だれもいない
夜が明けたら 海に行こう
きっとまだ 産声を上げたばかりの強い強い朝の光が残っているから
高い空はどこまでも青く澄んで
吹き抜けていく風がわたしの髪を梳くだろう
優しい波音
まとわりつく砂
水の中を掻いて進むのは とても気持ちがいいから
水底からきらきら光る空を泳ぐ魚に挨拶しよう
夜が明けたら 山に行こう
きっとまだ 夜のうちに吐いた木々のため息が残っているから
のしかかってくるように枝々が空をふさぐ
ぴたりとも動かない空気がわたしを抱きしめるだろう
優しい葉ずれの音
沈む足元
朽ちた葉の上で横になるのは とても気持ちがいいから
黒く豊かな土の匂いを嗅ぎながら誰にもわからないように眠ろう
今はまだ わたしは夜の中にいる