第14話 学院生活のこれから
私は学院長からの手紙に同封してあった学院内の地図を頼りに歩いている。
学院は特別教育学部のほかに普通教育学部や研究学部といった感じに、いろいろな学部があり、かなりの敷地面積を誇る。
さすがは国立で運営されているとだけあって、立派なものである。
そして今、ホームルームから彼此30分ぐらい歩いているがいまだに学院長室にたどり着けていなかった。
「何ここ。建物は複雑に絡み合って迷路のようになっているし、かといって外側を歩こうにもかなりかかるし、全く。第一、案内板らしきものが一切ないってどういうこと?」
そう、こういう大きな所ならありそうなものが、先ほどから探しているのだが、全く見当たらないのだ。普通、それぐらい用意しておくべきだろう。
とまぁ、いろいろ愚痴りながらも、これからの事を考えながら学院内を進む。
それから程なくして目的の学院長室のある建物、中央学務棟にたどり着く。
中に入り、正面に見える受付へと向かう。
「すみません。学院長に呼ばれているんですが、学院長室はどこにありますか?」
「学院長室は、この奥の階段を上がってすぐ目の前の部屋です。それとこの中央学務棟にいる間は、このカードを首にかけておいてください。出るときは、ここで返却してもらいます」
「わかりました。ありがとうございます」
受付で学院長室の場所を聞き出して、その際に渡されてカードを見る。
カードには来客用と書かれている。
「来客用とか。この辺はなんか似てるな」
と、ちょっとしみじみしながら、カードを首から下げ、階段を上り、学院長室と書かれた扉を前に立つ。
そして、ひと呼吸してから扉をノックする。
「どうぞ。入り給え」
「失礼します」
扉を開けると、中央の豪勢な机に初老の白いひげが特徴の男性と、その後ろ左後方に静かに立つ秘書風の女性が1人いる。
私は学院長の前にまで行き、挨拶をする。
「初めまして、今年度この学院に入学しました、ネリア・シャルティス・ドリュッセンです。今後ともよろしくお願いいたします」
「ふむ。こちらこそよろしく、だね。儂がこの学院の長を務めているボルドワール・シュペルだ。呼び立てて済まないね、ネリア君」
「いえ」
「まぁ、これから話を聞くにあたって立ちながら、というのもアレだ。そこのソファーにでも掛けたまえ」
「はい」
学院長に促され、近くに置いてあるソファーに腰掛ける。
学院長も座っていたし巣から立ち上がり、私の対面のソファーに座る。
私たちが座ると、先ほど学院長の後ろで控えていた女性が、カップを2つ持ってやってきた。
「どうぞ。熱いですから気を付けて」
そう言ってお茶の入ったカップを私の目の前のテーブルに置く。もう1つは学院長の前に置くとお辞儀をして、学院長室から出て行った。
2人だけとなり、学院長がお茶を飲む。
「ネリア君も飲んで構わぬぞ」
「それじゃ失礼して」
カップを取り、においを嗅ぐ。紅茶のいい香りが広がる。それから一口飲むと、前世では飲んだことのないほど、美味しい紅茶だった。
「美味しいですね。ここまで美味しいのは初めて飲みました」
「そうか。それはよかった。先ほどの女性、トリスというんだが、彼女は大の紅茶好きでね、かなりうるさいんだ。まぁ、よかった。あとで君が美味しいと言っていたことを伝えておこう。彼女も喜ぶだろう」
私たちが紅茶で一息ついた後、私から話し始めることにする。
「それで学院長?どのような用件で私を呼んだのでしょう?」
「うん、それはだな、君がかなり優秀なので、他の子とはかなり違うことになってしまうからね。これかのカリキュラムを組むにあったって一度、直接君と話したうえで決めようかと思っているのだ」
「そうだったのですか」
「それで君は今のところ、どうしたいと考えているのかね?」
そう聞かれ、一度考えてみる。
約3年間は体育と魔導学の授業以外受ける必要性は無い。
そうなってくると、ほとんど学院でやることがなくなってしまう。
確かに、そのままではまずいのかもしれない。
とそうすると、この空いた時間をどのように活用していくのかが問題となってくる。
自主学習をするのもいいが、それだとなんだか途中で妻在らなくなってくるだろう。
かといって今現在何かするべきことがあるかといえば、特に無いというのが今の状態である。
考え込んでいると学院長が何個かの例えを出す。
「あまり難しく考える必要は無い。そうだね。たとえでいうならば、いっその事、研究室でも持つかね?
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。入ったばかりの学生に研究室?何を研究しろというのだろうか?
私が固まっていると、こちらの様子に気づいて慌てて言い直す。
「いや、あくまでたとえでだ。研究といっても何も実際に何かしろというわけでは無い。単純に自分専用の学習部屋とでも思ってくれと良い」
「勉強部屋ですか?」
「そうじゃ。研究室を持てば、自分専用の資料とか置く場所とかが出来るじゃろう。ホームルームでは個人用のものは基本的に無いからのう」
「そういう個人的なことに使ってもいいんですか?」
「もちろん、この儂が保証しよう。それに魔導学の学習も進めば、何かしろの研究したいことも見つかる事だろうしな」
「それもそうですね」
「まぁ、あくまでも一例だ。ほかにも他の学部の授業に出ても構わぬぞ」
今までの話の中で一番魅力的なのは研究室だろう。何か研究する必要がなく、自分の好きなように使える部屋が学院にあるという事は、これから何かするにも良い。
「それでは学院長。研究室を一つ貰えますか?」
「わかった。それではどこか良い場所が無いか探しておこう。ただ、研究室ばかりに籠るとこは無いようにのう」
「わかっています。授業の事もありますから」
「うむ。場所としてはホームルームの近場に取れるようにはしておこう」
「ありがとうございます。ここまでしてもらって、なんだか申し訳なってきます」
「何、これも優秀な生徒に投資しておくのも学院の務めだ。気にする必要は無いぞ」
「ありがとうございます」
ここで紅茶を飲んで、のどを潤す。私は学院長という、この学院のトップと機知になれたことに感謝しつつ、ここで一つお願いをしてみることにした。
「あの、学院長。一つ今までの話とは別件なのですが、お話よろしいでしょうか?」
「構わぬよ。それで何かな?」
「はい。実はですね……」
それから約1時間近くにも亘って話をした。かなり有意義な時間を過ごすことができた。
今の時間は15の刻ごろ。私は1人自宅への帰路についていた。
私の場合は自宅へと戻っているが、ほとんどの学生は地方などから出てきているために、基本的に寮生活となる。
私としては寮の方でもよいのだが、これからのことを考えると自宅の方がいいために自宅通いとなった。
それに寮では、従魔を連れて入ることができないというのも一つの理由だが、一番の理由としては私がこれからする計画に自宅の方が都合がよいからである。
その計画とはズバリ、自分だけの手足となる者達をスカウトするという計画である。
といっても身の回りの世話役が欲しいとかではない。もっと違うことである。
たとえでいえば情報を集めてくるとか、私がしたいことをやっているうちに別の事を進めるための人員である。
普段はメイドか、執事でもやってもらおうかとは考えているが。
「うん?」
どの様にしようかと考えていると向こうから1人、歩いてくる人物を発見する。
私の頭の中に衝撃が走ったように感じられた。
「これはイケる!」
早速、私は家に戻るという行動をキャンセルし、新たなるミッションへと移行する。
すぐさま、私は隠蔽スキルを最大にし、さらに自分の魔力、気、などを体の内に内包するようにし、さらにおまけとばかりに気配を消し、彼女の後を追う。
それから私は、時折消している気配を出してみたりして彼女の様子をうかがう。
すると私が数回ばかり気配を出したり、消したりしていると、ここで違和感に気づいたのだろう。一度立ち止まり、周りをきょろきょろと探り出した。
それで以上が見つからず、また彼女は歩き出す。
今度は私の方に何かしろの魔力を向けだした。どうやら探知系の魔法を使用しているようだ。かなり微弱な魔力反応から、どうやら彼女はそれなりの使い手であることが分かる。
ここで私はひとつ、採用試験をすることにする。
今度はわざと彼女が気付けるように隠蔽スキルを消し、さらには今まで消していた気配を全開に、これでもかとわかるようにする。
すると彼女はこちらをチラリと見た。どうやら気づいてもらえたようだ。
それからずーっと彼女を追跡する。わざと追跡されているとわかるように。
私ぐらいの子供がストーキングをしているとわかれば、どのように対応してくるのか楽しみである。
単なる子供のお遊びか、それとも別の何か、か。それをどう判断するかによって、こちらとしてもいろいろと対応が変わってくる。
さぁ、どうするのかな、彼女は。
「あ~、今日は誰かいるのかな?」
どうやらまずは子供のお遊びの方から当たってみるとこにしたようだ。もちろんそんなことで私はストーキングはやめないが。
これでも逃げる様子がないと悟ったらしく、彼女は次に行動に移る。
曲がり角を何度も曲がるようにする。さらに途中から少し早歩きとなって、どうやら私を撒くことにしたようだ。
もちろんそんなことで私を撒けるはずも無く。ついに立ち止まった。
ここで私は今までの早歩きのまま、彼女が振り返る寸前に隠蔽スキルを全開にして彼女の横を横切る。
「え?」
後ろから彼女の不思議がる声を聴きながら、私は心の中で合格だよと、つぶやきながらその場を後にする。
少し離れてから私は彼女に対して万理眼を発動させる。
「名前はミセル。獣人族の白狼族か。年齢は16歳。今の所属はダイタルカ商会か。これは好都合。あの真っ黒な商会の暗殺者か。あの商会なら邪魔だし消しても問題無いかな。それの方が世界のためにもなるしね」
私はミセルにマーカーを打ち込み、問題無いかを確認してから再び自宅へと帰ることにした。
今日はかなりの収穫を得て、いい気分になりながら、明日からの事に思いをはせるのだった。