第2話 越える狭間に失うもの
光が収まるとそこは、今まで見たことのない部屋であった。前方には祭壇らしきものがあり、松明によって照らされている。
「ここが異世界…」
皆が呆けていると、後ろの方からガチャガチャと小さく金属の擦れ合う音が響いてくる。しばらくすると軽装の革鎧をまとった一団が現れた。
『召喚者達を発見』
やってきた人たちの中で一人が何かの板らしきものに話しかけている。どうも何かの通信機らしい。
周りの雰囲気が中世っぽい割に技術的には、それなりに高度なのかもしれない。しかし何を喋っているのかは分からなかった。
この手のお決まりとして何を喋っているのかとかが、分かるとかは無いようだ。
そのうち何かしらの報告を終え、彼らのうちの一人、他の人たちとはまた違った兵装の人が現れる。手には杖らしきものを持っているところから、魔法使いとか魔術師みたいだ。
俺たちの近くまで来ると呪文らしきものを唱える。それから俺らに語り掛けてきた。
「えーと、皆さん。私の話していることが分かりますか?」
口元を見ると聞こえてくる内容と、口元の動きが違う。どうも翻訳の魔法を使って話しかけているようだ。
皆が驚きの表情を浮かべていると、彼はこちらにちゃんと話が通じといるとわかったようで、さらに続けてくる。
「よかった。ちゃんと通じているようですね。あと、先に謝っておくと、この翻訳の魔法は一方通行でして、皆さんが話す言葉が分からないんです。すみません。」
翻訳の魔法は、どうやら俺たちが思っていたより、そこまで万能ではないようだ。
「えーと、とりあえず皆さんには巫女様が到着するまで少し、ここで待っていてもらいます。どうやら今回の召喚の儀で大きな問題が発生したようでして、女神メルスティー様からお話があるそうなので」
そう言って彼はまた先ほどの集団へと戻って行った。その様子をぼーっと見ながら、俺は先ほどの言葉をもう一度確かめてみる。何か先ほどの言葉に引っ掛かりを覚えていたのだ。
さっき何を言っていた?確か、召喚の儀に大きな問題が発生したとかなんとか…。
「はっ!大きな問題?」
俺が突然大きな声で話したことで、皆の視線が集まる。そして俺はあたりを見回す。皆、俺のことを怪訝な顔つきで見てくるが、ここで俺は気づいてしまった。足りないのだ。
俺は急いでそこに居る人数を数える。そう、一人足りない。どう数えても42人しかいないのだ。
確か、この場所に来る前の女神と会ったところでは43人いたはずなのだ。誰がいないか確かめる。
「先生もいるし、委員長もいる。あとは…。嘘だろ」
俺は、あまり受け入れたくなかった。そう、探しても見当たらない最後の一人は、俺の親友の日ノ和義則だった。
それからの少しの間の記憶がなかった。気づいた時には、床に肘をつけていた。
「だ、大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。ちょっと動転してたけど、もう大丈夫。心配してくれてありがとう」
心配して声をかけてくれたクラスメイトにお礼を言い、立ち上がる。動転してしまったが、あいつならもし何かあっても何か違う形でどうにかしている可能性が高い。
そのうち薄いベールを被った女性が、護衛と思われる人たちと現れる。彼女が巫女らしい。
「皆さん初めまして。私が女神メルスティー様の巫女を務めていますセルフィと申します。今後何かありましたら私に相談してもらえれば、微力ながらお手伝いさせていただきます」
そう挨拶してから、今度は申し訳ない顔をしてから頭を下げてきた。
「それから、皆様には我々が至らないばかりで、おひとり召喚失敗で亡くなってしましました。大変申し訳ございません」
そう言って、そのまま土下座までして謝ってきた。みんな動揺してどうしていいのか、うろたえるばかり。先生はその言葉を聞いて崩れ落ちている。すぐさま、近くに居た女子が慰めている。
それからこの場が収まるのに数刻の時を要した。とりあえずその場が落ち着くとセルフィさんは立ち上がり、何かのつぶやくと、そのまま目をつぶる。
すると今まで感じていた雰囲気が変わり、再び目を開けたとき瞳の色が赤から青色へと変わっていた。
「皆さん、先ほどぶりですが、女神のメルスティーです。巫女の体を借りて皆さんに話しかけています。とりあえず、事の顛末について話させてもらいます」
話によれば、召喚中に何者かの横やりが入り、最初に呼び出された空間の魔法陣が破棄されたらしい。そのせいで時空間の転送中の保護機構がなくなってしまったらしい。そのせいで最後の転送であった義則が犠牲になってしまったのだ。
女神は、この事態にすぐさま上役の神に救済措置を頼んだらしい。そうして義則は、こちらの世界へと転生されることになったそうだ。
「転生については本人の意志を確認のうえ行ったそうです。ただ今後、彼に再び会えるかは私の方では分かりません。今回の転生は、かなりイレギュラーだったので、いつ、どこで、どんな種族に生まれかが一切分からないのです。なので、運が良ければ……。と皆さん、ちょっと待ってください。…え、そうですか。わかりました。伝えておきます」
何やら誰かから連絡があったようだ。女神はゴホンと咳払いをしつつ話を再開した。
「えっと、今、転生を担当した上役から連絡をもらいまして、日ノ和さんとは、すぐに会えるだろうとのことです。先ほど話した通りに、転生後のことについては私も知らないので、いつ、どうのようにして会えるかまでは」
連絡の内容は義則とすぐに再会できるとのことだった。ただ今回の転生がイレギュラーだったせいで、義則の転生後の姿はわからない。まぁ、あいつのことだ、必ず会いに来るだろうし。
こうして、要件を伝え終わった女神が戻ったらしく、セルフィさんの目の色がもとに戻っていた。
「それでは皆様、国王陛下よりご挨拶がしたいとのことで、これから一度、王城に向かいますので、私についてきてください」
ということで、セルフィさんに導かれるまま建物を出る。外には何台かの荷馬車が止まっていた。それぞれ分かれて荷馬車に乗ると、一路王城に向けて動きだした。