二章二十話 クラス、二組
『静かにして下さい、静かにー!』
誰もをこれからの魔法学園での生活に、期待を抱かせられた歓迎セレモニーが終わっても、場の熱気はなかなか収まらなかった。
「凄いです!凄いですよ、あれは何ですか!ハルト様!」
ソラは今の映像が魔法だとも気付かずに、俺の袖を引っ張りながら訊いてくる。
「今のは魔法だな。多分、幻を見せる類の」
「魔法、凄いです!」
『あの学園長、やるわね!』
「お前、ミドリは隠れてなくちゃダメだろ!」
俺は慌ててミドリを周囲から隠す。
こんな研究機関でミドリが見つかったらどうされるか………。
確かに俺も今までにないくらい昂ぶった。
けどそれ以上に、どこかで展開されていたはずの魔法式を認識できなくて残念だった。
多分、数を増やす魔法式か、空間系の魔法式を使っていたんだろう。俺がまだ持っていない魔法式だ。
『静かに!!!してください!!!』
アナウンスをしていた先輩が、さすがに切れたようだ。
周りの生徒もそれを聞いてようやく静かになった。
『ごほん、これより入学生にそれぞれのクラスを送ります。後で忘れてしまった場合は学園長室で教わって下さい』
アナウンスが言い終わると同時に、俺たちの目の前に数字が現れた。
俺のは「2」。
「ハルト様、一緒なんですね。………………はぁ」
ソラの番号も見てみると、確かに「2」が浮かび上がっていた。
なんかため息をつかれてしまった。傷付く。
大方、俺とあまり関わらないようにしたかったんだろう。
ソラは三ヶ月で離れる気でいるからな。
しかしそれを気にするのは、今様のような気もするが。
『閉式の言葉』
どうやら入学式はこれで終わるようだ。
ステージには、雰囲気をいつもに戻した学園長が上がっていた。
「これにて入学式を終わります」とありきたりな言葉を言って終わった。
さっきの歓迎セレモニーの時とのギャップがすごいな。
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「二組の教室ってどこなんでしょうか」
「多分もう少しのはずだ」
とにかく校舎が広い。学園の構造をある程度覚えておいてよかった。
それぞれのクラスの教室はかなり離れている。
それぞれがそれぞれの先生の方針によって、研究室を使ったり野外活動をしたりするかららしい。
「ここだな。………ソラ、どうした?」
扉の前に着くなり、ソラは隠れるように俺の背後に行ってしまう。
「………お金持ちの匂いがします」
「金持ちの匂い?」
俺は周囲の匂いを嗅いでみるが、特に変わったものは感じない。
しかしソラは獣人族だ。嗅覚が鋭いのかもしれない。
おそらく装飾の金属類、高級品特有の匂いだろう。
「大丈夫だ、何かあっても俺が守るし、それに学園長が黙ってないだろう」
「………………はい。学園長先生が味方って頼もしいです」
そっちか、俺を頼ってくれたのかと思って一瞬喜んでしまった。
(残念だったわね!)
(余計なお世話だ。それより、俺の中にいるんじゃなくてソラを守っていてくれ)
(分かったわ!)
ミドリは俺から出て、ソラの髪の中に隠れる。
隠れやすいってこともあるようだが、そこが気に入ったようだ。
その気持ちもわかる。サラサラで気持ち良いからな。
俺だって緊張していないわけではない。でもソラの前では見栄を張りたいんだ。
俺は教室の扉を開いた。
「おっ!ハルト、久しぶりだな!」
「アルマ、お前も二組だったんだな」
「おう!シーマも二組だぜ、今いないけど」
それは良い。とりあえず、なんでアルマがその事を知っているのかは言及しないでやろう。
うまくいっているようで何よりだ。
「おい、邪魔になってるじゃねぇか。ほら」
アルマに腕を引かれて扉の前から動かされる。
しかし俺の後ろにはソラしかいないじゃないか。
「あぁ、この子、友………………家族」
「家族!?妹か!」
「ハルト様!奴隷を家族扱いするのはやめて下さい!」
「え、なんだ、奴隷か………ってなんで奴隷がここにいるんだ!」
アルマが激しく反応していた。
もしかしてアルマは奴隷に対して偏見、もしくは見下しているタイプの人間なのか?
「ここは生徒以外は立ち入り禁止なんだ。罰せられる前に帰した方がいい」
なるほど、そういうわけでもないようだ。一安心だ。
純粋にソラと俺の事を心配してくれたようだ。
「大丈夫。ソラの入学許可は得てるよ」
「そうなのか?………ならいいか。君、名前はなんていうんだ?」
アルマはあまり深く考えずにいてくれた。
それはよかったが、アルマに話しかけられたソラが怯えてしまっている。
「ソラ、アルマは大丈夫だ」
今まで人間に虐げられ続けてきたソラなら、当然の反応なのかもしれない。
克服のためにも、この学園に入ってよかった。
アルマは怯えたソラに、無理に接触しようとはしなかった。
アルマは一定の距離を保ちながら安心させようと笑った。
「俺はアルマ、ハルトの友人だ。今は無理でもいつか君とも仲良くなりたいと思ってる。よろしくな」
アルマはそれだけ言って、ソラに関わるのをやめた。
こいつ………思ったより大人だな。
「とりあえず席行こうぜ、ハルトの席に案内してやるよ。この子はソラって子でいいんだよな?」
「あ、あぁ、そうだ。なんで知ってる?」
「前の机に、席順と名前が書かれた紙が置いてあるんだよ」
なるほど、そこからソラのことをソラと認識したという事は、俺たち三人とシーマ、そして俺たちと大分離れた位置にいる金持ちそうな三人組で全員か。
あいつらがソラの言っていた“金持ち”か。気をつけよう。
「あ。なあアルマ、グランはいないーーー」
「ハルトじゃない」
言い終える前に別の声にかき消された。
シーマが教室に入ってきたようだ。
「やっぱりハルトも同じクラスなんだね、そんな気がしてた。………………ってこの子はーーー」
シーマはソラを認識するなり固まる。
もしかしてシーマは奴隷に対して、あまり良くない考えを持っていたのか………?
アルマも不思議に思ったらしく、俺と顔を合わせる。
「か………可愛いーーー!」
「え………ふぇぇぇぇぇ!?」
突然大声を出して動き始めたと思ったら、今度はソラに抱きついて撫でくりまわし始めた。
ソラは突然のことに目を回している。
「ハ、ハルト。あれ、まずいんじゃないか?」
「…………………いや、そうでもないみたいだ」
ソラはただ驚いているだけだし、シーマはただ好意を表しているだけ。
それにソラが嫌悪感を表す気配はない。
ただ一つ、心配があるとすれば、ソラの髪に隠れてるミドリが見つからないかだ。
「ふぇぇぇ………………ひゃっ!」
ふむ、今の悲鳴はおそらくミドリがソラの服の中に潜ったんだろうな。
一瞬服が盛り上がったのが見えた。
(羨ましい………)
(何考えてんのよ!)
(何でもない)
離れていてもテレパシーもどきができるとは、初めて知った。
シーマはソラを愛でまくって満足げな顔をした後、俺の元に来た。
「それで、この子は誰?なんで奴隷がここにいるの?」
「その子はソラ、俺の家族だ。許可はもらってるよ」
「なるほど、ならこれからも問題なく可愛がれるんだね」
シーマは本気でソラのことが気に入ったらしい。
可愛いのは認める、この上なく。それに雰囲気も守ってあげたくなるというか、なんというか。
ソラは背後で息を荒げながら、服の乱れを直していた。
俺にアルマとシーマ、そしてソラ。
これは、あの胡散臭くて性格の悪いジジイの陰謀を感じる。
多分、今も面白がりながら覗いているんだろうな。
なんとなく分かったが、グランは成績の問題でこのクラスには入れなかったんだろう。
筆記一位と実技一位を、同じクラスには出来なかったか。
「………チッ」
教室の反対側から舌打ちが聞こえる。
なるほど、確かにあの金持ちたちは性格が悪そうだ。
「ほーらぁ、早く席に着いてー」
「あっ、す、すみません!」
教室に俺たちのクラスの先生らしき人が入って来ていた。
扉に一番近い位置にいたソラは、ひどく縮こまってしまっていた。
ソラは急いで俺の側まで来る。
「ハルトの席は俺の隣で、ソラちゃんの席はシーマの隣だかんな」
「あ、ありがとうございます」
「ソラちゃんって名前なんだね!よろしく、私はシーマ!」
「よ、よろしくお願いします」
ソラが入学できて本当に良かった。
早くも友人が二人も出来そうだ。アルマの大人の優しさと、シーマの性格のおかげだな。
「自己紹介は後でちゃ〜んとやるわよ〜。だから早く座ってぇ〜」
随分とのんびりした雰囲気の先生の注意に従って、俺たちは席に着いた。
アルマと俺が並び、俺の前にソラがいてその隣にシーマがいる配置だった。
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「それじゃあ、まずは自己紹介ね〜。私はカランナ・アラウラ。君たちの先生よぉ〜、よろしくぅ〜」
なんだか聞いているだけで眠くなってきそうな話し方の人だな、カランナ先生。
しかし、あんな雰囲気でも、この魔法学園の教師ということは只者ではないんだろう。
「それじゃあ、それぞれ自己紹介をしてもらおうかなぁ〜。それじゃあまずは、筆記試験で一位だったハルト君〜」
ソラ、アルマ、シーマからの強烈な視線を感じる。
金持ち三人組からは睨まれているし。
なんでそういうことをサラッと言ってしまうのだろう。
「はい。俺はハルトといいます、十五歳です。王都に来てまだ間もないので色々教えて頂けると嬉しいです。二年間、よろしくお願いします」
完璧だろう。長くもなく短すぎもしない。
しかし何故だろう、金持ちトリオからの視線が強くなった。
「はぁい、よく出来ました。勉強で分からないことがあったら、ハルト君に聞けば万事解決だよぉ〜」
さらに強くなるトリオからの視線。
だから、そういう事をみんなの前で言わないでほしい。
その後は問題無く、自己紹介は進んでいった………とは言えなかった。
アルマとシーマが無難に自己紹介をした後、ソラの自己紹介だった。
「わ………私はソラです。えっと………よろしくお願いします」
俺は呑気に、ソラが見事に人見知りを発動していた様子を可愛く思っていた。
「おい!なんでこの魔法学園に奴隷、しかも獣がいるんだ!」
金持ちトリオのリーダーらしき男子からのセリフだった。
それを聞いた瞬間に、思わず技能で身体を強化する。
視界の端でアルマとシーマも動き出そうとしていたのが見えた。
「拘束ぉ〜」
気の抜けた魔法名と共に俺たちの動きが封じられる。
「きみきみ、今はそういう時間じゃないからちょっと黙ってよっかぁ〜」
カランナ先生がそう言うと、金持ちリーダーが黙った。
動くようになった体で金持ちリーダーを見る。
金持ちリーダーは口をパクパクさせていた。
しかし何も言えていない。
これは………言う事をきいたのでは無く、きかせられたのか………?
魔法………にしては魔法式が発生しなかった。スキルか?
………異常だ。やはり只者じゃなかった。
「はい、それじゃあ続きねぇ〜。じゃあ、さっきの君」
金持ちリーダーが指名される。
渋々といった様子で立ち上がっていた。
「………アドガルド・ガーナウルドだ。帝国から来た」
言うことはそれだけとでも言いたげな様子で座った。
「………なるほどな、ガーナウルドって言えば帝国の貴族だぜ」
一応、ファミリーネーム持ちのアルマから、ありがたい情報だった。
しかも帝国といえば、奴隷に対してかなりキツイ国だったはず。
これは本気で気をつけた方がよさそうだ。
そうして取り巻き二人の自己紹介を終えた。
二人も帝国出身の、ガーナウルド家の分家らしい。
あの三人には出来れば関わりたくないな。
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自己紹介が終わり、制服が配られた。
カランナ先生はもう既に教室にはいなかった。
俺たちはそれぞれ、制服に着替えていた。
「きゃーーー!ソラちゃんが可愛すぎる!ハルトもそう思うよね!」
「あぁ、もう最高に可愛い」
「やめてくださいぃーーー!」
ソラは真っ赤になって恥ずかしがっている。
だってしょうがない。可愛い上にシーマに話を振られたんだから。
「ハルトも似合ってるじゃないか」
「そうか?アルマもかなりカッコよくなってるぞ。………シーマを褒めなくていいのか?」
アルマはシーマの事が好きなくせに、制服を褒める気配がない。
「いや、そんなこと出来ねぇって」
「最初はあんな勢いだっだのにな」
最初はいきなり手を握るという暴挙に出たくせに。
今となってはその勢いが一切無い。
しかしアルマは唸りながら悩んだ結果、勇気を出すことに決めたようだ。
「シーマ、すごく似合ってるーーー」
「そういうのいいでーす。私は今、ソラちゃんを愛でてるの」
アルマは泣きそうになりながら俺の方を振り返った。
なるほど、良い感じになってると思っていたが、そういう風に落ち着いたわけか。
そう、俺たちが騒いでいる時だった。
「………おい、なぜ奴隷がここにいるのだ」




