第18話 彼女を迎えるために
ミセルとの誓いのやり取りを終え、これからの彼女の事について話し合う事になった。
「それで私はどうしたらよいでしょうか?」
「そうだね、ひとまずは今いる場所で。多分1週間で、あなたの受け入れ準備は終わるから、それまではバレないように頑張って」
「そうですか。わかりました」
「まぁ、何かあったらいけないから、あなたのマーカーはそのままにしておくね」
「ま、マーカー?」
そういえば私について詳しく説明していないことに気づく。せっかく説得用に用意してあった鑑定用紙を無駄にするところだった。
ミセルに私のステータスの表示された鑑定用紙を渡す。
「ミセル。あなたには一度私という者について詳しく教えておきます」
私が強めの口調で言うと、床に座り姿勢を正し、聞く体制になった。
聞く姿勢になったのを確認して話をし始める前にふと気づく。
そういえば彼女自身が、どこまで私の情報を持っているかを知らなかった。
最初にそれから聞くことにした。
「説明し始める前に確認しておきたいことがあります。ミセル。あなたは私の事についてどこまで知っているのです?」
それからミセルは彼女の知っている私の情報をすべて話してくれた。
内容としては特に真新しい情報は無かった。
転生者の可能性がある事。
そして、前世に裏側の事を知っている可能性が高いという事。
そんなことぐらいだ。上位者スキルや万理眼については全く情報が出回っていないようだ。
どうもギルドの支部長がギルド職員に対して口外しないようにかなり厳しく注意しているようだ。
使い方を間違えれば、かなり酷いことになるスキルだからだろう。
「よくわかった。ありがとう。それじゃ説明していこうか」
「お願いします」
それから上位者スキル、万理眼スキルなど、今まで公表してこなかった情報をすべて話した。
ミセルは呆けた顔をしたまま話を聞いていた。これは理解が追い付いていないだけのようだ。
「なんか、すごいという事だけわかりました」
「あ~、まぁ、今はそれでいいよ。無理をしなくても」
「わかりました」
「それじゃ、今日はこれでおしまい。あなたからは特にない?」
少しばかり考えてから1つ質問してきた。
「あの、1つだけいいですか?」
「いいよ」
「私に使ったスキルは、上位者スキルなんですよね?」
「ん?まぁ、そうだけど。なんでまた、そんなことを聞くんだい?」
「参考までに聞いておきたかったんです。あのタイプの相手に会った時にも」
「それは良いけど、私のスキルはかなり特殊だぞ。それでもか?」
「はい」
ミセルの決意は固いようだ。あまり参考にはならないだろうが、私自身を理解してもらうにはいいかもしれない。
「わかった。それじゃ、上位者スキルが相手に対して下位者、つまり被支配者になるようにするっていうのは説明したけど、その方法の第1段階として精神に作用するだけど。基本的にこの精神系のスキルに対して抵抗できれば問題ないだよ」
「精神系ですか。それだけでいいんですか?」
「あぁ、何せ上位者スキルの第2段階はえげつないからね」
「えげつない?」
「そう。強制的に相手を屈服させるものだから。相手により強い精神支配をして1回完全に相手の心を壊すものだから。それも、ほぼ防ぎようがないようなものだからね。気にする必要がないというわけさ」
「そ、それは確かに対策できなそうですね」
ちょっとミセルの表情が引きつっていたが、これは仕方ない。そういうスキルなのだから。
「というわけで、精神系の対策だけど。それには知っておかなきゃいけないことがある。まず精神といっても2つあるという事」
「2つというと裏とか表とかですか?」
「それに近いは近いけど、ちょっと違うかな。よく言う表の顔とかいうのは関係なくて、普通の精神系のスキルが作用するのが表層精神というモノ。簡単に言えば自覚できる精神という感じだね。それ以外のを深層精神というものだ」
「表層の方は普段考えていることとかですか?」
「そうだね。心のうちに秘めとく、とかいうのも表層の方だ。自分で認識できるものすべてが表層に入るという事だ。ここまでは大丈夫?」
「はい。何とか」
「それじゃ、深層の方だけど、これは表層とは逆に自己認識できない部分。つまりは本能に当たる部分だ」
「本能ですか?」
「そう、それも上位者スキルは、たとえ表層精神の方に防護用の術を張っていたとしても、ほとんど防護の使用ができない深層精神に対して直接働きかけるからね。これのせいで、いつのまにか、自分で思っていることと違う行動をしてしまうだよね。ミセルも実際に体験したからわかるでしょ」
「そうですね。自分では抵抗しようとしてるのに、なぜか従いたくなってしまったほどですから」
いったんここで少し喉が乾いてしまったので、部屋に備えつけられている水差しから、水をコップに汲み飲む。
「何かすみません」
「うん?」
「いえ、長々と話をさせてしまって」
「気にする必要は無いよ。こっちも好きで話してるんだから」
「わかりました」
そう、気にする必要は無いのだ。私がこの機会にコミュニケーションをとることによって、彼女からの印象を良くしておこう思ってしゃべっているのだから。
私のせいで途切れてしまったし、それにあまり長い時間ここにいるのもまずいだろう。
という事で、少しばかり巻で話すことにした。
「という事で精神に対して攻撃してくるものに対しての対策は、表層と深層どちらに対しても精神防護の魔法とかを掛けとくことかな。それと少し自分に対して自己暗示系の魔法をかけておくといいかもしれない」
「自己暗示ですか?あまり意味がないような……、あ、そうか自己暗示で自分という者を失わないようにすればよいのか」
「そう、自分はこういう人間だという感じの自己暗示をかけることによって、私の上位者スキルも少しは抵抗できるようになる。それでも気休め程度だけどね」
「それでも気休め程度なのですか。本当にすごいんですね上位者スキルというモノは」
彼女に少しばかり尊敬のまなざしが混じってきたが、私は少し苦笑するしかできなかった。
本当の事を言えば、このスキルはそんな優しいものではない。
私自身でもこのスキルを制御できていないように感じているのだから。
なにか私以外にもう一人の自分がいるような感じがするのだ。
それが何なのかは、まだわからない。それでもかなりヤバいという事は漠然と感じている。
この上位者スキルの厄介なところは、能力がすごいという他にもう1つある。
それが他人だけではなく、自分自身に対しても効果があるという事である。
そのせいで万理眼でも、このスキルのすべてを見通すことができていないのだから。
万理眼スキルのスキルレベルが低いのもあるかもしれないけど。
「という感じが精神系の対処法かな。だから精神防護の魔法を覚えるのが一番なんだよ。それはそうと、ミセルは魔法の方は得意かい?」
「得意というほどではありませんが、精神防護の魔法は出来るかといわれれば、なんとも言えないというのが実情です」
「そうか。それじゃいろいろ片付いたら私の祖母に会いに行こう。祖母なら、その魔法を使っていたから教わり行くのがいいだろう」
「わかりました。どれでは失礼します」
そう言って部屋を出て行こうとする彼女を私は止めた。
彼女自身の能力を疑っているわけではないが、念のためファスタを付けることにした。
「ちょっと待って。ミセルの能力を疑っているわけじゃないけど、出口までファスタに見送らせるから」
「そうですか、ありがとうございます」
近くで暇になって寝ていたファスタを小突いて起こし、彼女を見つからずに屋敷の外まで誘導するように言いつける。
「これからよろしくお願いします。ファスタ様」
「ミセルよ。我とおぬしとは立場が同じなのだ。だから様付けはしなくては良い。それの方が我も気楽なのでな」
「わかりましたファスタ。これでいいですか?」
「うむ。問題ない」
そんなやり取りをしながら帰っていった。
私は学院もあるので、サッサと寝ることにした。
それから1週間ほど色々とあった。
ミセルと別れたその次の夜にも再び、ミセルがやってきた。
どうやら、もう一度探してくるように言われたそうだ。
私はミセルを自分の部屋に案内して、そこで軽く彼女の今までの話を聞いて、この夜は終わった。
次の夜にはミセルではなく、別の暗殺者がやってきた。
面倒だったので、すべてファスタに対処を押し付けておいたので、特に私が困ることは無かった。
逆に言えばやってきた暗殺者の方がかわいそうだっただろう。
何せ相手は魔獣フェンリル。普通の暗殺者では全く歯が立たなかっただろう。
そんな感じでやってくる邪魔者を退けながら、私はミセルをわが家に迎える準備を着々と進めていた。
最初に彼女の奴隷としての所有権利を持っている人物を調べた。
すると幸運なことにこの商会の主ではなく、本店の店長が持っていた。
それの方が違法奴隷であるが事がバレた場合にも彼自身を切る捨てることによって、自分の方に被害が来ないようにしているのだろう。
このことは、こちらとしては面倒が少なくなるので良かった。
という事で、彼女の権利を買い取るためには、まず店長をどうにかする必要があるのだが、私は慎重を期すために店員の方を先に私の方に引きずり込むことにした。
そのために私は商会の本店に、学院が終わってから毎日通うことにした。
上位者スキルやその他の使える手段をすべて使ったおかげで、3日ほどで店長以外の従業員を私の配下にする事が出来た。
そして、それから店長を落とすのに3日ほどかかってしまった。
この店長、かなり私のスキルに抵抗してきたのだ。別の言い方をすれば金にうるさかった。
権利書の値段をかなり釣り上げてきたのだ。
最後の方はあまりやりたくはなかったが、上位者スキルの制限を少しばかり取り除いて、強制支配を使ってしまった。
そんなこんなで、7日目でついにダイタルカ商会からミセルの所有権利を買い取ることができた。
私は買い取ったその夜、ミセルにつけていたマーカーを経由してミセルを家まで呼んだ。
「よく来たね。これかミセルの奴隷の権利書だ」
私は、私の名前が書かれた権利書をミセルに渡した。
彼女は目じりにうっすらと涙を浮かべながら、権利書に目を通す。
すべて見てから私に返してくれた。
「はい。これで正式に私は、ネリア様のものです。これから長い間、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね、ミセル。それじゃこれからミセルの奴隷の身分から解放するね」
「え?」
私の言葉に不安そうな顔をするミセルに、私は微笑みなら答える。
「別に捨てるとかそういうのじゃないから安心して。このままじゃ違法奴隷のままだから、問題がないようにするために解放するだけだから」
「あ、すみません。私としたことが」
「謝ることじゃないよ。私が説明不足だった、だけなんだから」
「はい」
「じゃ、奴隷解放をするよ」
そう言って、私は奴隷契約の書類に手を置き、魔力を書類に書かれた魔法陣に流す。
「私、ネリア・シャルティス・ドリュッセンが、奴隷ミセルを現時点をもって、奴隷の身分から解放する」
そう宣言すると魔法陣が輝き、それから紙全体へと輝きが広がっていく。
そうして紙全体に輝きまわると、次の瞬間には権利書は光の粒子となって消えていく。
こうしてミセルに対してかかっていた奴隷契約は、完全にその効力を失ったのだ。
「これで終わり。これから父に君の事を紹介したいから、これに着替えてくれる?」
そう言って、私はミセルにメイド服を手渡す。
彼女は私から服を受け取ると、頭を下げて礼を言う。
「本当にありがとうございました」
「ん。それじゃ、着替えはそこのつい立ての裏でお願いね」
彼女はもう一度、礼をしてから着替えるためについ立ての方に走っていく。
そんな彼女の尻尾は嬉しそうに揺れていたのだった。
話はこれから、ダイタルカ商会を潰す話になります。
それが終わったら2章前部のクライマックスに入っていきます。
それからタイトル修正しました。
いまだに仮題扱いですけど。




