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二章九話 魔法学園への一歩



「お、おい、大丈夫なのかよ?」


 王都に着いてからもう三週間。あれからほぼ毎日Cランクの依頼を受けてきた。

 睡眠時間も削ってCランクの依頼を受け、昼も時間があればD、Eランクの依頼を受けていた。

 正直、今日まで体がもつとは思わなかった。


 今日は魔法学園の入試の日だ。俺は今、ギルドにいた。


「お前、それ以上やったら本当に死ぬぜ?」


「……大丈夫だ。それにここで緩めるわけにはいかないからな」


 依頼完了を知らせる為にアリオの所へ来た。最近は俺を待つ為にアリオも早く起きてくれているらしい。

 迷惑をかけてしまっているが、ここは甘えさせてもらおう。


「それよりもアリオ、今日は魔法学園の入試の日なんだ」


 頭がぼやけた状態で話す。


「そんな時くらい休めよ……。マジで辛そうだぞ。焦点すら合ってない」


 あぁ、そうかもしれない。正直、座っているだけで夢の中にいるみたいだ。しかし、ここで寝たら一週間は起きれない気がする。


「心配してくれてありがとな。それじゃあ宿に戻る」


「おう、死ぬなよ」


 フラフラしながらギルドを出た。まだ人通りが少ないのが救いだ。もしも今、人混みの中に入れば本気で吐いてしまう。


 けど、このペースならギリギリ約束の日まで間に合う。……と、思ってたんだけどな。


「……なあミドリ、俺どうすればいいと思う」


(休みなさい。そうじゃなきゃ本当に死んじゃうわよ)


 俺は苦笑いをする。それでもここまで来たら諦めたくないんだ。稼いだ分を出して、それで許してもらえるように交渉しよう。


「俺、ソラを買ったらふかふかのベッドで寝るんだ」


(死亡フラグをわざと立てるのはやめなさい!)


 今にもシャットダウンしそうな意識を会話で繋ぎ止めながら『ライク』に着いた。


「あっ、ハル!お帰り……って死にそうじゃん!どうしたのさ!」


 実は俺は依頼遂行のために少し遠出をしていた。つまりグランとは二日ぶりだ。死にそうな思いをした分、沢山稼ぐことができた。

 グランは『ライク』の外で俺の帰りを待っていてくれたようだ。


「少し無理した……」


「とにかく少しでも寝なよ!」


「あんまり大声出さないでくれ、頭に響く」


「ご、ごめん」


 グランの肩を借りて俺たちが借りていた部屋に入る。グランがせっせと寝れる状態にしてくれた。


「俺、入試の復習したいんだが……」


「そんなんじゃ受けられないでしょ。寝て」


 本を取りに行こうとした俺をグランが少し強引にベットに寝かせた。

 硬めのベットなのに、すごく気持ちがいーーー


「……もう寝た……。ハル、なんでこんなに無茶してるのかな……?」

「あぁ……頭痛い……」


 一瞬だった。寝れたと思ったら一瞬で起こされたように感じた。実際には六時間は寝てたはずなのに、そんな気は少しもしない。

 だがそれでも少し楽になった。


 今すぐぶっ倒れる危険は無くなっただろう。

 起こされるときに散々叩かれたから体は少し痛いが。


「ハル、どう?」


 グランが心配そうに訊いてくる。


「なんとか試験は受けれそうだ。よく起こしてくれたな」


 俺が起きた時はベットの上ですらなく、体中が叩かれたように赤くなっていた。どれほど深い眠りだったか物語っていた。

 危うく試験に間に合わなくなっていたかもしれない。


「そんなのはいいけど、本当に大丈夫?」


「頭が割れそうなくらい痛いが死にはしない」


「すごく心配になること言われたんだけど……」


「心配かけて悪いな」


 最初はなんとか心配かけないように振舞えていたんだけどな。流石に無理だった。むしろ今の状態で痩せ我慢していると、余計に心配かけてしまう。


「おっ、すごい行列だな」


「全員受験者なのかな……?」


 魔法学園からまだかなり離れているのに、俺たちと同年代くらいの人達が長い列を作って並んでいた。

 俺たちはその最後尾についた。


「グランは試験、どうなんだ?」


 ちなみに俺は、王都に着いてから少しも勉強出来ていない。


「先生に教わったところは全復習したしよ」


「まじか。俺、受かるかな……」


「ハルなら大丈夫だよ!」


 しかし、王都の魔法学園には各国の天才が集まると聞いた。そんなところの試験にこんな状態の俺が行って本当に合格することができるのだろうか。


 列は思っていたよりも早く進む。ようやく魔法学園が少しずつ見えてきた。


「大きな建物だね」


「あぁ、たしかに」


 王城と張り合うほどの立派な建物だ。

 学園の門の前では何人かの大人が受験者と話し、なにかの紙を渡していた。おそらく魔法学園の教師だろう。


「次の人」


「はい」


 並んでいた順番的に、グランより先にいく。


「名前は?」


「ハルトです」


「……はい。五番の教室に向かってください」


 そう言われて紙を渡された。受験証のように見える。驚くことに、受験証には俺の写真と名前が書かれていた。

 俺は門に入らずにグランを待っている。


「おまたせ、ハル」


「それじゃあ行くか」


 俺たちは門をくぐった。


「っ……!うわぁ……!」


「これはすごいな……」


 門をくぐった瞬間、世界が変わったようだった。

 見えていた建物は別のものに変わり、敷地は明らかに外から見たよりも広い。外からは見えなかった大きな木々も生えている。


 疲れが吹き飛ぶ衝撃だった。この世界でトップクラスの驚きだ。


「ミドリ、これはなんだ?」


(……魔法、だけどこんな大規模な魔法は見たことないわ。空間幻影魔法……?)


 魔力体であるミドリもこの光景には口が塞がらないといった様子だ。いきなり見せられた常識外の魔法に心が熱くなってくる。

 俺はこれから、ここで魔法を学ぶ。その為にもまずは最初の関門をクリアしなくてはいけない。


「グラン、行こう」


「うん!」


 グランも同じことを思ったのだろう。グランの気合の入り方もさっきとは段違いだ。


「ハル!何か浮いてる!」


 グランが指差した方には、なるほど、空中に道案内の映像が浮いていた。これも魔法なんだろうな。


「受験の教室の案内だな」


 俺はさっき五番の教室だと言われた。グランも言われたはずだ。


「グランは何番なんだ?」


「僕は一番だよ」


「じゃあ俺たちはここで解散だな」


 案内によれば、一番と五番の教室は別の方向だ。それぞれの教室に行くにはここで解散しないといけない。


 グランが俺を心配そうに見てくる。


「心配だなぁ」


「俺は大丈夫だって。そんなに辛そうに見えるか?」


「……ううん。見えない」


 少しでも寝れたことが大きい。寝た後の方が頭は痛いが、元気は出た。

 それにこんなすごい魔法を見れたら、疲れなんか覚えているわけがない。そんなものよりも学園に対する期待でいっぱいだ。


「じゃあ気をつけてね」


「あぁ、お互い頑張ろうな」


 そうして俺たちは別々の方向へ進み始めた。

 校舎は三つもあるらしい。しかも一つ一つが馬鹿みたいに大きい。本当にすごい場所だ。


 珍しい光景に目を奪われながら、五番の教室まであと少しのところまで来た。


『ハルト!ちゃんと合格しなきゃ怒るからね!』


「任せとけ」


 そう言ってポケットの中にいたミドリは俺の魔力に入った。万が一見られたら大変だからな。

 教室の中からは大勢の声が聞こえていた。そのほとんどが自信に満ちているような声に感じる、ら


「ふぅ……流石に緊張するな」


 珍しく感じる「緊張」味わいつつ、扉をあけて入った。

 何百人、もしかしたら何千人という同年代の人達がいた。思わず固まる。グランが一番、俺が五番の教室、らつまり少なくともこの人数の五倍が受験してるってことか……?


「やべぇ……楽しくなってきた」


 俺がここまで燃えたことがあったか?

 いや、この世界だけじゃなく日本でもこんなに熱くなることはなかった。

 ここで俺は全力を出して受かってみせる。


 座席は自由らしい。俺は空いていた前から三番目の席に座った。改めて周囲を見渡してみる。

 ほとんどは人族だ。でも中には竜人族、エルフ族、少ないが獣人族もいた。更にいろんな服装や、髪型。それぞれの身分や生まれなどがなんとなく分かった。


「すげぇよな」


「えっ?」


 突然隣から話しかけられる。

 隣には身なりがしっかりしている男子がいた。貴族だろうか。


「この学園だよ。この魔法も、そして集まってる奴らも初めてだ。最高に面白くねぇか?」


 そう言ってニカッと笑う男子。少しワイルドな感じを受ける。

 この雰囲気、どこかで……。


「何考え込んでんだ?あ、名乗ってなかったな、悪い悪い」


「こっちこそ。ぼーっとしていた。俺の名前はハルト、十五歳。ヤノ村っていう所から来た」


 この学園は本来、何歳でも受けられる。ただ十四〜十六歳が多いというだけで。だから自己紹介では歳も必要だ。


 それを聞いてまたニカッと笑う男子。そして手を差し出してくる。


「そうか、よろしくなハルト。俺はアルマ・カラオット、十五歳!夢は騎士になることだ」


 俺とアルマは互いの手を握った。



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