センチメンタル味のラムネ
「一つ目小僧出てきてー!持ってきたわー!」
私が竹林に向かって叫ぶと一つ目小僧はパッと姿を現した。
「キラキラしててキレイなまーるいものちょーだいっな」
一つ目小僧は両手をちょこんと差し出し嬉しそうな顔でこちらを見上げてきた。
その幼い仕草が母性本能をくすぐってくる。
「その前においしい飲み物でも飲みませんか?」
タマさんが一つ目小僧の頭を撫でながらそう言うと一つ目小僧は更に嬉しそうな顔をして元気よく頷いた。
私はラムネをポンっと開け一つ目小僧に渡し、みんなでラムネを飲んだ。
幼い頃、夏はみんなで外を駆け回り、喉が乾いたら木陰でラムネを飲んだりした。
少しセンチメンタルな気分に浸りながら、もう戻れない幼い頃の夏休みに想いを馳せた。
蝉の声がけたたましく夏を告げ、溶けそうな日差しの中で、大人になった自分が妖怪たちとラムネを飲んでいるとは幼い頃の自分は想像もしなかっただろう。
「おいしかったー!!」
一つ目小僧は嬉しそうに言い、キラキラした丸い綺麗な物を欲しがったので、一つ目小僧からラムネの瓶を受け取るとタマさんがラムネの瓶を割ってくれ、ビー玉を取り出して私に渡した。
「はい、これがキラキラした丸い綺麗な物だよ」
私が一つ目小僧に手渡すと一つ目小僧は嬉しそうに太陽の光にビー玉をかざしてその中を覗き込んだりした。
「ありがとう、お姉ちゃん!宝物にするね!」
透明なビー玉一つでそこまで喜ばれるとなんだか一つ目小僧に悪い気もしてきたので今度はカラフルなビー玉を持ってきてあげようかな。
「それで座敷わらしの件ですが……」
本来の目的を忘れている私たちにコホンと咳払いをしながらタマさんが場を仕切り直した。
「いま座敷わらしはどこにいるの?」
私がそう尋ねると一つ目小僧はボロ寺から見える公園を指さした。
座敷わらしは家にいる妖怪なのに何故家を出て公園に居るのだろうか。
「鬼婆が怖いから公園にいるの」
一つ目小僧がそう言って舌を出しながら頭の上で鬼のツノを指でつくった。
「鬼婆とは山姥の事ですか?」
タマさんがそう聞くと一つ目小僧はコクンと頷き、とってもとーっても怖いと言い、またどこかに消えてしまった。
「次は公園にいる座敷わらしに会いに行ってみますか」
タマさんがそう言うと再び猫の姿に戻り歩き始めた。
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座敷わらしがいるという公園に到着すると、肌がジリジリと焦げるような暑さの中、子供たちが元気に遊び回っていて辺りを見渡しても座敷わらしらしき妖怪はどこにもいない。
「座敷わらしはどこにいるんでしょうか?」
私はタマさんにそう聞くとタマさんはグッタリとした声で探してみましょうとだけ言った。
タマさんがこの暑さで死んでしまわないか少し心配してしまう。
座敷わらしを探して五分ほど経ったくらいにトンネルの遊具の中で座敷わらしらしき寝ている子供を発見した。
タマさんに確認を取ると座敷わらしだとのことだったので寝ているところを申し訳く思いつつも、優しく揺り起した。
座敷わらしは身じろぎ、ゆっくりとまぶたを開けこちらを見た。
驚いた表情をしたので安心させる為になるべく優しい声色で話しかけた。
「寝ているところ起こしちゃってごめんね?あなたが六丁目のお屋敷に住んでいた座敷わらしよね?あなたのお友達のボロ寺の一つ目小僧にあなたの居場所を聞いたの」
お友達の一つ目小僧のことを言うと安心したのか座敷わらしの警戒は取れたみたいだった。
「私に何の用なの?」
鈴のような可愛い声で座敷わらしは首を傾げながら聞いてきた。
そのとき突然ドドドドッと音が聞こえトンネルがわずかに震度し、砂ほこりが少し落ちてきた。外で鬼ごっこをしているであろう子供達がトンネルの上を走っているようだった。
「よかったら私の事務所に移動しませんか?おいしいクッキーがあるんですよ」
この暑い中、外で話しをするよりクーラーで冷えた涼しい事務所で話しをするのは賛成だが、初対面の子供にそんなことを言って誘拐犯だと思われたらどうするんだと思ったが、座敷わらしは特に警戒する様子もなくクッキーたべると元気よく返事をした。