、今日はしっかりと休むがいい。それと帰り道は大丈夫か?」
「え?あぁ!」
そういえば、ここに来るまでにさんざん迷っていたのに、帰りもちゃんと戻れるか分らない。
「えーと、その、そうですね。大丈夫そうじゃないですね」
「だろ?よし、部屋まで案内しよう」
そう言ってネリア様も席を立ち、私の部屋まで案内してくれた。
私はその道中、疑問に思ったことを聞いてみた。
「あの、一つ質問よろしいでしょうか?」
「んー?何かな」
「ネリア様は元々男性の方ですよね?その、何か困ったことなど在ったんでしょうか?」
「いや、それは無かったな。転生を担当した、あの人が優秀だったからな」
「どんな風にですか?」
「例えば、最初から元々の記憶を覚えていないとか、かな。徐々に思い出すようになっていたから自然と、この体に馴染んだよ」
そんなことを話しながら歩くと、ついに私の部屋の前までたどり着いた。
「案内ありがとうございます。あと、貴重なお話もありがとうございます」
そう私が、お礼を言うと少し恥ずかしそうにしていた。
「お礼を言われるまでもない。それじゃお休み」
「はい、お休みなさい」
こうしてネリア様は去っていった。
私はネリア様を見送ると部屋へと入る。
部屋に入るとすぐさま寝巻へと着替える。
着替え終わり、ベッドに腰かけ今日1日の終わりの祈りを捧げる。
「今日1日の安寧に感謝を。明日もまた良き1日になりますよう、お導きくださいませ」
私は、女神メルスティー様の巫女のセルフィ。
私の使命はまだ続くであろう。