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二章十七話 モフモフ



 ………………ここは………。


 俺は何もない真っ白な空間にいた。

 なんかこんな景色、前にも見た気がするな。

 もしも前の時と同じなら、ここは俺の精神世界ということになる。


 もしかしてまた死にかけてるのか?


『そんなことないわよ。ハルトの体は普通に寝てるわ!』


 ミドリが俺の目の前に現れる。

 何もないところから突然現れるのは驚くからやめて欲しい。


 しかし、じゃあなんで俺はここにいるんだ?


『知らないわ!気付いたらハルトがいたの!』


 それって本格的にまずいんじゃないか?

 理由も分からずにこんなことになるなんて、面倒臭すぎる。


『ハルト、後ろ見て!』


 俺はミドリに促されるままに後ろを向いた。

 見たこともない人達が二人、そこに立っていた。一人は四十歳くらいの男性で、もう一人は俺より年上らしき女性。


 二人とも慈しむような優しい表情が印象的だった。

 二人は今にも消えてしまいそうな光を体に纏っていた。


『ソラを頼む、幸せにしてあげてほしい』


『私の大切な妹をお願いね』


 当たり前だ。

 誰がなんと言おうと、それは貫き通すつもりでいる。


 その二人はそれを聞いて安心したように微笑んで少しずつ消えていった。

「………様、ハルト様」


「ーーーおはよう、ソラ」


 目を覚ますと目の前にソラの顔があった。

 しまった、ソラより先に起きているつもりでいたのに。

 そしてソラの顔が近い。


(ミドリ、今のって………)


(うん、多分ね)


 そうか、夢の中で《言語理解》が発動した感覚があった。

 死んで人ではなくなってもなお、ソラを守っていたんだな。

 俺はあの人達の分も、この子を幸せにしてみせよう。


「どうしたんですか?」


「決意を新たにしていたんだ」


「………………?」


「なんでもない。それじゃあ行こうか」


「どこにですか?」


 あれ、そういえばソラにはほとんど何も説明をしていなかった気がする。

 これからは、ソラと一緒に行動するんだから気をつけないとな。


「新しい家があるんだ。俺たちは今日からそこで住む」


『ハルトが勝ち取ったのよー!』


 ミドリが俺から飛び出してくる。

 あんまりいきなり出てくるとソラが驚くじゃないか。

 それに誰に言ったんだ、その言葉。俺にしか通じないだろう。


「………………え………ミドリちゃんの言葉が分かります………」


「なに?」


 精霊の言葉は、精霊以外には本来通じないはずだ。

 ソラのスキルがそれに関係するのか?

 いや、もしかしたら………。


『多分、契約のせいね!同じく魔力で繋がってる私の言葉しか分からないだろうけど!』


「………そうかもしれないです」


 だとしたら、この奴隷契約ってなかなか都合がいいな。

 ソラの大きな感情の変化に気付けるし、ソラとミドリが会話できるようになるし。


 だったら効率的な道を選ばせてもらおう。


「ミドリ、ソラに色々説明しておいて」


『えぇー!ハルトはどうすんのよ!』


「俺は父さんと母さんに手紙を書いたり、お金を解したりしないといけないから」


『………………仕方ないわね………』


 ミドリは渋々だった。

 こいつ、余程のことがないと仕事とか頼まれた事とかやりたがらないからな。

 いざという時は頼りになるからいいんだが。


「ソラ、話を聞いて準備ができたら降りてきて」


「分かりました。それと………」


 ソラが何かを言いたそうにもじもじし始めた。

 その仕草が惚れた側からするとすごく可愛く感じる。


「なに?」


「いえ、その………改めて残りの三ヶ月、よろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀をするソラ。


 そういえば張り詰めた感じも無くなり、警戒も解いてくれたように思える。

 表情に温かさが出てきたな。


「こちらこそよろしく。三ヶ月で終わらせる気は無いけどね」


「きっと三ヶ月間は楽しいと思います。でも最後には捨ててもらいます」


 これはもはや俺とソラの戦いだな。

 ソラは俺を不幸にさせない為に三ヶ月で捨ててもらうつもりだろうが、俺はそれを信じないし捨てる気もない。

 捨てて下さい、なんて言わせない。


 そして、俺はミドリに任せて女主人の元に来た。


「おや、ハルト。どうしたんだい?」


「これ、先生の分です」


 俺は金貨十枚を出した。十万円分だ。

 先生はどれだけツケで飲ませてもらっていたんだ。


「おやまあ、やるねぇ。今度、シシルにちゃんと返してもらいなよ」


「そうします。それと、ペンとかありませんか?」


「あるよ。ほら」


 一度厨房に入った女主人がペンを取り出し、こちらに投げて来た。

 色々豪快だけど、ちょうど俺のところまで飛んで来た。


「終わったらそこに置いといておくれ」


「分かりました」


 女主人はまた厨房で仕事を始める。

 ソラの面倒を見てくれたせいで、今日は開店が遅れているようだ。

 それでも、表情に余裕が出て来たことからすると、準備もそろそろ終わりそうなんだろう。


 俺は色々なことを書いた。


 王都に着いてからすぐに依頼を受けて稼いでいたこと。グランとのこと。入試でのこと。新しい友人のこと。学園長と話したこと。そして奴隷を買ったということ。


 ソラのことに関しては少し恥ずかしくて詳しくは書いていない。

 だが、それ以外のことがたくさん書くことがあって手紙はギリギリ書ききれなくなるところだった。


 金は手紙と一緒に届けてもらう。

 今度、ギルドに頼んで来よう。

 それに、アリオに頼めば格安で依頼として了承してくれるかもしれないな。


 書き終えると、ちょうどソラが階段を降りて来たところだった。

 一瞬ソラの髪の中にミドリが隠れているのが見えた。

 手には俺の俺の荷物を持っていた。


「ソラ、悪い。忘れてた」


「いえ、こういうことは奴隷を使って下さい」


「駄目だ。俺はソラを家族として扱うつもりだからな」


 それを聞いたソラは一瞬嬉しそうに笑って俯いてしまった。

 奴隷を家族として扱うなんてすべきではないこと。

 ソラ自身がそれを一番知っているかもしれないからな。


「………いやです」


「ソラが嫌がっても俺はやめないよ」


 捨ててくれと言った時もそうだが、本心じゃないことを聞くつもりはない。

 扱ってほしくないならソラ自身が幸せになることだ。

 その上で言われたのなら仕方ない。


 ソラは少し不満そうな顔をするが、今の俺にはそれも可愛らしく写ってしまう。

 新鮮な感覚だけど、早いうちに落ち着かないとな。


「ハルト、もう行くのかい?」


「はい、今までありがとうございました」


「こっちこそシシルのツケを払ってくれて助かったさ。また顔を出しておくれ」


「はい」


「ソラ、ハルトに何かされたら私に言いにくるんだよ?」


「な、何もされませんよ!」


 ソラは赤くなって反論していた。

 ここはむしろ俺が反論するところのような気もするが。


「それじゃ、本当にありがとうございました」


「ありがとうございました」


「またいつでもおいでよ」


 そうして俺たちは宿屋『ライク』から出た。

 もちろん、荷物は俺が持っている。

 もう片方の手には学園長が書いた地図を持って。


「案内は私にやらせて下さい」


「え、いいよ別に」


「少しくらいはお手伝いさせて下さい!」


 結局、道案内をしたがっていたソラに地図は取られてしまったが。

 ソラは案外方向音痴で迷いながらも新しい家に向かった。

「うわ………でかいな」


 周りもかなり暗くなってきて、なんとか家に辿り着いた。

 その家は貴族の屋敷とまでは行かなくても、かなりの大きさだった。


「とりあえず中に入ろうか」


「はい」


 ソラは俺の一歩後ろを付いてくる。

 実は歩きながら、少し犬の散歩をしている気持ちになったのは内緒だ。


「うわ………」


 また、つい声が漏れてしまう。

 別にゴミ屋敷というわけでもなければ、呪われてそうなわけでもない。

 とにかく大量のほこりやらで汚かった。


「これは………いいですね」


「ソラ?」


 ソラは目を輝かせて腕まくりをしていた。

 その二の腕に視線が行ってしまったり、行かなかったり。


「ソラは疲れてるだろうしいいよ。俺がやっておくから」


「嫌です。三ヶ月の間はハルト様奴隷なんですからやらせて下さい」


 だから奴隷としては扱う気は無いんだけど………。

 しかし、目の輝かせようからするに、誰かの役に立ちたいんだろう。


『健気よね』


「いい子だよな」


「聞こえますからやめて下さい!」


 ソラは赤くなって耳を閉ざしていた。

 ソラの恥ずかしがりように、俺とミドリは思わず笑ってしまった。

 ソラは、それを見て更に赤くなって掃除に取り掛かる。


 とは言ってもソラだけに任せるわけにも行かない。

 俺はソラと同じく家の掃除、ミドリには何かおかしなもの、危険なものがないか確認してもらった。


 俺は掃除をしているソラを見ていて思った。

 結局のところ、あんな事を言っていたが実のところは誰かと繋がりたかったんだろう。

 寝て起きてからのソラを見れば一目瞭然だ。


 掃除が終わったのは二時間後。

 この広い家を綺麗にした事を考えると、かなり早い方だと思う。


 ある程度の家具は既に置かれていた。

 以前ここに住んでいた人がいたのか、学園長の計らいか。

 現在、俺とソラは沈黙していた。

 リビングでいざ対面したら話すことが思い付かなかったのだ。

 少々気まずいな。

 ソラはあまり気にしていないように見えるが、俺が居た堪れない。


「そ、そういえばソラって獣人族だよな」


「………?はい、そうです。どうしたんですか?」


「いや、特に何もないんだけど………、えーと、尻尾とかってないのかと思って………」


 言っていて気付いた。


 獣人に獣耳と、そして尻尾があると思っているのは地球での固定観念だ。

 ソラにも、『ライク』の女主人にも無かったんだから、存在しないんだろう。

 俺はかなりおかしな事を言っているんじゃないだろうか。


「ありますよ」


「あるんですか」


「………………?はい、あります。普段は隠してますけど」


 そうだよな、人族の町では隠していた方がいいのだろう。

 しかしどうやって隠しているんだろうか。


「スキルとかか?」


「違います。獣人族の魔技です。私はまだスキル鑑定してもらってません」


 そういえばかなり小さい頃に奴隷としては誘拐されたのか。

 それならスキルを調べてもらってないのも仕方ない。


 それにしても、魔技か。

 確か種族ごとに異なった、魔力を使う能力の事だったはずだ。

 技能に近いが、技能よりも簡単で、その種族の人はほとんどが使えるものだ。


 竜人族のブレスなんかもこれに分類される。


「つまりソラはずっと魔力を使ってる状態ってことか?」


「はい、そうです」


「疲れないか?」


「少し疲れますけど尻尾を見られるよりはいいです。引っ張ったり、場合によっては切られてしまうんです………」


 実際にそういう人を見たらしい。

 幸い、ソラは最初からそれを使っていたお陰でそんな事にはならなかったらしい。


「あの、よかったらなんだけどさ」


「はい?」


「尻尾を見せてくれないかな」


 ソラが押し黙る。

 まずい事を言ってしまっただろうか。

 しかし見てみたいという欲求には、なかなか抗えなかった。


「………いいですよ」


「いいのか?」


 ソラは思ったよりも普通だ。


「ハルト様なら酷いことはしないと思います」


 不意打ちでそれを聞いて感動、というよりは安心する。

 とりあえず悪い人、危険な人とは思われていないみたいだから。


 ソラは座ったまま体の力を抜いていった。


 すると少しずつソラの背後に、髪と同じ鮮やかな青色の尻尾が現れてきた。

 マンガのように大きくはない。

 でも、あれは確かに尻尾だった。


「………綺麗だな」


「………そうですか?」


 ソラはまた恥ずかしそうに尻尾をいじっていた。

 今日のソラは恥ずかしがってばかりだ。

 それとも、これがソラの通常運転なのだろうか。


「触っても、いい?」


「………………どうぞ」


 ソラは俺の隣にちょこんと座る。

 尻尾を俺の方に寄せてきた。


 とても気持ち良い感触で、柔らかく、モフモフだった。

 かなりやみつきになる。


「………………………」


 ソラはくすぐったそうに、気持ちよさそうにしていた。

 これ、なんかすごく癒されるな。


『私にも触らせて!』


 いきなり出てきたミドリは、ソラの了承を待たずに尻尾に飛びついた。


『すごく気持ち良い!癒されるわぁ』


 ソラはミドリにそう言われて満更でもなさそうな表情をする。


 俺たちは離れがたく、しばらくそのままでいた。

 ソラは家では尻尾を隠さないことにしたらしい。


 夜、ベットが一つしか無くて大変だったが、なんとか俺がリビングで寝ることになった。

 当然、次の日に新しくベット買った。



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