二章二十一話 決闘そして圧勝
「なぜ奴隷がここにいるのだ」
突然、帝国の貴族………確かアドガルドだったか。
彼が話しかけてきた。
相手は貴族だ、出来るなら荒事にはしたくない。
「そのような獣風情がいていい場所ではない」
と、思っていたが予定変更だ。
このおぼっちゃまは、ソラのことを獣だと言った。
それを許すわけにはいかない。その言葉は最も獣人族を冒涜する言葉だ。
「おい、おまーーー」
「ハルト様、私は慣れてます。大丈夫です」
腕をソラに引っ張られ、止められる。
正直、頭を床につけさせてソラに謝らせたいところだ。
だがソラ本人が大丈夫だと言うなら仕方がない。
アドガルドはそれを見て面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「そもそも、お前のことも気に入らん。貴様のような平民が筆記一位だと?どんな不正をした?」
「不正なんてしていない」
そもそも、不正をしていたら今ここにはいないだろうに。
「そんなはずはあるまい。どんな師に就こうが所詮、平民は平民だ。よほど悪知恵を働かせたんだろう」
典型的な王族貴族最高の考え方を持ったやつだな。
ソラに止められている今、帝国の貴族を敵に回す可能性のある言動は避けないといけない。
(こいつマジで失礼!ぶっ飛ばしちゃって!)
(駄目だって。そんなことしたら、次は俺がぶっ飛ばされる)
確かに俺のイライラも溜まってはいるが、ここで我慢しないと。
それに、後ろでアドガルドに対して怒ってくれている友人もいるからな。
「黙ってないで何か言ってみたらどうだ?それとも汚らしい平民は人の言葉も喋れないのか?」
「ハルト様は汚らしくなんてありません!」
ストレスで禿げそうになっていた時、あの人見知りのソラが堂々とアドガルドの前に出ていった。
一瞬、感動して見守ろうと思ってしまった。
しかしそんな悠長なことは言っていられなかった。
「消えろ、獣が」
「あうっ!」
アドガルドはソラを視界に入れないようにしながら、裏拳でソラを殴ったのだ。
「チッ、汚い。何か拭くものをーーー」
プチン
「おい、帝国のおぼっちゃん。ふざけんなよ」
さすがに堪えきれなかった。
罵声どころか殴るとは。注意が足りなかった俺のミスだ。
俺はアドガルドをぶん殴るために一歩踏み出した。
「だめだ、ハルト」
しかしアルマに止められる。
見た目通りかなり鍛えられていて、なかなか解けそうにない。
技能で強化して振り切るか?………友人にすることじゃないな。
アドガルドと俺の間にも、取り巻きの男女が立ち塞がっていた。
とにかく頭を無理矢理に冷やしてソラの元に駆け寄った。
「ソラ、大丈夫か?」
「………ごめんなさい」
「謝る理由なんてない。回復」
回復魔法でソラの頰を治療する。
この一回の魔法だけで、魔力の三分の一が無くなった感覚がする。
回復は消耗が少なくないからな。
「おい、平民。その気なら相手してやるぞ?貴様の弱さを俺が証明してやる」
「………………いいだろう」
「ハルト様、だめです!」
ソラが必死に止めようとする。ソラには悪いが、今回は無視させてもらう。
それにここで引き下がったら、それこそ上下関係が確立してしまう。
「くくっ、平民ごときが調子に乗ってるようだからな。この俺が直々に叩きのめしてやる」
「叩きのめされるのは俺じゃない」
俺たちは数秒睨み合った後、三十分後に訓練場で決闘を行うことを約束した。
アドガルドと取り巻きは教室から出ていった。
「………ハルト様………」
「ハルト、本当に大丈夫なんだろうな」
ソラとアルマが心配をしてくれる。それは嬉しいことだ。
確かに俺は実技の結果はボロボロ、相手は腐っても貴族。
勝つのはそれなりに大変かもしれない。
「問題ないって。俺、これでも実戦慣れしてるから」
「………まあ、死にゃしねぇしな!審判は俺がやってやるから、好きなようにやってこいや!」
「カッコよかったよ、ハルト。ソラちゃんもきゅんとしちゃったんじゃない?」
「なっ、そんなはずなじゃないですか!」
シーマがソラのテンションを上げてくれた。
俺が決闘している間も、シーマならソラを見ていてくれるだろうから安心だ。
しかし、剣は家に置いてある。取りに行くのは面倒臭い。
そして魔法もほとんど使えないからな。さっき回復使ったし。
となると、武器なし魔法なしの生身で戦うことになるのか。
………まあ、どうにでもなるだろ。
「お前が勝ったら、グラン含めた五人で『ライク』で食いに行こうぜ。もちろん、俺のおごりでな!」
「さっすがアルマ、太っ腹だねー」
「それは負けるわけにはいかないな」
やっぱりファミリーネーム持ちは、結構金を持っているらしい。
そういえば、アルマって貴族なのだろうか?
今度訊いてみよう。
そしてようやく、俺たちは訓練場に向かった。
(ミドリも、今日はソラと見ててくれ)
(了解!)
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ーシーマー
ハルトも思い切ったことをする。
私だったら貴族を敵に回したくないし、それに帝国とか面倒くさすぎるし。
ハルトは訓練場で帝国の貴族が来るのを待ってる。
私たちは高みの見物をさせてもらう。
「なんでハルト様はこんな事………」
隣にはソラちゃんがいる。
獣人族の奴隷という、今まで苦労してきただろう肩書きだけど、この子は天使だ。
可愛い、可愛すぎるし、いい子すぎる。
もうお持ち帰りしちゃいたいくらいです。
それはハルトもソラちゃんも嫌がるだろうからしないけど。
なんでハルトはこんな事したのか、か。
私はハルトの事がよく分からない。
いや、性格とか考えとかは分かるんだけど、ソラちゃんのことをどう思ってるかが分からない。
すぐに可愛いって言ったり、ソラちゃんの為に今みたいな事する。
だけど好きって伝えてる雰囲気無いし、しようとすると気配も無いし、ハルトの好意は男としてなのか家族としてなのか、よく分からない。
でも大切に思っている事は間違いないよね。
「シーマさんはどう思いますか?」
ソラちゃんは不安そうな瞳を私に向ける。
そそられるわぁ。
「んー、そうだなぁ。ソラちゃんが大切だから頭にきちゃったんじゃない?」
「それは、嬉しいんですけど………いえ!嬉しくなんてないです!
たとえそう思って下さってるとしても、私は奴隷ですよ?」
実際、ソラちゃんはハルトの事をどう思ってるんだろう。
好意はあるけど、どこかで一歩引いてる気がする。
何か理由があるのかも知れない。ハルトも気付いて、何も言わないから。
「ハルトは奴隷がどうかなんて気にしてないよ。大切かそうじゃないかだけ。それにハルトは譲れない一線を自分なりに持ってるみたいだしね」
ソラちゃんは心配そうに、ハルトに目を向けた。
ちょうどその時、帝都の貴族、アドガルドが来た。
「それに理由なんて簡単だよ。ハルトは良い奴だから」
「………はい、ハルト様は優しい方です」
ソラちゃんが一番分かってるだろうね。
ソラちゃんを誰よりも大切に扱ってるのはハルトだし。
「それで、なんで君がいるのかな?」
「ミドリちゃんに連れてこられ………じゃなくて、面白そうな匂いがしたから」
私たちの後ろには何故かクラスの違うグランがいた。
私、なんかこの人苦手なんだよね。見た目は好みだけど。
ハルト曰く、「同年代最強」らしいけど、そんな風には見えない。
確かに入学式での挨拶はすごかったけどさ。
「ハルも一日目から面白い事するよね。なんで僕だけ違うクラスなんだろう………」
「男のくせにいちいち凹まないで。みっともないよ」
そう、グランは何かあるとすぐに凹む。それになよなよしてる。
外面は良いのに、もったいない。
そういう意味じゃ、アルマの方がいいかな。
出会った日にいきなり告白してきた変な奴。だけど色々と気が利く良い奴。
時々アプローチかけてくるのが、ちょっと嫌だけど。
「グランはこの決闘、どう思う?」
「ハルは負けないよ。ハルは強いから」
ハルトもグランもお互いを過大評価してる気がするら、
小さい頃から一緒にいるからかな?
「シーマさん、そろそろ始まります」
「分かった。ちゃんと勝ってもらってアルマに奢ってもらわないといけないからね」
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………なんか観客が一人増えてないか?
なんでここにグランがいるんだ。格上に見られるのは落ち着かないんだが。
それにしても、まさか一日目からこんな事になるとは思ってもみなかった。
俺が始めた事だけど。
対戦相手はアドガルド・ガーナウルド。
帝国の中でも有力な貴族の長男で、歳は俺と同じ十五歳。
入試の情報から、使う魔法のタイプは俺と同じ火の魔法。
ソラを殴った事は許せない。それにこれから先も、アレに大きな顔をされてるのが嫌だった。
ある意味、良い機会だ。
アドガルドが、訓練場に入ってくるのが見えた。
「早いではないか。平民なら当たり前の心構えだな」
「お前は遅刻だ。貴族としてあるべきじゃない姿なんじゃないのか?」
挑発に挑発で返す。
生身であろうと、負ける気は毛頭なかった。
「うるさい。俺が勝ったら獣含めてお前も俺の配下だ」
「俺が勝ったら今後、ソラを馬鹿にするな」
それがこの決闘の勝者に与えられる報酬だ。
いいだろう、負けたら配下だろうが犬だろうが、いくらでもなってやろうじゃないか。
「ハルト、アドガルド、準備はいいか?」
「問題ない」
「俺も大丈夫」
そういえば、この中ではアルマだけが地位的にアドガルドと同等なんだな。
アルマが貴族とは知らされてないが、ファミリーネーム持ちは高い地位の人だけだから。
「よし、それじゃあ………始め!」
「火剣!死ねぇ!」
こいつ死ねって言ったぞ。俺が死んで問題になるのは自分だろうに。
アドガルドの周囲に炎の剣が三本生成され、放たれる。
カッコいい魔法だが、《言語理解》は使わないようにしてる。
こいつの使う魔法式なんて覚えたくない。
確かにアドガルドの魔力量は多いのかもしれない。
剣のスピードはなかなかのものだ。
だけど、それだけだ。
俺は技能で身体強化する。
俺を襲う三本の炎の剣を避ける。グランの剣よりはよっぽど遅い。
俺はアドガルドめがけて走る。
「くっ、火剣!火の舞!」
更に追加の三本が俺の背後から襲う。
しかし問題は一切ない。この速度で当てたいなら十本は同時に放たないと当たらないぞ。
そしてアドガルドの前に、何本もの火が立ち上り、アドガルドを守るように組み重なる。
ここだな。
俺は急な方向転換をしてアドガルドの背後に回る。
技能の速度と、目の前の火が視界の邪魔をして消えたように見えただろう。
「終わりだ」
俺は首元に指を当てて宣言した。
「………一瞬かよ………。勝者、ハルト!」
アルマのコールが響く。
シーマとソラは固まっていて、グランは嬉しそうに笑っていた。
「ば、馬鹿な!どんなズルをしたのだ!」
「ズルなんてしてない。これが今の実力差だ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないさ」
「おい!お前らそこで何してんだ!」
押し問答が続きそうになる所で、先生に見つかってしまった。
はぁ、出来れば見つかりたくなかったんだが………。
「お前ら、ちょっと来い」
「俺は悪くないぞ!」
「………はーい………」
その後、俺とアドガルドはその先生にこっ酷く叱られた。
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結局、学園を出れたのは外が暗くなってからだ。
その間、ずっと叱られ続けていた。今までこんな事無かったから新鮮ではあったけど、疲れたな。
「………なんであんなことしたんですか?」
今はソラと一緒に家に向かっていた。
「家族を馬鹿にされたのに黙ってるなんて、そんなことしたくなかった」
「………………何を言っても、ハルト様は私を家族と呼ぶのをやめないんですか?」
「あぁ」
だって本気で嫌がる素振り見せないし、むしろ一瞬喜んでるように見えるし。
誰かとの繋がりを求めていたソラには、言うべき事だと思うからな。
「そうですか………じゃあ期限の日までなら許します」
「………そうか、ありがと」
俺はソラの頭を撫でた。
人通りが多ければ出来なかったが、時間帯のこともあって今はあまりいない。
「………ハルト様は強かったんですね」
「えっ、もしかして怖かったか?」
「………………?まさか。とてもカッコ良かったです」
「そ、そうか」
思わず鼻を掻く。
好きな子にカッコいいって言ってもらえるのって嬉しいものだな。
それだけで、今日の決闘の甲斐があった。
「………楽しかったか?」
「はい!シーマさんもアルマさんも凄くいい人でした!」
「それなら良かった」
それが聞ければ、色々と十分だ。
そういえば、今日はあまりグランと関わってないな。
クラスが違うから仕方ないのだが、ヤノ村でもよく一緒にいたから変な感じがする。
気が向いたら顔を見せに行くか。




