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二章十一話 試験②




「すげぇなぁ、緊張するなぁ。な!ハルト!」


「そうだな」


 筆記試験を終えた俺とアルマは、校舎の外にある魔法の訓練場に来ていた。予想していたよりも広く、予想していたよりも何もなかった。

 それはそうだ。魔法を使うのは身一つあればいい。

 特別な道具を使うにしても、それは研究。研究室があるのかは知らないが、少なくとも訓練場ではないだろう。


「なんか、かなり人数減ってないか?」


「違反したやつらはここにはいねぇからな」


 俺が寝ている間にこんなに違反した人がいたのか。

 確かに難しかったからな。あんなに間違っている事は分かっているのにどこが間違っているか分からない問題は見たことがない。

 魔法学園、やはりレベル高いな。


「よし、集まったな。これから実技試験を行う!五人の列を作れ!」


 そこは魔法学園に入ろうとするエリートたち。突然言われたことにも、すぐに行動する。

 俺とアルマ含め、全員が五人の列を約百ほど作った。


「俺が今から魔法で的を作る!それめがけて言われた通りに魔法を撃て!いくぞ、変形・土アース・トランスフォーム!」


 その声とともに俺たちの列の前の十五メートルほど離れた位置に的が現れた。

 それを同時に約百、か……すごい魔力と魔力操作だ。


「よし!列の一番前のガキから好きな魔法を撃て。最初はコントロール重視!中央に当ててみせろ!」


 それぞれの列の最初の人が魔法を撃つ。

 七割はきちんと当てていた。しかし残りの三割は的にさえ当たらなかった。


「外した者は失格!魔法のコントロールが無いガキはいらん!さっさといなくなれ!これからも、外したやつは失格だからな!」


 厳しいな。緊張して外した人もいるかもしれないのに。


「緊張して普段の力が出せないようなやつは要らない、っていう考えらしいぜ」


 アルマが後ろから教えてくれる。

 そうか。これだけ人数がいればそれほど厳しくしないと絞り切れない。だから魔法だけでなく精神面、性格なども判断材料になる可能性はある。


「次!」


 次の列は逆にほとんどが外してしまった。つまり、これだけで五分の一が失格になったことになる。

 勉強、実技。両方ができないと合格は出来ない。


「次!」


 いよいよ俺の番だ。緊張なんてしていないし、さっき寝たから目眩はしない。

 この距離なら外さない。


「放て!」


火球(ファイアボール)!」


 魔力の消費を抑えるために一番消費量が少ない魔法。半分が外す中、俺は的の中央に魔法を当てた。


「やるな、ハルト」


「だろ」


 アルマにとりあえずドヤ顔しておいた。

 まあ実際、ちゃんと中央に当てたのは見る限り俺だけだ。


「……よし、次!」


 試験官の声が響く。


「頑張ってくるぜ」


「緊張しないようにな」


 俺はグランの背中を押してやる。そういえばグランの得意魔法とか聞いてないな。一体どういう魔法を使うのだろう。この自信満々な様子から、よほど実力があるんだろうが。


「放て!」


「ふぅ……。土弾(アースバレット)


 魔法式『土』『弾』ゲットだ。

 アルマがかざした手の上に岩の塊ができてきる。そして勢いよく放たれた。弾は中央とはいかずとも見事に的を射た。

 しかし威力は驚くほど弱かった。


「クリアだぜ」


「……しょぼ」


「うっせぇ!なんでコントロールの試験で威力出さないといけないんだよ!泥団子レベルの強さで悪かったな!」


 少し拗ねてしまった。馬鹿にしているわけではなく、事実を言っただけなんだけどな。

 それに、ここで無駄に魔力を消費する必要はない。アルマは正しいことをしたんだ。まさか本気でこの威力なんてことは……ないよな。


「悪かったよ。悪気はない」


「悪気がないからこそ心を抉るんだぞ」


 そんなことを言いながらも拗ねるのをやめてくれた。もしかしてあれしか魔法が使えなかったり……?それはなくても、悔しがり方的に放出タイプの魔法はあれしか使えないのかもな。


 そんな事をしているうちに次の人たちもやり終えたようだ。


「一つ目の実技試験はここまでだ!次は発動の速さを見せてみろ!」

 正直に言おう。実技もボロボロだった。

 コントロールでは中央を射たし、発動の速さにも自信はある。しかし問題はその後だ。


 正直気合が入りすぎていた。気合が入りすぎて早いうちからかなりの魔力を消費してしまった。

 あといくつの試験があるか分からない以上、魔力の温存は必須だった。

 その結果、その後の試験は魔法の威力を限界まで抑え、そして最後は魔力が残ったまま終わってしまった。


 つまり、最初の二つ以外は評価が極めて低い。


「元気出せよ。きっと大丈夫だって」


「うっさい。……はあぁぁぁ……やっちまったなぁ」


 全ての実技試験を終えた後、俺とアルマは校門へ向けて歩いていた。

 アルマは全てにおいて高得点を出しているだろう。

 非を言うとしたら、本当に放出系の魔法はあれしか使えなかったことだけだ。それは試験の評価対象にはなっていない気がする。

 評価対象はあくまでも魔力量や知識、魔力操作だろう。


「これからどうするか……」


「故郷に戻って鍛え直せ。来年、後輩として迎え入れてやるからよ」


「……はあぁぁ………」


 それしかないのか……。

 グランは受かるだろうな、俺と違って魔力量も多いし。


「あっ!ハルー!」


「グラン……」


 一番の教室方面からグランが走ってきた。いや、結構背後にシーマもいる。

 はしゃいでいる弟を追いかけている姉みたいな構図だ。


「ハル!どうだった!?」


「顔見て察してくれ。ダメだったよ」


 グランが信じられないような顔をする。この顔を見る限りこいつは大丈夫だったんだな。

 俺だって自信はあったんだが……。


「ハルト、お久しぶり」


「久しぶり、シーマ。そのやりきったような表情からするに上手くいったんだな」


「そっちはダメだったの?」


「あぁ。はぁ……」


 シーマも意外そうな顔をする。


「あんなに強いのに……?」


「ここは魔法学園だからな」


 いくら戦闘能力が高くても受からない。

 父さんから戦闘技術を教わったことは後悔していないが、もう少し魔法の勉強をすべきだったかな。


「……ハルが来年にするなら僕もそうする」


 グランがそんなことを言ってきた。


「それは許さない。俺の分も一年早く楽しんでくれ、グラン先輩」


「ハル……」


 グランが残念そうな顔をする。

 そんなに俺と一緒に入学したかったのか。この天才イケメンにそう思ってもらえるのは光栄だが、仕方がないことだ。


「どんまい、ハルト。勉強なら私が教えてあげる」


「……優しくしないでください。シーマ先輩……」


 シーマはそんなことを言う。これは優しさからじゃないな。少し面白がっている気がする。

 人の不幸を面白がるとは、性格悪い。

 しかしアルマが静かだな。もしかして人見知りキャラだったのか?


 俺は後ろを振り返ってみた。


「……なるほどな」


 アルマはシーマを見て固まっていた。


 これはあれだろ。一目惚れってやつだろ。つい三週間前に俺も体験したからよく分かる。

 初めて他人が一目惚れをする瞬間を見た。


「おーい、アルマ」


「…………はっ!」


 アルマは再起動した。


「ハルトちょっと来い」


 アルマに腕を引っ張られてグランとシーマから離された。

 初々しいやつめ。


「おい、あの子はなんなんだ」


「友達」


「そうじゃねぇよ、お前なら分かってんだろ!」


「一目惚れの瞬間って外野は結構面白いんだな」


「口に出すんじゃねぇ!」


 俺はニヤつきながら答えてやる。するとアルマは赤くなりながらも反対はしなかった。

 これはこれは……。面白い予感だ。


「名前はシーマ。俺たちと同じ十五歳、受験生だよ」


「彼氏とかは……」


「知らん、自分で聞け」


「ハルト?その人は?」


 シーマが話しかけてくる。

 俺がアルマを紹介しようと瞬間、アルマはシーマの目の前に出ていった。

 こいつ勇気あるな。


「俺はアルマ、君と同じ受験生だ!ハルトとは親友だ、よろしくお願いします!」


「え、えぇぇぇ……?」


 アルマは俺が止めるより早くシーマの前でアプローチを開始していた。

 いつのまにか俺とアルマは親友になったらしい。


 しかし、シーマがものすごく困惑している。そして少し引き気味だ。

 それはそうだろう、勢い良すぎだ。もっとゆっくりと行くべきじゃないか?

 一目惚れした子を引き取ろうとしている俺が言えたことじゃないが。


「ねぇ、ハル。あれって……」


「あぁ。面白いな、生の恋愛事情って」


「だねぇ」


 俺の隣に来ていたグランも気付いたらしい。

 しかしアルマの勢いの良さ故か、シーマは気付いた様子はない。


「よ、よろしく……?」


 シーマは恐る恐るアルマの手を握った。


「よろしくっ!!!」


「ひゃっ!」


 おいおい、落ち着けよアルマ。

 アルマはシーマの手をかなり強く握り返している。しかも表情がなんかキラキラしている。正直言って少しキモい。

 嬉しいのは分かるが、シーマはおそらく困惑か恐怖しか出てきていない。


 俺はこの漫才を同じ学年で見れないのか。本気で惜しいことをした。


(ハルト!)


 突然頭にミドリの声が響いた。そのすぐ後、声をかけられる。


「ハルト様、学園長がお呼びです」


「っ!」


 いつの間にこんなに側に……?

 なんだ、それにすごく胡散臭い。自分が魔法使いだと言いふらしているかのようなローブ。顔を見えないようにしているのが余計に怪しい。


「ん?どうしたの、ハル?」


「えっ……見えてないのか……?」


「何が?」


 俺は背後で面白いやり取りを繰り広げているアルマとシーマを見る。

 こちらの異変に気づく様子はない。周りの帰宅中の受験者も普通だ。

 幻影魔法か……。しかも幻影(ファントム)よりもずっと高度な。


(どうするべきだ?)


(とりあえず逆らわないほうがいいわ)


(分かった)


 俺はこのローブに従うことにした。

 魔法を使って周りから見えないようにしているなら、気付かれない方がいいんだろうな。


「グラン、用事が出来たから先に帰っていてくれ。あと、アルマとシーマにもうまく言っといてくれ」


「………うん、分かったよ」


 グランは俺の顔を見て真面目な話だと判断したようだ。

 アルマはシーマに夢中だし、シーマはそんなアルマに困惑していてこちらに気付かない。


「それではこちらへ」


「………」


 俺は何も言わずにローブの後をついていった。



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