二章十八話 呼び出し
それから小さな事は色々あったが、もう一週間。
ソラとの生活にも多少の違和感はあったりするが、慣れてきた。
俺とグランには魔法学園の合格の知らせと生徒証が届けられた。
顔写真なんて撮ったことがないのに、なんで生徒証に載っているのか気になるところではあるが。
つまり魔法学園の試験から一週間後、今日が入学式だ。
しかし俺は今、指定された集合場所ではなく学園長室へ向かっていた。
無理だとは思うが学園長にお願いしたい事が出来ていた。
昨日、俺が魔法学園に行くことをソラに告げた。
その時のソラの表情がもう可愛くて………。
いや、そうではなくて、ソラが魔法学園にとても興味を持ったようだった。
隠している様子だったが、隠しきれない表情と尻尾の動きから明らかだった。
つまり、何が言いたいかというとだ。
学園長にソラの入学を許してもらいたい。
ソラと一緒の学生生活を過ごしたいという気持ちも確かにある。
しかしそれ以上に、つい最近まで奴隷だったソラに、学生生活を通して楽しませてせてあげたかった。
試験も受けていないソラが入学を許されるとは、正直思えない。
でも一縷の望みを学園長に託してみよう。
「失礼します」
ノックをしないで学園長室に入る。
非常識なんて思わない。だってこの学園長はどうせ俺が来ることを知っていたんだろうから。
案の定、驚く様子も無かったが、表情に疲れが滲んでいるように見える。
「おはようございます、ハルト君」
「おはようございます。今日はお願いがあってきました」
「ほほう、一体なんですか?」
学園長が机の上で手を組む。学園長の雰囲気が変わった。
よく考えたら、魔法学園の長に頼み事なんて随分と恐れ多いことなんじゃないか?
「えっと………試験を受けいない人でも入学できたりなんて………しないのかなぁと疑問に思って」
学園長の雰囲気に押されて予定とはだいぶ違う内容を言ってしまった。
自分で言っておいて、これは無理だと悟った。
ここは本来、各国のエリートが集まる場所だ。
そこに個人の為と、入学させるわけにはいかない。
「それは不可能です。既に成績を加味したクラス分けもして、手続きも済ませてあります」
「そう、ですよね」
やっぱり無理だったか。もともと分かっていた。
この件に関しては俺自身、無茶を言っている自覚はあったから諦めるしかない。
コンコン
学園長室の扉がノックされた。
「来ましたね、入りなさい」
そういえばあと少しで入学式が始まる。
入ってきた先生に連行ながら、入学式に行くことになるだろう。目立ちたくないなぁ。
「えっ、ハルト様?」
「……………ソラ?」
なんと扉から入ってきたのはソラだった。
家の外なので、当然ながら尻尾は隠している。
「なんでハルト様がここにいるんですか?」
「それは俺が聞きたいんだが……………」
突然のことで慌てて、頭の回転が鈍くなる。
とりあえず無理矢理にでも頭を回転させて理由を考えてみた。
まあ、学園長だろうな。
「私が呼んだのですよ」
「………ですよね、なんでソラをここに?」
「ふふふ、学園長が興味のある入学生を呼んではいけないんですかね?」
あぁ、それもそうだな。
ソラは一応俺の奴隷だし、どうせ学園長もそのこと知ってるだろうし。
「俺は出て行っほうがいいんですか?」
「ここにいても構いませんよ。君が主人なんですからね」
「そうですか…………………いや、待て待て待て」
あまりにさらっと言うせいで、思わずスルーするところだった。
ソラが入学生?どういうことだ。
「反応が遅いですね、筆記一位とは思えない。ソラさんは私が招待したんですよ」
「いや、どうして!ソラは試験を受けてないんですよ!」
「そんなの、権力者の鶴の一声でどうにでもなりますよ」
権力者って学園長のことだよな。自分のことを偉そうに言うなよ。
だけど本当にそんなことをしていいのだろうか。
俺としては嬉しい事態なんだが、疑問にも思う。
「あの、ハルト様。試験なら受けました」
「え、聞いてないんだけど」
「あの日はハルト様がギルドの依頼で疲れてたみたいだったので」
それで次の日には忘れていたと。
もう何が何だか。学園長が仕組んでるってことは分かる。
しかし最近まで奴隷だったソラが試験に受かったのか?
「ソラさんは合格点には満ちてません、でも入学してからの勉強はハルト君が教えてあげるでしょう?」
「それはそうですけど………。いいんですか?」
「いいんですよ。ふふふ、そのほうが面白そうですしね」
面白いからって………そんな事をしていいのか。
学園長っぽいといえば学園長っぽいけども。
いや、きっとソラの為でもあるんだろうな。それなら素直に言えば評価上がるのに。
「………………………」
「あっ、悪い、ソラ。勝手に話してて」
「いえ、私もだいたい理解できました。あの、つまり…………私もここで、学生として入学してもいいんですよね?」
「あぁ、そういうことになる」
その途端にソラは目をキラキラさせる。
今は見えないが、尻尾をぶんぶん振っているところだろう。
かわええなぁ。
「そんなに喜んでもらえて、私も無理した甲斐があります。
ですがこれからハルト君と話したいので、ソラさんは外に出てもらえませんか」
「あっ、すみません!」
ソラは慌てて学園長室から出て行った。
家に帰ったら、ソラのテンションが高いのを見れるんだよな、楽しみだ。
「それで学園長、話ってなんですか?」
「そうですね、まずソラさんと節度ある行動をお願いしますよ。今までみたいに周りが赤面するようなことは避けて欲しいですね」
「まあ、ここはそういう場所じゃないですからね。………ってなんで今までそんな事があるって言えるんですか?」
確かにソラが真っ赤になったり、俺も赤くなったりした。
尻尾をもふもふしている時はそう見えなくもないかもしれない。
だが何故だ、何故それを知っている。
まさか………………。
「当然、見させてもらってましたよ」
「何してるんですか!この覗き魔が!」
この人に見られているかもしれない可能性を忘れていた。
特に今は、俺がマークされててもおかしくないのに。
「ふふふ、あれだけ笑ったのは久しびりでしたよ」
「くそ、注意が足りなかった………!」
別にやましい事はしていない。
だけど当然、他人には見られたくないわけで………。
顔が熱くなってくる。
「顔が赤いですよ」
「うるさい!」
「実はハルト君はウブですよね。男の赤面なんて見たくないんで落ち着いてください」
この人は!学園長のせいでこうなっているんだ。
そもそも俺だってしたくてしてるわけじゃ、全くないのに。
あぁ………この野郎………。
俺が落ち着こうとしていると、学園長は突然真面目な表情になった。
「本当に、それでいいんですか?」
「………はい?」
「過去に他人を不幸にする呪いを受けた人は本当にいました。彼女がそうだと断定はできませんが、可能性は高いでしょう。それでも?」
「そうだとしても、俺はソラを手放す気はありません」
「その想いを告げずに、ですか」
「………………はい」
ソラが幸せになった時、その時はソラの判断に従う。
故郷に帰りたいならそれでいいし、どんな考えでも了承するつもりだ。
今のこの想いを告げたらソラを縛ってしまう事になりかねない。
学園長はしばらく俺を見て、観察していた。
俺が本気でそう言っていることを確認するとため息をついた。
「………分かりました。しっかりと勉強についていけるようにしてあげて下さいね」
「はい。ありがとうございました」
そう言って俺も学園長と別れた。
扉の前ではソラが暇そうに立っていた。
「悪い、待たせた」
「大丈夫です。それよりハルト様!私もここに通えるようになりましたよ!」
非常に嬉しそうなソラ。
少し癪だが、この笑顔は学園長のおかげだ。そのほかの事も含め、一応感謝はしている。
「そうだな、俺もソラと通うのが楽しみだ」
「はいっ!」
こんなに心底嬉しそうな顔を見ていると、これがあの世界に絶望しきった目をした子とは思えない。
これだけでも、ソラを買えてよかったと思う。
『これより魔法学園、入学式を始めます』
校内にアナウンスが流れる。
スピーカーなどは見当たらないから、これも魔法なんだろうな。
しかし関心している暇はない。
「ソラ、急ぐぞ」
「分かりました!」
俺たちは指定された場所へ急ぐ。
本当は走ってはいけないんだろうが、今だけは許してほしい。
「そういえばミドリは?」
ミドリはソラと一緒にいさせていた。
しかし、ずっと見当たらなかった。
「ミドリちゃんはポケットの中で寝てます」
ソラはそう言って中を見せる。
色々と驚かされてた間に、気持ち良さそうに寝ていたのか。
一応、ソラを守る為に任せたのに寝ているとは………。
『開式の言葉』
とりあえず急いだ方が良さそうだ。




