第3話 久しぶりに会う知人にあった時のような感じ
荷馬車に揺れること30分程度、揺れが収まった。どうやら目的地の王城に着いたらしい。
セルフィさんが、それぞれの馬車を回り、皆を降ろすと再び先頭に立ち、王城の中を進んでいく。
初めて見る異国の城に、皆きょろきょろと見回しながら近くの人と小さく話している。
しばらく歩くと、大きな扉の前でセルフィさんが歩みを止めて、こちらを振り向く。
「こちらの謁見の間にて、陛下より挨拶があります。皆様は、こちらの礼儀作法など詳しくはないでしょうが、気楽にしていて構いません。ただし、最低限の礼儀はお忘れないように」
軽い注意をしてから、再度扉の方に向き直り声を上げる。
『勇者ご一行、到着いたしました』
すると扉は、重々しい音をたてながら開いていく。
中では部屋の両脇にずらりと近衛兵が立ち並んでいる。部屋の最奥の一段高い所には、ひと際豪華な椅子に座る体格の良い初老の男性と、その脇に控える身長2メートル近い煌びやかな鎧の大男がいる。
そのままセルフィさんは広間を進み、ある程度歩いたところで歩みを止め、一礼する。
『勇者一行42名、お連れいたしました。彼らはまだ、こちらの言葉が分かりませんので、この場は軽い挨拶のみにしていただきたいと思います』
何か伝えると、王様は頷き椅子から立ち上がる。
『よく参った勇者達よ。これから君達の活躍を期待している。以上だ!』
「よく参った勇者達よ。これから君達の活躍を期待している」
王様の言葉をセルフィさんが、こちらに振り返って翻訳する。
王様は、それだけ言うと満足げに再び椅子に座り、そして頷きセルフィさんに合図する。
セルフィさんは合図を受け取ると、王様に一礼をする。
皆もセルフィさんに倣い、一同でお辞儀をする。
それから俺達は、広間から退室した。
広間を退室した俺達は、セルフィさんに連れられて、長机が並ぶ広間へと連れられた。
「ここで皆様には、少しの間お待ちいただきます。少し、これからの予定を確認してきますので」
そう言ってセルフィさんは、部屋を出て行った。
皆、近くの椅子に適当に座っていく。そして近くの人たちと話し始めた。
「これからのことかぁ。なんか不安だよね」
「わかる、なにをさせれるんだろ?」
「なんかすごいよな。これぞ、異世界みたいな。それにさっき王様の隣に居た人、耳が尖ってたぜ、あれ。エルフっぽかったよな。体格は想像と全然違ったけど」
「緊張した。王様だっていうから、どんな人かなと思ったけど、ちょっとイメージしてたのと違った」
そんな感じで、20分ぐらいたった頃。扉の開く音がして、皆の視線が扉に集まる。
扉からセルフィさんと、見知らぬ一人の男性を連れてきた。
その男は見た感じ印象に残らなそうな顔である。いかにも何処にでもいるような男性だ。
「えー、これから皆様を、今後生活拠点としていただくお屋敷に案内します。それとこちらの方は、私と同じく皆様のお世話をしていただく人で、これから向かう、お屋敷の管理人のゼルファストさんです」
ゼルファストと紹介された男性は、一歩前に出ると一礼する。
「皆さん、ただいま紹介にあずかりましたゼルファストと申します。これから皆さんの身の回りのことを任されていますので、何かありましたらお声掛けください」
そう言って、音もなく再び下がる。
俺は、その男性の事が、少し気になった。元の世界で、義則の近くで似たような男性がよく居たことを思い出す。
その男性は義則曰く、情報通の構成員だとか言っていた。かなり信頼をしていたし、もしかしたらゼルファストという男性も義則の事を知っているかもしれないと、俺は直感的に思った。
俺は、この後ゼルファストさんに、それとなく義則を知っているか聞いてみることにした。
その後、俺達は再び荷馬車に乗り込み、これから生活拠点となる屋敷へと向かうのだった。
馬車に揺られること10分程度したころ、目的地となるお屋敷が荷馬車の窓から見え始めた。
ここで皆から驚きの声が上がるのだった。
見えてきたお屋敷は、まるで元の世界の温泉街にある旅館っぽかったのである。
「なんでこんなものが…」
驚きに包まれながら、馬車はお屋敷の敷地内へと入っていく。
荷馬車は、よくホテルや大き目の旅館などにある正面入り口前のロータリーに止まる。
荷馬車を降り、もう一度あたりを見回す。
お屋敷は、日本旅館のような瓦屋根で、周りの庭の様子も似たような感じである。
「皆さん。私について来てください」
ゼルファストさんが皆に声をかけ、皆を先導してお屋敷の中に入る。
中は、これまた外の様子と同じような景色が広がっている。
なんだか元の世界に戻ってきたような感じを感じながら、中を進む。
そして、ホテルにあるような大広間のような感じの部屋に通される。
「それでは少しの間、ここでお寛ぎください。もうすぐ主様がご到着されますので。これにて一度失礼」
そう言って、俺たちとセルフィさんを残し、ゼルファストさんは部屋を出て行った。
それから数分ばかりたった頃、部屋にゼルファストさんが戻ってきた。
「皆さんお待たせいたしました。これから皆さんの生活するこの屋敷の主である、ネリア・シャルティス・ドリュッセン様です」
そうして、開かれた扉から一人の女性が現れる。
身長は大体170センチ半ば程で、体つきはグラマラス。顔はかなりの美形で、目つきは少し鋭さがあるが、変に取っ付きにくくは感じさせなかった。
瞳の色は、ルビーのような鮮やかな赤色で、髪はプラチナブロンドで、背中半ばで切りそろえている。
服装はかなりラフな格好であった。いかにも異世界の話に出てくる冒険者みたいだった。
皆から感嘆の声が漏れ聞こえてくる。それはそうだろう。
プロポーションが良いだけではなく、全体的にしっかりとした印象を与えているからだ。
そして皆の視線が集まる中、部屋の中央にある壇上へと昇り、見回して皆が向いていることを確認すると話し始めた。
「えー皆さん。一応初めまして。この館の主のネリア・シャルティス・ドリュッセンです。今後ともよろしくね」
皆、一同に今聞こえてきた声に驚きを隠せずにいた。
それは、そうだろう。何せネリアさんから聞こえてきたのは、間違えなく日本語だったからだ。
「え…、日本語?」
それが、誰が発した言葉だったか定かではないが、最もこの場の皆の気持ちを代弁していた。
今までの翻訳魔法による聞こえ方とは明らかに違っていたのだ。
少しざわついていたのでネリアさんは話を止めていた。皆が再び静かになった所で話を再開した。
「一部の人は気づいてると思うけど、私は日本語を知っています。なので、何かあったら私に言ってくださいね。とまぁ、この話はいったん置いといて、これからのことを説明します」
そういうと、皆の座っている目の前にいきなりカギが現れた。
カギには一人ひとり別々の番号のタグが張り付けられている。
「今、みんなの目の前に出したカギは、これから君たちの部屋のカギです。なので、失くさないでおいてね。それから今回、男女で部屋の階層を分けているので、特に男子はあまりみだりに女子の階層には居ないことをおススメしておくよ」
「あと、これからの事は明日になったら話すので、今夜はゆっくりしていってね。夕食は部屋にあとでゼルファスト達に運ばせるから、各自の部屋で食べてね。食べ終わったら廊下に出しといてくれれば、こちらで片づけとくからそのようにね。それじゃ、あとの案内は任せたよ、ゼルファスト」
そう言って、ネリアさんは部屋を出て行った。これがネリアさんとの最初の出会いだった。