一章六話 俺、もしかしたら眼鏡好き
現在俺は、父さんと一緒に教会のすぐそばまで来ていた。
教会の送り迎えは、父さんがしてくれることになった。
一度、少し過保護すぎやしないか?とも思ったが、そういえば自分はまだ三歳の子供なのだ。
これが普通だろう。
教会への道のりでは、すごくテンションが上がってしまいスキップまでしてしまった。
父さんにニヤつかれた時は、少し恥ずかしくなったが気持ちは落ち着かなかった。
なぜなら、今日から魔法の勉強が出来るのだ。
魔法使いたいっ子の俺が、普段と同じテンションなわけがないじゃないか!
楽しみなことこの上ないぜ!
ひゃっほう!
………先生に会うまでに、このテンションを抑えよう。
「お邪魔します!先生、いらっしゃいますか!?」
いつのまにか教会に着いていた。
…………………
父さんが大きめの声を出すが、返事がない。
俺と父さんは、とりあえず教会に入っていることにする。
父さんは、教会の別の部屋に行ってしまう。俺は特にすることもないので、教会探検だ。
教会の中は。外よりも少し涼しい。夜中なら、いい感じに不気味さが出そうだな。
と、そんな事を思っていると教会の奥にいた。机に突っ伏してる先生が。
「ん〜〜〜……ムニャ……」
とても気持ち良さげに寝ていらっしゃる。
少しイラッとした。
実は現在、俺はかなりの眠気に襲われているのだ。仕方がないだろう、三歳なんだから。
気持ち良さそうなところ悪いが、俺たちは時間通りに来てる。起こさせてもらおう。
「先生、来ましたよ。起きてください」
………反応がない。ただのしかばねの様だ。
まあそんな冗談はさておき、先生は起きる気配がない。
先生は、なかなか起きないタイプらしい。めんどくさい。どうしてやろうか。
そう思って、ふと先生顔を覗き込む。
おぉぉ……。
俺は少し驚いた。
先生は眼鏡をしていた。この世界にも眼鏡があったのか……。
いや、そんな事はどうでもいい。驚いたのはそっちじゃない。
先生は、実に眼鏡が似合っていた。
眼鏡より素の方が好きだったはずの俺でも、これはとてもいいと思う。
よく想像してみてくれ。銀髪の可愛い少女の黒縁眼鏡だ。非常に良かった。
俺の好みではないにしろ、それでもなお驚きの完成度だった。
「んぅ……。あれ、ハルトくん何でここに?」
先生が起きた。
起きていても、眼鏡が似合っている。とてもよし。
「約束の時間だから来ました。早く魔法を教えて下さい」
「え、あっ、すみません!少し待ってて下さい、すぐ準備して来ます!」
そう言って教会のいくつかある部屋の一つに入って行った。
「早くして下さいねー」
先生は俺の状況を知っている。
特別に気を張っている必要がないのは、楽でいい。
「分かってます!待ってて下さい」
扉越しの声。
まぁ、正直まだまだ時間はあるからいいんだが。
それにしてもーーー
「俺、もしかしたら眼鏡好きなのかもしれない……」
自分の性癖を一つ知ったのであった。
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「お待たせしました」
着替えた先生は、いくつかの本を持って部屋から出てきた。
眼鏡はかけていない。
少し残念だ。
父さんはあの後、用があるからと帰った。
帰りには迎えにきてくれるらしい。
「それではお昼まで魔法の授業をします。質問があったりしたらすぐに言って下さい」
「はーい」
それから、魔法の授業が始まった。
今回は、とにかく魔法に関する知識を教えてくれるらしい。
「まず最初に、ハルトくんは何で魔法を使いたいのですか?」
父さんにも聞かれた質問だ。
あの後少し考えてみたが、結局特には見つからなかった。
「理由は、特に思いつきません。強いて言うなーーー」
「はい」
俺は一呼吸入れてから、まじめに言う。
「男のロマンだから、でしょうか」
「ふっ………くふっ……」
聞かれたから答えたのに笑われた。
一度鼻で笑われてもう一回笑われた、こんちくしょう。
「……いや、すみません。そうですね。男性に限らず、魔法とは誰しも夢見るものですからね」
そうだろう。
別におかしなことではないだろう。言い方が悪かったのだろうか。
男のロマンか……ふっ、見た目三歳の男の子が何言ってるのか。
「私の授業を受けるにあたって一つ、約束があります」
何だろう。
「間違った使い方をしてはいけません。今のハルトくんなら言ってる意味、わかりますね?」
「はい。必要なく人に迷惑になる事にはならない様にします」
分かってる。
そこにはきちんと日本での価値観を使わせてもらおう。先生も自分が教えた事を悪事には使われたくはないだろう。
「……その通りですが、人を殺めるのは構いません」
「えっ?」
「この世界はハルトくんの言っていた日本という国より治安が悪い。いつか人を殺さなくてはいけない日も来るかもしれません。だから私は殺し自体を否定はしませんが、ハルトくんは自分の利益だけの為に人を殺める事はしないでくださいね」
「はい、当然です」
分かってる。
いくら楽しい事があっても、周りの事は気を使うつもりだ。
「ハルトくんには人を殺す覚悟を持っていて欲しいのです。ハルトくんの『楽しむ』という目標を掲げ続けるなら、きっと必要なものになると思うので」
「………わかりました」
人を殺す覚悟か……。
俺は人を殺せるのだろうか。
でも俺にとって大切なものを守る時には、何をしてでも守り抜きたいと思う。
「さあ、こんな辛気くさい話は終わりにして授業を始めましょうか!」
「……はい!」
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「魔法とは何か、ハルトくん、予想を含めていいので言ってみてください」
「はい。魔法とは魔法式を思い浮かべて、人それぞれ量も質も違う魔力を放つ事で発生させられる、現象です」
「……すごいですね。ご両親に聞いたのですか?」
「いや昨日、魔法に関する本を読んで勉強しました」
それを聞いて、先生は目をパチクリとさせた。
「……流石ですね。じゃあ基礎は理解できてそうなので復習のつもりで聞いてください。本は読めるのですね?」
「はい」
そう言うと、一つの本を手に取って机に置いて開いた。
そして目を瞑り、呟く。
「幻影」
「おぉぉ……」
なんと、おそらく本の内容だろうものが空中に浮き出た。まるで3D映像の様だ。
「今のは幻を生み出す魔法です。そのうちに教えてあげますから、今は別の授業です」
「おおお!!!」
初めて見る神秘に興奮する。けど今はぐっと抑えるところだ。
どうにか自分を落ち着かせて先生を見る。
「まず魔力についてです。
知っての通り、魔力とは魔法を使うためのエネルギーであり、生物であれば、量などに差があっても必ず持っているものです。
魔法を使うには魔力操作を会得する必要があります。
また、魔力が無くなっても死ぬことはありませんが、魔力の代わりに体力を使われてすぐに死んでしまうので魔法は使わないでください。
魔力についてはこんなところです。分かりましたか?」
本に書いてあるであろう、絵も見せながら説明してくれる。
予備知識もあったおかげで簡単に理解できる。
「はい、理解できました」
「それでは次は魔法式についてです。
魔法式は、魔法を使う時に必ず思い浮かべる必要があります。これがとにかく複雑で、完全に暗記するのが大変です。でもすぐに、正確に思い出すことが出来ればとても便利なものです。
また、神式魔法式という人が使えない魔法式があります。ハルトくんが成長すれば、いつか見る機会もあるかもしれませんね?
とりあえず魔法を使うのに必要なのは、魔力と魔法式なのでここまでです。質問はありますか?」
うーん。
俺としては少し難しかった。
それに疑問も出来てしまったし、質問させてもらおう。
「はーい、質問です」
「はい、何ですか?」
「何で魔法式を暗記しなくちゃいけないんですか?何かに写して持ち歩いていれば、楽じゃないんですか?」
「それは出来ません。魔法式自体が特殊な魔法で書かれてるので、写したものに効果はありません」
なるほど、それは不便だな。それならばこそ、いい目標だけどな。
「あと、神式魔法式ってどんな魔法があるんですか?」
「古い文献によると、時を戻す、ものを存在ごと消す、などといった神の如き魔法が使えると言われてます」
うわぁ……。
それは凄い。
魔法式は誰が作ったのか聞いたら、神様です、とか返ってきそうなレベルだわ。
「誰が作ったんですか?」
「一部意見では神が作った、と言われています」
やっぱり。
「こことは違う別世界の物ではないかとも言われています。私が推しているのはこれですね。ハルトくんの事もありますし」
なるほど。確かに俺の存在が異世界の存在の証明みたいなものだからな。
しかし地球には魔法なんて無かった。なら、更に別の世界もあるのだろうか。
「ありがとうございます、先生。なんとか分かりました」
先生はニコッと笑ってから、魔法を解いた。
「理解してくれた様で嬉しいです。そろそろお昼にしましょうか」
外を見ると、いつの間にか太陽が真上にきていた。
しかし、そこまで気温は上がらずに涼しい。
「午後はスキルについて教えてあげますよ。楽しみにしててください」