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二章十二話 学園長と対面



 俺はローブに連れられて扉の前にいた。ここは確か学園長室。普通の生徒が突然呼び出されるにはおかしい所だ。俺、何かまずい事でもしたんだろうか。


 俺が中に入る事をためらっていると、ローブの魔法使いが扉を開けてしまった。


「………うわ」


 思わず顔を歪めて声を出してしまった。すごく見覚えがある。俺の覚えている限り日本の中学、高校の校長室もこんな感じだった。

 成績優秀者として何度も入ったことがあるが、どうにも好きになれない。そこよりも少し広いが、雰囲気が似ていた。


 目の前には見た目三十歳くらいの銀髪の男性が座っていた。その若さで胡散臭さが滲み出てるってどんな人なんだ。


「ふふふ、はじめましてハルト君。私がこの学園の長です」


「……はじめまして」


「そんなに警戒しないでください。ローブが胡散臭いのはそういうデザインなので許してください」


 一番胡散臭いのは学園長だけどな。

 そんな事を思っていると俺の中でミドリが話しかけてくる。


(こいつ、化け物ね。シシル以上の化け物)


(どういう意味だ?)


(魔力の量も質も異常)


 まあ、そんな雰囲気はある。魔法学園の学園長ならそれもおかしくはない。

 ミドリはこの人を敵に回すな、と言いたいんだろう。俺もそうしたいとは思う。


「ほら、そんなところに立っていないで中に入って来なさい」


 ローブの人はここまでらしい。俺が入った事を確認すると、自分は入らずに扉を閉めた。

 俺は促されるまま、座り心地の良い椅子に座った。魔法学園とその外はまるで時代が違うみたいだ。内装も置き物も、魔法が使われているせいか近未来風な雰囲気を持っている。


「突然呼んでしまってすみませんね、せっかくご友人が面白いことになっていたのに」


「いや、それは別にいい……!?」


 まて、何でアルマとシーマの会話を知っている?

 近くにいたのか?そもそも見ていたのか?聞こえるような距離にいるならわざわざ俺をここに呼び出す必要はないんじゃないか?

 学園長は俺の行動を監視でもしていたのだろうか。雰囲気と相まって余計に警戒をしてしまう。


 俺は学園長を睨んだ。


「ふふふ、怖いですね。覗き見は私の趣味なので許してください」


「……悪趣味ですね」


 なるほど、油断できないな。“覗き見を容易く出来る”程の人なんだ。

 この先、味方になろうが敵になろうが、どちらにせよあまり気を許せなさそうだ。


 しかし、一体どうったのだろうか。魔法ならぜひ見せてもらいたい。一度でも魔法式を見れればこっちのものだ。


「ふふふ、秘密です。面白くないのでね」


 ……嫌だな。心まで読まれてる可能性が出てきた。

 常に笑みを絶やさないのが余計に怪しさを出している。


「……それで、どうして俺を呼び出したんでしょうか」


「おっと、本題を忘れるところでした」


 まるで今思い出したかのようなフリをする。

 本当に胡散臭いわぁ。


「質問ですが今回の試験、満点が一人だけいます。誰だか分かりますか?」


「グラン、ですか?」


「違います。君ですよ、ハルト君」


 なに?そんなはずはない。

 それならあの試験は本当に十五、二十分程度で終わる簡単なものだということになる。いや、それにグランが俺よりも下なはずが……。


「そもそも、この試験はそんなに簡単ではありません。しっかりとした師匠につき、幅広い知識を得なくてはいけません」


 確かに歴史、薬学、魔法の研究、魔法工学、そして魔法式学と色々とあった。

 しかしどれも問題の内容は簡単なものだった。


「幼い頃から成人並みの知能で学んでいた君を基準にしてはいけませんよ」


「なっ……!どこまで知ってるんですか……?」


「ふふふ、ご想像に任せますよ」


 これはスキルだろう。

 いくらなんでも魔力を消費する魔法でずっと見ているのは無茶なはずだ。俺はいつからマークされていたんだ?

 いや……。


「先生、シシル先生ですか?」


「正解。その通りです。彼女のことはずっと昔から気にしてましてね」


 やっぱりか。先生と同じあの銀髪。先生と同じ種族なのかもしれない。シシル先生なら目をつけられていてもおかしくない程の人だしな。


「……………」


「いい加減、警戒を解いてください。私はシシルに君を頼まれているんです」


 先生に?

 そういえばかなり昔に先生が、学園長と話をしてくれると言っていたような……。

 それなら少しは警戒を解いてもいいのかもしれないな。


「ふふふ、シシルは好かれていますね。こんなにすぐに警戒を解いてもらえるとは」


「それよりも本題お願いします」


「おっと、忘れていました」


 さっきと同じセリフで同じ動きをする。この人、本当に忘れているんじゃないだろうな。


「それでは率直に訊きます。君はどうして魔法式の意味・規則性(・・・・・・・・・・)についての記述で正解をしているのでしょうか?」


「それは普通に……」


「普通に、解読されていない魔法式という文字の意味を?」


「……あぁ。なるほど」


 その問題は俺は特に簡単に感じた問題だ。

 しかし、なるほど。この問題は《言語理解》を持っている俺にしか解けない問題だな。


 これはまずい。


「もともと、この問題は間違える前提の問いです。どこまで自分なりに理解をしているかを見る為の問題。なのに君は正解した」


 《言語理解》のことはシシル先生、家族とグランしか知らない。王都の人には絶対に知られないようにするつもりだったのに。


「ぐ、偶然だと思います」


「違うでしょう。特殊なスキルを持っているのでしょう?」


 まずいまずいまずい。

 このスキルを知られたら何に巻き込まれるか。権力争い、研究に利用されるのは間違いない。それじゃあ、俺のやりたい事ができない。


「………まあ、全部知っているのですがね」


「………は?」


「シシルから聞いていますよ。転生者、《言語理解》所持者のハルト君?」


 ………ふむ。どういうことだ。


 落ち着け、整理しよう。俺がミスって《言語理解》の事がバレかけて。それで……学園長は元から知っていたと?


「……またシシル先生?」


「ふふふ、焦るハルト君は滑稽でしたね。良いものを見れました」


「……はぁ」


 いや、理解はできた。俺は手玉に取られていたという事だろう。頭の混乱のせいで怒りなんて湧いてこなかった。

 学園長は心底面白そうに笑っている。


「……俺は学園長のこと嫌いになりました」


「師弟揃って同じことを言いますね」


 ふふふ、とこれまた心底面白そうに笑う。

 つまりシシル先生もこの人のことは好きになれないんだな。すごく共感できる。


「いや失礼。つまり私は《言語理解》と技能、そして精霊ミドリ様のことを含め、ハルト君を擁護することをシシルと約束したんですよ」


 本当に全部知っているようだ。シシル先生はこの人のことを一応信頼はしているらしい。なら俺も少しだけは信頼してもいいのかもしれない。

 しかしーーー


「何で俺を呼んだんですか?」


 結局、それが分からない。

 なぜなら、俺を助けるだけならわざわざ俺にいう必要はないだろう。仮にも学園長だ。そんなに暇な職種とも思えない。


「擁護する代わりにしてほしい事があるのですよ」


「なるほど、そういう事ですか。いくらですか?俺、金は無いんですけど」


「金銭ではありませんよ」


 とりあえず了承はする。シシル先生が一応の信頼はしている人だから。

 しかし金は払えないと釘を刺しておく。ソラを買うだけでも手一杯だ。


「俺に何をさせたいんですか」


「簡単です。《言語理解》で魔法式の研究をしてほしいと思っています。シシルから許可を得てるし、いいでしょう?」


 なるほど。そこは腐っても魔法学園、学園長。要求は学園として、研究者として真面目なものだった。

 確かに、《言語理解》があれば魔法式の意味からオリジナル魔法式の作成までできる可能性がある。


「助ける他に、当然の報酬は用意しましょう。まず研究に必要なものは私が揃えましょう。学費も免除します。王都での拠点も用意してもいいでしょう」


 なんと。破格の条件すぎる。いくらなんでもうまい話すぎる。


「なんでそこまで……」


「当然でしょう。その他の魔法工学が発達しても魔法式学だけは一切発展していない。ようやくこの状況を打破する唯一の鍵なのですから」


 ……理解した。

 先生が言うには魔法式の研究はこの千年、少しも進歩していないらしいからな。

 それに魔法学園の長からすれば大した出費にもならないのかもしれない。


 それに助かる話だ。スキル、ミドリ、技能、転生。グランにさえ話していない事もあるのだ。予定では寮に入る事になっていたが、自分の拠点は確かにほしい。


「他に要求があれば応えましょう」


「……いえ、それで十分ーーー」


『待ちなさい!』


 実際に聞いているわけじゃないのに頭に響く。大声出すにしても加減というものを知れ、この野郎。


(なんだよ)


(ソラのことお願いしてみたらどう?)


(しかしそれは……)


 誰かに頼ってしまう事になる。できれば俺の力でどうにかしたいのだが……。


(いいじゃない!カラオット父も頼れって言ってたでしょ!それにどうせこのままじゃ、間に合わないんだし!)


 ……確かにその通りだ。

 正直、このままじゃ白金貨一枚分、金貨百枚には届かない。あと二週間以上は必要になってくる。それでは期限を過ぎてしまう。

 そうだな、たまには人に頼るのもいいか。それに相手はこの嫌味な性格のジジイだし。気を使う必要性は感じない。


「それじゃあ一つお願いしてもいいですか?」


「分かりました。こちらで話をつけておきますので今日にでも奴隷商に行ってください」


「早い!頭の中覗かないでください!」


 確実に何かしらの能力で考えが読まれてる。

 スキルか、魔法か。


「魔法ですよ。私のスキルは《世界記録(ワールドレコード)》ですから。聞いたことあるでしょう」


 ……考えを読まれるの嫌だな。


 《世界記録(ワールドレコード)》。

 先生から聞いたことがある。この世界において、現在起こっていることを見ることができるスキルだ。距離の制限は無い。

 なるほど、それならほとんどの事に説明がつくな。


 いや、それだと見ることしか出来ないはずだ。音声はどうやって聞いているんだ。


「それも魔法です」


 覗きに適した魔法をたくさん知っているな。さすが覗き魔だ。ぜひ、その利便性の高そうな魔法を見せてほしい。


「それなら、その魔法を見せて下さい」


「嫌ですよ、《言語理解》で使われるじゃないですか。それに考えを読んでいるのは魔法式が現れるタイプの魔法じゃないですよ」


 どういうことだ?魔法式が出現しない魔法なんて見た事がない。


 いや、一つあったか。

 強化(ブースト)の魔法式も見た事がないな。効果を付与するタイプの魔法は見る事ができないのか。


「その研究もしてみなさい。ハルト君はこの学園について何も調べてないんでしたね?」


「……はい」


 もう驚かない。たとえ友人との会話が筒抜けになっていても。


「なら簡単に教えてあげましょう」



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