二章二十八話 遠征授業開始
「明日から三日間、王都から出るから準備しといてねぇ〜」
「………はぁ?」
いつも通り午前中で授業が終わろうとしてた時、カランナ先生が突然そんなことを言い出した。
俺が何かを聞き逃していたのかと思って、周りを見渡してみるが、教室にいる全員が不思議そうな顔をしていた。
そんな俺たちを気にすることなく、カランナ先生はマイペースに教室から出ていく。
「………はぁ?」
結局それぞれと顔を見合わせて首をかしげるしかなかった。
その後、カランナ先生は珍しく研究室には来ないで、何のことかは聞けずじまいだった。
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そして現在。
俺たち一年二組はかなり豪華な馬車の中で揺られていた。
荷物はそれぞれの武器だけ。食料や服類は何も無い。
「とりあえずお泊まりが出来る準備してきたのに意味ありませんでした……」
「私もだよ、ソラちゃん」
女性陣は楽しげな合宿とかだと思って、ずいぶん楽しみにしていたらしい。昨日はソラも家で鼻歌が絶えなかった。
しかし、朝早くに大荷物を持って集合するとその荷物はほとんど没収され、武器や最低限の飲み物しか持たされなかったらしい。服装も動きやすいものに着替えさせられていた。
おかげでソラとシーマは、さっきから残念そうに慰めあっている。
俺とアルマ、アドガルドと取り巻きの男女はそんな事もなく手ぶらで来ていた。俺は剣だけは持ってるが。
それはそうだ。
だってあの魔法学園が、ただ楽しいだけの事をするわけがない。その方がむしろ不気味だ。
学園長がアレなんだから。
「おいハルト、ソラちゃんが付けてるアレ。どうしたんだよ?」
「スカーフな。あの日にプレゼントした」
「そんな事するなんて聞いてねぇよ!言ってくれてれば見に行ったってのに!」
「やっぱりな。だから言わなかったんだよ」
あの日からソラは青いスカーフを首に、シーマはネックレスをいつも付けていた。ソラの方が似合ってると自負している。
特にソラなんかはシーマに自慢をしていたらしい。
シーマは秘密にせずに教えてくれたから、どんな風だったかも全部知ってる。あげた身としてはそんなに喜んでくれると嬉しい。
「どんな感じだったんだ?」
「どんな?」
「ムードとか、なんて言って渡したから教えろや」
「時計塔に上って夕日を見ながら渡した」
「お前、ロマンチストかっ!」
ソラが時計塔に上りたがってそうだったかな。自然とそういう流れになったんだ。
アルマとシーマには特別な変化はないんだろうな。もともとアルマは告白済ませてるし。あったとしたら見逃したのを全力で悔やむ。
「ハルト様」
「どうした?」
なんとか気を戻したらしいソラが俺の隣まで来た。シーマは未だ力が入らないようだ。
見兼ねたアルマがシーマの元に向かって行った。
「えっと。これってどこに向かってるんですか?」
「森」
「………?」
「主にE〜Bまでの魔物がいる森だ」
実はこの遠征、一組はすでにやったらしい。コルアからきっかけを聞き、グランから詳しく聞いた。
おそらく一年生は毎年、どのクラスも行う実践授業だ。
「……Bランクって本当ですか?」
「あぁ、流石に数はかなり少ないけど。
そういえばアルマとアドガルドの取り巻き女子には昨日伝えたけど、ソラとシーマにはまだ伝えてなかったな」
実はアルマとシーマ、ソラにも言ってないが、アドガルドの取り巻きの男女のうち女子生徒とは交流がある。
女子生徒の名前はマーニー・ガーナウルド。
俺とマーニーはクラスとしての現状にお互いに危機感を持っていた。だから密会をする事にしていたのだ。
「何のことですか?」
「この遠征の目的」
「……えっ、ハルト様は知ってたんですか!?」
「あぁ」
「何で教えてくれなかったんですか!」
「あまりに楽しそうだったから言いづらかった」
何も無くても常に笑ってたし、なんだか夕食が豪勢だったし、ソラの鼻歌なんて初めて聞いたし。
そんなに楽しそうな好きな子に言えるはずがない。
「………まあ、立ち直ったからいいですけど。じゃあ遠征の目的って何ですか?」
「魔法学園の生徒の戦闘能力向上、潜在能力の解放が目的らしい」
「でもBランクの魔物と遭遇したら死んじゃいますよ?」
「あぁ、一組でも死にかけた生徒がいたらしい。先生たちは一切手助けをしない」
「………そういう事なんですね」
ソラも思い当たったようだ。
学園長が歓迎セレモニーの時に言っていた言葉、俺たちを容赦なく追い込むと。
それは成績不振者の退学だけでなく、文字通り“死ぬほど追い込む”事なんだろう。
その為にも、何があっても教師は手助けをしない。
「成長のために限界を超えろ」という事なんだろう。
シーマにはアルマが伝えてくれるはずだ。
「……落ち込んでる場合ではないんですね」
「そうだな。森の入り口に着いたら、その森に放り込まれて森を抜けさせられる。魔物と戦うのは避けれないだろうな」
しかし、俺たちはそんなに難しくはないだろう。なぜならこっちにはミドリがいる。
ミドリがいれば、強い魔物と出来る限り会わないようにしながら進める。
ギルドの依頼でも使った手だ。
ミドリへの報酬の魔力は、一昨日と昨日で先払い済みだ。
これで森の中で魔力が少なくことは無い。
ソラを見てみると震えてるようだった。
おそらくソラにとって初めての戦闘になるかもしれないからな。それも仕方ないことだ。だけど、経験はしておいてほしかった。
「まぁ、でもーーー」
「どうしたんですか?」
「ソラのことは俺が守るから安心しなよ」
「……ありがーーーいえ、私もハルト様の役に立ちます」
「あぁ、頼んだ」
それから数時間、ずっと馬車に揺られていた。
シーマはアルマに聞いて真剣な顔つきになったり、俺とソラ、ミドリはこうすべきという事を決めておいた。
ガタッ
「みんなぁ〜、着いたから降りてねぇ〜」
それぞれ、緊張した面持ちで馬車の外に出る。目の前にはそれなりに大きそうな森があった。
それまではあまり真剣になれなかった俺も、森を見ると冷静になってくる。
「それじゃあ説明………の意味は無さそうだねぇ〜。とりあえず三組に分かれてくださ〜い」
みんな無言で動き始める。
そうは言っても、このクラスで三組に分かれるとなると、まぁ間違いなくこうなる。
俺とソラのチーム、アルマとシーマのチーム、そしてアドガルドと取り巻き二人のチームだ。
戦闘能力的にも、関係性的にもこれがベストだ。
そもそも、俺とソラは主人と奴隷のでもあるから離れてはいけない。
そうなるとアルマとシーマ、アドガルドと取り巻きが残るわけで。
「必要無さそうだし、面倒臭いから難しい説明は無しでぇ〜。森を抜けるのに三日以上かかったら置いていきまねぇ〜。死んでも自己責任でぇ」
カランナ先生がそこまで言い終わると、森を覆っているらしい柵がゆっくりと開き出す。
俺の目的はソラの実力の把握と成長。理想は一番早くクリアする事。
「それじゃ〜、スタートぉ〜!」
アルマとシーマ、アドガルダたちは走って中に入っていく。
俺はソラの心の準備ができるまで待っていた。
「………ありがとうございます。大丈夫です」
「よし、それじゃあいくか。死のサバイバルゲームだ」
俺たちが柵の中に入ると、開かれていた柵は完全に閉まった。




