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二章二十四話 天才の入室



 魔法工学研究室に入って早くも三週間が経った。


 最初の一週間のうちはカランナ先生の助手として、必要とされたら魔法式の意味を教えていた。

 一週間経って、暇そうにしていた俺を見たカランナ先生がようやく魔法工学のあれこれを教えてくれた。


 そうは言ってもまだ魔法工学の一部分しか教わっていなく、魔法具の作製と付与魔法についてだけだ。

 これが思っていたよりも、格段に難しかった。


 魔法具の作製と付与魔法の両方に必要な技術がある。

 魔力回路の人工的な生成だ。

 カランナ先生から初めて聞いた時は、そんなことが出来るのかと驚いたものだ。


 この三週間、みっちりそれだけを教わったがまだほんの少し、基礎の基礎しか出来ていない。


 魔力回路を生成することによって、本来魔力を流さないものにも魔力を流す事ができる様になり、その魔石、魔法式の効果を発揮することになる。


 魔法具は魔石と器材を繋げる必要がある。それには魔力回路の生成をフルに使うため、全然出来る気がしない。


 しかし付与魔法の調子は良かった。


 付与魔法は、得た魔法式を思い浮かべる、つまり発動しながら無機物との繋がりを作ればいい。

 その為に必要な魔力回路はほんの少し、魔力が通る入り口を作るだけでよかった。

 それなら魔力回路の生成も基礎の基礎だけで十分だ。


 それでもなお、学ぶ事は多く、実践に移すとなると全然うまくいかなかった。

 家では徹夜なんて当然だったし、時には家には帰らないで一晩中、研究室で魔力回路の生成に打ち込んだこともあった。


 その時はさすがにクタクタに疲れたが、翌日にソラが必要以上に心配してくれたから癒された。


 そうして入学式から一ヶ月が経った。

 もう外が暗くなり始めた夕方、カランナ先生は一人でずっと机に向かっていた。俺が魔法式の意味を教えてからだ。


 のんびりとした性格の割に、研究者としてする事がある時は、これでもかと言うほど忙しい人でもあった。


 俺はソファの上で付与魔法に集中していた。

 そこら辺にある石を手に乗せて、『火』の魔法式を思い浮かべながら、魔力回路を通す。

 俺が上手くいかないのは、やはり魔力回路の生成だ。


「………………くっ………」


 一瞬、集中力が途切れて魔力回路の生成に失敗しかける。

 俺の魔力では一日に一回しか使えない。だから一回の失敗が命取りだ。


 『火』の魔法式を発動しながら、もう片方の手で魔力回路を生成していく。

 何度も何度も失敗してきた。今日こそは成功させたい。


 魔力回路が少しずつ、石の中を無規則に奥へ奥へと、這っていく様に進んでいくのを感じる 。


 カチッ


 そして遂に、魔法式とこの石が繋がった。石が一瞬光る。


「………よ………よっしゃあぁぁぁ!」


「わっ!なにぃー?いきなりどうしたのハルト君〜?」


「付与成功しました!」


「えぇ〜!すごぉ〜い、早ぁ〜い!」


 先生が立ち上がって一緒に喜んでくれる。俺と先生はハイタッチをした。

 俺は思わず飛び跳ねてしまいそうになる程嬉しかった。

 一つのことに、こんなに夢中になってこんなに努力したのは初めてかもしれない。


「ちょっと見せてぇ〜。………なるほどぉ、本当に出来てるねぇ〜」


 カランナ先生は付与に成功した石を手に取り、いろんな角度から眺めて、触っていた。


「それで、これは何が出来るんですか?」


「この感じだと………ハルト君、魔力を流してみてぇ〜」


 カランナ先生に石を渡される。

 言われた通りに少しだけ魔力を流す。付与にほとんど使ったから、残りの魔力はほとんどないが。


「………………熱っ!」


 魔力を流してしばらくすると、石が突然燃え始めた。思わず石を落としてしまう。


「これがこの付与の効果だねぇ〜」


 『火』の魔法式を付与すると、火を出すようになるのか。

 しかし俺は、そんな効果よりも凄いことに気付いた。


「カランナ先生、これは魔法みたいな威力を出すことって出来ますか?」


「ん〜、魔力回路をもっとしっかり繋げば出来るよぉ〜。

 ………なるほどぉ、これなら付与したものなら魔法よりも消費少ないし、魔力の少ないハルト君でも魔法を使えるのと同じになれるねぇ〜」


「そうです」


 魔力を流してみた結果、技能で魔力を流すのよりもは魔力を消費するが、魔法を使うよりも格段に消費が少ない。

 上手く付与したものを使えば、魔法を使えるようになるかもしれない。


 学園長が言っていた通り、付与魔法は俺向けの技術だ。


「でもぉ〜、今のハルト君の技術じゃ無理だよぉ〜」


「分かってます。もっと頑張りますよ………明日から」


 今日はもう魔力がほとんど無い。

 これ以上頑張ると体力まで削りかねない。一度それで死にかけている俺は、その危険性をよく知っている。


「それじゃあ、今日はお先に失礼します」


「じゃあねぇ〜。いざ、ソラちゃんとの愛の巣へぇ〜」


「そういう関係じゃないですから」


 帰り支度をし、研究室から出ようと扉の取っ手に触れる。

 しかし、俺がそれを捻ることは出来なかった。


「失礼します!」


 真面目そうな挨拶と共に扉が開いた。俺は危うく勢いよく扉に激突するところだった。


 扉が開いた先にいたのは、筆記二位のコルアだった。


「学園長先生から許可はもらいました。今日からこの魔法工学研究室にお世話になる、コルアです」


 ペラペラと話すコルア。

 ………学園長から許可を貰ったって………あの人、少し面白がってないか?


「えぇ〜、聞いてないよぉ〜」


 また学園長はカランナ先生に何も言わずに許可を出したらしい。カランナ先生も大変だな。


 コルアは真面目に挨拶した後、キッと俺を睨んできた。


「僕は君には負けないからな」

 その後、俺よりもスタートが一ヶ月遅れてるにもかかわらず、魔力回路の生成を出来るようになった。

 その後、魔法式が関わってくる付与魔法はまだ出来ていないが、俺よりもずっと早く魔法具の作製に成功していた。


 先生の言っていた意味が今日、ようやく分かった。


(天才ってムカつくわー)



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