第23話 暴走する私の知らない私
跳びかかった何者かによって、奴は1歩後ろによろける。
何とか動けるまで回復した私は、その跳びかかったものを見やる。
「ネリア、なぜ…?」
何とそこには、今まで倒れていたネリアであった。
状況的に数分で意識を取り戻すはずはなかったのに。
ただ、彼女の実力が7歳という年齢にしては、かなり高いとはいえ、こいつにかなうものではない。
このままでは彼女が殺されてしまう。
まだ、ぎこちない動きしかできない状況だが、なんとしてもネリアを離れさせなければならない。
落ちていた得物を拾い、ネリアに腰付近に張り付かれ、何とか引きはがそうとしているところに向かって歩き始めた。
「く、しぶといですね。いい加減に離れなさい!まさか、主の力を注いでいるのに、こちら側に堕ちないだと!まさかこの私が見誤るとは!」
ネリアは一言もしゃべらず、ただ奴にしがみついたままである。
ただ、このままネリアに張り付かれたままだと、こちらも奴に対して手が出しにくい。
なんとしても引き剥がさなければならない。
慎重に近づこうとしたとき、何やら違和感を感じた。
先ほどの奴からの攻撃を受けた時の後遺症ではなく、また別の何かである。
感覚からいえば何かを抜き取られているような感じだ。
そんな違和感を感じつつ、じりじりと合間を詰めていく。
「こ、この!いい加減にしなさい。どのみちあなた方は、もう終わりなのですよ!」
ついに引き剥がし出来ないことに業を煮やして、直接的な行動に出始めた。
奴の手に人間ではありえないほどの魔力が集まる。
「やばい!」
隙を探っている状況ではなくなった。
急いで駆け出そうとしたとき、いきなり脱力感が襲い掛かってきた。
「何ですかこれは!?」
突然の脱力感のせいで私は、足を取られ転んでしまう。
何とか手をつこうとするが、それも失敗してしまう。
全く力が入らないのだ。
まさかこんな時にと思いながら、先ほど驚きの声を上げた奴とネリアの方を見る。
するとそこには、いつの間にか奴は私と同じように地面に倒れこんでいた。
ネリアはと、その姿を探すと奴の前に立ち尽くしていた。
「ネリア!大丈夫なのか?」
依然と俯き立ち尽くすネリアに声をかけるが、返答はない。
「くぅ、何なんですかあなたは!いったいどういう事なのですか!?なぜ主の因子を吹き込まれながら、まだ正の側にいるのですか!あり得ません、あり得ませんよ!」
全くどういう状況なのかは理解できないが、何やら最悪な状況だけはどうにかできたようだ。
といってもネリアは、未だに俯いたままで動こうとはしない。
そんな状況が十数秒は経っただろうか、今まで動こうとしなかったネリアが、腰に携えているナイフを鞘から抜き出し、倒れて何やら喚いている奴にゆっくりと1歩ずつ近づいていく。
「な、なにをするつもりですか!まさか私を!くそ!なんで動けないですか、力がすべて無くなるなんて!」
どうにも奴が動けなくなったのは、力が抜けたからだったのか。
となると、私の方も同じ状況になっているのは、もしかしたらこの現象は、ネリアのスキルのせいなのかもしれない。
そんなことを考えつつも、未だに動けずにいる私は、ただこうして見守る事しかできない。
ついにネリアは、奴の目の前に立つ。
「やめろ、やめるんだ!こんな事をしたところで、スタンピードは止まらないんですよ!いいのですか?このままだと……」
そこまで言ったところで、ついにネリアは手に持ったナイフを両手持ちし、高く振り上げる。
「死ね」
そう小さく呟き、手に持ったナイフを奴めがけて振り下ろした。
「がぁ、くぅ、こんなことで…、奪われ…る、なん…て……」
そして白づくめの奴は、ネリアに刺されたとたん、奴の厚みが無くなってゆく
刺され続けて30秒ほどでカランと音を立て仮面が落ちる。
どうやら最悪の事は終わったようだ。
ただ、いまだに体に力が入らず、それどころか先ほどにもまして力が抜けてくる。
「ね、ネリア!正気に戻れ!くぅぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
何とか最後の力で、ネリアに呼び掛けるも反応はない。
ついにここで、私の意識は途絶えたのだ。
未だに私は現状を理解できていない。
ひどい頭痛に見舞われたこと思いきや、気づいたときには、なぜか一切の体の自由がなかった。
それどころか、私の体は誰かによって操られてしまっている。
今は、どういう状況でこうなったのかは分からないが、白づくめの男の腰に張り付いているところである。
とにかく、いち早く体の自由を取り戻さなければならない。
そのためには、どうして体を乗っ取られたのかを、調べなければならない。
という事で、万理眼を使って自分を調べようとしたとき違和感に襲われる。
どうにも、いつもよりもスキルを使いにくく感じるのだ。
誰かに邪魔をされているという感じではなく、1人しか使えない物を強引に2人で押し合いへし合いして、強引に使っているような感じだ。
そんな感じなので、いつもより性能が落ちてしまっているようだが、今は使えることだけでも、ありがたい。
早速視てみるが、誰かに操られている様子はない。
どういうことだと思いながら、今度は体の状態を視てみる。
それでも一切の異常はみられない。
『どういうことだ?一切の異常も見られないなんて』
操られていないとなれば、何が原因なのかさっぱりわからない。
となると次の可能性だと、スキルにあるはずだ。
万理眼スキルがおかしかったことをみるに、可能性が高いとすればそこだろう。
という事で、スキルを確認してみると、スキルが万理眼スキルと神性スキル以外なかった。
『はぁ?まじか』
普通、所有するスキルが消えることはない。
可能性があるとしたら、自分のスキルに対して有効なスキルである、上位者スキルが何かしている場合だ。
急いで万理眼で上位者スキルを視てみる。
すると、上位者スキルに万理眼スキルの所有権を奪われそうになる。
急いで万理眼スキルで視ることをやめ、奪われるのを阻止する。
『当たりか』
これはまずいことになったな。
完全に上位者スキルが私自身の制御を離れ、暴走状態に陥っているようだ。
上位者スキルは、自身を上位とする事が出来るため、普通のやり方では対抗できない。
『まずい。それに周りもまずい。ガイル、倒れちゃったし』
先ほど万理眼スキルを使うのと同時に、ついでとばかりに周りの状況を探ったのだが、ガイルが今私の体が張り付いているコイツにやられ、身動きが出来なくなってから、再び動き始めたのだったのだが、暫くして力が抜けるように倒れたのだ。
どうやら私の暴走した上位者スキルに、体力や生命力を奪われてしまったようだ。
このままでは、ガイルが戦闘とは別に私のせいで死んでしまう。
それだけではなく、一緒に行動しているクラスの皆まで被害に遭ってしまう。
そんなこと許されるはずも無い。
どうにかできないか一度、自分自身に関することを、上位者スキルを除いて視てみることにする。
すると、ほとんど見れなくなっていた中で、唯一残っていたものがあった。
『妖艶なる女王…。これだけか。でも、なんで……、あっ!』
まさか、この称号が役に立つ時が来るとは。
それに上位者スキルは男性扱いなのか。
詳しいことは、何もかも終わった後に確認するとしよう。
それよりも、この現状を早く終わらせなくては。
どうやら上位者スキルは、この白づくめの男の事をものすごく恨んでいるようである。
「死ね」
そう言って、白づくめの男にナイフを刺した。
すると私に強烈に何かが流れ込んでくる。
万理眼で視れば黒い何かとしかわからなかった。
男の方はというと、私に黒い何かを抜き取られたせいで、どんどん体積をなくしていく。
そして、ついには白い外套と仮面を残し、何もかもが消え去った。
もしかしたら、この男を倒せば上位者スキルも止まるかなと期待したが、駄目だった。
ついに何とかここまで意識を保っていたガイルが、私に呼び掛けるも、そこで意識をなくしてしまった。
このままでは、本当にいけないところまで行ってしまう。
一途の望みをかけて妖艶なる女王の称号を強く意識して、万理眼スキルを使って上位者スキルに干渉する。
『いい加減に私のものとなれ!貴様のすべて、すべて私にゆだねろ!その血、その命、その恨み、その憎しみ、その心までも、すべて私に!』
そしてついに、私にすべてが戻ってくる感じがする。
すぐさま万理眼で視てみると、今まで視れなかったスキルや称号を、ちゃんと確認することが出来た。
そして、体の方もチャックして、すべてが問題ないことを確認すると、一気に力が抜けてきた。
そのまま崩れ落ちるかの如く、その場に座り込んだ。
体が私の意志の通りに動くことに、少しばかり感動していたが、ここで今すべきことを思い出す。
「ガイル!」
急いでガイルの下に走り、体をゆする。
「うっ、ね、ネリアか?」
「はい。ご迷惑おかけしました」
「はぁ、気にするな。今は非常事態だ。事故のようなものだ」
「分かりました」
ガイルは起き上がろうとするが、力が出ないのか、中々起き上がれなかった。
私は横からガイルを支え、立ち上がるのを手伝う。
立ち上がってから、ガイルは懐から何かを取り出し口の中に放り込む。
「それは?」
「これか?これは強壮剤だ。もしもの場合のやつだから、かなり効果はきついがな」
「そうですか。それでどうしますか?多分ですけどスタンピードの波が来るまでは、まだかかるとは思いますけど」
「あぁ、そうか。それなら対処するよりは早く、今は出よう。奴のせいで塞がれたところは、どうやら元に戻っているようだし」
「わかりました」
私は、静かにガイルを支えていた腕を離した。
少しばかり様子を見て、自力で歩けるところを確認して、皆のところに戻る。
「ネリア!」
戻ると一番にミランダにタックルを受ける。
「おっと!うん?あれ?」
「どうしたんですの、ネリア?」
「思ってた程の衝撃がなくて驚いていただけ」
「そうですの。もしかしたらかなりレベルが上がっているんじゃなくて?」
「レベルが?」
「えぇ、確認しては?」
「わかった」
ミランダに言われてレベルを確認する。
するとレベルがすでに20まで上がっていた。
「レベル20だったよ」
「本当ですの?それはすごいですわ!」
「なんか、ありがとう」
他のクラスメイトも驚いたような顔をしていた。
ただ、その中にはネリアなら当然だなという感じも混じっていた。
それはちょっとなんだかなという気持ちにはなったが、それよりも今は急ぐべきである。
「それよりも、今は一刻も早く出よう。ここにいたらスタンピードに巻き込まれてしまうから」
「わかりましたわ」
という事で、すぐさま私たちは迷宮の外へと急ぐのだった。




