二章十話 試験
カラオット……?
確かアリオのファミリーネームがカラオットだった気がする。それに考えてみれば雰囲気がどことなく似ていた。
「アリオって知ってるか?」
「おっ!親父のこと知ってんのか」
やっぱりアリオの息子か。そう言われてみれば雰囲気だけじゃなく面影もあるな。
「アリオにはいつも世話になってる」
出会って説明してもらい、良い依頼を回してもらって、朝早くから俺を待っていてくれる。
本当に世話になりっぱなしだ。
「そういえば俺もお前のこと親父から聞いたことあるぜ。とにかく無茶ばかりする新人が入ったってな」
「自分の息子にまで言ってるのか」
「俺も親父から話を聞くと心配になってくるな!見ず知らずでも」
「心配かけて悪いな」
「聞いてておもしれぇからいいよ」
結局、いろんな人に心配をかけてるな。まさか顔を合わせたことのない人にまで心配をかけているとは思わなかった。
心配してくれる人たちには悪いが、あと一週間は頑張らないとな。
「ハルトはどうしてここに来ようと思ったんだ?」
「楽しい人生を送るためだ。あと魔法が好きだから」
楽しむために必要だと判断したからだ。魔法の研究とかも面白そうだしな。
「はっはっは!お前おもしろいな!俺はさっきも言ったが、騎士になるためだな」
「魔法を使えると騎士になりやすいのか?……ていうか騎士ってなんだ」
残念ながら今まで生きてきて聞いたことのないことだ。単純に誰かを守る人のことか、それともそういう組織があるのか。
「王都の騎士団だ。やっぱり魔法使えると優遇されるんだよな」
よく見れば確かに、かなり鍛えているように見える。魔法使いよりも剣士っぽいな、見た目。
「そうなのか、初めて知った。じゃあ合格しないといけない……けど受験者数すごいな」
この人数が受けるとなると倍率はどれくらいなんだろう。ほぼ全員が落とされることになるんだろう。
「だよな。勉強はしてきたけど流石に怖ぇわ。例年通りなら五千人はいるぜ」
「そんなにか」
予想していたよりも大分多い。この学園はそれだけの人数が軽々と入れる程の大きさを持ってるってことか。
「おう。お前ちゃんと下調べしたきたのか?調べればすぐ分かるぞ」
ここ最近は時間があれば稼いでいたからそんな余裕はなかった。結局、知らなくてもやることは変わらないだろうし。
「まったく、仕方ねぇな。いいか、ここは毎年王都以外からも集まって五千人は受験する。合格できるのは一クラス七人、五クラス分だけだ」
「そんなのほぼ無理じゃないか……」
五千人が受けて三十五人しか受からないとは。九十九パーセント以上が落ちるとか、異常だ。
「だからこそ、入学できたやつは将来が約束されてるんだ」
「あぁ……なるほど」
そんなエリートならどんな分野の人たちもスカウトするだろう。なにせ魔法は万能だ。基本、どの道にも使いようはある。
「しっかし、そんな下調べもしないで来る奴がいるなんて思わなかったぜ!」
アルマは面白そうに笑う。一瞬、失礼だと思ったが確かに。
合格率一パーセント以下の学校のことを何も知らずに、受験に来るなんてそれこそ変か。
「忙しかったんだから仕方ないだろ」
「分かってるって。親父から少し聞いてるからな」
ガラッ
「席に着きなさい。試験を始めます」
そんなことを話していると試験官らしき人が入ってきた。前から試験用紙が入ってるだろう袋が配られる。
「お互い受かるように頑張ろうぜ」
「あぁ」
そうしてお互いの準備を始める。
アルマのおかげで気分がだいぶ楽になった。頭は相変わらず痛い。でも眠気がある程度は改善された。
「試験時間は一時間。カンニング等の違反行為は即失格です。それでは……はじめ!」
俺たちは袋から問題用紙と回答用紙を出した。
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しかしこの人数で違反行為を正確に判断することなんて不可能だろう。
俺もカンニングされないように気を付けないとな。
「そこ失格」
「……えっ?」
試験官が俺を指差してそう告げる。いや、待ておかしい。俺は問題すらまだ見ていないのに。
「早く出て行かないなら無理矢理出します」
抗議しようと立ち上がろうとした時、俺の背後の人が黙って外へ出て行った。
(あ、危なかった……)
しかし本当にカンニングを判断できているのか。だとしたらこれも魔法か、スキルだろうな。それ以外だとしたら超人だ。
俺は心を落ち着かせて問題用紙を見た。
(……なんだこれ)
全くわからないわけではない。むしろその逆。簡単すぎるのだ。
とりあえず全部の問題に目を通してみる。
この世界の歴史、魔法理論、魔物に関する知識、そして一番最後に魔法式の考察を記述する問題。
魔王を倒した勇者たちの事はもっと深く訊くべきじゃないか。過去の魔法研究も、もう少し考える問題でいいのではないか。魔法式に関しては、見たものをそのまま書くだけだ。
先生から教わったことで十分すぎる。
止まってしまう問題なんて一問もなかった。少し拍子抜けだった。俺がこれならグランも同じ感じだろう。
これなら満点も何人もいてもおかしくないだろう。十五分もかからずに全て解けてしまった。
しかし途端に冷静になる。
これはきっとものすごく捻った問題だ。だから間違えたことにすら気付かなかったんだろう。
危ない。このまま終わりにしていたら落ちていたな。
そう思い、何度も何度も見直しをした。
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あぁ、気持ちいいな。
こんなぽかぽかと暖かい所、いつぶりだろうか。
日本で暖房効かせまくってた時以来かな。
まるで天国だ。
心が落ち着くなぁ。
ってあれは!
津波が押し寄せて来る!
くそ、逃げろ!
「ゴボッ!ゴボボボ」
目を覚ますと俺は溺れていた。
いや、周りは試験室だ。
これは……頭を水が覆っているのか。魔法だな。
って、冷静に判断していると死ぬ!陸で溺れて死ぬ!
バシャ
「っ、はぁ、はぁ、げほっ」
「悪く思わないでください。起きない君が悪いのです」
危うく死にかけたところで魔法が解かれた。息ができる。俺を溺れかけさせた試験官はそう言って教室から出て行った。
「げほっ!……アルマ、何があったんだ……?」
「先生がいくら起こしても起きねぇからだよ。頭を水で覆われてもしばらく寝てたからな」
そうか……思い出してきた。
四度目の見直しをしようとしたあたりで寝てしまったんだ。
しかし水で覆われても起きなかったのか。俺は溺れても寝ていたかったらしい。
「お前、三十分経たないで寝てたぞ。試験大丈夫かよ」
そうだ、試験。
いくら見直しをしても間違いが分からなかった。
「俺、落ちたかもしれない」
「はあ!?お前との学園生活楽しみにしてんだぞ、頑張れよ!」
そんなことを言われてもなぁ……。
仕方ないものは仕方ない。それに一番落胆してるのは俺だ。
「まだ実技試験がある。そこで挽回しようぜ!」
「……あぁ、頑張るよ」
それしかないな。試験に落ちたなんて、父さんと母さんにも、先生にも顔向けできないからな。
「それで、次はどうすればいいんだ?」
「外の訓練場で集合だ。お前寝てたからな、俺が案内してやるぜ」
「助かる」
しかし流石に全部の問題が間違ってるなんて事はないだろう。
そうだ、普通間違っていても数問だろう。それなら大丈夫なはずだ。
それに俺が落ちるという事は、一緒に先生の授業を受けていたグランも落ちるという事だろう。あいつが落ちるところは想像できない。
ならきっと大丈夫だ。
「気合い入れろ!行くぞ!」
「あぁ」
俺はアルマと一緒に試験場とやらへ向かった。




