一章七話 スキル、それは
午前中に魔法について教わった後の昼時間。
終わってみて分かったが、地味に疲れていた。そりゃそうか。なんたって俺は今、三歳児なのであるから。
「ハルトくんはお昼、どうするんですか?」
先生が訊いてくる。
先生が昼食をとる気配がないな。昼は食べない派なのか?
「母さんの弁当があります」
「そうですか」
それにしても眩しい。
先生の銀髪が光を反射する。綺麗だが、眩しいから窓際から離れてほしい。
弁当箱のふたを開ける。
おぉ……さすがは母さんだ、弁当でもそのクオリティは落とさない。非常に食欲をそそられるね。
それにこの香り。弁当でどうやってここまで良い香りを放つのだろう。
流石は母さんとしか言えない。
料理を口に運ぶ。
うん、美味い!相変わらずの職人技、見事だ。勉強した後だと、余計に美味しく感じる。思わず顔がにやける。
くきゅぅぅぅ………
可愛らしい小動物の鳴き声みたいだったな。横を見ると顔を赤くしている、先生がいた。
「……少し食べますか?」
「気にしないでください」
くきゅるるる………
「……少し量多めなので大丈夫ですよ」
「私は問題ありません」
くきゅぅぅぅ………ぐるるるる
「先生は大丈夫かもしれないですけど、先生の胃は駄目そうなのですが」
「大丈夫と言っているでしょう!気にしないで食べなさい」
「…………」
俺は無言で、特に香りのいい焼いた肉を先生の目の前に持っていく。
ぐぎゅぅぅぅ、ぐるるるる、じゅるり
「はぁ、俺はもうお腹いっぱいなので残すのはもったいないです。できれば食べてくれませんか」
「ハルトくんがそう言うなら仕方ありません。いただきます」
先生は弁当にがっつく。涙を流すほど美味しそうに食べている。まったく、意地を張らないで最初から言えばいいのに。
後で聞いたところ、金欠でご飯が食べれないらしい。
母さんに先生の分の弁当もねだってみよう。もちろん作るのは俺も手伝うつもりだ。
今日の昼、学んだことは二つ。
一つ、母さんの料理は時間が経っても美味しい。
二つ、しばらくは先生にお裾分けすることになりそうだ。
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「さぁ、昼食も取ったところでスキルについて勉強しましょうか」
「先生、俺に弁当の感謝の言葉はないのでしょうか」
「何のことですか、私は人のご飯まで食べる程図々しくないですよ」
「感謝の意を示すのは大切だと思います」
「何のことだか分かりません」
「……明日から量を少し減らしてもらおうかーーー」
「ハルトくん、ありがとうございました!」
俺は満足する。なんかこう言うやりとり、楽しいな。
「はあ、今度こそ授業を始めますよ」
「はい、よろしくお願いします」
スキルに関しては俺も知りたかったので、俺もこれ以上ふざけない。俺はスキルについてはあまり知らないんだよな。
「スキル、それは今も非常に謎の存在です。なぜなら、スキルがなぜ一人一つ手に入れられるのか、説明できないからです」
「先生が与えてくれるんしないんですか?」
母さんは先生が与えてくれる、みたいなこと言っていた気がするのだが……。
「私を含めた数人はただ、どんなスキルを得たか知ることができるだけです。どうやってスキルが発現するかは、ずっと昔から研究されてますが分かってません」
そうなのか。
よく考えたら、魔法よりもよほど不思議な存在だな。魔法はまだ魔法式が凄い、でなんとか説明できるが、スキルはなんとも言えない。
「今一番有力な説は、神から授けられるギフトだと言われています」
また神様か。本当に存在するのだろうか。
「この世界では神様って信じられてるんですか?」
「神式魔法式、スキル、普通の魔法式もまたそうでもなくちゃ説明がつきませんからね。日本では神様を信じてはいないのですか?」
「一部信じている人もいるかもしれないけど、大部分は信じていなかったと思います」
そうか、この世界には神の御技とも言わなくちゃ説明ができないことがたくさんあるからな。
「こほん、話が脱線しました。それで、スキルとは必ず一人一つ授かります。これに例外はありません。いえ、失礼、一人だけ例外がいました」
「誰ですか?」
「ずっと昔に異世界から召喚された、勇者です。彼は三つものスキルを保持してました」
異世界転生された勇者だと……。これまたファンタジーな……。
「それはそれとして、普通は一人一つです」
勇者のことは放置で進めるのか。そこらへんはまた近いうちに聞こう。
「また、スキルとは多岐に渡ります。《睡眠》《体温調整》と、しょうもないスキルから《世界記録》や《世の理》、勇者の《聖剣》なんていう、とんでもないスキルもあります。
またスキルは大体、八歳前後で発現します。でもたまにハルトくんの本が読める、みたいに早いうちにスキルの影響が出る事もあります。不安定ですがね」
先生は以上です、と言って終わりにした。
しかし気になることがあった。
「ワールドレコードとか、世の理とかってどういうスキルなんですか?」
「《世界記録》は現在の出来事を見ることができます。《世の理》とは更に異常で、世の中の法則、現象の原因など大体何でも分かるというものでした」
なんて代物だ。明らかに異常すぎるスキルだ。
《聖剣》なんてのはまだ理解できるが、それらは普通じゃなさすぎる。
しかし、過去形ってことはーーー
「ハルトくんもお察しの通り、《世の理》使用者はもう亡くなっています」
やはりか……。
そんな人がいれば魔法式やスキルについて、いろいろ分かっただろうに。それにこれらが分かっていないとなると、相当早くに亡くなったのだろう。
「まぁ、そんな感じですね。それではこの本を読んでみて下さい」
分厚い本を渡される。読書は嫌いじゃない。
が、しかし。
「ん、あれ?読めない」
そう、この本だけは少しも読めない。まるで見たことのない文字なのだ。
「なるほど、やはりまだハルトくんのスキルも不安定ですね。分かったら、そのスキルで何かしようとかはしないで下さいね」
「……はーい」
実はこれで解読とか、本の翻訳とかして稼ごうとしてました。
「ハルトくんは中身だけが大人なだけに、余計心配です」
「なんか……すみません」
これからは気をつけよう。
「別にいいですけど、スキルが安定してもう少し大きくなったらにして下さいね」
「はーい、わかりました」
早く成長したいものだ。
「さて、それでは次は魔力操作と魔法式の暗記ーーー」
「ハルトー!そろそろいいかー?」
父さんの声だ。もう用は終わったのだろうか。
「迎えが来ましたね。今日はここまで、続きは明日にしましょう」
えー………。
仕方がない。まだまだ先は長いし、焦っても仕方ないだろう。ゆっくり、ゆっくりと力をつけて行こう。
「はーい。それじゃあまた明日、よろしくお願いします」
「はい、さよなら。明日は出来れば日本の事を教えて下さいね」
先生は笑顔を浮かべてして別れを言う。
俺も先生に別れを告げて、父さんの元に向かった。
「ハルトどうだった?楽しかったか?」
俺の表情から、既に分かっているだろうことを訊いてくる。
答えは決まっている。俺は満面の笑みを作り、言う。
「うん!すごくためになったし、楽しかった。明日も楽しみだよ」