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二章二十七話 デート2



ーアルマー


 俺は魔法学園ってのはもっと堅苦しいもんだと思ってた。

 とにかく勉強、いや、確かにそんな感じだったが、それだけではなく普通の学生らしい楽しみ方ができる。


 それは俺の友人たちのおかげでもあるんだろう。


 ハルト。

 俺がこの学園で初めて出来た友人。

 余裕で筆記試験一位を取ったり、一年生で研究室に入るようなすごいやつだ。こいつの師匠はどんな人なんだろうな。


 俺の交友関係は、ハルトが中心で出来てる。


 シーマ。

 俺の初恋、一目惚れした人だ。

 正直、どこがいいのかと訊かれてもよく分からねぇ。気付いたら好きになってた。


 ショートヘアがよく似合う、元気な女子生徒。その性格から、話していて結構楽しいというか、気分が良い。


 初めて会った時に告白しちまったのは流石にやり過ぎたと後悔はしてる。もっと段階を踏んで良いムードの中で告白するべきだったな。

 まあ、そんなんでも嫌われてはねぇと思う。


 グラン。

 ハルト曰く、『最強』らしい。最強とは言ってもそれは将来そうなるということで、今は同年代最強らしい。

 確かに実技試験は一位だったらしいし、首席で合格してるからな。


 こうやって考えてみると、俺は筆記と実技両方のトップぷと友人なわけか。俺って案外すげぇ?


 ソラ。

 ハルトの奴隷。そしてハルトの想い人………だと思う。

 ハルトは分かりづらいからな、その可能性があるとしか言えねぇ。


 まあ………すげぇ可愛い子だよな。

 俺は面食いじゃねぇから気になりはしねぇけどよ。………一目惚れしたやつが言えることじゃねぇか。


 トラウマのせいで色々と悩んでるらしい。ハルトがそのトラウマをどうにかしようと頑張ってる。

 あと二ヶ月で離れ離れになるのを防げるかは、ハルトの頑張り次第だな。


 この子は多分ハルトのことが好きだ。

 ソラちゃんの頭の中には基本、いつもハルトがいる。

 最近の俺の一番の楽しみ、こいつらの恋の応援だな。




 さて本題だが、もう告白してフラれてる俺からすると、デートなんてそんなに緊張はしねぇ。だけどやっぱり困ることはあんだよな。

 今みたく、何をすればいいか分からない状況とか。


 まあそんなことよりも、シーマが珍しく進んで俺と二人になっている。もしかしてチャンス到来とかか?


「どうしたんだよ、珍しいな」


「そう、かもね。確かにアルマと二人でいると何されるか分かんないもんね」


「何もしねぇよ!フラれた奴が変なことできるわけねぇじゃんか!」


「冗談冗談」


 シーマは俺を小馬鹿にしたように笑う。シーマには軽い男だと思われてるが、俺は一筋の紳士のはず。

 訊いといてなんだが、理由は頭に浮かんでる。


「ソラちゃんがハルトと二人でいたがってたの」


「ソラちゃんがそう言ったんか?」


「うん。あの子、絶対ハルトのことが好きだよねー」


「ま、そうだよな」


 自分の想いに気付いてないか、もしくは気付いていながら気にしないようにしてんのか。

 多分前者だと思うけどな。奴隷ってのはそういうのを体験することは一切無いからな。


「ハルトの方は?」


「わっかんねー。好きなんだろうけど、それが恋愛感情なのかは悟らせねぇ」


「やっぱりね。だからこそ見ていて面白いんだよね」


 シーマは何かを思い出したみたいで、笑うのをこらえる。

 確かに所々で甘い空気出すんだよな。羨ましいぜ、俺とシーマはそんなこと一切無いってのに。


「まっ、あいつらの事は置いといて、シーマは何かしたい事とかあるか?」


「私のしたい事でいいの?」


「当然だぜ」


 なんせ、今日はなんとかしてシーマの事を知るためにこの企画を立てたんだからな。

 シーマの事を知ることによって、次の告白は成功させてやるぜ。


「んー、じゃあついてきて」


 シーマは早歩きで魔法学園とは別方向、つまり王都の中心部から離れていった。

「お姉ちゃんー!だっこー!」


「わたしも!」


「ちょっとまって。みんな順番だよー!」


「シーマ人気すげぇ………」


 それで連れてこられたのは王都のはずれにある孤児院だった。

 シーマは何度かここで手伝いをしてるらしい。

 シーマの新しい一面の発見だ。


 しかし、よくあんなに子供と仲良くできるよな。俺なんて子供に近寄られるとどうしたらいいか分からねぇ。


「あにき!なにかんがえてんだ!」


「お兄ちゃん、もっとー!」


「兄貴の力すげぇーーー!!!」


 俺は背中に女子一人、両腕に男子一人ずつぶら下げていた。

 何をすればいいか分からないままでいたら、気付いたらこうなっていたぜ。


「回って!ぐるぐるして!」


「やってやって!」


「次わたしの番だよー」


「あぁ!子供ってうるせぇ!しっかり掴まってやがれ!」


 いろんな方向から元気で大きな声が聞こえるって、少し鬱陶しいぜ。

 だけど俺にも元気を分けてくれてるみたいだ。子供たちにつられてさっきから動き回ってる。


「うおぉぉぉ!」


「きゃあーーー!」


「がはははは!」


 言われた通り、子供たちが吹っ飛ばないギリギリのスピードで回転してやる。

 そうしていると、更に他の子供たちが寄ってくる。


 そうしているとシーマが近寄ってきた。


「アルマって子供好きなんだね」


「いーや、子供はうるさいから嫌いだ!しかも人を遊具みたいにーーー」


「つぎつぎー!」


「早くしろよ、あにきー!」


「しゃあねぇな………おらっ!」


 いつの間にか別の子供たちが掴まっていたから、また吹っ飛ばないように回転してやる。

 子供って元気底なしか。


「ふふっ、子供が嫌いな風には見えないな。アルマは優しいね、やっぱり」


 シーマが何か言ってたが、子供たちの声で聞き取ることができなかった。


 今度は走り回れと言われたから、孤児院の庭の中を走り回ってやる。

 後ろから他の子供たちが追いかけてくる。

 こりゃ、まるで鶏とひよこの軍団だぜ。




「マジで疲れた………」


「おつかれ、アルマ」


 シーマは水の入ったコップを渡してくれる。なんだかんだで、俺もずっと叫んでいたから喉が渇いていた。

 ありがたく頂くことにする。


 子供たちは別の遊びを始めていた。子供ってすげぇな。


「今日は助かりました」


 孤児院のママさんが出てきた。

 奥からはいい香りがしてくる。夕食を作り終えたのだろう。


「いえ、私も楽しいですから」


「そう言っていただけると助かります、シーマさん。そちらの人は彼氏さん………?」


「アルマです。確かに俺はシーマのかれーーー」


「まっさか。ありえません」


 シーマがきっぱりと迷いなく断ってしまう。それが事実だけど、少しくらい恥ずかしがってくれてもいいじゃねぇか………。

 俺が落ち込んでいると、何かを悟ったらしいママさんが面白そうに笑っていた。


「あっ、シーマ来てたのか!」


「リュウさん!」


 ちょうど孤児院に年上らしき男性が入って来た。状況から考えるに孤児院で成長した人か、経営者だと思うが………。


 問題なのは親しそうにシーマの名前を呼んだことだ。

 そしてシーマ自身も親しげだった。


「母さん、これ、今月の給料です」


「いつもいつもありがとね、リュウ」


 リュウさんはママさんに金が入っているらしき袋を渡していた。

 孤児院の卒業生らしいな。


「シーマ、今日も来てくれたんだね」


「いえ、それよりもリュウさんってお金をあげて、偉いんですね」


「母さんとこの孤児院にはお世話になったからね」


 二人は本当に親しげだ。

 シーマもリュウさんと話すのが楽しそうだった。

 しかも、その会話にはかなり前からの知り合いらしい空気を感じる。


 ………………………。


「シーマさんは昔からたまに来てくれてたんですよ。だからリュウとも顔馴染みなんです」


 ママさんがそう教えてくれる。

 シーマは別の村出身の平民だと言っていたが、昔から王都に来ていたのか。

 全然知らなかった。


 仲良いと思ってたけど、俺はシーマの事を全然知らないんだよな。

 俺も数いる友人の中の一人。むしろいきなり告白なんてして、嫌がられているのかもしれない。


 シーマとリュウさんを見てそんな不安が心に広がっていった。

「ありがとうございました」


「「「また来てね!お姉ちゃん、お兄ちゃん!」」」


「またねー」


 孤児院を出たのは、もう空も暗くなってきた頃だった。

 人通りが少なくなってきて周囲の家からは楽しげな家族の声が聞こえてきていた。


 初めての恋。

 少し調子に乗っていたというか、はしゃぎすぎていたのかもしれない。


「アルマ、どうかしたの?」


「………え?」


「さっきから元気がないから」


 そう言われて、もう噴水広場まで歩いていたことに気付く。

 ずっと黙っていたのか、俺は。もしかしたら話しかけられても気付いていなかったのかもしれない。


「………悪い」


「本当にどうしたの?いつもと違って気持ち悪いんだけど」


「気持ち悪いって………」


 落ち込んでいても俺には容赦ないな。そんなところも好きだけど、少しは優しくして欲しいもんだ。

 魔法学院の寮までは一緒だ。だけど、今は一緒にいたい気分じゃなかった。


 俺が用事があると言おうとした時、シーマにベンチに座るように促される。

 俺とシーマはベンチに座った。


「………で、本当にどうしたの?アルマは夜は元気が出ない人なんですか?」


「そんな人いるのか?」


「私は見たことないね」


「俺もだぜ。がっはっは」


 少し無理矢理に元気を出して話してみる。

 するとシーマに嫌そうな顔をされた。そういえば俺って演技とかしたことねぇわ。


「何かあるなら私に話してよ。友達でしょ?」


 友達。そう、俺たちはごく普通の友達だ。

 最初から分かっていたし、覚悟もしていた………はずなのに。

 今はそんなことにも嫌な気持ちになってしまう。


「俺は大丈夫だ。精神的にはタフなんだぜ、知ってるだろ?」


 フラれてもすぐに立ち直り、そして今までこうしてきたのだから。

 告白された本人であるシーマなら知ってるはずだ。


 それに、好きな女にこんな気持ちを言えるわけないじゃねぇか。


「だからこそ心配なの」


「………一晩寝ればきっと大丈夫だから」


 今日の孤児院のこともそうだが、やっぱりシーマは人に優しいんだ。それはシーマの美徳だ。

 だけど今はシーマに優しくされたくなかった。


「………どうしても話してくれない?」


「わりぃ」


「そっか。………じゃあ仕方ないかな。アルマ、目を瞑って」


「はあ?」


「早く目を瞑りなさい!」


 俺は慌てて言われた通り目を瞑る。俺はここに来て、初めて噴水の音を聞いた気がした。

 自分で思ってたより悪い精神状態だったみたいだな。


 そして俺は気付いた。

 まさかこのシチュエーション、これは………キスか!?

 いや、それはない………だろ?あのシーマに限って。


 少し緊張してきた。


 しかし少し間が空いた後、違った刺激が俺を襲った。


「痛ぇぇぇ!!!」


 突然、平手で頰を両方から叩かれたような痛みが走る。しかもかなり強め。

 思わず目を開こうとすると、更に二撃目、三撃目と追い打ちを食らう。


「な、なんだよ!」


 俺はベンチから立ち上がる。転びかけるがなんとか耐える。

 シーマは面白そうに笑っていた。


「元気、出た?」


「………あ」


 頰の痛みと熱がジンジンとする。不安はほとんど無くなっていた。

 すると、自分の買ったプレゼントを忘れかけていたことに気付く。


 本当に、俺は何をしてんだ。


「おぉ、元気出たぜ!これ、プレゼントな」


 俺はポケットから紙袋を取り出す。

 シーマは俺の変わり様に驚いていたが、紙袋の中からネックレスを出した。


「えっ、これすごい高いやつじゃん!貰えないよ!」


「いや、貰ってくれねぇと困るわ。もう買っちまってるし」


「そ、そうだね………ありがと」


 シーマはその場でネックレスを付けていた。

 ここでソラちゃんみたいに赤くなってくれたら、俺もすげぇ嬉しいんだけどな。


 シーマがネックレスを付けたのを確認すると、俺はよく分からない満足感を感じた。


「よーし、帰ろうぜ!」


「………待ってよ」


 シーマに止められる。

 ここもソラちゃんみたく、手を握って止めてくれれば嬉しいんだけどな。


「どうした?」


「私、絶対にアルマのことを恋愛対象として好きにはならない」


「俺は諦めねぇけどな」


「………でも、友達としてはすっごく好きだからね?」


 その言葉に頭が打たれる。いや、そんな言葉じゃ表現出来ないほどの衝撃を受ける。

 こんなに不安に思うのも、嬉しくなるのも初めてだ。悪い気分じゃない。


「俺は好きだぜーーー!!!これは恋愛感情だ!」


「調子に乗らない!私はむしろアルマみたいなしつこい男は恋愛対象としては嫌いだよ!」


「照れんなって」


「………うっざ」


 本気で嫌そうな顔をされた。嫌われるわけにはいかないから、少し落ちつかねぇとな。


 シーマは俺を置いて魔法学園へ歩き出す。

 俺は遅れないように、背を向けているシーマに向かって走り出した。



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