第13話 友達が出来るまで
予告通りに2章の始まりです。
試験を受けてから数か月。
冬も終わり、春の優しい風と共に、新たな息吹が各地で芽吹く時期。
私ことネリア・シャルティス・ドリュッセンは、ついに今世にて、初めての学校生活の始まりの日を迎えていた。
ここは王都の東に位置する学園区。国内有数の学校や研究機関が集まっている。
ここの中央にそびえるのがミドルテッシモ王国国立中央学院。
私は、ここの特別教育学部へと入学するのだ。
特別教育学部は年齢に対して教育度合いが進んでいる子供の専用の学部である。
当然、この学部に入る人たちは、お金持ちのクラスとなる。一部は独学で試験を突破してくる本当の天才もいるが。
それはさておき。結局のところ、このクラスの中はお貴族様と大手の商会のご子息、ご息女が多くいることになる。
そうすると出てくるのが派閥というものである。
一応この学院では、あらゆる性別、地位、種族関係無く平等であるという事にはなっているが、やはりそこは人の子。
派閥という名の一種のヒエラルキーができてしまう。
この派閥がかなり厄介であることは言わずもがな。ただ、今年の入学生に、この国の王族がいないだけましではあるが。
私は、ある意味この魔境に近い何かに、かなり親近感を覚える。
さらに集まっているのは、かなりプライドがお高い、お貴族様たちである。私の知っている派閥争いとは勝手が違うだろうが、まぁ大丈夫だろう。
それより私にとって、一番大事なことは、友達を作ることである。
前世に全く友達がいなかったわけではない。かといって、たくさん居たかといえばそれも否だ。
特に親友ともいえる人は、佐貫川仁良だけである。
ほかの友達は、知り合い以上、親友未満が数人。簡単に言えばクラスの中で親しい人たちのことである。それ以外では、友達という名の舎弟が多数である。
この友達という名の舎弟は、いつの間にか大量増殖していたものだ。
どうも前世の日ノ和義則という人間の顔は、不良共にとって与しやすく見えるようで、よく絡まれていた。
そのたびに前世の祖父で、現代のぬらりひょん、なんていうあだ名を持っていた、とても人の心の隙間に入り込むのが非常にうまかった、じいさん直伝の方法で次から次へと増えていったのだ。
そんなわけで、私にとって本当の友達作りは非常に重要なことなのである。
という事で私は入学式という名の一種の苦行を終え、これから長い期間を過ごすこととなるホームルームへと向かう。
ホームルームとは前世にあるクラスで行う連絡事項の伝達とか、クラスでの話し合いを行う時間とかいうものではなく、文字通りに、このクラスのホームとなる部屋という意味である。
このホームルームは、特別教育学部の学生生活の起点となる部屋で、前世でいえば自分の所属するクラスの部屋となる。ただ、違うことといえば、この部屋では授業を行わないという事である。
授業は、クラスの中でもそれぞれ受ける科目や教育課程が異なるため、それぞれ必要な授業を受けに行くという形をとっている。
そのため、このホームルームでは授業以外の事をやるための部屋なのである。
という感じで、私達が過ごす第327期特別教育学生のホームルームの部屋の前まで来た。
部屋の入り口には、とりあえずの座席表が貼ってある。
座席表を確認すると私の席は、何の因果かは知らないが、ちょうどど真ん中の席になっていた。
「う~ん。真ん中かぁ。何か嫌なんだよね、真ん中の席って。全方位からちょうど均等に感じる視線というのがねぇ。私って、どうしても注目を集めてしまいそうだし」
と愚痴ったところで何も始まらないので、さっそく部屋の中へと入る。
部屋の中は、よく大学の大型の教室のように、一番前に黒板が設置してあり、座席は階段状に並んでいる。
ただし、座席自体は大学の教室のように長机というわけではなく、それぞれ一つ一つ独立して設置されており、大型の部屋全体に均等に配置されてある。
さらに部屋の調度品から内装に机も含めて、かなりのいい品を使っている。
やはりこのことからもこのクラスの人間の種類というものが分かってくる。
私がホームルームに入ってから数分すると、このクラスに所属する者達がそろった。
さらにそれから数分が経ち、このクラスを受け持つ担当教員が現れた。
現れた教員は人族の若い女性で、第一印象はおっとりとした感じの人である。
黒板前の教壇に立つと、一通り部屋を見渡し、確認を終えると自己紹介から始めた。
「え~と、皆さん始めまして。私はこの特別教育学部第327期生の担当になりましたミーナス・セルシファイトといいます。これから皆さん卒業までよろしくお願いしますね」
声まで雰囲気合った、おっとりと優しげな声である。
と、担当教員のことはここまでとして、次の話は、このクラスのことについての説明である。
「この特別教育学部では、基本的に各個人によってその時間割が大きく変わってきます。なので、これから簡単な説明の後、名前を呼びます。そこで各個人の時間割を渡すことになるので、取りに来てください。その時に個別の質問を受け付けるますので、今は、全体に関する質問だけ受け付けます。何かありますか?」
特に誰からも質問は出なかった。一応、入学前にこの事は、それぞれの学生に前もって伝えられていたからだ。
「特に質問がないようなので呼ばれた人から前に来てください」
こうして順々に名前が呼ばれていく。そして私の番となる。
「じゃあ、次は。うん?これは……。と、とりあえずネリア・シャルティス・ドリュッセンさん。前に出てきてください」
呼ばれたので席を立ち教壇前へと出る。
「え~と。ネリアさんは……。とりあえず、これがあなたの時間割になります。えーと、体育以外授業がありませんけど」
といって渡された時間割を確認する。確かに時間割には、週2回ある体育以外何も書いていなかった。
「えーと、これはどうすれば?」
「そうですね……、なんといえばよいのか……。あっ、確かほかにも渡されていたような」
そう言って持ち物の中を探す、ミーナス学級担任。
「あ、あった。えーと学院長からの手紙なので、これを読んでから今日のことが終わったら来てほしいとのことでした。とりあえずは、これで以上です。席に戻っていいですよ」
「わかりました」
という事で、学院長の手紙と時間割を受け取ると、自分の席へと戻る。
戻る際、部屋の中の視線が私に集まる。これは後で何かありそうな感じである。中にはかなり不穏当な視線も感じる。それと1つ、かなりほかの人より強い視線があることに気づく。
その視線を追うと、赤毛の女子であった。
あまり不躾に見るのもアレなので、顔は動かさず目だけ動かし、ちらりと確認する。
すると先ほどの赤毛の女子は、私の視線に気づいたのか、慌てて顔をそむける。
一瞬の事ではあったが、顔がほんのりとだが赤づいていた。多分だが、多分恥ずかしかったのだろう。私をかなりジトっと見ていたことが。
これは後で何かありそうだなと思いながら席につく。
それから時間割の配布の間、ちょこちょこと先ほどの女子からの視線を感じる。
この様子から私にかなり興味があるみたいだ。
それならちょうどいい。これは親しくなるチャンスである。
それに、こちらからモーションを掛けなくても自ずと彼女自身から来てくれるであろう。
そんなことを考えてる間に、どうも時間割を全員に配り終えたようだ。
「それでは今日は、これで以上となります。これから詳しいことは明日以降に順々に済ませていきますのでよろしくお願いします」
そう言ってミーナス学級担任はホームルームを後にする。
それと同時に回りがざわつき始める。
そう、私達学生にとって、今日の本当の大事なことは、これからの放課後にある。
それはもちろん、派閥作りである。
これに失敗すると、これからの学生生活にかなり大きなハンデを追うことになるからだ。
それぞれ事前に仕入れていた情報をもとに、上級貴族たちが動き出す。
そんな中、私はというと回りにはどれも近寄ってこない。
それは私が学院長の手紙を確認しているという事もあるのだろうが、多分それ以外のことで近寄ってこないのだろう。
憶測でしかないが、多分私のことをよくわかっていないからだろう。
それもそのはず。今まで他の貴族連中が手にするだろう情報網に、なるべく私という情報が流れないようにしてきたからだ。
例えば、街中にいる間も常に偽装スキルや隠蔽スキルなどを使って、あまり私という存在を薄くしていたからだ。
そのせいで彼らは、私に関する碌な情報を持っていないはずだ。なので、どういった方法でアプローチをするかわからない為に、様子見をしているのだろう。
そんな中、先ほどからじーと私の様子をうかがっているものが1人。言わずもがな、先ほどの赤毛の女子である。
どうも私が手紙を読み終えるのを待っているようだ。
「ふ~ん、詳しい説明をするので来てください、か。なるほどね」
とりあえず内容の確認は終えたので、手紙を折りたたんで、入れてあった封筒に戻す。
戻した手紙をカバンの中に入れると、近づいてくる気配が1つ。
それと同時に周りの人たちの視線も、こちらに向いてくる。
「ちょっといいかしら、あなた?」
透き通るような声に、私は声の主の方に顔を向ける。
かなりの美少女であった。赤髪からチラリと覗くその耳は、私と同様に尖っていた。
という事は十中八九、留学生であろう。
なぜかといえば、この国でエルフの住む場所はシャルティス村だけであり、私はその全員の顔を覚えてるので、そこにない顔で、このクラスに入れるとしたら他国のエルフだという事になるからだ。
「ええ。いいですよ」
私がこう答えると、彼女は嬉しそうな顔になる。
それから自信ありげに胸を張ると自己紹介してくる。
「そう、それなら私の名を聞きなさい。私こそエルフ唯一の独立国、マルテリィーア王女、ミランダ・マルテリィーア・シャンセンですわ!それであなたの名前は?」
「私は、ネリア・シャルティス・ドリュッセンといいます。えーと、よろしく?」
「えぇ、私こそよろしくですわ。ネリアと呼んでもよくて?」
そういうとミランダは手を出してきた。
「もちろん」
そう返して、私は彼女の手を握る。
そう、これは間違いなく友達なれそうな感じである。
「それでは自己紹介もお互い済んだことですし、ネリアもこれから用事がある様子。なので、今日はこれで失礼します。今後とも良き関係で居れるよう期待してますわ。それではごきげんよう」
そう言って彼女はホームルームを出て行った。スキップしながら。
うん、これは間違いなく友達まで行けそうである。
私も席を立つ。これから学院長のところまで、行かなければならないからだ。
心なしか晴れやかな気分で、私もホームルームを後にするであった。




