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二章二十九話 遠征授業



「ミドリ、頼んだ」


『もうやってるわ!まだ近くに魔物はいないわよ!』


 まずはミドリに魔物の探知をしてもらう。Dランクの魔物までならいいが、Cランク以上は未知数だ。

 ソラもいるし、絶対に避けないといけない。


 森に入って少ししか経っていないのに、木々のせいで太陽の光が入ってこない。おかげで少し不気味だ。

 しかしミドリがいる限り、暗闇から不意を打たれることは無いから安心だ。


「ソラは魔物と戦ったこと無いんだよな?」


「いえ、あります」


 あれ、俺はてっきり戦闘経験がないのかと思っていた。

 奴隷として売られている時はそんな機会無いはずなのに。


 そこで気付いた。

 ソラの前の主人、トライヤさんはギルドの冒険者。ならトライヤさんと一緒に魔物と戦っていてもおかしくない。

 ソラに深く質問をする前に気付いてよかった。


「じゃあ馬車の中で震えていたのはなんだったんだ?」


「……武者震い、でしょうか……?」


 ソラは自分でも分かっていないらしく首を傾げていた。

 まあ、久々の戦闘となれば緊張はするだろうからな。


「それなら……はい。これを使ってくれ」


 俺は前もって買っておいた短剣をソラに渡す。

 普通の剣では、ソラには少し大きい気がしたからだ。


 ソラはそれを受け取って数回振った後、満足そうに笑っていた。

 ソラってもしかしたら戦闘狂……とまでは行かなくても、その素質を持ってたりするのだろうか。

 獣人族の習性だろうか。


『ハルト!来たわ!ランクはEよ!』


 ミドリの言葉に俺とソラは気を引き締める。

 ちょうどゴブリンの姿が奥の方に見えた。可能であれば、時間短縮のためにまっすぐ進みたい。


 俺は腰に付けてる剣に手を伸ばす。


「ハルト様、私が倒します」


 ソラがそう言いだす。

 ソラの表情はやる気満々の顔だった。なるほど、戦闘狂というよりも役に立ちたいんだな。


 可愛いなぁ。良い子だし。


 なんだか、俺があのデートの日からよりソラの事を好きになってしまった気がする。バレないようにしないといけないのに、大変だ。


「ハルト様」


「……あぁ、任せた」


 俺もソラの戦いは見ておきたかったからな。

 俺としてはあと二ヶ月でお別れにするつもりは無いから、知っておいたほうがいいと思う。

 それに今日のことだけでも、もしもの為にお互いの戦い方や強さを把握しておいたほうがいい気がする。


 ソラは短剣を抜いてゴブリンが気付くのを待つ。しかしなかなかこちらに気付かなかった。

 距離もあるから音を立てても気付かないだろう。


 ソラはしびれを切らしたらしい。

 一瞬俺を見て、ゴブリンに向けて走り出した。


「なっ………!」


『ソラちゃん凄いわ!』


 ソラが踏みしめた地面が少し抉れている。

 そしてソラのスピードは俺が技能で身体強化をした時と並んでいた。

 特別な魔法を使ってはいなかった。つまりソラの運動能力は俺が強化した時と同レベルということだ。


 ………なんだそのチート。

 本来、強化系の能力はかなり珍しいはずなのに。

 獣人族はみんなこんな運動能力なのか。しかもソラは女性だからな……。


 俺は魔力量の問題で魔法をあまり使えない。ソラはまだ魔法を覚えていない。

 つまり俺とソラの戦闘能力は同じくらいということか。


 ソラに急接近されたゴブリンは遅れてソラに気付いていた。

 しかしその時はもうソラはゴブリンまであと少し。

 ゴブリンが行動を起こそうとした時にはゴブリンに短剣を突き立てていた。ゴブリンは一瞬で青い粒子になる。


 ………ソラ、マジで強いな……。


 俺の助けなんて必要ないんじゃ………。


『そんなこと無いわよ!ハルトの方がまだ強いわ!』


「そうか?技能の強化に並ばれたら俺の武器はもう無いんだが」


『少し見てれば分かるわよ』


 そう言われてソラに目を向ける。ソラは別の魔物と対峙していた。

 オークだ。王都の周辺やヤノ村にはゴブリンとオークが多いからな。


 俺なら比較的安全に倒せる魔物。もっと幼い時にもギリギリながら倒したこともある。

 しかしソラはなかなかオークを倒せていなかった。


 あのオークは武器を使っていない。だからより戦いはずなのにだ。

 オークの素手での攻撃はソラに当たる気配はない。

 しかしソラの攻撃も、オークに届く気配が無かった。攻撃が当たっても、軽い攻撃しかできていない。


『分かる?』


「……なるほど、経験不足だな」


『そ。なんだかんだ言ってもハルトは三歳の頃からみっちり鍛錬してきて、あの(・・)クラウとグランと模擬戦してきたんだから!慣れとセンスが違うわ!』


 このまま見守るのもありだが、ソラの体力が無くなるのは困るからな。

 助けに入るか。


 魔力操作の技能で身体能力を強化する。相変わらずの万能感を感じる。

 まあ、実際はそんなに万能でもないんだが。


 走りはしない。

 ソラがまだ諦めていないからだ。

 ソラに少し長くソラに戦ってもらって、少しでも経験を積んでもらう為でもある。

 ゆっくり歩きながらソラとオークの所まで進む。


「ハルト様!危ないです!」


 ソラは俺が近づくのを確認すると、オークから離れて俺を守るように側に来る。

 馬車ではソラのことを守るって言ったはずなんだけどな。


「ソラ、交代だ。俺の動きをよく見てて」


「待ってください!」


 ソラの制止を聞かずに走り出す。

 その速さはソラと変わらない。だからオークもこの速さには慣れているようだ。


「グウゥゥゥゥ!!!」


 俺の動きを確実に捉えているオークは迷わずに右の拳で殴ってきた。


 ソラの場合、当たることを恐れすぎて後ろに下がってしまっていた。確かに戦闘慣れしてないとそうするしか手段は見つからないのかもしれないな。


 しかし俺は後ろではなく横に避ける。しかも距離は離れ過ぎないようにしながら。

 そして俺はオークの腕を斬りつける。斬り落とすことは出来なかったが十分だ。これならもう右腕は使えない。


 左腕しか使えなくなったオークは怒り狂ったように襲いかかって来る。しかしそれら全てを剣を使って受け流しながら避ける。そして隙をついて斬る。


 三、四撃目の斬撃を食らったオークは倒れて青い粒子となっていった。


「ふぅ……」


 止めていた息を吐いた。

 正直、本気ならオークには負けることはないと思う。でも気を抜いたら攻撃を食らう可能性は高いからな。


 疲れることは疲れる。

 王都に着いてからの三週間の経験で慣れたけど。


『おつかれ!』


 俺が危うげなくオークを倒したからか、ミドリはとても機嫌が良さそうだった。

 ミドリは俺が活躍することを、本気で嬉しく思ってくれてるからな。裏表がなくて良い。


「ハルト様……まさかここまで強いとは思いませんでした!」


「あ、あぁ。そんなにか?」


「そんなにです!すごいです!」


 ソラが目をキラキラさせて褒めてきた。しかもグイグイと近寄ってくる。


 普段のソラは、ここまで感情をストレートに表すことはあまり無いから驚いてしまう。

 尻尾が見えていれば間違いなく、左右にブンブン振っていそうだ。


「余裕があってすごくカッコ良かったです!どうやってこんなにーーー」


 そこまで言ったソラは突然固まった。そしてみるみるうちに顔を赤くしていく。

 その気持ちは分かる。テンション上がりすぎた時の行動って、普段の自分とはかなり違ってくるからな。


 ソラはよくこうなる気がする。


「………すみません……」


 俺がギリギリ聞こえるくらいの声で、ソラはそう言った。

 からかいたい気持ちがあるが、ここでからかったらしばらく口を聞いてもらえなさそうだな。

 仕方ないから無かったことにしよう。


「さあ、進もう。ソラには俺の動きを見て学べるところは学んでほしい」


「はい、よろしくです」


 俺のまったく気にしていない態度で、ソラは普段通りになる。

 ソラは恥ずかしがることが多いけど、立ち直りも早い。


 その後は、日が暮れるまで森を抜けるために歩き続けた。

 森は日が落ちて、月の明かりがほとんど入ってこないせいで夜は真っ暗だった。

 完全に暗くなる前に薪の準備と寝場所の確保をしておいて良かった。


「ハルト様は凄いとしか表せないほど、すごい人ですね」


 ソラが寝転がりながらながらそう言う。見張りはソラと交代で行い、交代で睡眠をとる。


 あの後は、魔物と遭遇したら俺が戦ってソラが学ぶ。そして俺とソラで交代して戦闘に慣れるようにしていた。

 獣人族だからだろうか。今日だけでかなり戦えるようになっていた。


 そしてそれだけでなく、ソラに薬草や毒草について教えていた。それが出来たのはシシル先生のおかげだ。

 そして川では魚を捕まえた。この時のソラは大活躍していた。獣人族の鋭い聴覚と高い身体能力で、どんどんと魚を捕まえていったのだ、素手で。


「色々教えてくれてありがとうございます」


「気にすんな。その知識で俺も助けてもらうし」


「………………」


 ソラは黙り込む。

 あと二ヶ月でお別れだと言おうとしたが、いつもの問答になると悟ったからだろう。

 ソラがなんて思おうが俺は諦めないからな。


 今日は楽しかった。

 本当は大変な授業なんだろうが、ミドリのおかげでランクの高い魔物とは遭遇しない。

 ズルではない。この世界ではそういうのを合わせてその人の力だと言うから。


 アルマとシーマはどうしてるだろうか。


「なあ、ソラ。………ソラ?」


「………スゥ……」


 ソラはいつの間にか寝ていた。

 俺は火球(ファイアボール)でソラを照らして寝顔を見る。まるで心から安心してくれているような顔だ。

 ここは魔物の出る森の中だというのに。


 俺を信頼してくれているのだろうか。だとしたら良いんだがな。


 俺はソラの寝顔を眺めながら夜を過ごすことにした。

 本当ならソラと交代だが、当然、その夜はソラを起こすことは無かった。

 朝、歩いている時ソラはご機嫌斜めだった。俺が一晩見張りをしていたのが気に入らないらしい。

 多少、俺に任せてくれてもいいのに。


「私はハルト様の役に立ちたいんです」


「ソラの寝顔が可愛かったから、つい」


 それを聞くとソラは前を向いてスタスタと早歩きをし始める。

 耳が少し赤くなっているようだ。


「なんでハルト様はそういう事を言うんですか!」


「なんとなく」


「特に理由なく言ってるんですか……!」


「はっはっは」


 自分でやっておいて抑揚の無い笑いだったな。


 ソラの事を言う理由は特にない。思ったことを言ってるだけだ。そういう事を言うのが恥ずかしくないんだから仕方ない。

 頻繁に言ってれば、むしろ俺の気持ちは気付かなそうだし。


「おっ、明るくなってきたな」


 日の光があまり入ってこなかったのに、この辺りまで来ると段々と明るくなってきた。

 そして森の終わりが見えてきた。


「まだ一日しか経ってませんよ?」


「こっちにはミドリがいるからな」


 ミドリのおかげで迂回する必要が無い道を通れるし、戦闘に時間を使うことも無い。

 そもそも、森はヤノ村の森で慣れているからな。


「はぁ〜い、ハルト君とソラちゃんクリア〜。でも三日経つまで帰れないからここにいてねぇ〜」


 カランナ先生が迎えてくれた。

 テントはもちろん、食料もしっかりと置いてあった。


 森を見てみると、カランナ先生がいた位置以外は柵に囲まれていた。

 どうやら俺たちは本当に最短距離を通ってきたようだ。


「ソラ、テントで休んできていいぞ」


「私はハルト様の奴隷ですから」


 そう言ってテントに行こうとしない。

 まったく。俺は何度も家族だって言っているのに。

 少なくとも奴隷扱いは好きじゃないんだけどな。


(ハルトが行けばソラちゃんも行くでしょ!)


(そうだな。それじゃあーーー)


「きゃあぁぁぁ!!!」


 テントに入ろうとしたところで悲鳴が聞こえる。森の中から、そしてこの声はシーマの声だ。

 俺はこの授業は命がかかっている事を思い出す。


(シーマの探知!)


(分かったわよ!………誰か分かんないけど二人組が魔物に襲われてるわ!)


 この森での二人組と言えば、間違いなくアルマとシーマだろう。そして魔物に襲われて悲鳴を上げている。

 明らかにまずい状態だ。


 ここでゆっくり帰りを待つか?

 そんなわけない。


「ハルト様!」


「分かってる!」


 ソラは俺よりも早く走り出していた。俺も技能で強化して走り出す。

 カランナ先生に技能の事がバレそうになったら、学園長から貰った魔法具だと言って誤魔化そう。


「二人とも、組同士の助け合いは減点だよぉ〜?」


 カランナ先生がそう言う。

 だろうな。だってそうじゃないと組み分けした意味がない。

 しかしーーー


「……成績なんかよりも友人の方がずっと大事ですから」


 ソラはそれを聞いてどこか嬉しそうにした。

 俺はすぐに走り出す。道案内はミドリに頼む。


 俺たちは再度、森の中へ入っていった。



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