二章三十話 遠征授業②
俺とソラは再び日の光が遮られている森の中を走っている。
技能で強化している俺はもちろん、獣人族であるソラも最短距離を通るために枝を飛び乗って進んでいる。
「どんな状況か教えてくれ」
『巨大な魔物と、アルマとシーマっぽい二人組が応戦中!明らかに二人組が押されてるわ!』
「魔物の強さはどれくらいなんですか?」
『Dランク級……だけどDランクの中でもかなり強い方!』
ランクが一つ違うだけで強さや厄介さの度合いは段違いになる。それであれば、同じランクでも当然ながら結構な幅が存在する。
例えば、オークはDランクの中でも弱い部類だろう。
つまり、おそらくアルマ達を襲っている魔物は俺も初めて体験するレベルの魔物だ。
しかし今回は俺一人ではない。アルマとシーマ含めた四人なら負けることはないだろう。
「ハルト様!」
「うおっ!」
ソラに腕を掴まれて放り投げられる。本当に軽くだから痛くはないが、一体どうしたのか。
「ソラ、どうしたんーーー」
俺がちょうど通ろうとした枝が軽く溶けていた。
穴が空いたりするほどではないが、食らえば満足に戦うことはできなかっただろう。
「助かった。急ごう」
「はい」
俺たちは先を急ぐ。
今まで戦ってきた中でも異質。火を吹く魔物もいたが、あればEランクだ。Dランク上位の魔物で溶解液を放つなんて厄介なことは間違いない。
アルマの事は知らないが、少なくともシーマはそれなりの魔法使いだ。まだ大丈夫なはず。
しばらくすると、森の中だというのに明るい場所が見えてくる。そして戦闘の音だろうものが聞こえてくる。
「ソラ!避けろ!」
突然、俺たちめがけてかなり大きな木が倒れてくる。
ソラは瞬時に左へ、俺は右へ避ける。
ちょうど木々が薙ぎ倒されて見晴らしが良くなった場所に出た。
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ーアルマー
森に入ってから二日目。
俺とシーマの実力からすると、Dランクの魔物を相手するのが限界だ。Cランクと戦闘になる前には逃げなくてはいけない。
そのせいでかなりの回り道をしちまった。
運良く川が見つかって魚が食えたのがありがたかったけどな!
「アルマは男なんだからCランクの魔物に立ち向かうくらいの度胸は見せてよ」
「無茶言うなって。俺だって使える魔法が少ないなりに頑張ってねぇか?」
「……そうだね」
シーマは苦笑い気味で頷いてくれる。
昨日気付いたんだが、俺はハルト達に自分の魔法とかスキルを教えてなかった。
現在、俺の使える魔法が二つしかない事を知ったシーマの顔はなんとも言えない顔だったぜ。
不安そうで不思議そうな顔。
この授業の心配と、俺がこの魔法学園に入れた理由が不思議なんだろうけどな。
「アルマって見た目によらずに頭良いんだね」
「それって俺のこと馬鹿っぽいって言ってねぇか?」
「それに土弾と硬化の二つだけなんてね。しかも土弾の威力が異様に低いし」
「……放出系の魔法が苦手なんだ」
結局、俺が馬鹿っぽいことは否定せずに話を進められた。
そんな振る舞いしてるつもりはねぇんだけどな。
土弾は入試で使った、土生成して勢いよく飛ばす魔法だ。
本来なら土を飛ばすから威力がデカイはずなのに、俺が使うと毎回威力が落ちる。
硬化はその名の通り、体を硬くする魔法だ。
剣も防げるし打撃の衝撃も受けない。魔法にだって耐えてみせるぜ。
そして硬化した腕で殴れば威力が倍増だぜ。
「さっ、昨日はスキルを聞き逃しちゃったから教えてほしいな」
「いいぜ。俺のスキルは《加速》だ。物理法則なんて関係なく、とにかく速ぇぞ」
「なんか凄そう」
「だろ?実際すげぇぜ」
実際、このスキルはかなりの強さを持つと思う。
強化系魔法よりもスピードは上がるはずだし、スピードが上がれば攻撃力も上がるからな。戦闘においては便利なスキルだ。
これのおかげで、昨日は泥団子発射魔法の挽回は出来たはず……!
もちろん泥団子発射魔法は土弾のことだ。
「へぇ……まっ、アルマならそのスキルも宝の持ち腐れにしそうだね」
「そんな事ねぇよ!昨日はすげぇ使いこなせてたじゃんか!」
「もっとうまく戦えるんじゃない?」
ぐっ……言い返せない。
そりゃあ、英雄と呼ばれる俺の親父とかが使えば、もっと上手く戦えんだけどさぁ。
学園ではよく一緒にいるから、その分痛いところを突かれる。
「そ、そんな事より昨日はよく眠れたか?」
「飢えた獣が怖かった」
「なに?俺が見張ってた時はそんなのいなかったはずなんだが……」
先へ進むためにお互いの睡眠時間は三時間。計六時間は同じところにいた。
しかし俺が見張りをしていた時は魔物どころか動物も見なかったけどな。
「シーマが退治してくれたんだな。流石だぜ」
「………退治出来ればしたいよね」
シーマはジッと俺を見つめる。
どうしたんだ、そんなに見つめて。照れるじゃねぇか。
しかしシーマはスタスタと先に歩き出してしまう。
まったく、恥ずかしがり屋だ………まてよ?
「飢えた獣って俺のことか!?」
「今頃?」
「俺は襲ったりしねぇよ!」
「どうだかー」
まったく失礼な。出会い頭に告白しただけで、それ以降はアプローチかけるだけで何もしてねぇだろ。
そんな危険人物扱いされる筋合いはねぇ。
「あれ……?何か音しない?それに匂いも……」
「たしかに変な匂いすんなーーーって、シーマ危ねぇ!!!」
俺の方を向いているシーマめがけて変な液体が飛んできている。
自然ではありえない。間違いなく……魔物だ。
俺はスキルを使う間もなく走り出して、キョトンとしているシーマを庇う。
「ぐっ………!」
背中に大玉の液体がぶつかる。そこに痛みと高熱が走る。
しかしなんとかシーマは守れた。
「ちょっと、アルマ大丈夫!?」
シーマを離すとすぐに心配してくれる。抱きしめた事を非難されなくてよかったぜ。
緊急事態だったとは言え、シーマを抱き締められた事は俺にとって役得だったぜ。
シーマは慌てて俺の背中を見た。
「……!溶けてるよ!アルマ!」
俺は服を脱いでみる。そして液体のぶつかった背中を見てみると、確かに服が完全に溶けていた。
シーマに当たっていたら裸になっていたのか?残念だ。こんな冗談を思えるほど、余裕があるから大丈夫だぜ。
「体は大丈夫なの?」
「おう!硬化魔法使ったから、せいぜい超軽い火傷くらいだと思うぜ!」
「そう……。それならよかった」
好きな女に心配されるのって最高だな。どんどん無茶していこう。
まぁ、冗談だけど。好きな女に心配かけるわけにゃいかねぇ。
「またこの匂いーーーえっ?」
シーマが空を見上げていた。俺もつられて空を見上げる。
そこには、さっきの液体が大量に雨のように降ってきていた。
瞬発的にシーマに覆い被さる。
ジュウゥゥゥ!
周囲の木々、草花が途端に溶け始める。そして大量の湯気のようなものが立ち上がる。
シーマに覆い被さって液体から守っている俺の背中からも、溶けるような音と湯気が立っていた。
「うっ!ぐぅぅぅ!!!」
硬化したが、これほど大量だと流石にキツイぜ……!
軽度の火傷で済めばいいんだけどな。重度の火傷でも、全力で動き回ってみせるから関係無ぇけどな!
髪まで硬化魔法は効いてるから、ハゲる事はないと思いたい。
しばらくすると液体は降らなくなった。
「早く森を抜けて治療しないと!」
シーマは勢いよく立ち上がってそう言ってくれる。
せいぜい火傷だろう。心配しすぎだ。
俺の怪我なんかよりも最悪な状況だろうしな、今は。
俺は液体の飛んできた背後を見る。
シーマはそれを見てすぐに魔法が撃てるようにした。
そこにはDランク魔物のスライム、しかもかなり大きな個体がいた。




