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一章八話 世界大戦の考察



 翌日、朝のランニングを終え朝食をとってまた来ましたヤノ村教会。


「………………………」


 そこでは、またも気持ちよさそうに寝ている先生がいた。


 今日は眼鏡をしていない。

 外して寝ている。

 少し、いや、かなり残念だが気にしない。


「先生、時間なので来ましたよ」


 返答なし。

 起きる気配なし。

 俺のストレス増加中。


 起きるのが苦手なのだろう。

 先生にとって本来、この時間はまだ寝ている時間なのかもしれない。


 そんな時間に、俺の授業を引き受けてくれるのはありがたい。

 まぁ、どうせならちゃんと起きてて欲しいけど。


 時間とは言っても、少し早めではあるのでもう少し寝かせてあげよう。

 というわけで、教会にある本を読んで時間を潰すことにする。


 んーーー………

 こうやって見てみると、案外読めない本が多いな。

 まぁ、暇つぶしだから簡単に読めればいい。


 俺は少し古めの『世界大戦の考察』という本を読むことにした。

 勇者一行によって、魔王が封印されて二百年。

 人族、竜人族、エルフ族が更なる土地を求め、戦争を起こした。


 争いを好まない妖精族はもちろん、他種族よりも更に家族を愛する獣人族は、戦争をやめさせようとするが失敗。


 その二種族も戦争に巻き込まれる。


 人族はその圧倒的な数で争い、竜人族は他種族よりも強靭な身体と特有のスキルで争い、エルフ族は高い魔法力で争った。


 戦闘に優れた獣人族は、交戦するも、あくまで自分たちに被害が出ないようにと最小限。

 妖精族はとにかく和解を望み、領土防衛はしても、一切の攻撃を行わなかった。


 均衡していた状況で、人族は竜人族と同盟を結ぶ。


 エルフ族も、他二種族に協力を申し出るが拒否され、人族竜人族同盟に追い込まれ、降参。

 条件として、エルフ族の有する領土の半分以上を得ることとなる。


 戦争は終わるかと思われた。


 しかし欲を出した人族は、獣人族と妖精族にも攻め込む。


 勢いづいた人族と竜人族は、簡単に獣人族を下す。

 獣人族も領土を奪われ、さらに、一部の獣人族は人族の奴隷となった。

 最後まで和解を望んでいた妖精族は、戦うことをせず、最後には絶滅にまで追い込まれてしまった。


 結局、人族と竜人族の勝利となって、後に世界大戦と呼ばれるこの戦争は幕を閉じた。


 人族と竜人族は盛えて、エルフ族とも協定を結んだ現在。

 獣人族は未だに奴隷にされ、残った獣人族はバラバラに散らばってしまっている。

 もはや種族として国を建てることは不可能だろう。





 今でも人族の間では、この大戦は名誉な勝利だと言われる事がある。


 しかし私はそうは思わない。


 むしろ、獣人族、妖精族が正しい心を持っていたと思ってしまう。


 私はおかしいのだろうか。


 いや、そんな事はないだろう。

 ただ平和を願った種族が間違っていたとは思いたくない。


 私は正しい記録を残すために、この本を書いた。


 どうか、この本を読んだ人が正しい心を持った人でありますように。

 ………この世界にもそんな事があったのか。

 どこの世界でも、こんな戦争が起こるものなんだな。


「ハルトくん、『世界大戦の考察』読んだのですか」


 いつの間にか先生が起きていた。

 思っていたより、読書に熱中してしまったらしい。


「はい、なかなか興味深い本でした」


「そうですか………」


 そう言い、先生は何かを考えるように俯いてしまった。

 何を考えているのだろう。


「………ハルトくんに一つ、質問をいいですか?」


「はい、もちろん」


 先生は一拍おいてから、質問を言う。


「ハルトくんは………愛する者の為に戦わないで結局奴隷となった獣人族と、和解を望んで結果、絶滅させられた妖精族について、どう思いましたか?」


 先生は、とても真面目な顔で訊いてくる。

 おそらく先生にとっては、大切な事なのだろう。


 そして、まるで俺が獣人族と妖精族が悪いと言うと確信しているような、そんな顔をしている。

 この本の作者が言うように、本当に世間一般ではそう言われているのかもしれない。


 でも俺の考えは違う。


「俺は、その二種族を尊敬しますよ」


「………………えっ?」


 先生はあり得ないものを見た様な顔をする。

 逆に、俺は何でそんな当然な事を聞くのか、不思議に思う。


「だって家族の為とか、他人の為に自分たちが傷ついた強い人達を馬鹿に出来るわけないじゃないですか。

 最高にカッコイイです。俺もそんな風に強くなりたいとも思います」


 先生は目をパチクリさせ、俺を見る。


 きっと世界が違えば、多少の価値観の違いがある。

 この世界の人たちは、二種族を馬鹿にしていたのかもしれない。


 でも俺は、それは間違ってると思う。

 この価値観を誰かに押し付けるつもりはない。

 でも俺は事実として嘘偽りなく、本気でそう思っている。


「………あはは………。ハルトくんは偉いですね」


「そんな事ないですよ。当然のことです」


「当然………そうですか………。やっぱりハルトくんは偉い人です。日本人が皆そうだとしたら、本当に良い国なんでしょうね」


「まぁ、良い国なのは否定しないですけどね」


 先生は、また俯いてしまった。


 俺は、実はこの本の作者は先生なんじゃないかと思う。

 先生は、彼らは正しかったと言い続け、そして変わり者と言われ続けてきたのだろう。

 だから俺は真面目に答えるべきだと思った。

 先生の考えは正しいと、肯定してあげたかった。


 先生は勢いよく顔をあげた。

 とても晴れ晴れとした表情だった。


「質問に答えてくれてありがとうございました。なんか今、とってもやる気が溢れてます!」


 どうやら先生の役に立てたようだ。

 良かった。


 それにしても、今度獣人族と会ってみたくなったな。


「それでは、授業を始めましょうか!」


 先生は元気よく勉強用の部屋に入ろうとする。


「先生は、どう思ってるんですか?」


 俺もなんでこんな分かりきった質問をしたのか、分からない。

 無意識に口から出た言葉だった。


 先生は勢いよく振り返る。

 とても綺麗な笑顔だった。


「私も、彼らのことは尊敬してます!」


 その言葉は、初めて自由になった鳥のように軽やかな声だった。



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