第11話 新たなる門出、試験を添えて(後編)
ギルドで色々と登録を済ませてから約2週間がたった。
そんなある日、1枚の書状が届けられる。
差出人は、ミドルテッシモ王国執行部教育委員会。この委員会は、この国全体の教育関連の事業を一手に引き受けている団体である。
「ネリア、試験に関することが決まったようだ」
朝食を食べ終わって一服しているところに、父が手紙を手にやってきた。
「ついに、試験に関することが決まったのですか?」
「あぁ、そうだ。かなり急いで決めたみたいだな。この時期は国内で、同じような試験をやる時期のせいか、かなり忙しいらしい。で、今回ネリアの場合はかなり特殊だから、出来るだけ早めに決めてしまおうという事らしい。」
「そうなのですか。それでいったい、試験はどのような事になったのでしょうか?」
「うむ、ちょっと待ってくれ、確かもう一枚入っていたはず」
父は、封筒の中を確認する。もう一枚試験に関することの書かれた紙を取り出す。
「え~と、試験日程は3日間で、1日目に初等教育全般についての試験。2日目は中等教育基礎の試験。3日目が、魔導学基礎及び実技試験。そのほかに3日目の実技試験の時に身体能力検査を行う予定だそうだ」
「わかりました。それで、試験までに必要なものなどは何かありますか?」
「そうだね。魔導学の実技試験用に杖ぐらいは必要だろう。あとは……、ん~、何かあるかな?あぁ、そうだ。ネリア、3日目用の郊外活動用の衣服は持っていなかったな。それぐらいは用意するべきだろう」
「分かりました。明日、母上に準備を手伝ってもらいます」
「そうだね、それがいいだろう。私では武器ならばともかく、杖や服装に関しては、てんで分からないからな。そういうことならネイシアの方が詳しいだろう。お金に関しては気にする事は無い。しっかりとしたものを選べ」
「はい。そうします」
「あ~、後。試験は1ノ月の15日だそうだから、忘れぬようにな」
「はい」
という感じで私のためだけの試験が行われることとなった。正直、読み書きなどの行う初等教育だが、私は、転生時に付与された高速言語習得スキルのおかげで、すぐに覚えることができた。ちょっと万理眼も使ったが。
そういうわけで、特に初等教育を受ける必要性がない私には、この試験は重要なものである。ただ、魔法に関しては、家にある書物で視た程度なので、実際にどの程度使えるかは、まだ試していない。なので、この試験でどの程度かが分かるだろう。
という事で、試験に関する事についての書類が届いた翌日。私は母と一緒に王都の商業地区へと来ていた。
今、来ている所は商業地区の3番街、魔導商店街の一角にある魔道具店、美しき筋肉美という店の前である。
店の名前から分かる通りに店員全員がマッチョさんである。非常に暑苦しいが、これでも王都内にある魔道具店では、かなり優秀な店である。傍から見れば絶対に魔道具店だとは思われないだろう。
母と一緒に店内へと入る。
中に入ると見渡す限り、店員は鍛えに鍛え上げられた筋肉をこれでもかと見せつけてくる。
正直言って、あまり長いしたくないお店である。
そして店の奥で、店内を見回していた1人のオネエさんが、やって来た私達に気づき、近づいて来る。
「いらっしゃいませ。あら~、久しぶりねネイシア」
「そうね、それにしても相変わらずね、あなた。いつ見ても暑苦しいわね、あなたの店」
「あら、あなたみたいな過激な人に言われたくないわね。それより今日は、どんな用事なの?って、あら?」
ここで母の横にいた私に気づき、こちらに目を向けてきた。
どうやら母の話から、このオネエさんがこの店の店主のようだ。
私は店主に向かって軽く挨拶をする。
「どうも、初めまして」
「あら、どうも初めまして。もしかして、あなたはネイシアの娘さん?」
「はい、そうです。ネリアといいます」
「そう、ネリアちゃんね。という事は、今回はあなたの杖が必要になったというわけね」
「はい」
「となると、あれが必要ね」
店主はほかの店員に何かを取りに行かせる。
しばらくしたのちに店員の一人が杖状のものを持ってきた。
「じゃ、ネリアちゃん。これを持ってみてくれる?」
言われたとおりに持つ。
「じゃ次に、それを持った杖に魔力を流してみてね。」
再び、言われたとおりに杖に魔力を流していく。
すると杖の上部に取り付けられた魔術結晶がほのかに光りだす。
「ん。はい大丈夫よ、それぐらいで」
魔術結晶が光ってから約数秒してから、店主がこちらに手を差し出す。
そして、私から杖を受け取ると、杖から魔術結晶を取り出し、店のカウンターにある装置に魔術結晶を嵌める。
すると装置からレシート状の紙が出てくる。
店主は、出てきた紙を切り離し、内容を確認する。
「すごいわね。レベル1で魔力値90だなんて。これだとオーダーメイドの方が長く使えるけど、どうします?」
「今回は既製品でいいです。できればオーダーメイドは、もう少しちゃんと学んでからにしようと思っているので」
「そう。なら、そうするとヘイジルック製がいいわね。あそこのなら手堅いのがそろってるから、気に入ったものを選んでね。場所はあそこだから」
示された方の棚に向かう。
展示棚には展示品がズラリと並んでいる。
私は、展示品を流し見る。
ちょうど、ヘイジルック製の並んでいる棚の中央付近で、ふと目が留まる。
それは、ちょうど50センチほど杖を見つける。
ネタリウムという魔力伝導性の高く、非常に硬い木材でできた杖を見つける。
手に持つと、なかなかさわり心地の良い手触りで、重さもちょうど良い。
「これにします」
「ほ~お、なかなかのセンスね。それは近接戦闘に対応した杖ね。さすが親子といった感じかしら」
そういえば、母は基本的に広域殲滅魔法などを多用するのだが、実はかなり近接戦闘もできる。ある意味シャルティス村の女性エルフらしいともいえるが。
「それじゃ、会計はこちらでね」
という事で、試験のためだけではないが、とりあえず杖を購入し、次は動きやすい服を探しに店を出る。
それから約2時間ほどかけて衣服類をそろえ、自宅へと帰宅したのだった。
それから2週間ほどにわたり試験対策を行ってきた。といっても今までの復習をしているようなものであったが。
そして今日は、試験の1日目である。今日の日程は初等教育に関する試験である。
初等教育という事で基本的には数学、国語の2教科だけだが、3年分なので試験時間は合計6時間にも及ぶ。
そんな感じで半日ほど使って行われる。唯、今試験会場にいるのは私だけである。何せ私の為だけの試験であるからだ。
もちろん通常の試験も別会場で行われてはいるが。
というわけで、試験の時間になりました。はじめの合図で始めたのだが、やはり初等教育の試験である。1時間あるうち半分もかからずに解き終わってしまった。
やはり簡単過ぎた。まだあと5回も同じようなことがあると思うと、ちょっとげんなりしてしまうが。
そんなこんなで1日目を終える。明日はもう少しマシだといいなと思ってしまった。
で、やってまいりました。2日目です。今日は中等教育基礎という事で、試験科目が増え昨日の2教科から4教科となった。
4教科3年分をやると12時間もかかってしまうため、今日は内容を絞って4教科2回分で8時間の試験となっている。非常にだるいです。
それでもやらなきゃいけないので、やりますが。
という事で8時間にも及ぶ試験も無事に終了しました。結果からいえば、やはり簡単でした。どうしても復習個所の試験であるため、1科目30分程度終わってしまいました。
ついに明日は試験最終日。そして今までとは違い、完全なる新規科目である魔導学の試験!非常に楽しみである。
あと、身体能力検査もついてくるが、どんな事をやるかは、さすがにわからない。
まぁ、それでも楽しみには変わりないが。さてどんなことになるのやら。
こんな感じで2日目も過ぎて行った。
ついに試験3日目。つまり魔導学の試験である。最初は座学の方なので、特に何かあるというわけではないので、ここはどんな様子であったかは割愛する。
結果の方だが、まあまあという感じである。正直最後の方は全くわからなかったが。そりゃ、基礎的な事しか知らないので仕方がないだろう。
そんなことよりも実技の方である。やはり魔法や魔術は使ってなんぼである。
「それじゃこれから魔導学実技の試験を開始する。準備はよろしいか?」
「はい」
「よろしい。それでは初めに試験監督兼試験官を紹介する。冒険者ギルド王都支部支部長のガイルである」
なんと試験官がまさかのガイル支部長だった。
「やあ、久しぶりだね。なんかギルド加入時の試験をやったことを知られたみたいで、お願いされたから引き受けたんだ」
「そうだったんですか」
「ああ。まぁ、知っている人間の方がやりやすいだろう。それじゃ最初は遠距離系魔法の試験から。あそこにある的を破壊してくれ」
言われた方を見ると試験会場の端にずらりと並んだ的が見える。距離からして約50メートルぐらいだろう。
私はとりあえず初級の攻撃魔法であるファイヤーボールを放つ。
火の玉は、杖の向けた先へとイメージ通りに的へと飛んでいく。
そして火の玉は的に当たると同時に激しく燃え上がる。
的は数秒ほど燃えると燃えカスとなって、無残な姿となり果てた。
「はい。OKです。じゃあ次は防御系魔法の試験だ。今から私がショックボルトの魔法を使うので、防いで見せてください」
私は杖を構えると「どうぞ」と声をかける。
「それじゃ行きますよ。ショックボルト!」
ガイルの構えた杖から電撃がはしる。
電撃は、杖を構えた時からあらかじめ発動させていた防御系魔法のリフレクトの魔法によって向きを変えてガイルに迫る。
ガイルは一瞬驚いた顔をするが、すぐさま杖を構えなおす。
「シールド!」
魔法名を唱えると、うっすらと半透明の膜状のものが、ガイルの目の前に出現する。
私の跳ね返したショックボルトが半透明の膜に当たり、霧散する。
「どうやら、だいぶ高度の魔法だね。それも無詠唱と来たか。確かに理論云々よりは魔法は結構簡単にできるからね。それでも無詠唱はあり得ないけど。まぁ、君らしいといえばそうだね。それじゃ最後に近接戦闘について見させてもらうよ。一応、これは身体能力の検査の一部でもあるから真剣にね」
私は、すぐさま杖を槍を持つように持ち替える。
「なるほど。そのスタイルでいくのか。それじゃ、始めるよ」
ガイルは結構なスピードで迫ってくる。
私はすぐさま、杖を迫ってくるガイルに向けて突きを放つ。
ガイルは私の突きを、少し体をひねり躱す。
躱されるのは分かり切っていたことなので、突き出した杖をそのまま横にふるう。
しかし杖からは、ほとんど当たったという感じがしない。やはりこれも織り込み済みだったようだ。
私の横に回り込んだガイルをけん制するため、横にふるった杖に魔法剣の魔法を付与する。
効果の方は抜群で、ガイルは近寄れずに少し下がる。
そのまま私たちは、それぞれのスキを探り合うが、中々その隙ができない。
そのままにらみ合う事数秒、ガイルが戦闘態勢を解く。
それでも私は警戒のためにそのままでいる。
その様子を見たガイルは苦笑しながら両手を上げる。
「さすがだね。うん、大体は見れたから、もう構えを解いて大丈夫だよ」
私としてはちょっと不満だったが、アチラさんが良いと言っているのだから、もうよいだろう。
私は構えを解く。
「それじゃ、これで魔導学の実技試験は終了だ。ちょっと休んだら次は身体能力検査をやろう」
という事で、少し休憩してから身体能力検査を行った。
「はい。これですべて終了です。ネリアさん、お疲れさまでした」
「はい、お疲れさまでした」
「それで、今回の結果は後日また書類の方で知らせたいと思います。ただ、これからの詳しいことに関しては、あなたが学校に入学するときに説明する事となるのでそれだけは了承してくださいね。何か重要なことがあったら書類で知らせることになるとは思いますので、よろしくお願いしますね」
「はい」
「それではこれで私は失礼します」
そう言ってガイルは試験会場を後にしたのだった。
そして、その後1週間程度で試験の結果が返ってきた。
もちろん、初等教育と中等教育は満点の成績だった。魔導学に関しては答えられたところはほぼ満点だったので、これで良しとする。
今回の試験によって、ほぼ座学関係は免除となるようだ。
まぁ、詳しいことは入学の時に説明してくれるそうなので、それまでどんな感じになるのかを想像しながら、入学の時まで過ごすこととなった。
次回は人物紹介の後、2章に入る予定です。
2章は主に学校編の予定。