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二章十六話 さっぱり!



「ハルト、晩飯作れてるからおいで!」


 女主人の声がした。

 だとすると、ソラも風呂からあがったんだろう。

 今日中に新しい家へ行くつもりだから早く行動して方がいいな。


「グラン、行かないのか?」


 動き出す気配のなかったグランに問いかける。


「まさか。ソラちゃんとの最初の食事に僕がいるなんて、そんな事にはしないよ」


「………いや、別に気にしないんだが」


「ソラちゃんも知らない人がいたら落ち着かないでしょ?僕は後で食べるから先に行って」


「そうか、分かった」


 案外そういう所に気がきくんだよな。

 敵わないな、こいつには。


 俺は部屋から出る。

 俺が出る時、グランはちょうど勉強を始めていた。

 既にトップレベルなんだからそんなにしなくてもいいだろうに。


 階段の下からはいい香りがしてきた。

 よく考えれば、俺は今日一日何も食べていなかった。

 どうりでこんなに腹が減るはずだ。


 奴隷として、しっかりと食べれていなかったソラなんて涎垂らしているんじゃないだろうか。

 それを思い浮かべて思わず笑ってしまう。


 しかしソラの姿は見えなかった。


 いや、よく見れば奥でせわしなく動いている青い髪が見えた。

 女主人の手伝いをしているらしい。

 女主人は強制する人じゃないから、自分からやり始めたんだろうな。


「おや、来たねハルト。ソラ!もう手伝いはいいからハルトと一緒に座ってな!」


「はい」


 そう言ってソラは洗い物を始めているようだった。

 後片付けのつもりだろうけど、それは女主人がやるつもりだったように見える。

 頭とたまに目しか見えないが、せわしない動きとともに獣耳がピクピクするのが可愛かった。


 ソラは後片付けを終えて厨房から出てきた。


「………………………」


「………?ハルト様、どうしたんですか?」


 ソラに話しかけられるが答えられない。

 風呂に入ったソラはとても可愛らしくなっていた。

 いや、もともと可愛いかったんだけどな。


 汚れが落とせた、というだけじゃない。

 服装が変わっているのだ。

 そんなに派手ではなく、どちらかと言えば地味。

 だけどそんな服装が尋常じゃなく似合っていた。


 つまり俺はソラに改めて見惚れてしまったんだ。


「アンタに見惚れてるんだよ、ハルトは」


 女主人が両手に料理を持ってソラにそんな事を言った。


 ソラは自分の姿を見下ろす。

 そして顔を少しだけ赤らめた。

 その仕草も相まって余計に可愛らしい。


「ほらハルト、なんか言ってやんなよ」


 料理を置いた女主人に突かれる。

 しかしこんな時には何を言えばいいのか分からない。

 これが初めての経験なんだから。


(素直に思ったことを言えばいいのよ)


 なるほど、それもそうか。

 ミドリの助言に助けられる。

 俺が今素直に思ったこと………。


「すごく………………可愛い」


「〜〜〜〜〜っ!」


「おやおや、まあまあ」


 ソラは頭から湯気を出して真っ赤になってしまった。

 それと同時に俺にソラの「恥ずかしい」という感情が流れ込んできた。

 女主人のニヤニヤは止まる気配がない。


 俺はようやく自分の言ったことを理解した。

 なんて小っ恥ずかしい事を言ったんだ、俺は。

 顔が熱くてしょうがない。


 ソラもソラで赤くなりすぎだろ。

 それを見ると俺も余計に恥ずかしくなってくる。

 今まで奴隷だったという事で、こういう事を言われるのが慣れていないんだろうけどさ。


「ソラ、座って。早く食べちゃおう」


 このままじゃ埒があかない気がしたので、強引に進めさせてもらった。

 ソラもそれに従い椅子に座る。

 女主人は厨房に戻っていった。

 チラチラとこちらの様子を伺っているが、気にしない。


「それじゃ食べよう。いただきます」


「いただきます」


 俺は料理を口に運んだ。

 やっぱりとても美味しい。

 品の高い味ではないが、この店に合っている、とてもいい味を出していた。


 ソラはきっと感動しているんじゃないだろうか。

 俺はソラを見てみた。


 ソラは泣いていた。


「ソ、ソラどうしたんだ?苦手なものでもあったのか?」


 俺は慌ててしまう。

 というか、人生で一番と言えるほど慌てている。


「いえ、違います。………とても美味しくて………」


 ソラは涙を流しながらそう言う。

 その間も料理を口に運ぶ手だけは動かしていた。


 その光景を見て、俺は改めて奴隷環境の悪さを理解した。

 王都の奴隷の扱い方は良い方だと言っていた。

 それでも、美味しいものに感動して涙を流すほど、辛い生活なんだ。


 俺は自然とソラの頭を撫でていた。

 ソラもそれを嫌がるような素振りは見せない。

 ただ無我夢中に料理を口に運んでいた。

 その後、俺も料理を食べた。

 あまり騒がしくなる前に家へ向かいたかった。


「ソラ、………………ソラ?」


 ソラからの返事がなかった。

 目を向けると、机に突っ伏して寝てしまってしまっていた。

 その顔は安心しているように見える。


「今日は疲れたんだろうね」


「そうですね………」


 奴隷という心を擦り減らす環境。

 そして新しい主人ができる事への不安。

 俺を不幸にさせない為に悩んでくれてもいた。


 今日、ソラはずっと気を張っていたからな。

 満腹になったら疲れがどっと出たんだろう。


「部屋まで連れて行ってやりな」


「え………あ、はい」


 どうしよう。

 肩を貸すか?

 寝ている人とっては不安定だろうな。


(ここでアレをしなくてどうするの!)


(なんだよ、アレって)


(お姫様だっこよ!当たり前でしょ!)


 当たり前なのか。

 しかしそれが一番いいだろうな。


 俺はソラを抱き上げた。

 食事を取った直後だというのに、すごく軽かった。

 これからちゃんと重くなってもらわないといけない。


 両手が塞がっていて扉が開けられなかったが、ミドリが俺から出て開けてくれた。


「あ、ハル。ご飯食べ終わったの?………………おぉ」


 グランがソラをお姫様だっこしている俺を見て感心(?)していた。

 静かにしてくれるのはいいんだが、ニマニマしながら目で追われるのはうざい事この上ないな。


 とりあえずソラをベットに寝かせて布団をかけた。


「じゃあ僕はご飯食べてくるね。襲っちゃだめだよー」


「襲わねぇよ!」


 グランは笑いながら部屋から出て行った。

 まったく、あんなに生き生きしたグランも珍しいな。

 良いのか悪いのか。

 いや悪いな、俺の心労が溜まっていってしまう。


「………………ん………」


 ソラは気持ちよさそうに寝ていた。

 その寝顔は俺と同い年とは思えないほど、子供らしく見えた。


 俺はこの子を幸せにしなくてはいけない。

 俺がそうしてあげたいし、ソラの大切だった人たちの願いを叶えるという、ソラの願いを叶えてあげたい。


 実は、俺はソラが俺から離れていっても本当にいいと思っている。

 俺の役目はソラのトラウマ、考えを払拭してあげる事だと思っている。

 告白なんてするつもりは無い。

 ソラの“次”を作ってあげれればそれでいい。


 それでも、初めて感じたこの恋心は消えないだろうけどな。


 そういえばギルドの依頼で貯めた金が余ったな。

 それに学費として父さんと母さんに渡された金も余った。

 早めに返そう、シャルの為に使って欲しい。


 シャルか………会いたいな。

 俺の可愛い妹のことを考えると、すごく会いたくなってくる。

 シャルの成長を見届けられないのは痛恨の事態だ。

 ホームシックを感じる。


 先生のツケだという分も、女主人に返さないといけない。

 それは俺の稼いだ分で返そう。

 なんだかんだであの学園長には助けられているな。


 俺も、一旦落ち着くと一気に眠気が襲ってくる。

 連日の徹夜で過酷な依頼、入試試験に学園長との対面、そしてソラとの邂逅だ。

 普通に考えてこの一日でこなす量じゃないだろう。


 俺はこの眠気に身を任せることにした。

 ソラが起きる前に起きれればそれでいい。

 ソラが起きたら俺たちの家に向かうとしよう。


 寝る寸前、ソラの寝顔が目に入った。


 とても可愛らしい、俺の初恋の人。

 この人に気持ちを伝えることは無いのかもしれない。

 それでも、ただ幸せにしてあげたいと思える。

 願わくば、俺との生活に幸せを感じてくれるよう………。



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