第12話 幕間 支部長ガイルのモノローグ
今回から更新曜日を金曜に変更します。
それと結局、幕間入れます。
ここはミドルテッシモ王国王都。
王都といっても都市名は無く、王都と呼ばれている。
その昔、建国時に王都の名前を決めようとしたが、いろいろ揉めに揉めまくって結局、名前が決まらずとりあえず王都と呼ぶことに決まったとされている都市である。
そんな都市の中央区の一角に国際ギルド連合が直接運営する冒険者ギルド、ミドルテッシモ王国王都支部がある。
この支部の特徴といえばズバリ、変人、奇人、変態の巣窟であるという事だ。
特にSランク冒険者といわれている人物達が多く所属しているのである。
ただし、このSランク冒険者達は一癖も二癖もある奴らばかりである。
当然こういった人々が多く所属するとあって、ギルド内は頻繁に問題ごとが発生するのである。
そして今日もやはり問題が発生する……。
私は国際ギルド連合直轄冒険者ギルド、ミドルテッシモ王国王都支部、支部長のガイルだ。
この支部には世界中の同直轄ギルドの中でも最も、多くの冒険者が所属するギルでではある。
もちろんそれに合わせて非常に優秀な人材も多いのだが、それに比例するがごとく問題児が多いのも事実だ。
例えば、Sランクでいえば、少し前にギルド内でもめていた二人なんかがいい例だろう。ただし片方は元冒険者となるが。
一人は本当の年齢が29歳なのだが、見た目からよく30代ギリギリに見られる老け顔の男。名をスメイル。
腕は確かなのだが、素行が悪く、チンピラ風のひげ面で、さらに人によっては中年に見られやすい顔とあまりいい冒険者ではない。
そしてもう一人は元Sランク冒険者で、今は宮廷魔導士団の団長についている、エルフの女性。名は、ネイシア・シャルティス・ドリュッセン。いわゆるお貴族様である。
見てくれは、さすがエルフというだけあって非常に綺麗なのだが、問題は魔法を使用するときである。
彼女はとにかく派手な爆発系を好んで使うため、うかつにも彼女に近づこうものなら、爆発系魔法の餌食となって、たくさんの負傷者が発生するほどである。
その為、ついた二つ名が爆炎の魔女である。
まぁ、つい最近話題に上がった二人を例にしたが、その他にもありとあらゆる変態、奇人が勢ぞろいしている。
こんなのが多いせいで、私の気苦労が絶えない。
でだ。こんなギルドについ最近、期待の新人といってもまだ年齢的な問題から正式加入という訳ではないのだが、加入した。その名は、ネリア・シャルティス・ドリュッセン。
名前からわかる通り、ネイシア・シャルティス・ドリュッセンの娘だ。
彼女と知り合ったのは、彼女が5歳の誕生日の時に受けることになっている、能力調査の時であった。
まず驚いたのは、そのステータスであった。
ハイエルフであったのも驚きなのだが、一番の驚きといえばスキルの方である。
5歳になったばかりとは思えない数のスキル。それも大部分のスキルが高レベルだったのだ。
さらに一部のスキルは、特級の鑑定用紙でもわからないスキルがあったりもした。
この結果から、私は彼女が転生者といわれるものであると確信した。
転生者とは通常、輪廻転生時に魂が消費していった魂霊エネルギーを補充する際、今まで魂に記録されていた経験や記憶が抹消されるらしいが、その際に何らかの問題でその抹消がされずに転生する者達である。
転生者は最初から経験やスキルの熟練度が高く、冒険者となればすぐに高ランクへと上がれること間違いない。といっても年齢が経験に対して若すぎれば生かしきれないことが多くはなるが。
それでも有能であることは間違いないので、今回の加入は非常に有意義なものであろう。
ただ、彼女は多彩なスキルを持っているのだが、どうも変な偏りがあった。
武器術、体術なんかはまだわかるのだが、隠蔽、懐柔、警戒、偽装スキルなんて裏の人間が持っているスキル群である。
彼女の前世は少なくともあまり良いものでは無かったのではないか。あまり詮索しすぎるのも失礼なので、この辺の話はこれでお終いとしよう。
次に彼女と出会ったのは、それから1年以上たった12の月だった。
この時は彼女のギルドの加盟と従魔の登録であった。
この時初めて彼女の実力を知る機会を得たのだ。
ギルドの加盟にするとき行われるのは、その人となりを確認するための面談と、その人の実力や特技などを直接確かめる模擬戦の二つである。
彼女の場合、まだギルドで仕事を受注するわけではない為、必要なのは面談だけなのだが、模擬戦の方もやるのかと尋ねたところ、模擬戦の方も行うという事になった。
そのため模擬戦を実施するためにギルド裏に併設されている訓練施設へと場所を変える。
訓練施設の一角にある多目的訓練所で行うこととなった。ここはこの施設の中で一番大きなもので、よほどのことがない限り全力を出すこともできる場所である。
到着すると、まずは彼女に模擬戦の準備をしてもらう。私はここで彼女と別れて、こちら側の準備をすます。
準備といっても特にやることは無い。取りあえず標準的な模擬直剣と小さめのラウンドシールドをもち訓練場に出る。
鎧類を装備しないのはギルドの制服は緊急時にそのままでも戦闘が行えるように多重の防護用陣が仕込まれている。
なので模擬戦には、これだけでよいのだ。
訓練所に先に出て待っていると、数分後に彼女も出てきた。
出てきた彼女は、防具は革製の胸当てのみで、武器に小ぶりの模擬ナイフを2本装備するのみだった。
「お、準備ができたようだな。それにしても、そんな軽装でいいのか?まぁ、その体格では重装は、無理があるから問題はないが、大丈夫かい?」
軽装のことを聞いてみたが、大丈夫だという事で早速始めることとなった。
「それじゃ、いつでもいいぞ」
彼女はこの言葉の後、私を見つめる。こちらの様子をうかがっているようだ。
「それじゃ行きます」
その一言のあと、彼女は手に持ったナイフを左手は逆手で右手は通常の持ち方で構える。
私は盾を前に出して構え、いつでも来られるようにする。
こちらが構えると彼女はこちらに向けて走り出す。
まずは様子見という事だろう。そんな風に思っているとそれは当然だった。
「なっ!」
いきなり彼女の姿が消えたのだ。
その瞬間から頭の中が何か靄にかかったように考えが上手くまとまらなくなっていく。
ぼんやりと何も考えられ無くなっている間にも私の勘だけは、体に動かなければやられるぞと警告を発してくる。
それでも体は動けずにいる。何とか彼女の姿を見つけようとキョロキョロと回りを見回すが、どこにも彼女の姿を見つけるとこができなかった。
そんな感じで、どのくらいの時間が過ぎていたのだろうか、突然見失っていた彼女の気配が私の真後ろから感じられる。
彼女は私の背中に飛びつき、顎下と首にナイフが添えられている。そこで彼女を振り払おうとしたが、彼女の気配が現れると同時に、あまりにも彼女には似合わないほどの威圧を受けてしまう。
今まで頭の中に靄がかかっていたような状態だったせいで、何も気構えが出来ていない状態だったせいで、私は不覚にも何もできずに硬直してしまった。
「大丈夫ですか?」
その一言で、はっと我に返る。そして声のする方へと顔を向ける。
そこには、いつの間にか彼女がこちらを心配そうに見ていた。どうやら私がぼーっとしていた内に、背中から降りていたようだ。
「あ、あぁ、大丈夫だ」
何とかそんな言葉をひねり出すことには成功した。
それから何を喋ればいいか、未だにはっきりとしない頭を振り絞り考える。
とりあえず、どんな方法を使ったのかを聞いてみるとこにした。
「隠蔽と、交渉に、あとそれから操縦スキルを使って、後ろからこう、ガバッと足で抱き着いて首にナイフを突きつけた感じです」
帰ってきた答えは戦闘時には使わないだろうと思うようなスキルであった。
どうやら彼女はこのスキル群をかなりの高レベルで持っていたため、私達がまだ知らないようなスキル技能を知っているのだろう。
案の定、いままで聞いてきたことのないような技能であった。
なるほどなと思っていると彼女から上位者スキルの言葉が出てきた。
上位者スキルは、彼女のスキル内で詳しいことが分からなかったスキルの一つである。
どうやら彼女曰く、上位者スキルがあるとスキルがあると、スキルの成長の中でたまに起こるといわれている派生スキルが発現しやすいらしい。
上司者スキルについて、私はまだ詳しいことを聞かされていないので、もしかしたら機密にしているのではなかと思っていたが、割と簡単に上位者スキルの名前が出てきたので、少し聞いてみることにした。
「そういえば、詳しくは聞いていないけど、上位者スキルがあると何かスキルとかが覚えやすくなるのとかあるのかい?」
「う~ん、私自身も確証はないですけど、上位者スキルには自信が持つ技能やらを、発揮できる最大限の状態で使えるようにする技能があると思うんですよ。多分そのおかげなんじゃないかなとは、思っているんですけど」
という事らしい。どうやら彼女自身がまだよくわかっていないようだった。
なので、私はこれ以上聞いても、あまり詳しい内容を聞ける可能性が無いようなので、ここで話を終わることにした。
それから彼女のギルド所属証を発行して二度目の邂逅は終わりを告げた。
それから少し経ち、3度目の邂逅は彼女の魔導教科の教育前能力確認試験の時であった。
丁度、彼女の能力について知っている人間だというとこで、彼女の試験の試験官をすることになったのだ。
まだ私は彼女の魔導に関することは、前回のギルドの時には、まだ見せてもらっていなかったので、丁度良い機会だという事で引き受けてみたが、この時にも彼女は私の予想以上のことを見せてくれた。
まずは、すでに彼女は無詠唱にて、かなり強力な威力で魔法を放っていたことだ。
詠唱は特に初期のころ、まだ明確に魔法の発動イメージができないときに、その補助のためにするのだが、結局のところあくまでも補助であって必要がないのだが、それでもあった方がイメージのしやすさから唱えないよりも威力が出る。
そんなわけで、普通は魔導学をまだやったことのないはずの彼女が、無詠唱であそこまで出来るとは想像がつかなかったのだ。
そしてそれより驚いたのが、接近戦の方であった。
基本的に魔導士は後衛職である。その為、あまり敵と直接戦闘にはなりにくいのだが、万が一、前衛が破られた場合、どうしても自分の身を守るために接近戦をしなければならない時が出てくる。
そんなときの為に、魔導士も直接戦闘の方法を学ぶのだが、所詮はあくまでも護身のための戦闘である。
そのため基本的には相手の攻撃を避け、交わし、一撃を入れて再び相手の距離を話して、魔法などで叩くというのが基本なのだが、彼女の場合はかなり違った。
前回の様子からそれなりにいけると思った私は、普通より早めに彼女に迫る。
彼女は私の攻撃を手に持った杖の先で槍のように突いてきた。
私は、その突きを少し体をひねり躱す。しかし彼女は、それを待っていたかのように、横に払ってきた。
最初私は特に避けずに突っ込もうとしたが、直後、何やら嫌な予感を覚え、今までの考えを捨て、すぐさま払ってきた方向に逃げるように避ける。
そして彼女から距離を置き、避けたと同時に彼女の横に回り込む。
しかし彼女は、避けられたと同時に杖全体の魔法剣を発動させた。
嫌な予感はどうやら彼女が杖に魔法剣を発動させて、避けなった場合はそのまま切りつけてしまおうしていたことだった。
彼女の魔法剣はかなり鋭く感じた。多分何も考えずに突っ込めば、こちらは大きなけがを負う羽目になっていただろう。
やはり、彼女はかなり出来るようだ。
ただ、彼女の場合はかなり一般人のとは違う感じがした。どちらかといえば奇人変人まで行かなくても、厄介な人材であるという事は変わりないと思う。
彼女のつい最近までの出会いは、とりあえずこんな感じであった。
という訳で、これから楽しみがあるとはいえ、まだ私の悩みの種は多分、減ることはあまりないだろう。
それでも私はこれからも、この支部長であり続けるだろう。
来週は、今度こそ2章入ります。
それにしても、だいぶ予定より1章が伸びてしまいました。
2章は詳しく予定を決めていないでわかりませんが、多分伸びる予感がします。