二章二十五話 案内してやるぜ
「ハルト様!急いでください!」
「分かった分かった」
今日は滅多に無い、魔法学園の休日だ。
普段は、午後はずっと空いているとはいえ結局それぞれの学習を始めてしまう。
みんなも今日みたいな公式の休みの日は勉強をしないらしい。
俺たち五人で気分転換をすることになった。
そして現在、先日の研究で夜更かしした俺はソラに起こされても二度寝し、結局遅刻するハメになってしまったのだ。
「もう先に行っているかもしれません………」
「大丈夫だ。あいつらは俺たちを見捨てるはずがない」
グラン、アルマとも良好な友人関係だし、なによりもソラの事が大好きなシーマがソラを置いて先に行くことはないだろう。
というか俺は今、ものすごく眠い。
研究で夜更かししたのもそうだが、今日のことを考えるとなかなか寝付く事ができなかった。
グランとアルマとシーマもいるがなんせ俺からすれば、初めてのソラとのデートだ。
ガラじゃないのは分かってるが、仕方なかったのだ。
集合場所にした学園の前には、予想通り俺たち以外がすでに集まっていた。
「あっ、ハルー!」
「おい遅ぇぞ!ハルト」
「悪い、寝坊した」
やっぱりみんな待っていてくれた。
グランは俺を見るなり手を振りだし、アルマは愚痴を言ってきた。
なんだかんだで、全員が集まることはあまり無いから新鮮な光景だな。
「ソラちゃん、いつも大変でしょ?うちの子にならない?」
「えっと………すみません」
「あらら、フラれちゃった」
そしてシーマは、ソラを視界に入れるとすぐに抱き締めてそんなことを言っていた。
相変わらずシーマはソラの事が大好きだな。
しかしソラがちゃんと断ってくれて良かった。
今、ソラが味わっている日常は別に俺が主人じゃなくてもいいのかもしれない。それが最近、頭に浮かぶ不安だった。
研究室の関係で帰りの時間が不規則だし、どこかに連れて行ってあげてもない。家でも、勉強を教えるか駄弁るか、モフモフするかだ。
ソラを幸せにすると決めたんだから、もっとしっかりしないといけない。
「よっし、ハルトとソラちゃんも来たし、今日の集まった理由を紹介するぜ!」
実は、俺とグラン、ソラは今日何をするのか聞いていない。
アルマとシーマが二人で決めたことだ。
「ハルトもグランも、ヤノ村から来たんだろ?」
「うん、そうだよ」
グランは俺が欠伸をしているのを見ると、ため息を吐いてアルマの問いに答えた。
グランは俺がどうして遅刻して来たか察したようだ。
「ソラちゃんはあまり出歩けなかったしね。だから私とアルマで、三人に王都を案内してあげようかなって」
シーマはソラを抱きしめたまま、俺、グラン、そしてソラの三人に視線を送った。
シーマのアレ、ソラは嫌がらないんだよな。むしろ嬉しそうだ。
俺にはあんな事をする度胸は無い。
「それは結構助かる。なっ、グラン」
「うん。実は何度か迷子になったこともあるんだよね、あはは」
いや、あのグランが迷子になるとか、どんな入り組んだ道が王都に存在するんだ。
それなら、確かにその必要はありそうだ。
「と、いうわけで。午前中の間は王都案内をしまーす」
シーマがそう言った瞬間、俺とグランは、アルマとシーマの目が光ったのを見逃さなかった。
シーマに背後から抱きしめられているソラは気付いた様子がない。
「よっしゃ、それじゃ行こうぜ」
「ソラちゃん、ほら、行こ」
「は、はい」
アルマはシーマが進むと同時に、そしてシーマはソラの手を握って歩きだした。
俺とグランは、それを見てある仮説を立てる。
「ハル、多分二人の本音は違うよね」
「あぁ、アルマはシーマと一緒に行きたいが誘いづらいから。シーマは俺の奴隷であるソラと遊びたかったからだろうな」
だから、わざわざ案内を午前中までにしたんだろう。
アルマとシーマの、誰と行動するかの戦いは午後から始まるな。
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「三人とも、あれが“ギルド”だよ」
アルマとシーマは、とりあえず片っ端から説明するつもりらしい。
さっきは銭湯、そして今はギルドを紹介されている。
「ギルドなら結構稼げるから登録しておくといいぜ」
アルマとシーマは交互に説明をしてくれる。
説明の中には、俺とグランはもう知っていることも数多く含まれている。しかしソラの為にと、俺たちは何も言わない。
「ただ、ギルドは危ない人もいるから気を付けてね」
「特にソラちゃんが危ねぇからな」
「そうだよ、ソラちゃんはこんなに可愛いんだから」
「え、えっ、えっと。はい」
元々話すのが得意ではないソラは、矢継ぎ早に話しかけられて混乱しかけている。
基本的にターゲットにされているのはソラだから、俺たちはのんびりと王都の見学だな。
実際に知らない所も多いし。
「あっ、ちなみにあそこにあるパン屋のパンは絶品なんだよ」
「あっ、そこは僕も行ったことあるよ。作りたての美味しさだね」
「そうなんだよな!今度一緒に行こうぜ、グラン、ハルト」
「ソラちゃんも、私と一緒に行こうよ」
なんというか、アルマとシーマが絶好調だ。午後の自由行動に対して気合いを入れてるからだろうな。
俺としては、ソラが大変そうだから少し落ち着いて欲しいんだが。
「そして、ここが王都の名物の一つ。噴水広場だよ」
「決まった時間にはもっと水が出るんだぜ」
少し歩いて、シーマとアルマが息が合った説明でそう教えてくれる。
確かに広い空間が広がり、中央には大きな噴水があった。
そしてカップルが多い。
「見ての通り、カップルには人気の場所だよ。ハルトとソラちゃんも今度二人できてみたら?」
「わっ、わわっ、私たちはそんな関係じゃないって何度言ったら分かってくれるんですか!」
ソラが赤くなってそれを否定する。確かに俺たちはそういう間柄ではないが、そうまで否定されると傷つく。
シーマはそんなソラを見て口元を押さえていた。
「もう、ソラちゃん可愛すぎ。やっぱりハルトにはあげなーい」
そう言ってソラの赤い頰をぐにぐにした後、より一層抱きしめていた。
その瞬間に周囲から視線を集める。残念ながら百合ではない。
いや、残念ではないな。
「シーマも。アルマと来ればいいんじゃないか?」
俺はお返しのつもりでそう言ってやった。
「そうか!ハルトもそう思うよな!」
「えぇー、アルマとぉ………?」
アルマが嬉しそうに話しに参加するのに反して、シーマはいかにも嫌そうな顔をする。
アルマはそれを見てかなりのダメージを受けたようだ。
「冗談だよ。でも面倒」
シーマはアルマをフォローしてから、更にアルマの心をバッサリと斬る。
アルマはよろけながら胸を押さえ、地面に膝をついた。
「アルマは放っておいて、そろそろお昼にしない?」
シーマはそう提案する。確かに、すでに十二時は過ぎていた。
「あっ、じゃあ『ライク』でどうかな」
「私は賛成」
「私もそこでいいです」
グランの意見に女性陣に反対の意見はなかった。
俺はアルマを慰めているため、とりあえず頷いておいた。
「よし、決まりだね。ソラちゃん、行こ」
「ハル、僕たちも行こうよ」
「分かった」
未だ落ち込んでいるアルマを放っておいて、俺たちは『ライク』へ向かった。
もちろん、アルマは復活して追いかけてきた。
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『ライク』にて。
ちょうどお昼時なのでとても混んでいた。一般人だけじゃなく、冒険者からも有名だからな。
それでもなんとか席に着くことができ、食べ終わった後だった。
「みんなに頼みがあるんだ。この後、シーマとソラちゃんで行動してくれねぇか?」
シーマがトイレに向かっている間、アルマが提案した。
その提案に反対する理由も特になかった。
そして午後、初めは男と女で別れるて動くことになった。




